2001年8月、「ブギー・ワンダーランド」(アース・ウインド&ファイアー)や「おしゃれフリーク」(シック)など「往年」のヒット曲22曲を集めたコンピレーションCD「Disco Fever」(ユニバーサルインターナショナル)が発売されヒットを記録した。以来「Disco Fever2」「同3」「同cheek time」「同Afro Boogie」「同Super Non-Stop V.A」と続き、6月4日には「同Ultra Non-Stop」がリリースされた。同シリーズの企画を手掛けたUM3の加藤さんが「当初、それほど売れるとは思わなかったが、結果として思わぬセールスになった」と話すように、当初は作り手もディスコ音楽市場の潜在性を予期できなかった。購買層の平均年齢は37~38歳。また、加藤さんによると同シリーズのヒットは「根強いファンに支持され続けている証し」と加え、今後は「総合エンタテインメント」としてのディスコ市場の拡大に期待を寄せる。今年9月には「同ダンシングソウルミックス」の発売が予定されている。
ユニバーサルインターナショナル1979年に六本木に登場した「伝説」のディスコ「キサナドゥ(XANADU)」が青山で復活したのは「Disco Fever3」発売(2002年1月)後の同年4月。同店は、当時を懐かしむ30~40代の「憩いの場」として、依然人気を集めている。年齢による入場規制(男性25歳未満、女性22歳未満の入場禁止)や「ドレスコード」も当時のまま設けられ、VIPルームも完備。音楽も当時流行したソウル、ダンスクラシックを中心にセレクトし、ドリンクもワインクーラーやバイオレットフィズなど、メニューや製法も踏襲する。さらには「伝統」の「チークタイム」も復活するなど、忠実に「70~80年代の雰囲気」が再現され、ディスコ人気の先鞭に火を付けた。
狙い通り、同店には仕事帰りのサラリーマン、OLが集まってきた。来店客の中心は30~40代のM2(男性35~49歳)・F2世代(女性35~49歳)。ホール一体となって音楽やダンスに体を揺らす光景が象徴的で、300人が収容できるダンススペースに、週末には延べ800人が訪れ「熱い夜」を過ごしている。副支配人の渡辺浩司さんによると「『ディスコ』という言葉を古く感じる20代は、上司などに連れられて来るケースが多く」、「ディスコを『文化』として捉えている世代に『安心して楽しめる空間』を提供したかった」と話す。
ただし、当時と異なる唯一の点は「以前はサーファー系ディスコの代表としての性格が強かったが、現在は土地柄か、正装で訪れる利用客が増えている」(渡辺さん)と話す。装いからは、ブーム時に若者だった世代が社会人へと確実に成長した「時の流れ」が実感できる。
キサナドゥ店名に「新しい世界の入り口」という意味を込め、2002年暮れにオープンしたのが、表参道からほど近い場所に位置する「THE ORBIENT(ジ・オービエント)」。総面積360坪の吹き抜け2フロアの店内は、レストラン、クラブ、バーなど8つのエリアに分かれた「複合型ナイトスポット」として構成される。「東京での夜遊びが『マニアック志向』に偏り、本来はジャンル・ファッション・年代・性別を問わずに楽しめる場であったナイトスポットが一部の限られた人々のものになりつつある現状を打破したかった」と、広報担当の松本真明さんは同店開店の経緯を打ち明ける。
地下2階に広がるダンスフロアには幻想的な照明効果を演出する巨大なミラーボールが設置され、日替わりで異なるディスコシーンが展開される。壁一面に「敷き詰められた」最新の音響システムは迫力のサウンドでフロアのテンションを一層盛り上げる。併設されるラウンジ、バーカウンターは着席・立席合わせ最多で1,500人まで収容可能。店内のチャイニーズレストランでは、現地のコックが腕を振るう本格的な広東料理が味わえる。そのため早い時間に来店し、レストランで食事を済ませた後にダンスフロアへ移るパターンも目立つという。同店を訪れる利用客の目的に「レストラン+ダンス」との意識が明確に刷り込まれている様子が伺える。料金(男性3,000円/女性2,500円)は、入場時に支払うシステムを採り、厳しいドレスチェックは設けないのが同店の方針。
選曲は曜日によって大きく変わる。ディスコブームを知る世代向けのDJがMCを入れながらレコードを回し、来店客がステップを踏んで踊る「オールディーズ系」、20代のサラリーマンやOLをターゲットに、クラッシクスから最新ヒット曲までを流す「オールミックス系」の人気が高いが、よりクラブ寄りのハウス、テクノ、ヒップホップなどのコアなパーティもラインナップされている。
幅広い年代が来店するものの、松本さんは「世代を超え、当時を知るベテラン層と純粋にディスコミュージックが好きで集う若年層がうまく融合し始めているのでは」と分析する。クラブとディスコの相違点については「クラブは『純粋に音楽を聴いて踊ること』や『お目当てのDJを見ること』がメインに据えられるのに対し、ディスコへは音楽を楽しむことと同時に『出会い』を求める心象も潜んでいるはず」と分析を加える。
