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お盆休みはコアな顧客で繁忙期?
渋谷「マニアショップ」事情

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■夏休みは休業日返上でマニアに対応するミニカーショップ

渋谷駅からほど近い場所にありながら、表通りには面していない絶妙のロケーションに位置するのがミニカー専門店「ミニカーショップ イケダ渋谷店」(TEL 03-5467-8962)。同店は、専門店の看板にふさわしく常時4,000台を在庫する国内でも有数のミニカー専門店。日暮里店に次ぎ渋谷店は1993年にオープンで、取り扱い商品は新品の輸入品と国産品が中心だ。同店代表の額賀(ぬかが)さんは「お盆休みのこの時期は、全国から上京を兼ねてお客さんが絶えない時期」だと言う。「せっかく遠方から来ていただいたのに店が休みだと申し訳ない」(額賀さん)ことを理由に、今夏は毎週水曜日の休店日を返上して、店をフル稼働させている。

額賀(ぬかが)さんは、もともと会社勤めのミニカーマニアで、日暮里店の客だった。ある日、日暮里店のオーナーに声をかけられ、一大決心して独立開業を果たし「渋谷店」をオープンさせた。自身が生粋のミニカーマニアであるだけに、遠方から訪れるマニアからの質問や相談に丁寧に答えている姿が印象的だ。豊富な知識がそのまま店の信頼性につながっている。顧客は小学生から年配まで幅広いが、中心は30~40代の男性。

同店は顧客に向けたきめ細かな情報発信でコミュニケーションを図っている。入荷した新商品を完璧に網羅する「ミニカーニュース」と、コンパクトサイズの「月刊ミニカーマガジン」を発刊するほか、ホームページも毎日更新されており、入荷状況により1日5回以上更新される日もあると言う。額賀さんに時間別のアクセス数を見せてもらった。一番アクセス数が高くなるのが正午から13時の間の1時間。新商品の入荷情報が待ちきれず、お昼休みにチェックを欠かさないマニアの姿が浮かび上がる。同店では「チョロQ」の品揃えも充実しており、8月中に「阪神タイガース優勝記念パレードカー」が発売されるそうだ。

ミニカーショップ イケダ
ミニカーショップ イケダ渋谷店 ミニカーショップ イケダ渋谷店 ミニカーショップ イケダ渋谷店 ミニカーショップ イケダ渋谷店

■公認税理士が副業で開いた中古Nゲージショップ

渋谷周辺は、ミニカーに加えて鉄道模型関係の専門店も少なくない。昨年5月、宇田川町の一角にオープンしたのが「ポポンデッタ渋谷店」(TEL 03-5728-4752)。場所はパルコ・パート2の裏手にあるビルの1室だが、入り口は極めて「わかりにくい」場所にあり、初めて同店を訪れる顧客には、周囲をぐるぐると回った挙げ句に辿り着く例が絶えないという。

同店は「中古Nゲージ」の専門店。「Nゲージ」とは、鉄道模型のスケールを表す国際規格の一種で、車両は実物の150分の1のスケールで作られ、レール間は9ミリ幅を意味する。日本では最も普及している規格だ。同店の店主は神保町で税理士事務所を営む太田さん(32歳)。もともと趣味が高じて、自宅を倉庫替わりに「中古Nゲージ」の通販を手掛けていたが、たまたま取引先の渋谷のビルオーナーから話を持ちかけられ、開業を目指すことになる。7坪の店内に置かれた什器はすべて手作りで、とにかくお金をかけないで店を開いた。オープン当初は太田さん自身が「二足のわらじ」状態であったため、平日の開店時間は18~20時のわずか2時間だった。現在はアルバイトなどの力を借りながら16~21時に伸びた。

オープンのきっかけは、太田さん自身が「鉄道模型は値段が高く、欲しくても買えないものがあり悔しい思いをした」経験をバネに、「中古流通の整備で、より多くの人に楽しんでもらいたかった」ことにあると言う。同店店頭や永福町にある自宅を拠点に買い取りにも積極的で、同店独自の査定ポイントにより、不要な車両やレレール、鉄道関連雑誌などを買い取っている。さらに、販売価格も「どんなに状態が良くても」価格は元の定価の7割に抑えている。こうした姿勢が着々と同店のファンを増やし、わかりにくい立地にある同店には入れ替わり立ち替わりマニアが訪れる。ちなみに店名の「ポポンデッタ」は、店主が趣味で飼っている熱帯魚の名前=「ポポンデッタ・フルカタ」から命名された。「いろいろな人に来てもらいたいので、『いかにも鉄道専門店らしい名前』を敢えて付けたくなかった」のが、その理由だそうだ。

