6月30日、原宿「プロペラ通り」の「プロペラ」が閉店した。「プロペラ通り」は神宮前交差点角の「GAP」の裏手を、明治通りと並行する小さな通り。表参道側からは「ウェンディーズ」の角を曲がった通りで、通りの突き当たりは竹下通りから明治通りを越えて続く「原宿通り」につながる。同店はアメカジ系セレクトショップの草分け的存在でもあった人気店だった。同店がオープンした1988年(昭和63年)頃は「渋カジ」ブームを背景に、革ジャンや革パンツが爆発的に売れたこともで知られる。当時、周辺には「ゴローズ」「バナナボート」などしかなかった一方で、松田聖子や悪役商会のタレントショップが人気を集めていたのもこの頃だった。当時のプロペラ通りは「どちらかと言うと竹下通りの延長線上にあるイメージだった」と、同店マネージャーの木山さんは話す。同店は15年前、「人があまり来ないところに、隠れ家的な店を出したい」という社長の意向でこの場所が選ばれ、開店当時は1階にポルシェが展示されていた。
閉店の引き金となったのは今年の連休明けのことだった。経営するリムジンインターナショナルの奈良岡社長が久々に同店を訪れた際、周辺の様子を見て「大人の客が減った。一端この場所はリセットして、再度場所を変えて店を開こう」という決断が急遽下されたと言う。週末は大勢の歩行者で賑わうロケーションが、同店のオープン当時のコンセプトにそぐわなくなったと言う。移転先は未定だが「コンセプトが合えば原宿には固執しない」(木山さん)とも。移転までの間は、「名前を忘れられないため」(木山さん)にも、インターネットでの通販を予定している。
木山さんによると、この通りが「プロペラ通り」と呼ばれるようになって「4~5年くらい」だと言う。今では「ape」系の「BUSY WORK SHOP」や「ネイバーフット」などの人気店が建ち並び、人気アイテムの発売日には長い行列も出来る程のメジャー・ストリートに“昇格”した。そんな「プロペラ通り」に7月1日、インテリア雑貨ショップ「Qurio(キュリオ)」がオープンした。約10坪の路面店の店内には、アクセサリー、バッグ、インテリア商品などが並ぶ。同店は渋谷パルコ・パート3などでアパレル雑貨の「Thrive(スライブ)」などを展開するリラックス(本社:千駄ヶ谷)が手掛ける。同社インテリア事業部の山下さんによると「プロペラ通りではインテリア雑貨店は珍しいこともあり、ランチ時には近所のOLも立ち寄ってくれる」そうだ。
リラックス裏原で今、最も増殖を続けている業態は「帽子」の専門店。帽子専門店「CA4LA」で人気を集めるウィーブトシ(本社:神宮前)は、新しいコンセプトの帽子専門セレクトショップ「test,」を5月14日、原宿通りにオープンした。同店は「CA4LA」の実験店舗として「帽子という世界を通して音楽・映画・アート等の様々なカルチャーと密接な関係を結び、自由な発想と大胆なアイデアを多岐に渡るネットワークと技術によって表現する」空間を演出している。展開アイテムはオリジナル、老舗インポートブランド、新進アーティストの作品、一点ものやデッドストックなど。ちなみに、同店の店名となっている「テスト」は、「CA4LA」の実験店舗であり、イタリア語でTESTA(頭)の略表記から命名された。
ウィーブトシ人気の帽子マーケットに異業種からの参入も始まった。きものの「さが美」(本社:横浜市)は6月21日、神宮前4丁目の「遊歩道」沿いに帽子専門店「SHAZBOT(シャズボット)」1号店をオープンした。同店の空間デザインは、ブランドを総合ディレクションするサイトウマコト氏が手掛け、バケツをモチーフにしたハンガーに様々な帽子をディスプレイし、オリジナルのほか国内外のセレクトモデルなど常時300アイテムを取り揃える。店舗面積は16坪。同店は同社新規事業の一環として手掛けるもので、初年度の売り上げは6,500万円を見込む。
同店のオープンに際して、SHAZBOTチーフマネージャーの阿部さんは、遊歩道を歩く若者のファッションを観察し「10分間に約40人が帽子を被っていた」ことで、立地的な自信をつかんだ。逆に、渋谷に行くと帽子着用率が落ちるとも付け加える。阿部さんによると、帽子の売れ筋には偏りがあり、今は「メッシュキャップ」と天然素材系の「ストローキャップ」が2本柱になっているそうだ。オリジナルにも力を入れており、ボクシングのヘッドギアのメーカーに、ヘッドギアと同素材で作らせた手作りの商品(28,000円)なども並び、現在は約2割のオリジナル比率を将来的には6割まで引き上げたい意向を持っている。6月のオープン以来「激戦区の原宿にあった出足を心配したが、予想以上の手応えを感じている」と阿部さん。同店の来店客数は平日で約100人、週末は200~300人を数える。原宿界隈には現在、大小合わせて22店舗の帽子専門店が存在すると言われている。
