ティーンズマーケットの市場調査やプロモーションを手掛けるアイ・エヌ・ジー(宇田川町)が、東京(渋谷センター街)、名古屋(栄)、大阪(梅田、難波)で女子高生各200人を対象に実施しているアンケートでは毎月「1番好きなアーティスト」について質問している。2005年2月の調査時は、東京エリアでのランキング1位は「浜崎あゆみ」26人、2位「ORANGE RANGE」20人、3位「EXILE」15人、4位「w-inds.」12人、5位「安室奈美恵」9人。名古屋のランキング結果は上位3位までは東京と同じだが、4位が「安室奈美恵」6人、5位「福山雅治」5人という結果だ。大阪では、1位「ORANGE RANGE」40人、2位「EXILE」24人、3位「浜崎あゆみ」16人、4位「大塚愛」「安室奈美恵」共に11人となっている。女子高生のカリスマ的存在と言われる浜崎あゆみは、大阪では3位に後退し、代わって大阪出身のアーティスト=大塚愛がランクインしている。w-inds.のようなジャニーズ系アイドルの人気が東京の方が高いようだ。
ちなみに、東京については今から5年前=2000年2月の調査データがある。1位は現在と変わらず「浜崎あゆみ」49人、2位「L'Arc~en~ciel」14人、3位「安室奈美恵」13人、4位「Dragon Ash」9人、5位「嵐」「SOPHIA」7人という結果だった。浜崎あゆみと安室奈美恵の人気は5年前から続いていることが伺える。アーティストとしてだけでなく、ファッションリーダーとしての認知も浸透している結果なのかもしれない。
2005年2月の調査で聞いた「今年最もブレイクしそうだと思うアーティストは?」という質問に対しては、三都市における1位はすべて「ORANGE RANGE」(東京33人、名古屋21人、大阪43人)だった。東京の2位は「サスケ」22人、3位「浜崎あゆみ」15人で、名古屋も2位「浜崎あゆみ」20人、3位「サスケ」11人と大差ないが、大阪は2位「大塚愛」16人、3位「EXILE」14人と他のニ都市に比べ顔ぶれに違いがある。大阪の場合は4位に「aiko」もランクインしており、地元出身のアーティストを応援する大阪の地域性が表れているようだ。
また、2004年8月の調査で聞いた「2004年上半期で一番好きだった曲」の結果は以下の通り。
1位 | 瞳をとじて/平井堅 | 31人 |
2位 | ロコローション/ORANGE RANGE | 26人 |
3位 | Moments/浜崎あゆみ | 11人 |
3位 | sign/Mr.children | 11人 |
5位 | さくらんぼ/大塚愛 | 8人 |
1位 | 瞳をとじて/平井堅 | 30人 |
2位 | sign/Mr.children | 20人 |
3位 | ロコローション/ORANGE RANGE | 16人 |
4位 | ココロオドル/nobody knows+ | 14人 |
5位 | Moments/浜崎あゆみ | 11人 |
1位 | 瞳をとじて/平井堅 | 24人 |
1位 | ロコローション/ORANGE RANGE | 24人 |
3位 | さくらんぼ/大塚愛 | 15人 |
4位 | ココロオドル/nobody knows+ | 13人 |
4位 | sign/Mr.children | 13人 |
今年1番のヒット映画「世界の中心で、愛をさけぶ」の主題歌として人気を集めた平井堅の「瞳をとじて」が三都市でトップになった。ORANGE RANGEの「ロコローション」は、夏の間中海水浴場などでも流れていたことから、下半期のほうがランキングでさらに票が増えたと予想される。名古屋と大阪で4位にランクインしたnobody knows+ の「ココロオドル」は、ポップな曲調をウリにしたHIP HOPで、今後人気グループとしての定着も期待できそうだ。
