1999~2000年にかけて「ビットバレー」と騒がれた渋谷だが、ネットビジネスが成熟した今でも、大小のネット系ベンチャーが集積している。いわゆる「勝ち組」のポイントは、特定の事業に固執せず、インターネット関連ビジネスを次々とインキュベートする力にあった。グローバル・メディア・オンライン(GMO)、サイバーエージェント、ネットエイジなどは、社内のインキュベーション力に加え、M&A(企業買収)などによりさらにその勢力を拡大させている。こうしたネット系ベンチャーの最近のトレンドのひとつに、ネット技術を駆使した学習系プログラムの「eラーニング」がある。
GMOグループのGMOメディアアンドソリューションズ(桜丘)は今年6月から、「学び」ながら、他の受講生と「友達」になれるeラーニングポータルサイト「まなとも.com」のサービスを開始した。このサービスは、企業・個人を問わず誰でもeラーニング講座を開講することができる点が最大の特徴。利用料金は、簿記3級講座15時間コースが900円、マイクロソフト社が認定するMOUS資格の対策講座8時間が1,500円 など。さらに有料の会員登録を行うと、受講している講座の進捗管理や受講履歴が閲覧できる他、サイト内限定のメール機能や掲示板を使って他の受講者やeラーニングコンテンツ提供者と会話ができる機能も利用できる。有料会員の費用は月額500円。eラーニングのコンテンツ提供者は、受講料収入を同社と取り決めた一定の割合で受け取ることができる。同社では、初年度受講者を10万人と見込んでいる。
まなとも.comライフバランスマネジメント(円山町)は昨年10月より、仕事などのストレスに対する精神的免疫力(=メンタルタフネス)を自ら強化できるよう開発されたeラーニングプログラム「MTOP (Mental Toughness Orientation Program)」の提供を開始した。同社はインターネットビジネスに特化したインキュベーター(事業育成)を手掛けるネットエイジ(円山町)から今年6月に分社化した。このプログラムは、インターネットとREBT(理性感情行動療法)の理論を融合させた日本で初めてのeラーニングプログラムで、NHK教育テレビ講師なども務める髙杉尚孝氏により考案されたもの。事後的なストレス反応へのケアではなく、ストレスに対する耐性自体を高める「予防的アプローチ」に重点を置いて設計されている点が特徴。サービス提供形態はASPで、利用料は従業員1人当たり月額数百円から1,000円で、すでに約100社の企業が導入している。また、今年4月からは、同プログラムの個人向けサービスを販売も開始した。月額利用料は500円で、現在は約3,000人のビジネスマン、OLが利用している。
MTOP一方、もはや生活の必需品となった携帯電話のヘビーユーザーでもある若者を多く集客する渋谷では、携帯周辺ビジネスが盛んなエリアでもある。
多くの携帯コンテンツ開発を手掛けるザッパラス(中目黒)は8月4日より、iモード公式サイト「究極の恋愛科学」(月額情報料300円)を開始した。このサービスは、恋愛行動学者としてメディアなどで活躍しているDr.藤田氏が監修し、恋愛を科学的なアプローチでサポートする「恋愛ナビコンテンツ」。同氏が提唱する脳内ホルモンの分泌パターンによる性格診断は、占星術、姓名判断、血液型診断、心理学よりも科学的根拠を多く含んでいるため「より確実に恋の『勝ち組』に導く」のが、開発コンセプトだという。
コンテンツは、科学的理論と実証による診断テストの結果を総合し、ユーザー毎に「マイカルテ」を作成し、結果から自分の恋愛パターンを浮き彫りにするもの。さらに、「恋愛賢者」である金子昇、真鍋かをり、岸田健作、藤崎奈々子らの有名タレントとの「デート・シミュレーション体験」コーナーや「恋の悩みSOS」コーナーなどを用意するほか、メールを使って「恋を成就させるための」アドバイスなども行う。サービス開始から間もないが、すでに5,000人の登録ユーザーを集めている。
同社はiモード公式メニューの「占い」コンテンツ57サイト中、7サイトを提供するリーディング企業でもある。同社コンテンツ企画リーダーの井上さんは「トラフィックが多い着メロ、待ち受け、占いの中でも、待ち受けと占いに特化し、さらに携帯以外にも雑誌など他のメディアへ展開しやすいコンテンツとして占いにフォーカスしている」と話す。井上さんによると、「占い」コンテンツのユーザーは約130万人で、簡単でオーソドックスなコンテンツの人気が高い一方、平均登録期間は33日間と短く、続々と登場する占いコンテンツを「ザッピング」利用するユーザーが多いのが特徴だそうだ。また「就寝前」の利用率が高い携帯コンテンツの特性に、「占い」コンテンツは相性がいいとも言う。こうした市場背景を踏まえ、同社では3キャリア計17の「占い」系コンテンツを提供している。
