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「浪人したくない」「女子大不人気」…
今どきの「受験戦争」事情

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■志望大学の選択基準は1位「就職状況」、2位「授業料の安さ」

ベネッセ未来教育センターから刊行されている「モノグラフ・高校生」VOL.70の中には、「進学意識の現在」という調査結果が発表されている。これは1980年、1992年、2003年のデータを比較しながら、現在の高校生の進学意識を探ったものだ。調査対象は関東・中部・九州の高校6校(私立1校・公立5校)の1~3年生計1,000人。

まず、高校卒業後の進路について、1992年と2003年の結果を比較した表を見てみよう。

高校卒業後の進路について

就職をはじめ家事手伝い、専門学校、フリーターなどを含む非進学者は、11年前と比べて3.5%から6.0%に増えている。また、「まだ決めていない」と答えた生徒は、高3では1992年と比べて10%以上減っているが、高1の時点で進路を決めていない生徒が7.6%から15.6%に増えた結果となった。4年制大学を志望している生徒には、明らかに国立大学の人気が高く、1992年の51.8%から72.2%と大幅に増加している。

次に、大学選択の基準について高校生が重視している項目については、「とても大事」「まあ大事」と答えた生徒の割合が大きかった上位は1位が「就職状況がよさそうだ」84.3%、2位「授業料が安い」81.3%、3位「入学するのが難しい」71.8%、となっている。反対に、一番割合の少なかった項目=重要視していない項目は「伝統のある大学である」30.5%だった。この「就職状況」と「授業料の安さ」は1980年、1992年、2003年で比べてみても、年々大事に考えている高校生が増えており、現在の不況の影響が垣間見える。国立大学を志望している生徒が増えている要因も、「授業料の安さ」が関係しているのだろう。

ある状況を設定し、自分だったらどうするかという質問回答によって高校生の進路に対する志向性を調査したところ、下図のような結果となった。

高校生の進路に対する志向性

グラフの数値は( )内の行動を優先する、と答えた生徒が多い割合で、上位3つを見ると、親元や恋人との距離、親の勧めなどよりも自分の志望を優先するという回答が高かった。特に目立つのは、4位の「電子工学志望だが専修学校と電子工学科のないC大学に合格した場合、専修学校に進学する」と答えた生徒が1992年に比べて急増していることで、現在の高校生は大学にこだわらず、「自分の目指したい道」を最優先する傾向にあると言える。しかし、「すべり止めのA大学にしか合格しなかったので浪人して来年に期する」と答えた生徒は1992年調査と同じく30%前後で定着しており、浪人に対する嫌悪感は強いようだ。また、「東京の有名私立大学と地元の国立大学に合格した場合、東京の有名大学に進学する」と答えた生徒は1992年に比べてかなり減少しており、国立であることが大学の知名度よりも優先されることがわかった。

最後に、一流大学の「値打ち」に関する調査を見てみよう。

一流大学の「値打ち」について

1992年に比べると2003年の結果は「値打ちが上がる」と答えた生徒が減少し、「値打ちが下がる」と答えた生徒が増加している。どちらかと言うと1980年の結果に似ており、現代は学歴を重視しない企業なども増えていることを背景に、高校生の間でも学歴の効用は薄らぐ傾向にあるようだ。

ベネッセ未来教育センター「モノグラフ・高校生」

■不人気の女子大。共学のキャンパスライフに憧れる女子高生たち

現役高校生のための予備校として知られる「お茶の水ゼミナール」渋谷校の事務局長、藤澤さんに、受講生の状況を聞いた。「渋谷校の受講生は現在約500人だが、ここ2、3年は減少傾向にある」と藤澤さんは言う。その理由については「競合他校が増えたこと以外に、現在は大学を選ばなければどこにでも入れる時代であるため、一般入試ではなく推薦で大学に入る高校生が増えているからでは」(藤澤さん)と話す。予備校に通わず、高校の授業だけに専念して学校成績を上げている高校生も多く、予備校に通っていたとしても指定校推薦などは9月の初旬くらいから合格が決定してしまうため、その時点で予備校を辞める生徒も少なくないそうだ。ちなみに少子化現象については、藤澤さんは「反対に進学率が上がっている傾向にあるため、さほどの影響はないのでは」と見ている。