アイ・エヌ・ジー20万以上のアーティストによる180万を超える楽曲を簡単に検索できる音楽検索サイト「Listen Japan(リッスンジャパン)」を運営するリッスン ジャパン(渋谷区)では、音楽ニュースや新譜レビューなどを提供し、洋楽・邦楽、コアな楽曲からメジャーまで約8万曲を取り揃え、全曲試聴できる音楽配信サービス「Listen Music Store」も展開している。同社メディアプロデュース部の小林さんに、10代の音楽事情について話を聞いた。「今の10代に人気のあるアーティストは、CD売上やチャート順位から言ってもORANGE RANGEや大塚愛など。ORANGE RANGEや大塚愛のファンは、決して10代に特化している訳ではないが、人気を主導したのはあくまでもティーンだと考えられる」と話す。こうしたアーティストたちが10代に支持される要因について、小林さんは「音楽性だけでなく、ファッションやメディアに出た時の言動などから、自分たちに近い存在であると感じるからではないか」と推察する。10年前であれば、アーティストは10代にとって芸能界という遠い世界の存在であったのが、現在は10代が親近感を持てるアーティストが増えてきたということだ。
一方、10代が好む洋楽の傾向については「一つは、メロディアス・パンクとか、メロコアと呼ばれるジャンルが支持されている」と小林さん。このジャンルで10代が聴いていそうなアーティストは、グッド・シャーロット、グリーン・ディ、オフスプリング等。「そしてもう一つ、やはり10代にはヒップホップの浸透を強く感じる」と小林さんは付け加える。10年前なら、ヒップホップがこれほどメインストリームに入ってくるとは予想されていなかったそうだ。現在では、加藤ミリアやORANGE RANGEといった日本のアーティストもヒップホップの要素を取り入れるようになった。「特に、今10代にヒップホップが熱いのは名古屋。メンバーの一人が名古屋出身で、当初は名古屋で活動をしていた「HOME MADE 家族」や、昨年の紅白に出場した「nobody knows+」などは名古屋にファンが多い」と小林さんは言う。10代にヒップホップが流行った要因について、小林さんは「B-BOY、B-GIRLと呼ばれるファッションとつながった影響が大きいのでは」と見ている。ファッションと音楽が対となり、一つのスタイルとしてヒップホップが10代に浸透したということだ。
今の10代は生活の中でどのように音楽と関わっているのだろうか。小林さんによると「とにかく昔と比べて情報源が多い。10年前ならCDショップの店頭や雑誌、テレビのチャート番組などでチェックして音楽の情報を集めたものだが、今の10代は携帯電話やインターネットで手軽に情報を仕入れられる」と話す。例えば、今はセンター街を歩いていて、流れていた曲をその場で携帯を使って調べることもできる。中には、気になった曲は着うたをダウンロードすることで視聴し、良ければCDを買うようにしているという10代もいる。さらに「情報が手軽に手に入る分、昔に比べると音楽とはライトに付き合うタイプの10代が多いのでは」と小林さん。音楽はファッションと同様に、流行りを抑える程度に聴いておけばいい。昔のようにアーティストに入れ込んでCDを集めたり、ライブに行ったり、必死で情報を集めたりする10代もいるにはいるが、その比率は下がってきているというのが小林さんの見解だ。
リッスンジャパン渋谷センター街にいた10代に、好きなアーティストについて聞いてみた。挙がった名前は次の通り。SMAP、NEWS、w-inds.、Britney Spears、忌野清志郎、Ray Charles、浜崎あゆみ、LOVE PSYCHEDELICO、ORANGE RANGE、レミオロメン、50 Cent(フィフティー・セント)、X JAPAN(順不同)。中でも、浜崎あゆみとORANGE RANGEの名前を挙げた10代がそれぞれ3人ずつで1番多かった。浜崎あゆみが好きな理由については、「あのカリスマ性が好き」(アヤノちゃん・16歳)、「歌詞に共感する」(ケイちゃん・16歳)、「かわいくてオシャレ。