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趣味・嗜好の多様化に対応する
渋谷「プチ箱貸し」サービス、人気の背景

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■「ホビー&フィギュア系」ではプロ化も進行

1階から5階までトイやフィギュアミニカーやプラモデル、ギャラリーなど商品に応じてフロア構成をする大型店「ミスタークラフト」(恵比寿)では、小売とは別に5階フロアを「マイ・ショップ」と名付け、店内にレンタルショーケースを設けている。サービスを開始したのは2000年。広域渋谷圏では最も早いスタートだった。「マイ・ショップ」のユニークさは同店1、2階で販売しているミニカーやフィギュアなどのアイテムとともにレアものが並んでいる点。375個あるショーケースの数は広域渋谷圏では屈指の数。一戸のスペースは、幅70cm×高さ35cm×奥行50cm。1ヶ月の料金(家賃)は、A(最上段)8,000円、 B(最上段の下)10,000円、 C(中央)10,000円、 D(最下段の上)9000円、E(最下段)8,000円。目線の高さによって家賃が異なる料金体系となっている。管理費(販売手数料)は、販売金額の10%。

商品部責任者で広報の根岸さんは「小売店だから問屋から商品を仕入れるわけだが、そうするとどの店にも同じ商品が並ぶことになる。そこで、もっと商品の幅を広げられないものかと考えた」と、「マイ・ショップ」のきっかけを説明する。「様々なアイテムのコレクションを購入してくれるコレクター本人を供給元にすることで、さらに商品群を増やせるはず」(根岸さん)と分析した通り、サービスを開始するやいなや、同店にはコレクターからミニカー、フィギュア、プラモデル、食玩、時計、オマケなど幅広いアイテムが集まった。根岸さんは「商品ではなかった物、つまり食玩やオマケものまで流通するようになった」と苦笑する。「マイ・ショップ」副責任者の田中舘さんに利用者(店子)をさらに細分化して、その特徴と実例を挙げてもらった。

  1. 利用者の年齢は30~50代が中心。可処分所得が高い人が多く、性別では圧倒的に男性が多い。業種は自由業の人が目立つ。
  2. 同店以外にも他店のレンタルボックスを複数利用している利用者が多い。また、ネットで販売しているコレクターも多い。
  3. コレクターによる販売のセミ・プロ化、プロ化が進んでおり、副業として続けている人も少なくない。
  4. コレクターズ・アイテムを売買するフリーマーケットの仲間うちで有名になっている人が出店するケースが多く、彼らはすでにネットワークを持っている。
  5. ネットなどで情報が入手しやすい環境にあるので、利用者は確実に「売れる値段」を提示するようになってきた。例えば競合する商品が違うケースに並ぶと、こまめに自分が出品しているアイテムの値段を付け替える。特に食玩は新商品のサイクルが早いので、毎日のようにケースを視察に来て、プライスを付け替え、アイテムを入れ替えるなど「売る」ための努力を惜しまない。

「マイ・ショップ」にレンタルショーケースを借り、フィギュアを展示販売している20代後半の自営業の男性は「中野ブロードウェイや池袋にある同様の店でもレンタルショーケースを借りて、コレクターズ・アイテムを販売している。3店舗の掛け持ちをしているので、どの店の売れ行きがいいのか、店ごとの傾向もわかる」と話す。自営業者の男性によると、他の店でもよく顔を合わせるコレクターがいて、いつの間にか会話を交わすようになるという。「アイテムは異なるが、出店者同士のコミュニケーションがあり、『どの店がよく売れる』といった情報交換をするほか、個人のコレクターを紹介しあったりもする」と、「店子ネットワーク」が構築されつつあることがわかる。「時間が許す限り、ショーケースを見に来る。小さいスペースながら、自分がオーナーなので、売れ行きは気になるし、売るためのディスプレイも工夫する。売れなければすぐにアイテムをチェンジするし、他店のアイテムを入れ替えたりもする」と、プロ顔負けのマーチャンダイジングを行っている。

