渋谷センター街の入口にある大盛堂書店「東京文庫TOWER」で、ここ3ヶ月の間に販売した少年・少女コミックの売上ランキングを聞いた結果、以下の通り(カッコ内は巻数)。
1位 | PLUTO(1) | 作者:浦沢直樹/出版:小学館 |
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2位 | 20世紀少年(17) | 作者:浦沢直樹/出版:小学館 |
3位 | DEATH NOTE(3) | 作者:小畑健/出版:集英社 |
4位 | ONE PEACE(35) | 作者:尾田栄一郎/出版:集英社 |
5位 | DEATH NOTE(4) | 作者:小畑健/出版:集英社 |
1位 | フルーツバスケット(15) | 作者:高屋奈月/出版:白泉社 2位 |
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2位 | のだめカンタービレ(10) | 作者:二ノ宮知子/出版:講談社 |
3位 | Deep Love アユの物語(2) | 作者:吉井ユウ/出版:講談社 |
4位 | NANA -ナナ-(11) | 作者:矢沢あい/出版:集英社 |
5位 | ホットギミック(9) | 作者:相原実貴/出版:小学館 |
同店販売課の横須賀さんは「少年コミックでは、まず浦沢直樹さんの作品なら間違いなく売れる」と言う。売上1位の「PLUTO」は9月末に発売されたが、現在同店では品切れ状態だそうだ。「PLUTO」は、手塚治虫氏の代表作「鉄腕アトム」の中でも名作とされる一編「地上最大のロボット」をモチーフに、浦沢直樹さんが描く近未来SFコミックで、現在小学館発行の「ビッグコミックオリジナル」で連載中だ。「ビッグコミック」と言えば読者層は10代よりも上だというイメージもあるが、横須賀さんは「高校生を中心とした10代にも人気はある。現在は逆に少年コミックを読む大人も多く、読者層に年齢の壁はないのではないか」とのこと。また、3位と5位にランクインした「DEATH NOTE」は、集英社発行の「週刊少年ジャンプ」で連載中だが、こちらについても「最新刊の4巻は特に、女子高生ばかりが買っていく傾向にある」(横須賀さん)と言うから、現在は出版社側がターゲットとする年齢や性別に関係なくマンガが売れる傾向にあるようだ。
一方少女コミックについて、横須賀さんは「4位にランクインした『NANA-ナナ-』は、女子高生の定番とも言える人気作品」と言う。11巻は8月中旬に発売になったばかりだが、10巻の発売時は同店の初回入荷分だけで2,300冊の販売記録を残している。「NANA-ナナ-」は集英社発行の「月刊Cookie(クッキー)」で連載中の恋愛コミックで、一部では女子高生に一番売れている少女コミックとも言われている。横須賀さんは「女子高生は特にジャンルの間口が広く、少年コミックから少女コミックまで何でも読むようだ。中には少女コミックを購入する男子高校生もいることはいるが、女性に比べるとかなり少ない」と話す。
マンガを購入する10代の動向について「以前のマンガファンと言えば、人気作品は発売日をチェックして当日に購入する人がほとんどだった。しかし現在は、発売日から1週間~10日間は多くて50~100冊が売れ続けるという傾向にある」と横須賀さん。昔は発売日を心待ちにして来店する客が多かったのに比べ、現在は「行き当たりばったり」的に購入する子が多いそうだ。こうした現象の背景について、横須賀さんは「現代の女子高生は特に、口コミ効果による行動が目立つ。誰かが読んで面白かったと話すと、連鎖反応で購入客が続くという現象が起こりやすいのでは」と推察する。どうやらマンガを購入する10代には、それほど一生懸命なファンじゃないけれども「話題になっているから読んでおこう」という意識が強いようだ。
大盛堂書店 東京文庫TOWERティーンズを対象とした市場調査やプロモーションを手掛けるアイ・エヌ・ジー(宇田川町)では、8年間に渡って、渋谷の女子高生200人を対象に「好きなマンガ」についてのアンケートを行っている。2004年9月のアンケート結果は以下の通り。
1位 | 「NANA」・・・63人 |
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2位 | 「ピーチガール」・・・19人 |
3位 | 「スラムダンク」・・・11人 |
4位 | 「花より男子」・・・9人 |
5位 | 「ONE PIECE」・・・7人 |