さが美かつて遊歩道沿いに多く見受けられた古着ショップの姿が消え、代わりに個性的なショップのオープンが続いている。ビーズインターナショナルは6月27日、すでにオープンしている「XLARGE(エックスラージ)」の隣にスケートライフを提案する「xla store(エクスエルエー)」をオープン、さらにその隣に7月5日、TYCOON GRAPHICSと同社のジョイントプロジェクトから生まれたキャラクターショップ「UFO堂」がオープンする。ダークサイドファンタジー「エミリー・ザ・ストレンジ」のTシャツやスケートデッキなども取り扱う。ちなみに「店名の『UFO堂』は『遊歩道』からのネーミング」(同社プレスNAOさん)だと話す。また同じ7月5日、同店の隣に「THE LITTLE SUPERMARKET MEAMOSS」が同時オープンする。店内には「スーパー」で使用する什器なども導入し、「気取らずに」買い物ができる空間づくりを施した。同ブランドは、カラーリングや縫製技術、着心地などに重点を置いた定番的なモノ作りを目指している。
同社では、遊歩道エリアに1998年から「XLARGE」を初出店していることもあって「あまり裏原を意識していない」(NAOさん)と言う。現在同社では遊歩道エリアで、この度オープンする3店舗を含めて計7店舗を展開する。代官山と比較すると「今は原宿の方が、男女とも購買意欲が高い」(NAOさん)と見ている。
ビーズインターナショナル UFO堂遊歩道沿いには、さらに大手の進出が続く。ユナイテッドアローズは7月17日、原宿の本社ビルにあった「アナザーエディション」のフラッグシップ店となる「原宿店」を、遊歩道をさらに進んだ神宮前3丁目に移転オープンさせる。空間は2階までの吹き抜け構造となるもので売り場面積は約45坪。比較的小型店の多く集まる遊歩道沿いでは、かなり目立つ存在となりそうだ。同社広報部の前田さんによると、同店立地に際して(1)移転前の場所から遠くないこと(2)同ブランドの顧客に美容師が多いことなどを理由に選定されたと話す。さらに「遊歩道は若者が多いように見受けられるが、意外と20歳代後半の女性も少なくない」(前田さん)と付け加えるように、圧倒的にメンズの強い裏原エリアへのレディース・フラッグシップ進出に注目が集まりそうだ。
ユナイテッドアローズ裏原を拠点に情報発信を手掛けるのは、同エリアに編集部を構えるM.R.E(TEL 03-3746-0858)。今年1月、隔月刊のカルチャー誌「原宿MIXTURE」(300円)を刊行した。発行部数は6万部。同誌では、最新号を発行する度にクラブイベントを開催する方針で、今年5月29日には、表参道の「ジ・オービエント」に500人を集めたイベント「Artistage」が開催された。編集内容は、原宿のファッション、音楽、アートカルチャーなどが中心となるが、地元だけではなく、全国主要都市の書店などでも販売されており、全国へ向けて原宿発の情報発信を目指す。
プロペラ通りや遊歩道などを含む「裏原」に今年3月、神宮前4丁目の商店主らが集まって新しい商店会「原宿4丁目商店会」が発足した。現在の加盟は約60店舗。原宿エリアでは10番目の商店会となる。初代会長を務めるメンズアパレル、ジムの八木原会長は「神宮前4丁目には店が約200店舗あり、5年間で約10倍になったが、一方でゴミの不法投棄や落書きといった問題も浮上してきた」と話す。「以前からの住人と、新しくビジネスチャンスを求めて店を開いた各店が一体となって、安心で、安全で、魅力ある街づくりに取り組みたい」(八木原会長)と、意欲を見せている。
ジム神宮前4丁目で不動産仲介業を手掛ける「オフィス・ミツキ」の坂田さんは、「神宮前4丁目に隣接する神宮前3丁目方面に「奥原宿」「北原宿」へと街が広がりつつある」と話す。背景には神宮前4丁目エリアの年齢層が下がり、個性化・差別化を目指す路面店が中心部を外して出店するケースも増えてきたことが挙げられる。ちなみに今年3月、国土交通省が発表した公示価格も、神宮前4丁目は834,000円/平米(平成14年度)、860,000円/平米(平成15年度)と3.1パーセント上昇しており、全国住宅地の中でも大田区田園調布3丁目に次いで2番目の上昇率となっている。
オフィスミツキ今やメンズファッションでは高い人気を集める裏原だが、関係者の間では「俗化」を懸念する声も少なくない。特に、プロペラ通りや原宿通りは道幅が狭いこともあり、週末はかなりの人でごった返すのが日常になっており、個性の強いブランド・コンセプトが伝えにくくなっているのも事実。一方、遊歩道入り口に隣接する東電健保会館跡地には2,000坪級の大型商業施設の建設が予定されており、表参道とのジョイント部分がさらに強化により、裏原の大動脈として遊歩道の役割がますます高まることが予想される。個性の強い路面店が多く集積するメンズ・ファッションのメッカ=裏原系カルチャーは、周辺エリアを巻き込みながら、その勢力を拡大する。