田中舘さんはさらに同店特有のエピソードを話す。「先に当店の2階(ミニカー売り場)に顔を出し、目的のアイテムが販売されていなければ、次にそのアイテムを求めて5階(マイ・ショップ)に来るマニアは多い」。サービスを開始して以降、3年もの間ずっとボックスを借り続けている利用者が約40名もいるほか、ボックスの予約待ちはのべ100名にも及び、露出度・注目度の高い場所にあるボックスによっては、半年以上もスペースが空くのを待っている人がいるという。ちなみに出品アイテムで人気の高いベスト3は、1位「ミニカー」、2位「食玩」、3位「フィギュア&キューブリック、ベアブリック」。ミニカーの専門店らしく、ミニカー人気の高さを物語っている。

ミスタークラフト
ミスタークラフト ミスタークラフト ミスタークラフト ミスタークラフト ミスタークラフト

■ボックスレンタル業の歴史と専門店の登場

広域渋谷圏でいち早くボックスレンタルを「専業」で開始したのが、2001年5月に開業した恵比寿の「ACT BOX(アクトボックス)」。プロ・アマ問わず幅広い作家の作品を専用ボックスで展示・販売する同アートギャラリー・ショップは、都内で逸早く「貸しボックス」という業態を始めたことで知られている。作家は月額500~4,200円のボックス使用料を払い、作品を展示・委託販売する。委託販売手数料は一律10%。通常の40cmボックスは5段構成で、上から1,500円、3,800円、4,200円、3,800円 3,400円。さらに15cm(800円、下から3段までは500円)、20cm(1,500円、最下段は1,500円)、25cm(2,400円、最下段は1,500円)、30cm(3,200円、最下段は2,000円)角のバリエーションボックスも用意し、対応している。半年分前払いすると、1ヶ月分割引になる。ポストカードラックは月額300円。

店内に設置した200を越えるボックスにはビーズ、シルバーアクセサリー、皮革製品、ニット、バッグ、木工芸品、陶器、彫刻、オブジェ、キャラクター雑貨、絵本などがずらっと並んでいる。参加している作家は常時約300人。すべてオリジナルの手作り作品ばかり。出展者はアマチュアが多いが、作品の中には屋号やブランドを記したものもあり、プロとして活動しているデザイナーや作家がいることがわかる。また、全国各地から作品が寄せられていることも特徴のひとつ。同店代表の柿木原(かきのきはら)さんは「アーティストが自分の作品を誰かに見てもらいたい、作品を知ってもらいたいという気持ちはみんな同じ。だから低料金に設定し、ボックスの数を多くした」と説明する。「2年近く続けてきたことで、貸しボックス業が認知され、作家にも知られるようになった。だから業態をマネして欲しいと思っている。マネされることで業態として認知され、同じような店が増えることできちんとした業態になる。中に入れる商品が何であれ、ボックスを“貸す”というビジネスは可能性に満ちている」と、柿木原さんはビジネスの可能性を語る。

ACT BOX
ACT BOX(アクトボックス) ACT BOX(アクトボックス) ACT BOX(アクトボックス)

■「アート系」はリーズナブル価格が魅力的な発表の場

「デザイン・フェスタ・ギャラリー」(神宮前)の1、2階は大小のギャラリーで構成されるスペース。ギャラリーの特徴は通常の開館時間11時~20時はドアオープンスタイルだが、その他の時間帯は作品の制作からディスプレイ、展示・発表にいたるまで時間を気にすることなく利用できるよう2階フロアのギャラリースペースを24時間開放していること。また、ギャラリーの壁4面すべてを80cm×80cmに区分し、1日500円で展示ができる「1コインギャラリーアートプレイス」も用意されている。リーズナブルな価格設定が若手作家の人気を集めている。

