JMR生活総合研究所では今年6月、消費社会研究チームによるマンバの提言論文「かわいいマンバ」を発表した。論文を執筆した松本さんは「復活後のマンバの特徴は、ネコに代表される動物モノが流行っていること。白いコンシーラーを使ってネコのヒゲをメイクするなど、いわゆるガン黒のマンバメイクながらも、かわいらしさをアピールしている点が昔と違う」という。その他にも、ふわふわしたネコ耳を頭に着けたり、写真を撮るポーズでは手と手首を丸めて前に出すネコポーズを取ったり、「ニャン」というセリフを多用したりといった具合にネコを模倣している子が多い。また、「汚(お)ピンク」と称して明るいピンク色で全身を固めるスタイルも浸透しているそうだ。ちなみにマンバの子達の間では、「汚(お)つかれ」など、「お」の字を「汚」に変換して使用するのが共通しているらしい。
ネコやピンクなど、かわいさを追求するマンバの心理について、松本さんは「ネコは元々愛玩の対象として人気がある。周囲に対して敵対的で、社会に対する反抗心がクローズアップされることも多かったヤマンバに比べて、復活後のマンバはネコやピンクなどカワイイものを好むという一般的な価値感に準ずる傾向がある」と論文にまとめている。また、松本さんは「マンバは競争社会に対して抵抗があり、周囲や仲間との協調によって現代社会を否定している」と解説する。奇抜な服装で目立ちたい・注目されたいという欲求は抱きつつも、周囲や仲間に対して協調性があり、対立を好まない平和主義だというのが松本さんのマンバに対する見解だ。
JMR生活総合研究所渋谷センター街にある「プリクラのメッカ」前に座り込んでいたマンバ系の女の子達に話を聞いた。「名前はチホだけど、チポって呼んで」と言う彼女は、現在17歳の高校1年生。「マンバ?」と尋ねると「うちらは『セレンバ』だよ」という言葉が返ってきた。「セレンバ」とは、「セレブ」+「マンバ」の意味で、一説によるとマンバよりも高級ブランドアイテムを持っている率が高いという。チポちゃんに「セレンバ」と「マンバ」の違いを聞くと「マンバの化粧は目の周りの白が強くて、セレンバはどっちかって言うとシルバー系のメイク。ファッションもセレンバのほうが大人っぽいし、ちょっと落ち着いた感じ」とのこと。一緒にいた同じくセレンバ系のリイサちゃん(16歳)は「セレブーな感じがするのがセレンバだよ。私の場合は巻き髪で、マフラーとかスカーフとか、必ず首に何か巻いている。そのほうがセレブっぽいでしょう?」と話す。
チポちゃんの友人であるマオリちゃんは「セレンバのポリシーは、決してキレイ系にはならず、でも汚くもないこと。雑誌で言えば、洋服は『ブレンダ』系で、顔は『エッグ』よりも濃い目の化粧・・・かな」という。チポちゃんは「マンバのときは赤パツ(赤い髪の毛のこと)だった子でも、マンバを卒業してセレンバになると、髪の色もシルバー系とかちょっと落ち着いた色にする」と解説してくれた。バッグはヴィトンのカバメゾやカバピアノを持っている子が多く、セレンバは決してアルバ(=アルバローザ)を持たないのだとか。こうしたファッション的特徴の他にも、マンバはとにかく元気な感じで、セレンバは少しおとなしいなど、彼女たちなりの内面的なイメージの違いもあるようだ。
彼女たちに、最近のマンバの状況について聞いてみた。「最近は『ロマンバ』っていうのがいるらしい」とチポちゃん。「ロマンバ」とは、ロマンチック、ロリータなどの傾向があるマンバのことで、顔はマンバメイクのままだがファッションは「リズリサ」などのブランドでフリフリな洋服を着ているという。ディズニーキャラクターであるおしゃれキャット「マリーちゃん」を好み、グッズをたくさん持っているのが特徴だという。また、ギャル御用達の109ブランド「ココルル」で全身を固めている「ココンバ」も、マンバの新種だそうだ。109のなかにある「ココルル」ショップ・スタッフの門馬(もんま)さんは「マンバの教祖と言われている雑誌の『egg(エッグ)』モデルのかぁ~たんもよく来店するので、全身『ココルル』の洋服でコーディネートしたマンバを『ココンバ』と呼ぶことは聞いている」と証言する。「ココルル」はサーフギャルをイメージしたブランドだが、商品の色使いがカラフルで派手なため、とにかく目立つことが一番大事だというマンバ系のギャルには愛好者が多い。「秋冬はどこのブランドもトーンを抑えた色使いの洋服が多い中、『ココルル』は原色やパステルカラーが中心。『ココンバ』は上下共ピンクでコーディネートしたり、ロゴが大きく入っている商品を好んだりする傾向にある」と門馬さんは加える。
