特集

クリエーターの創作意欲を喚起する
渋谷「ネオ・スクール」事情

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■桑沢デザイン研究所の校舎を使った期間限定スクール

新校舎への建て替えのため取り壊しが決まっている「桑沢デザイン研究所」(神南)の校舎を使って、4月18日から5月5日までの期間限定で開講されたのが「デザイン建直しスクール」。同校のユニークなネーミングはコピーライターの眞木準氏が手掛け、実行委員長は浅葉克己氏が務めた。

授業は建築、インテリア、イラスト、グラフィック、フォト、ダンス、ミュージック、ビューティといった様々な創作活動を「ワークショップ」スタイルの講座で実体験できる仕組みとなっており、「一般向け」と「子ども向け」のクラスが用意された。講師は、第一線で活躍するクリエーター164人が務め、期間中、延べ5,000人が受講した。参加費は1コマ(90分)3,000円で、3コマで完結する講座については8,000円で購入できる特典も用意された。

例えば、コピーライターの梅本洋一氏が担当したワークショップは「勝ち抜きキャッチフレーズ合戦」。「日本の警察・信頼回復のためのキャッチフレーズ」をテーマに受講者が考えたキャッチフレーズを教室の黒板に並べて貼り、気に入った作品に投票するユニークな内容で、こうした遊び感覚を通じて広告コピー創りの面白さを知ってもらうのが同氏の狙いでもある。ヘアスタイリストのイリキヒロミ氏のワークショップは「雑誌の1ページを実際につくってみよう」がテーマ。ある日、ヘアアロンのスタッフに初仕事として雑誌や広告の記事の依頼が舞い込んできたことを想定して、受講者がチームに分かれて作業に取り組んだ。受講者は「クライアント」の要望に沿ったヘアメイク、撮影、デザイン仕上げ、という流れを体験してプロのヘアメイクに必要なスキルを学んだ。

協賛企業とのコラボレーションも用意され、例えばグラフィックデザイナー井波優子氏とタカラのコラボレーションによるワークショップのタイトルは「リカちゃんハウスのcafeをつくろう」。カフェのインテリア、レイアウト、ユニフォームからフードから派生した小物までを自由に発想して、オリジナルの「リカちゃんカフェ」を作り上げた。但し、講座は3回で構成され、1回目=アイディア出し&ブレスト、2回目=ラフプレゼン、3回目=表現物(スケッチ、平面、立体など表現方法は自由)と、実践さながらのステップを踏んでいる点が注目される。

主催した「クリエイターズチャネル」は、2001年12月、国内外のプロのクリエーター、クリエーターを目指す学生や大使館、文化機関などにより結成された会員制の団体。登録メンバーは総計3,000人を数え、WEBやパーティーでの交流を通じて、新しい才能の発掘を目的としている。同スクール実行委員会の長瀬さんは「20世紀のクリエーターを輩出し続けた『桑沢デザイン研究所』に対する敬意と感謝を込めた」と話す。さらに、クリエーティブ系の仕事に従事しない子供や主婦層も、どこかで「クリエーティブに触れたい」という感覚の高まりも追い風になったという。

クリエイターズチャネル
デザイン建直しスクール デザイン建直しスクール デザイン建直しスクール デザイン建直しスクール

校舎となった「桑沢デザイン研究所」は1954年(昭和29年)の創立で、1958年(昭和33年)に青山から現在の地に移転・新築された校舎からは内田繁、浅葉克己、長友啓典など、有名クリエーターを数多く輩出してきたことで知られる。3年制の総合デザイン科と2年制のデザイン専攻科が設けられ、ファッションデザイン、ビジュアルデザイン、プロダクトデザイン、スペースデザインを実践的に修得する。来年の50周年を期に現・渋谷校舎が建て替えとなるため、2005年度の新校舎完成までは旧赤坂小学校校舎で授業を続けることになった。

専門学校 桑沢デザイン研究所
桑沢デザイン研究所

■村上隆氏が手掛ける移動式スクールが千駄ヶ谷で開催

毎回の講義の場所を変えながら展開するスクールが話題を集めている。

有限会社カイカイキキがクリエーター育成のための有料セミナー「GEISAI大学」を月1回のペースで運営している。注目されるのはその会場で、特に固定の会場を決めず、公民館などの施設を移動しながら運営されている。同セミナーは、ルイ・ヴィトンとのコラボレーションや、六本木ヒルズのキャラクターなどで話題を集める気鋭のアーティスト、村上隆氏をチェアマンとする「アートの実践的授業」を、毎回参加者を募集する形式で開講されている。講義内容は、参加者によるプレゼンテーションと同氏のレクチャーで構成され、年2回開催されるアートフェスティバル&コンペ「GEISAI」をゴールに据えたカリキュラムが想定されている。作品を出展させることで参加者の「レベル引き上げ」と「意識改革」を図り、業界で通用する人材の育成を狙っている。ここで言う「人材」は、クリエーターだけでなく、批評家やキュレーターまでを取り込む計画だ。

次回で第6回となる5月18日、渋谷区・千駄ヶ谷区民会館で「GEISAI大学6」が開かれる。「絵を描くってそんなにむつかしいことじゃない」をテーマに、特別講師としてイラストレーターのMAYA MAXX氏を迎える。募集人員は30名で、参加費は税込み4,000円。渋谷エリアでの開催は、神宮前の隠田区民会館での「GEISAI大学2」(2002年12月)に次いで2度目。各回の開催は会場が決まり次第、ホームページ上で告知される。同講座には、当初見込んでいた人数を上回る応募者が集まり、参加可能者数の増員を検討している。