デザイン・フェスタ・ギャラリー
デザイン・フェスタ・ギャラリー

一方、明治通り沿いの「ギャラリー・ルデコ」(渋谷)1階のショップには、アーティストが持ち込んだオリジナル作品を展示・販売する28個のボックス(1ヶ月10,000円)が設置され、それぞれが自己表現を行っている。出展者はプロもアマチュアもいる。最も手軽な表現であるポストカードコーナーでは、約150人のアーティストが競演している。ボックスレンタルを開始したのは2001年12月。オーナーの島中さんは「プレゼンテーションは上手になってきたが、売りたいと意欲しているアーティストがほとんどであるにもかかわらず、見せることだけに満足しているように映る。アナログの形で作品発表の場を持つことによって、人と人とのあたたかみのある接触ができるわけだが、そういったアプローチはあまりない。ボックスに作品を展示しているだけで売れる、と考えているアーティストが多いのが気になる」と苦言を呈する。

「1ヶ月10,000円で、12ヶ月ずっと借りても12万円。年じゅうミニ個展を開いているのと同じ。営業活動の場として使ってもらえば嬉しい」と、島中さんが提案する背景には、アーティストにシャープなビジネス感覚がやや乏しいことが挙げられる。「ただ展示するだけでなく、もっと積極的な使い方を提案して欲しい。自分自身も現在、このボックスの使い方を模索している」という。島中さんが目指すのは「脱ギャラリー」。マンガやグラフィックなど商業ベースの表現が現代アートに接近し、若者に受け入れられていることを理解しているからこそ、「アーティスト=個人ブランドなのだから、もっとファン作りをしてほしい」と語る。

ギャラリー LE DECO
ギャラリー・ルデコ ギャラリー・ルデコ ギャラリー・ルデコ

■キャラクターが独自のMDを展開するセレクト系

2002年8月、富ケ谷に誕生した「諸葛屋箱吉」(しょかつやはこきち)は「大川興行」の松本キックさんがオーナーを務める箱スペースレンタルショップ。専門店としては後発だが、出品アイテムはアート系とトイ&フィギュア系のミックス系が入り混じっている。店名は「三国志」の諸葛孔明にあやかったもので、同店では出品者を「箱主(はこぬし)」と呼び、文字通り「箱」の主として好きなアイテムを販売することができる。合言葉は「小野心(こやしん)」。「小さな野心を持って参加して欲しい」とは松本さんの言葉。

同店にもオリジナル作品を展示・販売したいという人が数多く集まるが、特徴的なのはイラストレーターなどごく一部のプロを除けば、ほとんどの「箱主」が普通の人であること。松本さんは「手作りであろうが、コレクションであろうが、集めてくる作業も個性のひとつ」と説明する。松本さんは「箱主」が持参した商品に様々なアドバイスをする。「こうしたらもっとおもしろくなる」といったアドバイスをし、最終的には松本さんの眼鏡にかなった商品が箱に並ぶ。つまり、同店はボックスレンタルというシステムを利用した「セレクトショップ」とも言えそうだ。「このビジネスで儲けを出そうとは考えていない。若い人がいっぱい集まってきて、ここを拠点にし、また別のカルチャーを作り上げたい」というのが、同店開店の動機。「だから、これからますます特殊になっていくでしょう」と話す。店内には「箱吉美術館」と題したミニ・ギャラリーコーナーが設けられ、企画展も行われている。ベーシックボックス=甲(30cm角)2,800円、乙(縦35cm×横35cm×奥行30cm)3,300円、激安ボックス500円(各月額料金)。他に企画物や宣伝広告用にも使える、最も大きな「ロイヤルボックス」、職業を明かしてくれる方の特殊ボックス「職業別ボックス」も用意されている。販売手数料は販売額の15%。「箱主」の年齢は10~50代。「商売をしたいという人と、自己表現したい人が混在している」(松本さん)状態である。