同店は、店主の「副業」ながら、今年4月には秋葉原に2号店を出店した。1階は「鉄道ライブラリー」で、鉄道関係の書籍・雑誌を豊富に揃え、ドリンク類も提供するいわばマニアのための情報収集コーナー。2階は「中古Nゲージショップ」で、一角には「れんたるポポ鉄道」も展開する。「れんたるポポ鉄道」とは、いわゆるジオラマの中にレールをレイアウトし、「最新型の運転台型コントローラー」を用意し、マニアが持ち込んだ自慢の車両を有料で走らせることができるもので、走行料金は500~900円と、走行させる「番線」によって異なる。その他、貸しロッカーやレンタル車両も用意して、幅広いニーズに応えている。ちなみに、このレイアウトは一部「工事中」で、夜中や週末を利用して店主自らが改良を重ね、その様子を同店ホームページにも掲載している。

ポポンデッタ渋谷店
ポポンデッタ渋谷店 ポポンデッタ渋谷店 ポポンデッタ渋谷店 ポポンデッタ渋谷店

■日本で唯一の専門店は開業38年を迎える老舗

渋谷駅前の渋谷東急プラザには開業38年目を迎える老舗の鉄道模型専門店もある。東急プラザ5階に鉄道模型の「メルクリン」専門「メルクリンセンター・レオ」(TEL 03-3461-3888)が登場したのは、東急プラザオープンの翌年(1966年=昭和41年)だった。「メルクリン」とは、1859年、ドイツのブリキ職人テオドール・フリードリッヒ・ヴィルヘルム・メルクリンが設立したメルクリン商会に端を発するもので、1891年、ゼンマイ駆動で実際にレールの上を走る鉄道模型をに世界で初めて世に送り出したことで知られる世界有数の鉄度模型メーカー。鉄道模型の国際標準規格である「HOゲージ」も同社が1935年に発表したもので、この規格が同社の主力品となっていった。

同店店長の澤田さんによると、オープン当初は様々な輸入玩具を扱っていたが、年月を経過する間に、その中のひとつだった「メルクリン」に特化し、今の形態になったという。同店の顧客も北海道から九州まで全国に点在するそうだ。日本で唯一の専門店ということもあり、馴染みの顧客も多く、アフターフォローも力を入れている。ただ、価格は決して安いものではないため、中高年層を中心に支持を集めているが、中には「お爺ちゃんが持っていたものをお孫さんが譲り受けて使っている」ケースもあるという。ちなみに、HOゲージのスターターセットは25,000円から購入できるが、車両本体は例えば機関車の場合50,000円以上となる。「技術の進化に伴い、メルクリンの商品は今や「ハイテク商品」化しており、こうした面からも新しく興味を持つ層も増えてきた」と言う。但し、新しく顧客になる層は家の中の広さを考慮して、HOゲージよりさらに小さな「Zゲージ」(1/220スケール、レール間寸法は6.5ミリ)を選ぶケースが多いという。

メルクリンセンター・レオ

この他、東急東横店西館10階には「KTM TOP10」(TEL 03-3477-4434)があり、今年7月25日にリニューアルオープンした。同店は博物館の鉄道ジオラマなども手掛ける鉄道模型メーカーのカツミ(本社:目黒区)が手掛ける直営店。同店ではNゲージや鉄度関連グッズや鉄道ビデオを取り揃えるほか、HOゲージでは私鉄車両が充実しているのも同店の特徴だ。

KTM TOP10
メルクリンセンター・レオ メルクリンセンター・レオ メルクリンセンター・レオ メルクリンセンター・レオ

■中古ラジカセ、トイカメラ・・・新たに生まれるマニアの領域

「中古ラジカセ」をテーマにしたマニアが秘かに増殖している。中目黒のギャラリー&カフェ「DEPOT」では8月16日まで、「中古ラジカセ」をテーマにしたイベント「TURBO SONIC EXHIBITION」が開催されている。同展は2003年4月、高円寺にオープンした中古ラジカセ専門店「TURBO SONIC」(TEL 03-3313-5717)とのコラボレーションにより実現した。会場では「ディスコロボ」を筆頭に、70~80年代の日本製中古ラジカセを展示・販売する他、同展オリジナルのミックステープ100本を限定で販売している。

「TURBO SONIC EXHIBITION」代表の鶴岡さんは、以前は「ラジカセに興味はあったもの、特別な意識しなかった」と話す。ところが6年前、たまたまシャープの「The SEARCHER GF-919」を入手した時から「これは偶然ではなく、必然の出会いなんだ」という鶴岡さんの思い込みから、ラジカセのコレクションが始まったと言う。それからひたすら集めたラジカセが1,000台を越えたのを契機に、今年4月1日に中古ラジカセショップ「TURBO SONIC」を高円寺にオープンした。中古雑貨店の一角で販売されるケースはあるものの、中古ラジカセのオンリーショップは「恐らく他にはない」(鶴岡さん)存在。当然のことながら、店頭にはマニアが押しかけ、2、3日おきに来店しては、整然と並べられたラジカセを眺めて数時間動かない人も少なくないそうだ。

