女子高生を読者対象とするティーン誌では、定期的に制服のコーディネートや着まわし術を特集している雑誌も多い。ギャル系の元気な女子高生に人気の雑誌「Popteen(ポップティーン)」編集部の中西さんに、現在の制服の傾向について話を聞いた。「以前はルーズソックスに代表されるように、制服は“だるそう”にルーズに着こなすのが主流だったが、現在は靴下も紺色のハイソ(ハイソックス)に移行しつつあり、ネクタイやブレザーで“私立(高校)っぽく見せる”のが主流となってきている」という。「そうした背景には、女子高生たちの『賢そうに見られたい』という願望があるのでは・・・」と中西さんは推察する。確かに、シャツにリボンを着けているのも可愛いが、ブレザーやネクタイ姿でよりトラッドな雰囲気を出した方が、利口そうに見えないでもない。「しかし、ネクタイをきちんと締めることはあまりない」(中西さん)ようで、シャツの胸元は第1ボタンか第2ボタンまでは外し、ルーズに締めている子が多いようだ。
女子高生が制服アレンジのために御用達のショップは「セブンティーンを読んでいるような正統派の子には『イーストボーイ』が一番人気。当誌を読んでいるギャルっぽい女子高生の場合は、着ていると威張れるのが『ラルフローレン』のカーディガンで、手が届かないという子は『ユニクロ』のカーディガンを色違いで何枚か揃えているようだ」と中西さん。昨年以前もよく見掛けたバーバリー柄のマフラーは今年の冬も引き続き人気で、やはり女子高生はブランド志向が強い。そうかと思えば「カーディガンやマフラーはブランドにこだわるような子でも、手袋については軍手でいいという子もいる」(中西さん)ともいう。特に自転車通学の子の場合、すぐに汚れて駄目になるため安いものでも構わないのだそうだ。中西さんは「寒さ対策は女子高生にとって深刻な問題で、スカートの下にジャージを穿いたり、最近では毛糸のパンツを穿いたりなど、ある場面ではファッション性にこだわらない部分も見受けられる」と話す。今月1日に発売されたポップティーン12月号の誌面を見てみると、どうやら女子高生は、シチュエーションごとにコンセプトをつくって制服をアレンジしているようだ。
Popteen(ポップティーン)渋谷109の6階にある雑貨店「Live(リブ)」は、スクールグッズが充実していると女子高生に人気の店だ。同店チーフの丸矢さんに話を聞いた。「雑貨店としてオープンしたのは7、8年前だが、スクールグッズを取り扱い始めたのは2001年12月頃」という。当時、原宿の雑貨店でスクールグッズがよく売れていたことを知った丸矢さんが、まずはリボンを渋谷109内でいち早く取り扱った。その結果、ピーク時には一つの商品が1週間に50個売れるほどの人気を博したそうだ。丸矢さんは「当初から1年半くらいは非常によく売れた。今は新学期の始めなど時期的な波が多少あるものの、人気はまだ続いている」とのこと。現在ではリボンのほか、ネクタイ、スカート、ブラウス、ベスト、カーディガン、ルーズソックスにハイソックス、学生バッグやローファーなども取り揃え、スクールグッズの売上シェアは多い時で全体の4割を占めるという。
人気の商品について聞くと「リボンやネクタイの柄はレジメンタルやロイヤルなどが売れ筋。大きめのポップな水玉柄なども揃えてみたが動きは鈍く、全体的にトラッドなものが支持されている」と丸矢さん。また、今年の夏は半袖のセーラー服を6,500円で販売したところ、かなりの数が売れたそうだ。「メーカーから、最近の女子高生は中学時代の制服だったセーラー服を着て遊ぶ傾向があると聞いて扱ってみたところ反響が良かったため、この冬も長袖のセーラー服を仕入れる予定でいる」と丸矢さんは言う。
同店の1日の来店客数は、高校生を中心に平均400人ほど。客の動向について聞くと「シャツとリボンの色の合わせ方など、コーディネートについてアドバイスを求められることがよくあるが、いくつか組み合わせを考えてあげると、『これは私立っぽくて賢そう』『これはおとなしめでお嬢系』などと、そのイメージから着る時を決めて購入する女子高生が多く見られる」と丸矢さん。女子高生は制服を変えることによって、いろいろなイメージの自分を演出しているようだ。丸矢さんはそうした女子高生について「いかに自分らしさを出すかということを、制服というカテゴリーの中で行っている点が面白い」と話す。制服は今しか着られない高校生の特権でもある。それを思う存分楽しみたいという気持ちの表われなのだろう。
Live(リブ)渋谷109‐2の5階にあるレディスウェア・ショップ「SPICE CANDY(スパイス・キャンディ)」では、今年10月16日から31日まで「スクールガールフェア―制服セレブ応援強化月間」を開催した。企画の狙いについて、同店マネージャーの内田さんに話を聞いた。「当店のメイン顧客層は、中学生も多いが、一番は小学校高学年。この世代は『姫系』などと呼ばれるお嬢様っぽいファッションに人気があり、女子高生ファッションにも憧れている。そこで、最近メディアでも多く使われている『セレブ』という言葉を組み合わせ、『制服セレブ応援強化月間』としてフェアを開催した」と内田さんは語る。フェア期間中は通常の1.5倍の売上を記録し反響が良かったため、同店では11月に入ってからも引き続き、スクールガール・ファッションを前面に押している。
