博報堂生活総合研究所の研究員である中村さんは、約2年間に渡り1都3県(東京・神奈川・埼玉・千葉)に住む10代女子100人以上を対象にヒアリングを行ってきた。中村さんに10代女子が好きな男子のタイプについて話を聞くと「昔は彼氏に多く求められていた『男らしさ』は今や大事にされておらず、今の10代女子は『男らしい=わがまま』と捉えている。また、カッコイイ男子は自分がコントロールできないという理由から彼氏としては敬遠されがちで、彼氏に求める一番の要素は『優しさ』だという調査結果もある」と中村さんは話す。2004年6月末にインターネットを介して行われた博報堂生活総合研究所オリジナル調査(調査対象者:16~19歳の女子/サンプル数:200人)によると、「彼に求めること」の上位3位は1位が「優しい」71.0%、2位「落ち着く」67.0%、3位「話がおもしろい」62.0%という結果だった。
「カッコイイ男子を好きなことは好きだが、彼氏としては適当ではない」と考えている10代女子の複雑な心理について中村さんは「今の10代女子は自分が優位に立って付き合えることを最重視している」と述べる。例えば、カッコイイ男子にフラれたら傷つくが、それほどカッコイイ男子でなければ「あいつならいいか」と、傷ついたり落ち込んだりせずに済む、ということも背景にあるそうだ。男子に夢中になって、気持ちが不安定になったりすることを恐れる10代女子のナイーブな一面が垣間見える。また、中村さんは「10代女子が彼氏に求める『優しさ』とは、裏を返せば『扱いやすい』という意味でもある」と付け加える。何でも言うことを聞いてくれる、一見優しげな男の子は一緒にいて疲れないからいい、という訳だ。反対に「俺について来い」というタイプの男らしい男子は合わせるのが面倒だし、カッコイイ男の子には振り回されるからイヤ、ということなのだろう。
「こうした10代女子の好みの傾向は、10代男子側のニーズともバランスが取れている」と中村さんは言う。中村さんが10代男子に付き合っている彼女について話を聞くと「いい奴なんですよ」という回答が目立ったそうだ。つまり、男子もかわいい女の子を好きなことは好きだけど、付き合うなら「ラクな子」がいいと望んでいる子が増えているのだ。「ラクな子、というのは、男子が自分でリードしなくてもいい女の子という意味。今は男勝りでリードする女子と、それに従う男子のカップルが増えているようだ」と中村さん。現在の10代カップルには一種の上下関係があるようで、ひと昔前に比べると、男女の立場が逆転しているとも言えそうだ。
10代女子が挙げる好きな男子のタイプには、その背景に10代女子の恋愛観が大きく作用している。博報堂生活総合研究所のオリジナル調査から、10代女子の恋愛観に関する項目を見てみよう。
回答数 | 比率 | |
---|---|---|
すべてを知りたいとは思わない | 89 | 44.5% |
すべてを知りたいと思う | 72 | 36.0% |
知っても知らなくてもどちらでもいい | 39 | 19.5% |
「相手のすべて知りたいと思わない」が44.5%でトップという結果について、中村さんは「10代女子は彼氏に限らず、友達に対しても同じ考えを持っている」と言う。10代女子は、他人のことがすべて理解できるわけがない、わからなくて当然だという意識が強いそうで、最初から諦めているのだそうだ。「無駄なことはしない、という合理的な性格が恋愛においても表われているのでは」と中村さん。10代女子の合理性は「悪い男にはハマらない」「自分が損をするような相手とは付き合わない」という考えが強いところにも表われている。どちらかと言うと、付き合っている彼のことをそんなに好きではない、という子も多いのが実態のようだ。
回答数 | 比率 | |
---|---|---|
束縛するのもされるのも嫌だ | 102 | 51.0% |
束縛するのもされるのも構わない | 41 | 20.5% |
自分が束縛されるのは嫌だが相手は束縛したい | 30 | 15.0% |
自分が束縛されるのはいいが相手を束縛するのは嫌 | 27 | 13.5% |
半数以上の51.0%の10代女子が「束縛するのもされるのも嫌だ」と答えている。「気が弱いくらいに言う事を聞いてくれる男の子」を好む10代女子の場合、相手を束縛したいという子が多いのではないかと中村さんに聞いたところ「そうした女子も、ただ言いたい事を言い放つだけで、相手を束縛しようとは思っていないようだ」という。彼氏にしろ、友達にしろ「ずっと一緒にいるのは疲れる」というのが10代女子の意見で、一人でいる時間を大切にする傾向も強い。
回答数 | 比率 | |
---|---|---|
女友達のほうが信用できる | 89 | 44.5% |
どちらも信用できる | 53 | 26.5% |
彼氏の方が信用できる | 30 | 15.0% |
どちらも信用できない | 28 | 14.0% |