都内を転々と場所を変えながらも、今を感じる最前線の想像力に触れられる機会だけに、その希望者は後を絶たない。

GEISAI実行委員会

■ギャラリー空間を教室に転用するニュータイプのスクール

アートディレクションや各種ビジュアルコミュニケーションを手掛ける「スーパー・マテリアル」(神南)は5月9日、プロのイラストレーター養成を目的としたスクールを、渋谷3丁目にある「ギャラリー ル・デコ」を舞台にスタートさせた。同社代表の佐藤豊彦さんは「『美術館』で授業をすることで、受講者の美意識に刺激を与えたかった」と、その意義を強調する。同スクールは、多ジャンルのクリエーターのプロデュースをするプロジェクトの第1弾。7月からは「イラストレーション」誌と連動し、各回の授業風景を講師のひとりでもあるデハラノリユキ氏がレポート記事として掲載を行う。

週1回の講義には、スージー甘金氏、白根ゆたんぽ氏、本秀康氏、デハラユキノリ氏、ラジカル鈴木氏など、第一線で活躍するプロのイラストレーターが毎回講師として登壇する。第1回となる今クールの受講者は24人で年齢層は大学生から30代後半までと幅広く、8割以上を女性が占めている。第1回となる5月9日に同スクールのオープニングセレモニーが催され、参加者と講師たちはそれぞれ自分の作品を発表しながら自己紹介し、交流を深めた。生徒の中には、すでにプロとして活動している人も少なくない。しかしプロ・アマを問わず、受講生が口にした参加動機には「同じ志を持った人たちとの『出会いの場』が欲しかった」「イラストだけでは十分な報酬を得られない実情を打破したい」という声が多かったが、「『好きなこと』に挑戦する最後にして最大のチャンスとして参加を決めた」という女性参加者もいた。普段は仕事場に「こもって」仕事を手掛けることの多い講師陣からも「いい刺激を受けた」という言葉が漏れるなど、現場感覚の強い「ギャラリー」空間は、多彩な講師陣と多彩な受講者間のコミュニケーションの場と化していた。

佐藤さん自身も、イラストレーター志望者の切実な思いに共感する。都内だけでも年間1,000人以上がプロのイラストレーターを目指すものの、うち実際に到達できるのはほんの数人足らずという。「すごくいい才能を持った人たちは大勢いるのに、現実では間口が非常に狭く、簡単にプロになることを諦めてしまう人も少なくない。『頑張って取り組んでいきたいのに、頑張れる環境がないのは寂しい』という念が、このプロジェクトのそもそもの発端」と、スクール開設への想いを話す。

授業は2部制を採用。1時限目に業界で生き抜く知恵や裏話などを講師が語るトークセッション(50分)を設け、2時限目は前週に与えられた課題作品の評価(60~90分)に充てられる。イラストは水彩や油、CGなど個々で手法が異なるため、授業はイラストを「描く時間」ではなく、「リアクションを見る時間」と位置付けられている。毎回講師が異なるため、受講生は幅広い角度からアドバイスが得られるのも斬新な試みと言えそうだ。

佐藤さんは続ける。「渋谷はアートに造詣のある人達以外にも音楽、ファッションなどに興味を持つ人も多く集う、『クリエイティブの入り口』という感覚の強いエリア。おしゃれなカフェが進出するのも、最近のカフェはどこかに創造性・独創性が求められ、それが渋谷という街にマッチするから。スクールは『プロのイラストレーターがテクニックを伝授する』といったガチガチの学校ではなく、イラストというカテゴリーからWEBや絵本に至る広い分野まで拡張する『きっかけ』を提案したい」と言う。

受講費用は1年間有効の登録料1万円と、1クール(3ヶ月/10講座)分の参加料が5万円。現在は途中からの受講希望者も募集している。2クール目は9月開講の予定で、イラスト以外へのカリキュラムの拡充も予定している。

スーパープロジェクト

渋谷エリアには、クリエーター系の仕事場となる事務所やスタジオが多く集積する。彼らの創造意欲は街を活性化し、さらに街に人を呼び込む「フック」ともなっている。「何かを学びたい」という意欲は街に充満しながらも、カルチャーの細分化された現代では、単にテクニックを教えるだけでは彼らのニーズを満たすことができなくなっているもまた事実。「プロとして食べていく」ためには、クリエーター自らの発想力やプレゼンテーション能力を高める「意識改革」も必要となる。

先達の現役クリエーターは若きクリエーター志望者に対して、こうした「意識改革」を伝授するため、都心部では難しいスペース確保を逆手に取り、スクールのあり方そのものを刺激的な空間として、「教材」のひとつに組み込み始めたとも受け止められる。いわゆるスクール形式の教室では「義務感」や「マンネリ感」が生じかねないが、ギャラリーなどの空間を教室に転用することで、逆に感性を刺激し、モチベーションの向上を図るのが狙いなのかもしれない。既存のスクールの概念を取り払い、自由な発想で新しい試みに挑戦する「ネオ・スクール」は、渋谷エリアに集う「クリエーター」志望者の感性をどこまで高めていくのだろうか。

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