ジーンズが生まれたのは1800年代後半、炭鉱夫や金鉱夫などの作業着としてアメリカで誕生した。できるだけ安いコストで丈夫なものを作ろうという「実用性」を重んじた発想が原点にあるが、1940年代~1950年代になるとハリウッド映画の影響も受けて、ジーンズは若者を中心にファッションアイテムのひとつとして注目を集めた。1960年代~1970年代にはアメリカのみならず世界のジーンズ需要が拡大し、日本にもその波が押し寄せてくる。アメリカ製のジーンズを最初に輸入したのは、栄光商事(本社:渋谷区)と大石貿易(本社:千代田区)とされている。1961年(昭和36年)、栄光商事はジーンズ専門店「EIKO」を青山2丁目にオープンさせ、ジーンズショップの草分け的存在となった。
栄光商事プレス担当の進藤さんは「先代の社長が戦後間もない頃、デニムを中心とした古着衣料をアメリカからたくさん買い込んできた。特にユダヤ系商人からは、ある程度の質のものを、かなりまとまった量で買うことができたという。それを売り物になるようにクリーニングとリペアを施し、商品としてアメ横に卸していたのが始まり。その後デニム商品、特にジーンズを取り扱うショップが少ないことに気付き、卸すだけではなく自ら店舗出店に乗り出したのが1号店出店の経緯。つまり、アメ横のように卸してもらったものを売るショップはあったが、自ら輸入し自ら販売するというショップとしては先陣を切ったと言える」と当時を振り返る。その後、インポートデニムのライセンシー獲得を推進し、1997年にはファッションジーンズとして人気の高い「シマロン」をいち早く導入するなどレディースを中心としたラインナップの拡充にも注力している。
栄光商事リーバイ・ストラウス ジャパン(本社:渋谷区)は9月27日、世界初となるヴィンテージの専門店「LEVI'S VINTAGE CLOTHING(リーバイスヴィンテージクロージング)」(TEL 03-5774-8083)を南青山5丁目にオープンする。同店は、リーバイスが今年で創業150周年、(リベットによる衣服補強法の特許を取得した年から数えて)ジーンズ生誕130周年を迎えるWアニバーサリーを記念して開設されたもので、「伝統」「革新性」「本物」といった同ブランドならではの本質を体現するリアルショップとして位置付けられている。同店は、もともと外国人向けの賃貸住宅であった一軒家をリノベーションしたもので、空間コンセプトは「Levi's Museum」。ミュージアムのように寛げる空間に、日本が誇る加工技術を駆使したヴィンテージ商品がフル・ラインナップされている。この高感度なショップのデザインは、ロンドンを拠点に活動し世界で高い評価を受けるデザインスタジオ「Jump」が手掛けた。
広報マネージャーの雨宮さんによると「日本でのヴィンテージ人気の背景には、日本人特有の生地や縫製などのパーツへのこだわりや細かい作業が得意といったこと、また蘊蓄などのバックストーリーが好きなことが挙げられる。ジーンズを最初からファッションとして捉えている日本で初のショップをオープンすることは、さらに新しい価値を生み出す可能性を秘めている」と話す。また、「ヴィンテージという過去の名品を作り上げるには『伝統』は不可欠なもの。当社にはそれがあり、かといって過去にしがみつくだけではなく、加工は最新技術を取り入れるなど本質を追究することも忘れない」とショップへの抱負を語る。
同ショップでは各種オリジナル商品の発売やサービスの導入に取り組んでいる。注目はオリジナルヴィンテージのカスタムメイドサービス。ヴィンテージを象徴とするモデルとして人気の高い1955年製の「501」と、第二次世界大戦下、物資節約の統制のもとアーキュエットステッチがペンキによるペイントステッチになったことで有名な1944年製の「501」のどちらかのスタイルを選び、さらに2種類の加工から色を選び、さらに丈を採寸して完成させるもので、1週間で20本限定、納期は約1か月体制でスタートする。またオープンを記念して、1966年モデルをベースに1本1本手作業による製作で、世界で100本しか生産されないプレミアムアイテム「501 1966モデルLVCスペシャル」(58,000円)も、オープン日から発売される。その他にも、創業150周年ジーンズ生誕130周年のWアニバーサリーを記念して作られた2種類のミニュチュアビンテージコレクションも同ショップのみで発売。「ミニュチュア501 1966モデル」のジーンズ(9,800円)が限定501本、「ミニュチュア507XX 2ndモデル」のジャケット(12,000円)が限定150本も販売される。両アイテムともシリアルナンバーが入っている。さらに今年12月には、スタイリストの野口強氏と共同で商品開発したヴィンテージ商品(サイズ・価格は未定)の発売も予定されるなど、早くもヴィンテージシーンの情報発信基地として機能し始めている。
リーバイ・ストラウス ジャパン今年9月19日、神宮前にジーンズとカジュアルウェアを扱うショップ「OMNIGOD(オムニゴット)」(TEL 03-5771-6363)がオープンした。同店は3年前に大阪・北堀江にオープンしたショップの初の東京出店になる。企画から生産、販売まで一貫した姿勢で事業展開をしているアパレルメーカーのドミンゴ(本社:岡山県)が手掛けており、同社既存ブランドのハイクラスラインとして位置付けられている。基本はジーンズだが、それに合ったトップスやアウターなども自社ブランドを中心にトータルで提案しているのが特徴。ユーズド加工デニムジーンズ(メンズ=17,800円、レディース=16,800円)が人気で、ジーンズの裏側にギャランティ(=印)を付け、それが記されているのものに関しては無料で何回でも修理に応じるサービスもある。