ジ・オービエントクラブが集積する円山町に程近い場所に今月、新しいディスコが誕生する。6月27日、道玄坂1丁目にオープンするのはディスコとダイニングの融合業態を目指す「AVALON(アヴァロン)」。経営は同店開業のために設立されたビービーエーインターナショナル系列のラスティングが手掛ける。ビービーエーインターナショナルは、「ジェイ・ポップ・カフェ」(宇田川町)、「マーヴェラス」(宇田川町/パルコ・パート1)、「ZARU」(宇田川町/パルコ・ゼロゲート4F)、「ノリータ・ストリート・アパートメント」(神宮前)など、渋谷・原宿エリアでも多様な飲食空間を提供している。
店内は、DJブースを併設した「ダンスフロア」、最大73名が着席できる「ダイニングスペース」、正方形の「バーカウンター」と、ディスコの必須スペースとも言える「VIP」ルーム(17席)などで構成される。ダンスフロアには「お立ち台」や「スモークマシン」が設置されるほか、頭上は、同店のキービジュアルともなっている大型のシャンデリアと定番のミラーボールで演出されている。フードメニューはヨーロッパ各国の創作料理を提供するほか、VIPでのニーズに応えるためヴィンテージ・シャンパンも用意される。
同店のIDコードは「男性25歳未満、女性20歳未満の入場不可」。さらに「スニーカー、サンダル、短パンでの入場不可」を掲げる「ドレスコード」を定めるが、これには「オシャレをして来てほしい」というメッセージが込められていると言う。「『オシャレをして来てください』という手前、スタッフの第一印象を高めるため」(同店総支配人:久米さん)、制服も女性は二ューヨークコレクションの「二コルミラー」、男性のホールスタッフはイタリアの「ピリデューエ」を着用させるなど、ディテールへのこだわりも忘れない。敢えて業態に「ディスコ」と冠することも「『クラブ』の呼称を排除することで、オトナが来やすい店にしたい」(久米さん)という。
料金システムはチケットを採用しているが、入場時に支払った金額と同等の価値を持たせる点が同店の特徴でもある。例えば、平日の男性のエントリーフィーは2,500円だが、これは1枚250円×10チケット(女性は同2,000円=250円×8チケット)で、ドリンク類は2チケット~、フード類は3チケット~交換できる。つまり、エントランスフィーのすべての価額が店内で飲食に交換できる仕組みとなっている。
「VIP席」や「お立ち台」など、往年のディスコを象徴するオプションは健在だが、「アヴァロン流」は、ブーム時のリバイバルにとどまらない。久米さんは「ブームが沈静化してから約10年間、ディスコの空白期があった。当店は『その期間、もしディスコが進化を遂げていたら』という久米さんの『仮定』が、コンセプトの鍵を握っている。ダンスフロア近くに配備した120インチの大型モニターの他、店内6カ所に設けられたプラズマモニターは、まさに現代ならではの装備でもある。また、当時主流だった「ゴールド系」の装飾を排し、「シルバー」を基調とするトーンで空間を演出し、現代のファッションセンスと折り合いをつけている。
同店の総支配人を務めるのは、前出の「キサナドゥ」でも支配人として活躍した久米利幸さん。「キサナドゥ」が70年代のディスコブームを知る世代の取り込みを狙うのに対し、同店ではターゲットを20代後半から30代に据えている。この意図の背景について久米さんは「渋谷で働く世代の中心は20代後半から30代。ストレスの溜まった彼らが仕事帰りにいざ遊ぶとなると、渋谷周辺でオトナが遊べる空間が少ないため他のエリアへ移動してしまう。これを食い止める意味でも『夜遊び』の新しい選択肢として提案したい」と話す。さらに、「隠れ家」要素と「落ち着き」感を考慮した結果、駅から少し離れた道玄坂上近くのロケーションが選ばれたと言う。同店の面積は82.8坪と、それ大型空間ではないが、この点について久米さんは「ハコは小さくても、世の中に様々な形でメッセージを発信していきたい」と話し、「洗練されたディスコ」への舵取りに神経を集中させている
アヴァロン「アヴァロン」オープン以降年末にかけて、業界関係者の間では都心部に新しいディスコの登場が噂されている。クラブ集積の渋谷エリアの中で、同店は今後、どのようなポジションを担っていくのだろうか。供給過剰とも言われるクラブからの「転向組」も含め、今後、クラブとディスコの比率に変化が生まれそうだ。
80年代にディスコで青春時代を過ごした世代は、見方を変えると「ポパイ」や「ホットドッグプレス」をテキストにしたマニュアル世代でもある。レコード業界でも、嗜好の細分化によりメガヒットを生み出しにくくなった若者世代より、「笛吹けば踊りやすい」この世代をターゲットに据え、「復活」をキーワードにMD(商品開発)を活発化させている。これまでクラブとは距離感のあったM2・F2世代がディスコ通いを「復活」させることで、ダンス・マーケットの裾野は一層の広がりを見せそうだ。