現在の東急東横店東館の建物が完成したのは昭和9年11月。当時は、東京横浜電鉄株式会社百貨店部としてデパート営業が始まり、昭和23年には東横百貨店と改称された。昭和25年には、東急電鉄渋谷駅下の遊休地の有効利用として有名食品街の構想が立案され、昭和26年2月から出店者の打診が始まり、昭和26年10月27日、日本初のテナント集積型食料品フロアとして15店舗の出店により「東横のれん街」がオープンした。
当時の資料(「東横のれん街のあゆみ」)によると「開店日朝9時工事完了。前夜より待機した出店者は大急ぎで商品を陳列し、ただちに開店する」とあり、開店日の様子を物語っている。当初の店舗は以下の通り。泉屋東京店、入船堂、榮太樓總本鋪、小倉屋山本、菊廼舎、玉英堂、コロンバン、志乃多寿司、清月堂、玉木屋、ちとせ、梅林堂、花園万頭、味の浜藤、文明堂(麻布)。さらに同資料には「東横のれん街好評で、1~2年の間に東京駅名店街、伊勢丹志にせ街が発足。逐次他に波及する。当時の店主および幹事は意気盛んで、年数十回におよぶ店主会や幹事会をもって常時発展策を協議した」ともあり、当時としては画期的だった新業態に挑む百貨店および出店者の熱意が伝わってくる。こうして「東横のれん街」は、その後各地に広がる「○○のれん街」の発祥となった。
今回の改装は、こうして培われた「東横のれん街」をコンセプトレベルから再構築を行うもので、開業以来の店舗環境を見直し7億円を投じて、ゾーニングの改善やグレード感をアップさせたほか、リニューアルを機にロゴデザインの刷新を図った。今回の改装について東急百貨店東横のれん街改装プロジェクト担当者は「『東横のれん街』は場所柄ギフト需要が高く、自家需要も含め「ハレ」の場に対応出来る高質な店舗の複合売り場と考え、それに対し「東急フードショー」は高感度のパーソナルユースを中心にした『日常』に対応する「食のテーマパーク」的な売り場と考えている。今回の改装により日常性の『東急フードショー』とプレステージ性の『東横のれん街』という2大フロアを確立することで、食におけるディスティネーションストアの強化が狙い」と話す。(ディスティネーションとは目的の意で、顧客が「この店でなければならない」という意識を持って来店する店舗のこと)同店とバスターミナルを挟んで位置していた東急文化会館の閉館後も特に大きな影響はなく、9月11日からの部分的な改装オープンにより、従来の年配の客層に加え、キャリア女性の姿も多く見受けられるようになった。初年度の売り上げ目標は136億円。
改装により出店数は83店舗から79店舗へと減少したが、新規導入店舗14店舗のうち7店舗が百貨店初出店となり、オンリーワンの強化を図った。改装の目玉として異業種とのコラボレーションによる初出店への注目が集まる。
【ディーン&デルーカ】
今年6月、日本1号店を丸の内にオープンして話題を集めた「ディーン&デルーカ」が2号店となる渋谷店を「東横のれん街」にオープンさせた。百貨店への初出店ともなる。同店出店に際して東急百貨店のれん街改装担当者は「昨年6月、ディーン&デルーカ ジャパン設立の報を受け、『食のセレクトショップ』という新しいカテゴリーに魅力を感じた。すぐにアポイントを取り付け、交渉を重ねた結果、今回の出店が実現した」と振り返る。
マンハッタン/SOHOがまだ倉庫と小さな工場が連なる地域だった1973年、当時歴史の教師をしていたジョルジオ・デルーカの開いたチーズ・ストアが「ディーン&デルーカ」の始まりだった。その後1977年、出版社で働いていたジョエル・ディーン、デザイナーのジャック・セグリックとシェフのフィリップ・ロハスの協力を得て、高品質で芸術性に優れた食材を完成されたデザインで提供する「ディーン&デルーカ」をスタートさせた。米国では現在、フルサービスストア5店舗とカフェ7店舗が営業している。
米国で人気の高級グルメストアのエッセンスを凝縮させた「東横のれん街」の店内には、デイリーユースのエスプレッソバー、質の高い食材を使ったデリカテッセン、日本初登場となるパッケージフードや東京圏の実力ショップより集められたスイーツ・ベーカリーなどが店内に並び、テイクアウト、ギフト、パーティフードなどに幅広く対応している。同店のストアプロデュースはカフェ「ロータス」の山本宇一氏、ショップデザインは「ロータス」「バワリーキッチン」などを手掛けた形見一郎氏が担当した。