「女子高生ファッションは小学校高学年から中学生のローティーンにも波及し、今やファッションの一つの系統として確立している」と内田さんは言う。同店の母体であるキャットは、元々子供服のフォーマル・ウエアを手掛けていた会社で、スパイス・キャンディは今年の7月に立ち上がったばかりのブランドだ。109‐2と言えばナルミヤ・ブランドの人気が高いが、同店はポップでカラフルなローティーンらしいファッションを卒業し、かといってまだ109ブランドは早いという中間層をターゲットにしている。内田さんは「人気の商品はオリジナルの格子柄で20種揃えたスカートだが、大抵の顧客はシャツやカーディガンとセットで購入する」と話す。ローティーンは大抵母親と一緒に買物に来るため、客単価も平均1万3000円と比較的高額だ。
「本来の女子高生と違うのは、スカートの丈が長めであること」と内田さんは言う。女子高生の制服は膝上20センチからそれ以上短い場合もあるが、ローティーン世代は普段パンツ・スタイルが多くミニスカートを穿き慣れていないこともあって、膝上10センチ丈が好まれるそうだ。「中には、わざと大き目サイズのスカートで長めに穿きたいという子もいるため、今後はスカートの長さのバリエーションも増やしていく予定だ」と内田さん。女子高生ファッションが小学生に人気の背景については、「ローティーンに人気のアーティストであるアブリル・ラヴィーンが、ネクタイを締めてスクールガール・ファッションをしていたことにも影響を受けているようだ」と内田さんは推察する。ロシアの女の子デュオで一時期話題となったタトゥーも女子高生の制服ファッションで知られており、そうした人気アーティストの影響も大きいようだ。
SPICE CANDY(スパイス・キャンディ)渋谷センター街を歩いている女子高生を見ていると、同じ学校の鞄を持っている2人連れでも制服のスカートやリボンが違う柄で、一見しただけではどこの高校の生徒かはわからない状態だ。私立高校に通う1年生のチヒロちゃんとユカちゃんに話を聞いた。「うちの高校の制服は自由で、スカートはひださえあればOK」と話すチヒロちゃんが穿いていたスカートはコムサ・ボーイズのもの。ユカちゃんは「今日のスカートはヒロミチ・ナカノ。スカートは全部で20着くらい持っている」と言う。109で靴下を買ってきたところだというユカちゃんは、「今は紺ハイソ派。ルーズはもう飽きたから」とのこと。ルーズソックスのブームが去り、センター街でも紺のハイソを履いている子が目立ってきたが、中には自分なりの理由付けで履き分けている子もいる。私立高校1年のナオコちゃんは「いつもは紺ハイソだけど、しゃしゃりたい時はルーズ」と言う。ちなみに「しゃしゃりたい時」というのは気分がいい時、テンションが高い時のことを指すそうだ。
高1のアミちゃんは「校則は厳しいけど、別に守らなくても怒られるわけじゃない」と言う。カーディガンはユニクロで紺とグレーの2枚を愛用しているそうだ。「ユニクロは生地もいいし、安いから。大きめに着るのがポイントかな」(アミちゃん)とのこと。制服をアレンジしてオシャレすることについて、アミちゃんは「制服は今しか着れないし、たまに子供っぽく見られる時は嫌だなと思うけど、若いってことだし、今は私服より制服が好き」と話す。また、「このカーディガンはユニクロで買ったばっかり。茶色であんまりない色だし、色を合わせてネクタイも100均で買った」と言う高1のナツミちゃんは、今日のコンセプトは「秋だからマロンっぽく!」と話す。スカートは学校指定のものしか穿けないそうだが、ネクタイやリボン、カーディガンなどのアイテムは17着持っているという。「基本的に靴下はルーズ! 洗濯が間に合わないときはハイソ。ルーズのほうがギャルっぽくて盛れるから」とナツミちゃん。
高2のミホちゃんは「カーディガンはユニクロ。あと、イトーヨーカドーとかも安くて使える」と話す。リボンは109のリブで買ったものだという。「制服の着こなし方はルーズな感じが基本」と言うミホちゃんだが、同じ高校のマキちゃんは「私は汚くならないように着こなすのがテーマ。カーディガンとかは、学校の友達と交換したりもする」と話す。クラスの友達は皆違う色のカーディガンを着ているため、たまに交換するのが楽しいのだそうだ。マキちゃんもミホちゃんも紺のハイソ派だったが、ミホちゃん曰く「学校で体育があるときはルーズ。そのほうがジャージに合うから」と言っていた。
10数年前は有名デザイナーを起用したかわいい制服の高校に人気が集まったが、現在の女子高生は比較的校則の自由な高校へ通う子を中心に、独自のアレンジでいかに制服を可愛らしく着るかに工夫を凝らしている。そこには、女子高生の象徴とも言える「制服」を、3年間という限られた期間の中で楽しもうという意識が垣間見られた。