「女友達のほうが信用できる」と答えた子44.5%に対し、「彼氏のほうが信用できる」と答えた子は15.0%。ちなみに、「かわいい」と誉められるのも、彼氏よりも女友達から言われたほうが嬉しいという意見もあったらしい。元々、彼氏には多くを期待しない傾向が強く、信頼関係も希薄な10代は、カップルといえどもドライな関係を好むようだ。
中村さんは「10代女子は彼氏との関係において、好き嫌いを超えて一緒にいられる人を望んでいる。女としてではなく、人として認められることに重点を置いているようだ」と推察する。こうした10代女子を、中村さんは「恋愛疲れを起こした小さなオバちゃん」と形容する。恋愛にときめきを求める10代女子はもはや少なく、一緒にいて落ち着く、和むなど、空気のような存在であることを相手に求める。こうした現象について、中村さんは「本来なら、いろいろな人と多くの恋愛を経験した20代、30代の女性が言いそうなこと。しかし、今の10代は早いサイクルで多くの男子と付き合っているし、友達の恋愛話を聞いて学んでいる部分もあるのだろう」と言う。10代女子の間では、恋愛について恥ずかしがるような女の子らしさというのはタブーで、反対にサービス精神旺盛に、何でもあけすけに話して笑いをとるような子は人気がある。昔は、男女関係について知らないふりをする10代女子が多かったのに対し、今や酸いも甘いも知ったふりをするのが良しとされている風潮があるそうだ。自分が付き合っている彼氏を「ブサイクだけど、まぁ味があるいい奴です」などと表現する10代女子からは、亭主を尻に敷いた嬶(かかあ)天下的なオバちゃんパワーを感じる。彼氏に過剰な期待をしない10代女子にとっては、相手に対する「好き」という感情自体、薄れてきているのではないだろうか。
以上の中村さんの調査研究は、2005年1月にポプラ社第三編集部より「10代のぜんぶ」(博報堂生活総合研究所? 中村恭子 原田曜平 共著)として発売される予定。
博報堂生活総合研究所渋谷センター街を歩いていた10代女子22人に、好きな男子のタイプについて聞いてみた。あらかじめ用意した20項目の中から3つ選んでもらった結果は以下の通り。
項目 | 投票数 |
---|---|
優しい | 13 |
カッコイイ | 10 |
話がおもしろい | 7 |
お金持ち | 6 |
話が合う | 5 |
センスがいい | 4 |
背が高い | 3 |
包容力がある | 3 |
責任感がある | 3 |
スポーツマン | 2 |
年上 | 2 |
趣味が合う | 2 |
夢を持っている | 2 |
やせ型 | 1 |
筋肉質 | 1 |
同い年 | 1 |
誠実な人 | 1 |
頭がいい | 0 |
無口でクールな人 | 0 |
年下 | 0 |
計 | 66 |
1位は13票の「優しい」、2位「カッコイイ」10票、3位「話がおもしろい」7票、4位「お金持ち」6票、5位「話が合う」5票となっている。一方、一票も入らなかったのは「頭がいい」「無口でクールな人」「年下」という項目。無口でクールな人については「一緒にいてつまらない」「かっこつける人は嫌い」という意見が飛び交っていた。
2位の「カッコイイ」という条件を挙げた10人のうち、実際に彼氏がいる女子は4人だった。好きなタイプは「カッコイイ」「優しい」「お金持ち」と回答したマリちゃん(17歳)は、「彼氏は優しいけどカッコよくないし、お金もない」と言う。また、同じく「カッコイイ」「優しい」「お金持ち」と回答したアヤカちゃん(16歳)は、「お兄系で、年上でカッコよくて、(彼氏の)全部が好き」とのこと。「カッコイイ」という条件を挙げなかった子のうち、彼氏のいる子に話を聞いたところ「タメの彼がいるけど、すごい一途な人で、愛され負けしてるかも(笑)。私のほうはビミョーなんだけど・・・」と言っていたのはノドカちゃん(16歳)。彼のことはそんなに好きではない、とはっきり言い切っていた。
一方、嫌いな男子のタイプについて聞くと、一番多かった意見は5人の女の子が「デブ・汗っかき」と答えていた。その他外見に関するものは「不潔」「目が細い」「自分より背が低い」などがあった。内面的なものでは「ジコチューな人」「精神年齢が低い・ガキ」「話がおもしろくない」がいずれも2人ずつ。その他には「内気な人」「口が軽い人」「しつこい人」「自慢する人」「屁理屈」「嘘つき」などが挙げられた。中には「私は何でも(どんな人でも)平気かも」と言っていたマリエちゃん(16歳)のような子もいた。ちなみにマリエちゃんの好きな男子のタイプは「話がおもしろい」「優しい」「センスがいい」で、現在の彼氏は理想通りの人なのだそうだ。
以前はカッコイイ人に憧れを抱き、ドキドキするのが10代の恋愛というイメージがあったが、今はどうやら違うらしい。彼氏にしたい男子のタイプは、優しくて言う事を聞いてくれる「コントロールしやすい」男子であることがポイントになっているようだ。その背景には、10代女子が恋愛で喜んだり傷ついたりすることが面倒くさいという心理が働いている。それに伴い、「好き」という感情もあまり抱かないまま、早いサイクルで付き合ったり別れたりする10代女子が増えているようだ。10代女子の「好きな男子のタイプ」を紐解くと、圧倒的に女子がリードする恋愛事情が浮き彫りになった。