しかし、チポちゃんにマンバの今後について聞いてみると「これから、マンバはいなくなると思う」と予測している。その理由について「今までのように本当のギャルのマンバが減ってきて、最近は中途半端なマンバが増えてきているから・・・」と、チポちゃんは独自の見方をしている。現在、マンバの進化系として多くの種類が発生してきているのは、マンバの要素を一部だけ取り入れる、ある意味「中途半端なマンバ」を演じる10代が増えてきたことを意味するのだろうか。とすれば「セレンバ」「ココンバ」「ロマンバ」などのマンバ新種の出現は、進化系というよりむしろ、マンバが衰退に向かう予兆なのかもしれない。
同じくセンター街の名物的存在である「センターGUY」や、マンバから派生したと言われている「着ぐるみん」についても聞いてみた。チポちゃんは「ガイの友達はいるけど、着ぐるみんは最近、ギャルじゃない普通の子が着ている」という。系統が違っても「ギャル・ギャル男」であれば受け容れるが、普通の子が真似をすることに対してはあまり快く思っていないようだ。チポちゃん自身も夏にはピカチューの着ぐるみを着ていたときもあったが「もう着ない」と言っていた。「今着ているような子は、もうちょっと遅れてる感じ」(チポちゃん)。一方、「センターGUY」は今、「ココラー」「タネ男(お)」「アルバ」の3系統くらいあるそうだ。「ココラー」とは、109ブランドの「ココルル」を好み、「タネ男」はアルバローザのメンズラインである「マイタネ」を着こなし、「アルバ」はレディースブランドの「アルバローザ」を着ている「センターGUY」のことらしい。しかし、「夏が終わってからガイはだいぶ減ってきた」というのがチポちゃんの見解。「センターGUY」の代表的ブランド「アルバローザ」が海、リゾート、バカンスをコンセプトとしたブランドであることが、「センターGUY」を季節限定にしているのだろうか。
ガン黒ギャルに支持の厚いティーン誌「Ego System(エゴ システム)」編集部の長崎さんに話を聞いた。「マンバブームついては現在もテレビ各局が追いかけているようだが、雑誌業界においてはもう下火になってきている」。「エゴ システム」の誌面でも、マンバの特集は7月発売の9月号までで、編集部として実質追いかけていたのは夏前までとのこと。長崎さんはマンバ下火の理由について「マンバを取り上げることに対して反発する読者も多く、現在はファッション性を重視した誌面作りを意識している」と話す。ギャル読者達の中には、今までよりワンランク上の大人びたファッションに興味を持ち出した子が多く、巷ではマンバを卒業する子が増えている、というのが実態らしい。「元々ガン黒というのは夏を象徴するものでもあり、マンバもセンターGUYも季節的に終息へ向かっているのではないか」と長崎さんは推察する。センター街から発生したマンバやセンターGUYは、テレビなどのマスコミによって全国へ認知され、現在ではある程度「作り上げられている」状態のようだ。渋谷の現場では、マンバもセンターGUYも夏の風物詩として消えつつあるということだろう。
「しかし、マンバの中でも『着ぐるみん』は秋冬でさらに出てくるだろう」と長崎さんは予測する。『着ぐるみん』は、今年の春あたりから出現し始め、かえる、パンダ、牛、河童、りすといったパジャマのような着ぐるみを、ディスカウント・ストアの「ドン.キホーテ」で買い込んで着ている女子高生たちのことだ。マンバ系の派手なメイクをして顔だけは出しているのが特徴で、特にピカチューの着ぐるみは人気があり、黄色い着ぐるみはセンター街でも目立っていた。夏場はかなり暑かっただろうが、気温が下がる秋冬は逆に着ぐるみが暖かく、ファッション性(?)だけでなく機能性の面でも重宝するのだろうか。「今後、女子高生たちが飛びつきそうな着ぐるみのキャラクターが出現するかどうかが鍵」と話す長崎さん。果たして今秋、「着ぐるみ・ブーム」は起こるのだろうか。
一方で、女子高生を対象とした市場調査やプロモーションを手掛けるアイ・エヌ・ジーの中山さんは「着ぐるみが流行ったのは夏だけ。夏は高校が夏期休暇になるため、普通の女子高生もギャル化する現象が見られる。そうした流れの中で、一時的に着ぐるみを着る高校生が多発しただけではないか」とも言う。すでに夏後半から、ファッションに敏感な女子高生の間ではお姉系の服装が支持され始め、ガン黒の日焼けも美白効果の高い化粧品などを使って色を落とそうとする子が多かったそうだ。「クラブ・イベントなどの時は相変わらず着る子もいるかもしれないが、日常のセンター街ではもうほとんど目にしなくなった」と中山さん。「着ぐるみん」は一時的なお祭り騒ぎのようなもので、夏とともに終わったという見解も少なくない。
リイド社 アイ・エヌ・ジー奇抜なファッションやメイクで、センター街でも多くの注目を浴びているマンバは、さらなる個性を出すために「セレンバ」「ココンバ」「ロマンバ」などの進化系へと発展しているようだ。しかし、流行の移り変わりが激しい渋谷センター街では、世間に認知されると同時に終息へと向かい始めるという側面も持ち合わせる。時代の空気を敏感に捉えて行動する渋谷のティーンの、次なる動向に注目していきたい。