渋谷周辺のカフェやレストランでも「ブラウンライス(=玄米)」をチョイス出来る店が増えてきた。フードベンチャーの雄、グローバルダイニングが手掛ける人気店「モンスーンカフェ」の一部のメニューには「海鮮と玄米の炒め御飯」(夜1,000円、昼800円)がある。昨年12月、IDEEが「シネシティ」後にオープンさせたチャイニーズ・ソウルフード・レストラン「長慶樓(チャンキンロウ)」でもオーガニックな素材をふんだんに使っており、玄米の他、キビ・アワ・ヒエ・麦の5種類の穀物を混ぜ合わせた五穀米を使った「五目粥」(600円)もメニューに並ぶ。同じくIDEEが手掛ける「Sputonik Low(スプートニク・ロー)」は、「米」という食材を様々な形で味わうライス&バー。ここでも「雑穀炒飯」(900円)がある。近くには、人気の和食店「PARIYA北青山店」もあり、3種類の中から「ごま塩をふりかけた玄米ごはん」が選べる「デリランチ」(1,100円)があるなど、青山界隈のおしゃれなカフェやレストランでは、今や「玄米」や「雑穀」は当然の選択肢となってきた。
グローバルダイニング IDEEそんな青山・表参道に4月6日、「玄米」をテーマに据えたホールフードカフェ「ブラウンライスカフェ」がオープンした。場所は、自然療法・自然化粧品・アロマテラピー製品を製造販売する「NEALS YARD REMEDIES」(本社・英国ロンドン)の日本総合代理店「ニールズヤードレメディーズ」が表参道に新築した新社屋ビル「グリーンビル」の1階のショップ奥。このビルは地上3階、地下1階、総床面積385平米に、本社機能とショップ、トリートメントルーム、スクールなどを併設しており、小規模商業施設としては日本で初めてとなる自家発電設備を備えるなど、全館に最先端のエコテクノロジーを導入しているのが特徴。同社によると「以前から移転先を探してきたが、希望に沿った物件が見つからなかった」ため、自らエコロジカルな本社屋建設を決意した。
同カフェの運営を手掛けるブラウンライスは「ホールフード」をコンセプトに、フード・ディレクター、タカコ・ナカムラさんが1989年、元麻布にわずか10坪の工房でスタート、以来、手作り焼菓子の製造販売と、生産者直送の自然食品・環境に配慮した生活用品等の通信販売を手掛けている。同社が掲げるコンセプト「ホールフード」とは「一物全体」のこと。つまり実だけではなく「葉っぱから根っこまで」全部食べようという発想から生まれたもので、そのため安全性が求められる。食物だけでなく、土や水、環境全体までを見直そうとするアースコンシャスな考え方に両社の共感が生まれ、コラボレーションによるカフェが誕生した。
「ブラウンライスカフェ」では、「ブラウンライス(玄米)」と、豆腐や豆乳など大豆から作られる食材=「SOYフード」をテーマにしたオリジナルメニューを展開する。玄米は、2年連続で金賞を授賞した富山県福光町の吉田稔さんが作る「医王の舞」を使用。アラカルトメニューでは、三之助豆腐の特製油揚げの中に、玄米とカレー、ひじき煮、ラタトゥユの中から選んだフィリングを入れ、表面をこんがりと焼いた「玄米INARIポーチ」(1,000円)が人気。旬の野菜を使ったコース料理は、野菜の前菜とメインディッシュ(「玄米INARIポーチ」)「蒸し野菜のアラカルト」「稗のベジグラタン」「SOYクリームコロッケ」から1種を選択)、玄米ごはん(または自家製天然酵母パン)、MISOスープ、デザートで1,600円。豆乳のマンゴプリン、玄米甘酒プリンなどのスイーツ類にも乳製品、卵、砂糖を一切使っていない。ハーブティーに、その日の気分で選んだ「オーガニックハーブエキス」を加えるサービス(1ミリ100円)も実施している。
ブラウンシュガー代表のタカコ・ナカムラさんによると、1982年、青山に「ナチュラルハウス青山店」がオープンした当初が「第一次自然食ブーム」。この頃はダイエット目的のヘルス・コンシャスと結び付き、モデルや芸能人が飛びついた。ナカムラさんも同店のスタッフだったが、1984年から1985年にかけて渡米し「玄米が野菜のひとつとして使われていた」ことに触れ、帰国後の1987年、玄米食をテーマとするカフェを開店した経緯を持つ。アメリカの自然食ストアも、最近では「ナチュラルフードストア」より「ホールフードストア」という呼称で呼ばれることが多くなっているほど、「ホールフード」に対する認知は高まっているそうだ。