同社が提供する公式メニューで、ユーザー数によるランキングは以下の通り。
インターネットビジネスの情報サイト「ビズ・マーケティング」によると、携帯電話の有料コンテンツ・サービスに「現在料金を支払っている」人は29.8%で、1ヵ月の支払い額は1人あたり453円、平均契約コンテンツ数は2.2個というデータが報告されている。この「2.2個」という数字は一見小さく見えるが、約6,500万人という巨大な携帯ユーザー数を考え合わせると、決して小さなマーケットではないことが容易に推察される。また同社広報の佐藤さんによると「実際に渋谷周辺の女子高生にヒアリングすると7~8個契約(約1,000円)しているケースが多い」と言い、やはり渋谷では携帯コンテンツのヘビーユーザーが多いことを示唆している。
さらに同社では今年3月から、 携帯電話メールの絵文字機能をシールにした「ケータイ絵文字シール emo!」(希望小売価格:200円)や手帳リフィルや付箋など、絵文字関連のステイショナリーグッズを発売しており、携帯周辺マーケットの取り込みにも積極的に取り組んでいる。
ザッパラス数年前、渋谷を発火点に人気を集めた携帯電話外付け端末「ラブゲッティ」は2002年12 月、「ナビゲッティ(NAVIGETY)」へと進化を遂げた。このアイテムは、フレパーネットワークスとアトラスが共同で企画・製造を手掛けるもので、開発コンセプトは「いまだ系ここだ系」。同品は携帯電話に外付けするだけの手軽さが特徴で、定価は2,980 円、情報提供料は無料。NTT ドコモのオープンiエリア位置情報サービスに対応し、現在の位置情報と時刻に従って、半径約2.5キロ 内にある様々な情報を毎回1 時間の限定で受け取れる他、同一エリア内でユーザー間マッチングツールとしても機能する。ショップ用のナビゲッティからは「時間単位」で各種のサービス情報を発信することができるため、例えば「本日限りXX%割り引き」といったメッセージを、特定の時間に限って、半径2.5キロ圏内のナビゲッティユーザーに伝えることが可能となる。
同社の南雲さんによると、発売以来約45万個以上を出荷しているがアクティブユーザーは約3万人だという。ショップ用ナビゲッティも首都圏で約3,000店が導入しており、今年6月~7月にかけて、渋谷や原宿で周辺のショップ情報と連動した街頭プロモーション「渋盛イベント」が行われた。
ナビゲッティ携帯加入者の増加率が一段落しながらも増え続けるコンテンツ事情を背景に、エヌティーシー(渋谷)では携帯サイトに関する情報を集めたフリーペーパー「ホットステーション.jp」を今年4月に創刊した。隔月24日の発行で、渋谷周辺での試験的配布を経て創刊第2号は全国で45万部を配布した。内容は「得」をテーマに飲食やショッピングに関する携帯コンテンツをカタログ形式で紹介するもので、URL入力の手間を省くため、紙面には6桁の「HOTコード」を掲載し、各サイトへの誘導を後押ししている。
エヌティーシーWEBや携帯ビジネスは、技術的な進化が一段落し、コンテンツ開発競争を繰り広げる今、各社ともコンテンツ開発担当者の確保、育成に注力している。ザッパラスのコンテンツプロデューサーの中核は20代後半から30代前半のスタッフ。能力に関しては「オンタイムで時事に通じ、携帯マーケットを感覚的に捉えることができることが必須」(同社、井上さん)だと言う。WEB系でも、コンテンツ担当者のスキルアップを求める声が多いことを受けて、デジハリ(デジタルハリウッド)渋谷校では、WEBマガジンで人気を集める「カフェグローブ」と提携して「編集者系Webディレクター講座」を、今年10月25日に開講する。同校では「毎日アクセスしたくなるコンテンツづくりには『編集力』が不可欠」と捉え、企画・構成、ビジュアル、文章を統合し、表現する力を養う場として、同講座の開設に至った。
デジハリ渋谷校コンテンツビジネスはビジネス一辺倒ではなく、様々な分野のカルチャーとの接点の上に成り立っているため、各社共、有能な人材確保には力を注ぐ。「売れる」コンテンツは、まさに柔軟で豊かな発想から生まれる。音楽、ファッション、アートなど様々なカルチャーが混在する渋谷の環境は、彼らの発想をどこまで押し広げていくのだろうか。