同店では店頭に常時約60台を展示しているが、中古ラジカセをそのまま展示するのでなく、原則として中を開けてリストアされた完動品で価格帯は5,000円から78,000円。人気商品はやはりシャープの「The SEARCHER GF-919」系で、大型ウーハー付きで横幅が80センチ近くある「いかにもラジカセらしい」スタイルがマニアに支持されている。1988年に同品が発売された当時、シャープのラジカセは他社と比較して斬新な取り組みが多かったことからも、当時のシャープ製品は人気が高いそうだ。顧客層は、ラジカセを新しいものとして捉える若者と、当時のライフスタイルを懐かしむ40代~50代が約半々。購買目的もラジカセとして使用する以外に、ディスプレイ目的も少なくないと言う。9月18日から、ラッドミュージシャン原宿フラッグシップショップ内に新しくオープンするニューブランド「V.H.S」の畳部屋ギャラリーにも展示が予定されている。

TURBO SONIC EXHIBITION TURBO SONIC EXHIBITION TURBO SONIC EXHIBITION

南平台にあるマンションの1室にあるのはトイカメラショップの「HEADS SHOP」。同店は、カメラをテーマにする専門の企画会社「パワーショベル」の一角で展開されており、ロシアや中国製の「カルトカメラ」や周辺グッズを取り揃えている。中でも人気は「HOLGA」というブランドの中国製カメラで価格帯は3,900円から6,200円の普及価格。「およそカメラとしての致命的欠点をすべて持ちながら、世界中のフォトグラファーを虜にしているキング・オブ・カルトカメラ」(同社代表の大森さん)だそうだ。筐体の精度が低いため光が漏れるケースも少なくなく、その漏れ具合が写真に反映されるなど、まさに現像してみるまで仕上がりが予測できないマニアックなカメラでもある。同社でも取り扱いがあり、少し前に流行ったロシア製のカメラ「Lomo(ロモ)」は、HOLGAと比較すると「とんでもないまともなカメラ」だそうだ。

1995年、日本のインターネットで前述の「Lomo」を紹介したのも同社だった。安価で気軽に扱えながら、完成度の高い日本のカメラでは実現できないその独特の「撮り味」が、ネットユーザーの間で支持を集め「トイカメラ」というジャンルを生み出していった。「究極のローテク商品がネットユーザーの手によって解禁された」(大森さん)という点は興味深い。こうして日本のカメラ界ではまさに異端であったカルトカメラは、ひとつの表現手段としてイベントなどで活用されることも多い。例えば、あるイベントでは参加者全員にカメラを渡し、撮影した「カルト」な作品をコラージュしたりする。

同社では、こうしたカルトカメラ関連プロジェクトを「スーパーヘッズ」と呼び、今年は7月30日から8月4日まで、イベント「マジカル・カメラ・スーパー・ショー&ベイビー・ホルガ・ベイビーズ」をフォレット原宿4階ラップネットシップ・クラブで開催した。会場ではミニカメラ「Baby Holga」で撮影した写真展や、写真と音で制作した映画上映などを行ったり、カルトカメラのセレクトトショップを出店した。

「HEADS SHOP」は「マニア厳禁の店」(大森さん)だと言う。元来、カメラマニアの間でもロシア製カメラはハードルの高いジャンルだった。渋谷の「ドン・キホーテ」隣には「知る人ぞ知る」ロシア・東欧の中古カメラ・レンズの専門店「KING-2(キング・ツー)」がある。こうした店に出入りするのはまさにカメラマニア中のマニア。当然顧客層は重ならない。顧客は「代官山に男の子ふたりで来るような若者」(大森さん)が多いそうで、今まで全然カメラに興味がなかった若者でも、見え方が新しいため、物怖じせず店を訪ねてくるという。「マニアお断り」の同店が仕掛けるトイカメラは、単に機械としてのみでなく、音楽や映像などとコラボレーションする新しい表現スタイルとして、若者の支持を着実に高めている。すべてが「割り切れる」デジタル社会だからこそ、予測できない結果を招くこうしたカメラが「マニアック」に映るのかもしれない。

Super Headz

最近のマニアショップに共通しているのは以下の3点。

  1. 各店共インターネットによる情報発信に力を入れている点。マニアとってはサイトのデザインは気にならない。新製品や入荷情報を、とにかく人より早く受け取りたい気持ちが最優先されるため、マニア度が高いショップのサイトほどテキストが占める割合が多くなる。その分、更新頻度を高め彼らのニーズに応えている。
  2. インターネットを通じてマニアが店を「探して来てきてくれる」ケースが多いという。マニア度が高いほど、検索エンジンなどで絞り込まれた結果、初めて店を知り、知った以上は足を運ばずにはいられないマニアを呼び込むことになる。
  3. 目的がはっきりしたマニアを相手にする以上、店の立地にはこだわらない。渋谷周辺でありながら、わかりにくい場所に位置するのも各店の特徴。それでもマニアは地図を片手に店を探り当てて来店してくれる。

夏休み、特にお盆休みは長期の休暇を利用して好きなモノに没頭できる期間。そういう意味でもマニアの夏休みは忙しい。

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