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「ライバル」じゃなかった――西武渋谷店と東急百貨店、最初で最後のコラボで語った58年の渋谷

9月30日で58年の歴史に幕を下ろす「西武渋谷店」と、渋谷の街を共につくってきた「東急百貨店」。長年、渋谷の百貨店として競い合ってきた両者が、閉店を目前に「初めて」、ラジオ番組を共にした。

9月4日、渋谷のコミュニティーFM「渋谷のラジオ」で放送された特別番組「ありがとう西武渋谷店! 東急百貨店と最初で最後のコラボスペシャル」。西武渋谷店からは、販売促進担当の木村結花さん、小松花恋さん、東急百貨店からは、事業推進室・事業戦略部の秋山さやかさん、高羽慎太郎さんがそれぞれ出演し、50分以上にわたって、西武渋谷店の歴史や思い出、渋谷のまちへの思いを語り合った。

両者がそれぞれに向けて掲げる言葉は「感謝」と「エール」。ポスターの中だけではない、本当の思いを確かめるように始まった「最初で最後」のコラボトーク。その内容から見えてきたのは、ライバルという言葉だけではくくれない、渋谷を舞台にした2つの百貨店の関係だった。

「お客さまと直接向き合いたい」――4人が百貨店を選んだ理由

西武渋谷店A館エントランス

番組の冒頭、4人がそれぞれ百貨店に入社したきっかけを披露した。

西武渋谷店の木村さんは、百貨店を「商品を販売するだけではなく、体験やサービスを提供する場所」と捉え、ファッションやコスメ、アートなど生活に関わるさまざまなものを扱いながら、直接お客さまと接することに魅力を感じて入社したという。小松さんも、学生時代から接客が好きで、「お客さまと、すごく近い距離で仕事をしたい」と百貨店を志した。

一方、東急百貨店の秋山さんが魅力を感じたのは、赤ちゃんから高齢者まで幅広い世代が利用する百貨店という場所。さらに、東急グループが取り組むまちづくりの中で、「百貨店がお客さまとまちとの接点になれる」ことだった。高羽さんは、遊園地でのアルバイト経験から接客・サービスの仕事に引かれ、複数の百貨店を受けた末に東急百貨店へ入社したという。

ライバル企業に勤める4人の入社動機が共通していたのも興味深い。4人が口をそろえたのは、「人」と直接向き合い、商品を売るだけではない「体験」を提供すること。

そんな百貨店の仕事への思いが、今回の両者のコラボレーションを支える土台にもなっている。


東横のれん街では「東急百貨店」のロゴが復活

西武渋谷店が生み出してきた「渋谷らしさ」

閉店を知らせる懸垂幕も目を引く西武渋谷店

番組では、西武渋谷店の58年を年代ごとに振り返った。

1968(昭和43)年4月19日に開業した西武渋谷店。当時の新聞広告を見ると、A館5階と6階の2フロアが呉服売り場だったという。A館・B館の屋上には「おとぎの国」と呼ばれた遊園地もあった。閉店を間近に控え、現在店内で開催されている写真展には、幼い頃に屋上の遊園地で遊んだという来店客らのメッセージも寄せられている。

その後、西武渋谷店は一般的な百貨店の枠を超え、ファッションやアートなどの分野で独自の存在感を発揮していく。

1987(昭和62)年にオープンしたロフト館、現在のモヴィータ館につながるシード館など、「西武村」とも呼ばれる独特の街区を形成。番組では、山本寛斎さん、三宅一生さん、高田賢三さんら世界でも活躍したファッションデザイナーの名前にも触れ、流行を集めて販売するだけではなく、「流行そのものを生み出す力が西武渋谷店にはあった」と振り返った。

西武渋谷店(写真左=パーキング館、右=モヴィータ館)

同店では2000年代に入り、百貨店自ら商品をセレクトし、テーマを持って売り場を編集する「自主編集売り場」を展開するようになった。2011(平成23)年には「Art meets Life」を掲げ、アートやクリエーティブを暮らしに取り入れる取り組みを開始。2015(平成27)年にはA館1階エントランスにLEDビジョンを設置し、さらに2021年にはパーキング館1階にオンラインとオフラインを融合した「CHOOSEBASE SHIBUYA」も開業した。