現在の受講生の特徴について「一般的に今の高校生は我慢ができなくなっていると言われているように、長時間の勉強で机に座っていられないなどの傾向がある」と藤澤さんは語る。浪人してまで志望校にこだわるようなことはせず、一般入試を待たずに適当な大学へ推薦入学で早々に合格する、といった風潮が強いのも、そうした性格が影響しているのだろうか。人気の学部については、文学部より法学部や経済学部などの社会学部系に人気があることは昔から変わらないようだが、藤澤さんは「女子大の人気がない・・・というのが昔と違った現代の傾向かもしれない」と話す。そのため、今の女子大はこぞって枠を低くするなどの対策で入りやすい状況を作っている。「女子大の就職率の方が高いなどのメリットもあるが、現在の女子高生は単純に共学のキャンパスライフを過ごしたいといった理由で女子大を嫌うようだ」と藤澤さん。ちなみに同校は500人の受講生中、約8割が女子高生だが、女子大不人気の傾向は全国的に共通して見られる傾向だという。

お茶の水ゼミナール
授業風景 授業風景

■お父さんと同じ大学に入りたい!-女子高生の志望校選択理由

渋谷の街を歩いていた、学校帰りの女子高生に話を聞いてみた。現在高校2年生のユウちゃんは「アメリカの大学に行きたいと思っている。バイト先の人から聞いた話だと、日本の大学生は遊んでばっかりで勉強をしないって言っていたから」と言う。まだ具体的な受験対策はしていないが、普段の授業をきちんと受け、特に世界史の科目では授業用のノート以外に受験用に自分でノートを作って勉強するなどの工夫をしているとのこと。同じく高2のハナちゃんは「都立大か上智大に行きたい」と、既に大学名まで絞っていた。しかし大学に求めることは、という質問に対しては「都内にあること」という答えが。キャンパスライフを楽しみたい、という意味では、都内にあることも重要な要素であるらしい。

この秋からお茶の水ゼミナールに通い始めたばかりだと言うヨウちゃんは、まだ高校2年生。予備校のように勉強をする環境に身を置いていないと、自発的には勉強ができないからだとヨウちゃんは言う。「志望大学はまだ決まってないけど、文系の大学で語学を学びたい」と話すヨウちゃんが大学に求めることは「留学制度」。留学希望を選択理由に挙げた例はこの他にも多く、ハナちゃんも「大学3年に留学をしたいから、制度が整っている意味で上智大がいい」と言っていた。ヨウちゃんが受験に対して最も不安なことは「浪人をしたくない」ことで、そのためにも高2の今からスタートダッシュをかけるという計画的な一面も見受けられた。

慶応大学に行きたいと言う高校1年生のシノちゃんは、志望理由について「特にないんだけど、お父さんと同じ大学に行きたいかなって・・・」と答える。父親を尊敬している様子で、1年生らしい可愛いらしさも伺える。「受験対策はまだ何も始めてないけど、学校帰りに遊ぶのは週1日と決めている」というシノちゃんが通う高校は進学率も高いようで「クラスの友達は3~4割が今から予備校に通っている」と言う。やはり現代の高校生は、早くから大学受験を意識しているようだ。高校3年生のケイコちゃんも、「上智大学を志望。高2の秋から塾に通っているけど、指定校推薦を受けるつもりだから一般の受験勉強はしていない」と言う。今どきの受験について、ケイコちゃんのように「日本の大学受験は意味がないと思う」と異議を唱える女子高生も。入学するのは難しいのに卒業するのは簡単なんて、大学の意味がないというのがケイコちゃんの見解だ。

現代は少子化の影響で、大学さえ選ばなければどこにでも進学できる。しかし、全体の進学率は上がっており、人気の高い難関大学の競争率は昔と変わらない。浪人したくないという思いから、早い段階で志望先を決めて予備校に通い始め、本格的な受験シーズンを迎える前に合格を手にするという計画性の高い高校生が増えているように感じられた。今どきの受験戦争は、入学制度の多様化に伴い、激化している部分と緩和している部分に二極化していると言えそうだ。

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