店長の山田さんによると「商品の基本であるジーンズは1点1点こだわりをもって大事に作っている。ヴィンテージものが長く愛され続けるのにはそれなりに理由があるので、その良さを商品に取り入れるようにしている。例えば、はきやすさといった実用性はもちろんだが、リベットを残したり、タグに羊の皮を使ったりと、商品としてのディティールにこだわることもこのブランドの特徴」と話す。さらに「流行などにあまり左右されない商品構成を目指していて、それぞれの商品の特徴やよさを説明するので納得して購入してもらいたい。あくまで選択権はお客様にある」と続ける。今後は、地域に1店舗ないし2店舗といった直営店のみの展開で、本当に価値の分かる顧客への販売戦略を考えているという。
OMNIGODイタリアを中心にヨーロッパおよび、北米市場で商品展開をしてきたオリジナルのデニム製品「SOMET(そめ)」を取り扱う太歳(渋谷)が、直営店として同名の「SOMET」(TEL 3498-1317)を青山学院から程近い場所にオープンさせたのが2000年。ブランド立ち上げ当初の商品は海外のみの販売だったが、直営店のオープンをきっかけに日本へのマーケットも広げてきた。約1年ほど前イタリアの展示会をきっかけに「バーニーズ」「ビームス」と提携し、初めて日本への卸販売も始まったという気鋭のショップ。商品構成は、メンズはジャケットなどにも合う「上質な大人のカジュアル」、レディースは女性特有のヒップラインの美しさなどを追求し「女性のセクシーさ」を表現した点が特徴。両アイテムとも、イタリア在住のデザイナー遠田佳晴さんが担当しており、デニム素材とオートクチュールのデザインを意識した商品もあるなど、業界でも注目を集めている。
PR担当の丸山さんによると「日本が世界で競争力のある素材を使ってデザインすることにこだわりながら、世界市場に通用する製品づくりを目指すというコンセプトに基づき、海外から展開してきた」と海外市場の背景を明かす。その目論見通り、同店には看板類が一切ないが、こだわりを持った顧客が口コミで訪れており人気の程が伺える。「素材からすべてオリジナルで企画しているため定番ものでも20,000円近くする。だが、シンプルでラインがしっかりしたものが多いため長くはくことができる上、ワンウオッシュなので自分ではきこんでいくうちに、その人それぞれのカタチになっていく楽しみがある」(丸山さん)とジーンズへの可能性を語る。
SOMETイタリアの新進気鋭なファッションメーカーSIXTY S.P.Aから1989年に誕生したレディーストータルブランド「MISS SIXTY」は8月1日、日本初のフラッグシップショップとして明治通り沿いに「MISS SIXTY MEIJIDOURI」(TEL 03-5464-1426)をオープンさせた。同店はアジア地域最大規模のショップで、デザインコンセプトは「劇場・テアトロ」。600平米もの広大な空間にグラフィックや照明など趣向を凝らした仕掛けが満載で、60年代~70年代のレトロフューチャー、ミッドセンチュリーを彷彿とさせる。空間デザインは数々の「MISS SIXTY」ショップを手掛けているフィレンツェのデザイン事務所「STUDIO 63」が手掛けた。
商品構成は、定番のデニムラインをはじめ、カジュアルウェアの豊富なベーシックライン、ファーやベルベット、パッチワークなどを使ったファッションライン、レザーや刺繍つきのオーガンジーなどを使ったラグジュアリーラインのほか、アクセサリー類まで「MISS SIXTY」のフルラインが揃う。PR担当の野澤さんによると「中でも、ストレッチの入ったブーツカットがベースの『TOMMY』と呼ばれるスタイルは、MISS SIXTYのファーストコレクションから発表されている歴史のあるもの。時代や街のトレンドを取り入れながら、毎シーズン数パターンの新作を発表している。近年はジーンズを主体としたデニムラインをベースにラグジュアリーラインも強化している」と話す。また、同ショップには本場イタリアの厳選された食材、空気感を演出した本格的なイタリアンを提供するカフェ「MISS SIXTY cafe」(TEL 03-5464-1428)も併設され、シアターやギャラリー機能を含め情報発信性の高い空間を目指している。
MISS SIXTYもはやファッションとして定番化したジーンズだが、スタイル、カラー、加工方法など最新技術を採り入れながら、その進化はまだまだ止まない。一方で、日本発のマーケットであるヴィンテージ市場も「リーバイスヴィンテージクロージング」のオープンにより、古着の域を超えた新たなステージへと進化を遂げていく。目の肥えた消費者を納得させ差別化を図るためには、各ブランドのコンセプトをより深いレベルで明確に伝えなければならない。ジーンズのフラッグシップショップはこうしたメッセージを強力に発信する役目を担うと同時に、メンテナンスを通じて顧客と長く付き合っていく重要な拠点にもなっている。