一方、日本での自然食レストランについてナカムラさんは「日本はまだまだ遅れている感があり、特定の身内的なお客さんが黙々と食べている感じ。日本では『店が提供する自然食メニューを理解している人だけが来てくれればいい』という店が多いという。これに対して、欧米では普通のレストランと同じように食事を楽しんでいるのが普通」と話す。ナカムラさんはかねてより、青山界隈で誰もが気軽に利用できる店の出店を願っていただけに、同店の店内には軽いジャズが流れる明るい空間となっており、さらにビル全体のエコロジカル・コンセプトの一環として伐採しても短期間に再生する竹を使用したバンブーフローリングを採用している。さらに、店内で水を入れるグラスも、醤油や酢の瓶を溶かして100パーセント再生した手作りのリサイクルグラスを使用したり、全国の百貨店から集められた、割れた食器を使って新しく製造された「リ食器」を使用するなど、ショップの隅々にコンセプトが行き渡っている。同店では今後、テイクアウトできるように「ランチ・ボックス」を登場させる予定。
ブラウンライスカフェ(ニールズヤードレメディーズ)TEL:03-5778-54164月18日、広尾にオーガニック&ナチュラルダイニング「泥武士(どろぶし)」がオープンした。4月4日には、銀座の登場した「ファンケルスクエア」にも2フロア出店したばり。同店は、1993年7月、ディーズコーポレーション(本社:熊本市)が3店舗目として熊本市内に開店した。個性的な店名はオーナーの境さんが最初に開いた「デーブスレストラン」をもじったものだったが、一方で「土にこだわり、種を蒔き、収穫まで戦う農家の人々」を、同店では「泥武士」とも呼んでいる。こうした全国の「泥武士」たちが作った素材に、徹底的にこだわる店として同店は「知る人ぞ知る」存在の店だった。「泥武士」は、東京出店に際して布石を打ってきた。昨年3月の「東急本店」の改装を機にデパ地下へも初出店し、東京でのニーズを探りながら今回の出店に臨んでいる。
境オーナー自ら、10年かけて国内外の生産者を回って集めた70以上に及び独自の食材ルートが同店の「差別化」を図っている。同店のシェフを務める光野さんによると「例えば、ごぼうは青森、トマトは熊本、玉葱は四国というように、全国に直送産地が散在しているの注文するだけでも大変」だそうだが「産地直送のため日持ちがいいのに驚く」と言う。さらに「(境)社長は『野菜が光っている。光っている野菜は美味しい』と言っている」そうだ。さらに、気候の変化に伴って、同じ食材でも南から北へと仕入れ先を変えているものもあるという徹底ぶり。また、栽培の段階で微量のミネラルを入れて作った「ミネラル野菜」を使っているのも同店の特徴で、食材以外のミネラル分にもこだわり、アルミ製の調理器具は一切使わず、ステンレス・銅・鉄を使っている。
ドリンク類にもこだわりを見せる。同店には3,000円から6,500円の、比較的リーズナブルなワインが並ぶが、実はすべて「バイオダイナミック農業」で作られたカリフォルニア・ワイン。サンフランシスコ・レッドウッドのワイナリーで、化学肥料の不使用の徹底や清浄な土壌の確保など、厳格に管理された環境の中で造られているもの。社長自らがアメリカで開拓した独自の仕入れルートとなった。光野さんは「海外では今やオーガニックは当たり前。日本ではまだまだ遅れているが、比較的外国人居住者の多い広尾で、本物を知っているお客様にも味わってほしい」と、広尾店出店の背景を話す。
店内は110坪の広いワンフロアに、テーブル席、和室など130席を用意する。オーガニック食材を取り扱うだけに、キッチンも開放的なデザインで、シェフや食材が客席からも眺められる。コース料理は4,000円、6,000円、8,000円の3種類で、広尾界隈では比較的リーズナブルな価格設定で、リピート需要を見込んでいる。
泥武士 TEL:03-5792-4143オーガニック系飲食店の共通点の1点目は、徹底した「仕入れ先」へのこだわり。昨年の食肉偽装事件や外国産野菜の残留農薬の問題、無認可添加物の使用など、食品の製造法や生産地に神経を使うのは店側も客側も同じ。店側は、時に自ら足を運んで開拓した仕入れ先を店内でディスクロージャーし、来店客に対して安全性を提供するのと同時に、付加価値をも提供する。ファッションに例えると、オーガニック系飲食店は「食材のセレクトショップ」であるとも言えそうだ。そして2点目は、「おいしさ」へのこだわり。例えオーガニック系であっても、おいしくなければハッピーになれない。工夫を凝らした味付けも、盛り付けも含めてトータルな視点で顧客満足度を高めることが大事なポイントであると、各店の関係者は口を揃える。
渋谷周辺の「おしゃれ」なカフェやレストランでは、いつのまにかオーガニック・スタイルが根付いている。以前の「特定の客」が「黙々と食べる」スタイルから、解放されてきたとも言える。特別の店ではなく、おしゃれなカフェやレストランが提供するメニューの中に、「玄米」などのオーガニックな選択肢が、ごく自然に用意されている。決して押しつけがましくないのが、今どきのオーガニック系スタイルのトレンドと言えそうだ。