ユニークなのは展示・販売されているアイテム。普通の人が持ち込む商品は予想できないものが多く、「腸内洗浄」のシステムを綴ったファイルや詩集を模したギャグ集からインディーズCD、「三国志」関連グッズ、昔の漫画の付録として付いていた漫画まで、一風変わったアイテムばかりが並ぶ。松本さん自身の作品も箱におさまっている。役に立たないものも少なくない。しかし、松本さんが「おもしろい」と感じた商品がそこに並んでいるのである。ある意味では「個人の趣味が展示・販売」されている状態で、「かわいいものと、なんじゃこりゃ、といったものが隣同士になるようにしたい。おもしろく感じてくれるよう工夫するのが自分の役割。何かをやりたいと思っている人の小さな野心をかなえてあげたい」と抱負を語る。

さらに、同店では毎週日曜、NHKホールの前(通称「パフォーマンス通り」)で展開されているパフォーマンスの場にワゴンを押して出かけ、「出張箱吉」を実施している。「ちゃんと支店長がいて展示・販売している。不思議なことに支店だけのお客さんがつくなど、意外な展開を見せている」と松本さんは笑う。遊び感覚で営むビジネスがフリーマーケットにはないユーモアを醸し出している。

諸葛屋箱吉
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■「ボックスレンタル」の傾向と対策

広域渋谷圏においては、ボックス数では「ミスター・クラフト」の375個が最多、「レンタル料金」については、「アクトボックス」の15cm(下から3段まで)500円、「箱吉」激安ボックス500円(ともに月額)が最安値。反対に最も高い料金は、「ミスター・クラフト」のB(最上段の下)10,000円、C(中央)10,000円、「ル・デコ」の10,000円。「スペース」の大きさでは「諸葛屋箱吉」の「ロイヤルボックス」が最高値。つまり1個あたりは500円から10,000円の幅がある。ボックスレンタルのビジネスモデルは、アート系からスタートし、トイ&フィギュアマーケットで弾みがついた。もともとトイやフィギュアは小ぶりなものが多く、価格が手頃なことからコレクターズ・アイテムとして人気のジャンル。ネットで活性化している個人売買の項を見ても、コレクターズ・マーケットの裾野の広さがよくわかる。広域渋谷圏のボックスレンタルは、以下の2つに大別できる。

(1)作家がオリジナル作品を展示・販売するアート&クラフト系
作品を発表するミニ・ギャラリーの機能を持ち、作家がオリジナル作品を展示し、自己表現の場として利用するほか、作家性や作品性を認知してもらうことを目的とするパターン。アイテムはイラストやクラフト、写真などがメイン。マーケットはアート関連を中心にグラフィック、ファッションともリンク。

(2)コレクターが自身のコレクターズ・アイテムを展示・即売するトイ&フィギュア系
アイテムはミニカー、フィギュア、食玩、キューブリックなどがメイン。コレクターの「お宝」が並ぶことから、ボックスを介したアイテム売買の場とも言える。コレクターたちの新たな流通チャンネルは、他に本業を持っているコレクターにとって、並行して個人事業を営むことと同じで、趣味の延長にある副業の幅を広げている。

ボックスレンタル普及の背景には、アマチュアや無名のプロの中から作品やコレクションを「見せたいと願う人」や、それらを通じて「自分を表現したい人」が増加してことが挙げられる。また、リアル店舗を持たない人でも、ネット上でオークションへを通じて出品・売買できるようになった気軽さも、ボックスレンタル人気を後押ししている。ネット・オークションとの違いは、質感や色・つや、仕様をリアルに確認できる点にある。買い手が売り手にまわったり、売り手が買い手になったりする独自のマーケットは、敷居の低さやリーズナブルな価格設定で、着々と広がりを見せている。これをスペース・ビジネスで捉えると、いわば「大家」と「テナント」の関係が存在するが、空間全体の大きさがそれほど大きくなく、全体の目配りが利くため、各店ごとに個性的なカラーを打ち出しているのも特徴となっている。

あらゆる消費の側面で「自分サイズ」がテーマとなっている今、「プチ箱貸し」サービスは、ますます多様化する個人の趣味・嗜好や、ますます高まる制作・発表意欲を背景に、渋谷周辺の様々なカルチャーとリンクしながら利用者の裾野を着々と広げている。

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