スモークド・サーモン・サンドイッチ600円(「東横のれん街」限定メニュー)、オリジナルスパイスセット6,000円~、オリーブオイル(762ml)3,500円、オリジナルパスタソース(700g)1,800円
【ル パティシエ タカギ】
フランスの有名店で修行を重ね、欧州で最も権威ある製菓コンテストで優勝した高木康政氏のスイーツショップも話題のニューフェースの1店。世田谷深沢に路面店を構える同店は、これまでも期間限定で百貨店へ出店してきたが、常設店舗としては今回が初の出店となる。同店は、素朴な焼菓子から華麗なデコレーションまで「パティシエの仕事は幸せ配達人」という気持ちで菓子作りに励む人気店。東館連絡口に抜ける通路沿いに構えた売り場には、15~20種類の生菓子の他、約20種類の焼菓子が並ぶ。
アントルメ「オートンヌ」(径12cm)2,500円、マドレーヌ10個詰め合せ木箱入り2,000円、ボンボンショコラ(10ケ入)2,200円
その他の初出店は以下の5店舗。
【パン パシフィック ホテルズ アンド リゾーツ】(洋菓子)
環太平洋11ヶ国でホテルとリゾートを展開する「パン パシフィック ホテルズ アンド リゾーツ」がペストリーショップ(洋菓子)を国内初出店。香り高い南国のフルーツやナッツを使ったミニケーキを展開する。
マンゴラクティ(1個)500円、ジャンドゥーヤ(1個)400円、ショートケーキ(1個)500円
【過門香】(中華惣菜)
四川、広東、上海の各料理を代表する3人の特級料理師が腕をふるい、中華大陸料理をコンセプトに伝統料理からヌーベルシノワまで幅広く展開する銀座の中華料理店「過門香」が百貨店に初出店した。その専門性を生かし、日本で初めて紹介される伝統の一品から、同店でしか味わえないオリジナル点心まで、新しいチャイニーズデリカを幅広く展開する。
上海焼小籠包(1個)135円、重慶発 神仙揚げまんじゅう(1個)130円、出来たて豆腐花(トーフファー)250円
【串くら】(和総菜)
京都・御池で築100年以上の町家をそのまま生かし店舗を展開している串焼き店「串くら」も百貨店へ初出店。岩手県から直送の南部鶏をはじめ、旬の京野菜、湯葉、豆腐などのほか、瀬戸内海の天然塩、さらに秘伝製法で熟成された特製ダレと、素材・鮮度にこだわりを持つのが同店の特徴。本店仕込みの串焼きをはじめ、人気の「串くら鶏」、京の食材を使ったサラダなどを展開する。
名物 串くら鶏(1本)480円
【京料理 菊乃井】(和総菜)
菊の花が咲くように湧き出たという菊水の井は、北の政所も茶の湯に用いたという名水。その井戸を代々の当主が守りながら、日本料理に新風を吹き込み続ける京都・東山の裾野、真葛ケ原にある人気の料亭が新登場した。三代目主人村田吉弘氏による厳選された和惣菜から調味料、漬け物に至るまで、四季折々の味を提供する。
東山(二段重)2,500円、高台寺1,500円
【金沢 浅田屋】(和総菜)
創業以来340年、加賀百万石の城下町金沢の老舗料亭旅館が新登場。加賀野菜や旬の野菜、北陸の山海の幸などおいしさや新鮮さにこだわり、四季折々の季節の彩りを加えた加賀料理を展開する。
鴨治部煮調理セット(1人前)1000円
その他、デパ地下の洋総菜売り場ではすでに高い人気を集めているブランドが新たな試みに取り組んでいる。今回のリニューアルに際して、売り場を「サラダコーナー」「フライコーナー」「ベジテリアコーナー」とコーナーを分けて出店したのは「アール エフ ワン」。各コーナーを独立した形で出店するスタイルは百貨店では初の試み。特にフライコーナーは、素材を厳選し、パン粉や揚げ油にもこだわりを見せる揚げ物・フライの専門店で、パン粉や揚げ油の組み合わせに工夫を凝らし、今後バリエーションを広げていくという。
鴨胸肉と焼葱のオレンジソース(100g)480円
東急百貨店では、老舗「東横のれん街」の大改装により、2000年4月の大規模改装で「デパ地下」ブームの火付け役ともなった西館地下の「東急フードショー」とのシナジー効果を狙う。比較的、旧来の「贈答需要」に応えてきた「東横のれん街」も、最近のトレンドである「プチ贅沢」志向を背景に、「ディーン&デルーカ」や「ル パティシエ タカギ」など話題性のある店の導入で「自家需要」への対応力を高めた点が改装のポイントになっている。都心部と山の手を結ぶ乗り換え地点としての渋谷に集う、本物志向で「食」の付加価値を求める消費者の心をつかみそうだ。
東横のれん街