東急百貨店の秋山さんは、こうした西武渋谷店の歴史を振り返りながら、「渋谷の『個性』みたいなものが西武さんからつくられていた」と感じたと話す。高羽さんも、アートやファッションについて「感度の高い商売を続けてきた」と続ける。

「西武に行けば何かがある」――街に残る記憶

ショーウインドーでは閉店までをカウントダウン

西武渋谷店の店頭では、番組放送に先立って来店客へのインタビューも敢行。

「渋谷に越してきた年に西武渋谷店ができた」という女性は、子どもの頃に見た店の姿を「キラキラしていてきれいだった」と振り返る。別の女性は、学生時代から通い続けた店を「自分の青春時代が終わっちゃうみたい」と表現した。

中には、過去に西武百貨店に勤めていたという女性も。「不思議、大好き」「おいしい生活」といった1980年代の広告や、アートや文化に特化した売り場を覚えていると言い、「まちの文化をつくってきたという自負がある」と話した。

西武渋谷店の小松さん自身も、こうした声を聞き、幼い頃に母親に連れられて同店を訪れ、食事をしたり買い物したりした記憶を思い出したという。2世代、3世代で訪れたという客の声は、58年という時間の長さを改めて感じさせるものだった。

一方で来店客へのインタビューでは、東急百貨店に続き、西武渋谷店がなくなることで、「渋谷からデパートがなくなってしまう」という寂しさを口にする声も聞かれた。

それに対して、東急百貨店の秋山さんは「東急百貨店はちょっと形を変えて、渋谷に存在している」と説明する。東急百貨店は、いずれも再開発に伴い、2020年3月に「東急百貨店東横店」が、2023年1月に「東急百貨店本店」が、それぞれ閉店。以降、「東急百貨店」の屋号はなくなっているが、各商業施設で売り場は持っている。

今年6月には、渋谷ヒカリエ内の商業施設「ShinQs」を「ShinQs by TOKYU DEPARTMENT STORE」へと改名した。そのほか、「渋谷東急フードショー」や、渋谷スクランブルスクエアの「東急フードショーエッジ」や「+Q(プラスク)」など、「まち全体を館に」という考え方で、客との接点をつくり続けると話す。

A館とB館は地下でつながっていた? 知られざる「西武渋谷店のヒミツ」

A館とB館をつなぐ連絡橋は西武渋谷店の特徴の一つだった

番組では、少し趣向を変えて「西武渋谷店のヒミツ Best3」も紹介。

3位は、A館とB館が「地下でもつながっている」こと。地上の連絡橋は知られているが、実は地下3階に従業員用の通路があり、両館を行き来できるという。これには番組パーソナリティーを務めた西樹・シブヤ経済新聞編集長も「そうなんですね。井の頭通りの下を渋谷川が流れているので、つながってないように思っていたのですが…」と驚きのコメント。

2位は、雨の日の合図。

売り場から外の天候が分かりにくい中、雨が降り始めると店内BGMで映画「雨に唄えば」の楽曲が流れる。雨用のカバーを用意したり、足元の悪い中来店した客への声かけをしたりするため、スタッフが雨を認識するサインになっているという。

そして1位は、「毎週火曜日に来ると、新しい出合いがあるかも」。

西武渋谷店では火曜に新しいプロモーションが始まることが多く、イベント初日に当たる確率が高いという。一方、東急百貨店では木曜が立ち上がり、水曜に終了が多いという両店の「違い」も明らかになった。

百貨店で働く人にとっては日常でも、客からすれば知らなかった「店のルール」。こうした小さな秘密も、長い歴史を持つ店ならではの魅力なのかもしれない。

野宮真貴さんが語った「新しい東京を教えてくれる場所」

番組には、歌手の野宮真貴さん(ピチカート・ファイヴ3代目ボーカル)からもメッセージが寄せられた。

「西武渋谷店はただお買い物をする場所ではなく、ファッションや音楽、アート、そして今東京で何が新しいのかを教えてくれる場所だった」。

自身の90年代のピチカート・ファイヴ時代を振り返り、55周年の際には同店でミニライブを行った思い出も披露。同店の60年代の建築デザインや、1972(昭和47)年の「T・Rex展」にまつわる個人的な思い出にも触れ、西武渋谷店が「最先端のカルチャーの発信地」だったことへの感謝を伝えた。