また、過去7年間に1位だった作品を見てみると、1997~1999年までは3年連続で「花より男子」、2000~2002年も同じく3年連続で「ピーチガール」、2003年は今年と同じ「NANA」が1位だった。同社スタッフの中山さんは「『花より男子』と『ピーチガール』は、いずれも主人公が女子高生の恋愛モノだが、『NANA』は主人公が社会人で、女子高生とは何ら関係ない設定になっているところが興味深い」と言う。「NANA」は、2人いる主人公のうち1人はバンドのヴォーカルで男気溢れる「ナナ」、もう1人はミーハーで女の子らしい「奈々」という設定で、この2人の人生や恋愛模様を描いた作品。中山さんが、この作品を好きな理由を女子高生に聞いたところ「今までの少女マンガっぽくない、リアリティのある恋愛を描いている」というのが彼女達の見解だったそうだ。ストーリーはどちらかと言えば全体的に暗く、楽しい話ではないそうだが、それが逆に共感できるという。その背景について、中山さんは「自由気ままに恋愛をしているイメージが強い今の女子高生も、『恋愛は楽しいことばかりじゃない』という事実を受け止めているからこそ共感できるのでは」と見ている。現在の10代にとっては、今までのように単なるハッピーエンドの少女マンガでは物足りなくなってきているのかもしれない。
中には少年マンガを好む女子高生もいるが、アイ・エヌ・ジーが調査対象とするギャル系の女子高生は圧倒的に「少女マンガ派」が多い。その理由について、中山さんは「設定が架空の世界であることが目立つ少年マンガに比べて、少女マンガは非常に現実的。『ありそう』な設定こそ、ギャル系の女子高生に人気を集める要因ではないか」と推察する。高校生の男女を比べると、一般的に女子の方が現実的で精神年齢が高いと言われている。マンガの好みから言っても、10代は男子より女子の方が「現実的」と言えそうだ。
アイ・エヌ・ジー渋谷センター街を歩いていた高校生に話を聞いてみた。「一番好きなマンガとその理由」を聞くと、女子で一番多かった回答はやはり「NANA-ナナ-」だった。理由は「ストーリーにリアリティがある」(マイカちゃん・高1)、「キャラクター設定がいろいろあって面白い」(ユウコちゃん・高1)、「主人公のキャラクターが好き」(ユリエちゃん・高1)、「マンガはあまり読まないけど、『ナナ』だけは恋愛話が共感できる」(ユミちゃん・高3)などが挙げられた。しかし、中には「『名探偵コナン』しか買わない。理由は家族で読んでるから」(ミヅキちゃん・高2)や、「一番好きなマンガはジャンプコミックの『HUNTER×HUNTER(ハンター×ハンター)』。少女コミックは恋愛モノばっかりでぬるい。少年コミックのほうがアクションとかあって面白い」(カツミちゃん・高2)、「ジャンプコミックの『D.Gray-man(ディーグレイマン)』は背景描写とかが好き。少女コミックよりも少年コミックのほうが戦闘シーンとか・・・スピード感があって面白い」(ハルナちゃん・高2)という意見もあった。客観的に見ると、ギャル系の女の子らしい10代ほど少女コミックの恋愛モノを好み、一見真面目そうな10代女子は少年コミックを好む傾向があるように感じた。
男子高校生が挙げる好きなマンガとその理由については、「『ドラゴンボール』は男のロマン。『バカボンド』とか、格闘モノが好き」(ヨウタくん・高3)、「『ハンター×ハンター』はストーリーの奥が深い」(ユウヤくん・高3)、「月刊少年マガジンで連載している音楽マンガの『BECK(ベック)』が好き。自分もバンドやっているから」(セイくん・高2)、「『ブラックジャックによろしく』は感動する」(ケンイチロウくん・高2)など、バラバラな意見だった。10代男子の場合、女子に比べて友達の影響度合いは小さく、自分の趣味でテーマ性のあるマンガを好む傾向にあるのではないだろうか。
マンガを好きな理由については、男女共に「小説よりも簡単に読める」「絵と文字と両方楽しめる」「感動したり(マンガの世界に)引き込まれたりする」といった意見が多かった。手軽に楽しめる娯楽性がメリットだということだろう。しかし中には「出てくる言葉とか、ためになる知識が得られる」「想像力を働かせるし、漢字が読めるようになる」といったメリットを挙げる子もいた。マンガ大国と言われる日本では、近年の作品は状況設定やストーリー性、キャラクター設定など高度なものも多い。逆にマンガのデメリットについて聞いてみると、「続きが気になって授業中に読んじゃう」(マイカちゃん・高1)、「マンガにはまってしまうと根暗になりそう」(ミヅキちゃん・高2)、「マンガで起こっているような出来事を自分でもできると勘違いする奴がいる」(ヨウタくん・高3)などという意見が聞かれた。10代は冷静にマンガのデメリットを理解した上で、自分なりの付き合い方を心得ているようだ。
マンガは今も昔も変わらず、10代にとっての娯楽としてウエイトを大きい。しかし、今の10代は昔に比べてサクセスストーリーやシンデレラストーリーよりも、主人公が困難な状況で苦悩する現実的なストーリーに共感するようだ。マンガにも「リアリティ」を求め、ありそうにないストーリーには共感できないなど、現実的な10代の性質がマンガの嗜好性にも反映されているようだ。