歌詞がいい」(カナちゃん・15歳)など。浜崎あゆみの場合はとくに、アーティストとしての作品に対する評価だけでなく、ルックスやファッションに対する憧れが強いようだ。ちなみにBritney Spearsが好きなナミちゃん(15歳)も「歌もダンスも、とにかく何をしてもカッコイイ。ファッションとかも憧れる」と言っていた。この4人はいずれもギャル系の女子高生だったのが特徴的だ。一方、ORANGE RANGEを好きな理由は「(曲の)ノリがいいから」(チカちゃん・16歳/ケイスケくん・15歳)、「街中で曲がよく流れていて、サビの部分が気にいった」(ユキちゃん・19歳)等。こちらは圧倒的に作品に対する評価が多く、詞について触れた10代はおらず、「リズムが好き」という意見だけだったのが印象的だった。
忌野清志郎が好きなヨウスケくん(18歳)の理由は、「あの年齢で悪っぽいところがカッコイイ」とのことで、Ray Charlesが好きなタクマくん(18歳)の理由も「生き様がカッコイイ」など、男子の場合はルックスだけでなく、スタイルとしてのカッコ良さがキーとなっているようだ。50 Centが好きだというタツヤくん(15歳)はかなりの洋楽好きだそうで、今一番お気に入りの曲も「インダクラブ(50 Cent)」、これからブレイクするのではないかと思うアーティストは「Lil’ Romeo」と答え、邦楽はほとんど興味がないという。また、1997年に解散したX JAPANが好きだというキョウヘイくん(15歳)も、「今のアーティストでいいと思う人はいない」と、厳しいコメントをしていた。
「今一番お気に入りの曲」を尋ねて、挙がった曲名は次の通り(順不同)。「世界に一つだけの花」(SMAP)、「ハナミズキ」(一青窈)、「変わりゆく空」(w-inds.)、「Amazing Kiss」(BoA)、「何度でも」(DREAMS COME TRUE)、「リーン・バック」(テラー・スクワッド)、「さくら」(ケツメイシ)、「いきたきゃいけ」(NANJAMAN)、「花」・「*~アスタリスク~」(共にORANGE RANGE)、「南風」(レイオロメン)、「インダクラブ」(50 Cent)、「マツケンサンバ」(松平健)、「Every time」(Britney Spears)、「About You」(浜崎あゆみ)、「ココロオドル」(nobody knows+)等。好きなアーティストの曲を挙げる10代も多かったが、中にはアーティストは好きではないけどこの曲だけは好き、という子もいた。
「これからブレイクしそうだと思うアーティスト」については、「関ジャニ∞」「大田クルー」「yui」「川嶋あい」「Def Tech」「倖田來未」「SOUL’d OUT」「レミオロメン」「Lil’ Romeo」「銀杏BOYZ」「サスケ」「Bラッシュ」等。このうち、「倖田來未」「レミオロメン」「銀杏BOYZ」は各2票だった。「1日に音楽をどれくらい聴くか」という質問に対しては大多数が「1日2~3時間」と答え、中には「1日に5時間」(タツヤくん・15歳)、「1日に8時間」(カナちゃん・15歳)、「1日に10時間くらい。移動中も部屋にいる時も、ほとんど音楽を聴きっぱなし」(タクマくん・18歳)という子もいた。タクマくんはCD150枚、MD20~30枚、LPは200枚ほど持っているという音楽好き。
昔から10代と音楽は切っても切り離せない関係だが、今の10代は特に、携帯やインターネットなどの普及もあり、より手軽に、身近に音楽を楽しんでいるようだ。一方、アーティストを好きな理由については純粋な音楽性に加え、ファッションやスタイルに対する憧れなど、付加的な要素がますます高まっている傾向があり、音楽は多様性のあるライフスタイル市場の入り口ともなっている。iPodなどの携帯音楽プレイヤーのヒットなどもあり、10代の音楽との付き合い方はますますライトな関係になっていきそうだ。