マーク・ボランの缶バッジ(野宮真貴さんより)

その言葉を聞いた東急百貨店の秋山さんは「それだけ長い期間、野宮さんが西武渋谷店を愛されていた」と感慨深い様子で語り、高羽さんも「すごく愛を感じるコメント」と受け止めた。

百貨店の役割は、商品を並べて売ることだけではない。「今、東京で何が新しいのか」を街の人に知らせること。人を刺激し、次の文化を生み出すこと。

野宮さんの言葉は、西武渋谷店が58年間、渋谷で担ってきた役割を分かりやすく表していた。

「感謝を、西武渋谷に」「東急百貨店に、エールを」――最後に交わり合う互いへの言葉

渋谷駅構内に貼られた西武渋谷店×東急百貨店のポスター

番組後半では、4人が「渋谷の街」をどう見ているのかについても語り合った。

西武渋谷店の木村さんは、渋谷を「出合いの場所」と表現し、特定の場所だけで買い物を完結させるのではなく、まち全体を回遊できるところが渋谷の特殊性だと話した。小松さんは、渋谷を「流行の最先端」と捉え、「何もかも渋谷から生まれている」と感じているという。

東急百貨店の秋山さんは、多様なものが混ざり合い、変化し続ける街であることを指摘。高羽さんも多様性を挙げ、外国人を含め多くの人が行き交う渋谷の日常を語った。

そして、今回のコラボレーションの核心ともいえるメッセージ交換へ。

東急百貨店の秋山さんは、西武渋谷店を「共に渋谷を盛り上げてきた仲間」と位置付け、尊敬と感謝を口にし、「58年間」の積み重ねは、今後も渋谷に「DNAのようなもの」として残り続けるのではないか、と続けた。

これに対し、西武渋谷店の木村さんは、東急百貨店をはじめ、渋谷のまちの人々の支援があったからこそ58年間文化をつくってこられたとし、東急百貨店に対し「これからの渋谷の、さらなる文化の発展」にエールを送った。

これまで「ライバル」という言葉でもくくられることが多かった2つの百貨店の関係を、番組では違う角度から、それぞれのスタッフが語り合ったコラボトーク。競い合ってきたからこそ、互いの仕事や積み重ねを知り、同じまちで働いてきたからこそ、渋谷への思いも共有できる――。

番組の最後、西編集長のかけ声に続き、東急百貨店の秋山さんと高羽さんは、声をそろえた。

「感謝を、西武渋谷に!」

西武渋谷店の小松さんと木村さんも、それに応えるように続ける。

「東急百貨店に、エールを!」

「西武渋谷店×東急百貨店」コラボレーション企画を両者仲良くPR

コラボうちわなどを手に笑顔を見せる西武渋谷店・東急百貨店の皆さんと西樹シブヤ経済新聞編集長

今月1日に始まった今回のコラボレーションでは、両者の思いを込めたキービジュアルを制作し、東急百貨店から西武渋谷店には「感謝を」、西武渋谷店から東急百貨店には「エールを」というメッセージを掲げている。

ポスターは、西武渋谷店だけでなく、東急百貨店が運営する売り場や渋谷駅構内などにも掲出。同20日からは、双方の売り場で2,200円以上の購入客に限定のコラボうちわを進呈する。

58年の歴史を閉じる西武渋谷店と、形を変えながら渋谷で営業を続ける東急百貨店。最後のトークで西武渋谷店の木村さんは、東急と西武は「ライバル」ではなく、渋谷の文化やまちを「互いにつくってきた仲間」だと改めて口にした。東急百貨店の秋山さんも、「9月30日まで西武渋谷店への感謝を伝えながら、共にまちを盛り上げていきたい」と話した。

西武渋谷店は、9月30日20時に、その58年の歴史に幕を閉じる。渋谷の景色が、また一つ変わる。けれど、この街で生まれた文化や、そこに通った人々の記憶まで消えるわけではない。西武渋谷店が残してきたものを受け取りながら、東急百貨店をはじめとする街の担い手たちが、これからどんな「渋谷」をつくっていくのか――。

最後に交わされた「感謝」と「エール」は、58年の歴史を閉じるためだけの言葉ではなく、変わり続ける渋谷へ向けた、新たなスタートの合図にも聞こえた。

西武渋谷店

東急百貨店