内閣府の「情報化社会と青少年に関する調査」(平成13年)では、携帯電話やPHSの利用状況と併せて友達や親友の数についてアンケートを行っている。対象は12~29歳までの男女だが、その中で年齢別・性別の結果を見てみよう。まず「同性の友達の数」は、男子では15~17歳が最も多く「31人以上」で28.3%、その他の年代ではいずれも「6~10人」が最も多かった。女子の場合は「31人以上」と答えた数が最も多かった年代は12~14歳で28.1%、15~17歳で28.4%、その他の18~22歳、23~30歳の年代では「6~10人」と答えた人数が最も多く、男女共、10代の友達が多いと言える。次に「親友と呼べる人」の数について見ると、どの年齢層でも、「2~3人」と答えた男性が約4割、女性が約5割という大差ない結果となっている。異性の親友の数についても、どの年齢層も「0人」という答えが50%以上だが、特に男女共12~14歳は「0人」と答えた人が約75%と最も多かった。
携帯電話の存在は友達事情にどのように影響しているのだろうか?調査の結果、15~17歳が最も多く答えた項目は「今までの友達関係をより強くするのに役立っている」で52.0%だった。同じ項目でその他の年代を見てみると、12~14歳は43.4%、18~22歳が42.7%、23~30歳32.7%と、年齢が高いほど数値が低くなっている。また、「友達を身近に感じることができる」や「新しく知り合った人と付き合いを長く続けることができるようになった」という回答でも、最も多かった年代は15~17歳という結果だった。
メールアドレスの登録件数についての調査結果を年齢別に見ると、平均件数は15~17歳が最も多く49.8件で、登録件数が100件以上という人の率も15~17歳が1番高く16.0%を占めている。12~14歳と23~30歳は平均件数が20件台と少なく、特に23~30歳は登録件数が30件未満だという人が約67%も占めている。以上のことからも、10代にとって携帯電話は、友達作りや友達関係の維持に欠かせないツールになっていることが伺える。
内閣府 青少年育成推進本部マーケティング会社「ブームプランニング」代表の中村さんは、仕事を通じて18年間に延べ5,000人以上の女子高生と接してきた。渋谷に集まる女子高生の生態に詳しい中村さんに、10代女子の友達事情について話を聞いた。「現代の女子高生には『友達はたくさんいたほうがいい』という意識が非常に強く、気軽に遊べる上辺だけの友達を数多くネットワークする傾向にある」と中村さんは言う。友達の紹介のほか、渋谷の街中でもすぐ仲良くなれるという女子高生同士は、特に渋谷で頻繁に遊んでいる子の場合、多くて200~300のメアドが携帯に登録されているそうだ。普通の女子高生でも、50~100人は気軽に遊びに誘える人脈を持っているという。「彼女たちには『常に誰かとつるんでいたい』という思いがあるものの、それぞれに部活や塾、バイトなどで忙しく、仲の良い子といつも一緒にいれるわけではない。そこで、学校帰りに渋谷へ行く途中『これから渋谷に行くよ』などとメールを打って、一緒にショッピングをしたりプリクラを撮ったり、カラオケをしたりして遊べる友達を多く持とうとするようだ」と見ている。つまり、誘う相手がダメだった場合のスペアは多ければ多いほど良い・・・ということらしい。
しかし、100人や200人もの友達がいて、全ての子と親しくなれるものだろうか。中村さんは「女子高生の場合、そんなに親しくなくても会話が成り立つ、というのが他世代とは違う特徴ではないか」と言う。高校生という一つの括りに属する彼女達は、たとえ学校が違っても何かしらの共通項があり、気軽な会話のネタには困らないということだ。こうした10代の「友達ネットワーク」の傾向は、ポケベルや携帯の普及が始まった1995年頃から見受けられ、現在20代前半の世代間にも継続して見られるのではと中村さんは推察する。
そんなにたくさんいる友達を、女子高生はどうやって把握しているのだろうか。中村さんは「携帯のメールアドレスの登録方法に工夫が見られる」という。多くの女子高生が「~つながり」という分類の仕方で友達を把握しているそうだ。例えば、同じ学校の友達は「同校(おなこう)つながり」、同じクラスの友達は「同(おな)クラつながり」、同じ中学出身の友達は「同中(おなちゅう)つながり」、その他「バイトつながり」「部活つながり」「塾つながり」などの分類があるという。また、渋谷やイベントで知り合った他校の友達の場合は男女に分け、女子の場合は「超メールする子」と「あんまりしない子」の2つに分ける。男子の場合は「ナンパされた子」「友達の紹介」「ブランド校」など、さらに細かく分類している子もいるという。ちなみにブランド校というのは、女子高生に人気のある男子校のことで、早稲田実業、関東第一、日大豊山(ぶさん)、法政第一(第二)、昭和第一、慶応義塾などが挙げられる。こうした男子校の生徒と友達になることは、文化祭の情報を得たり合コンをしたりするために有効なのだという。
通常は名前を入力する部分にも、出会った場所やその人の特徴などを登録している女子高生も多い。中村さんは「『タカシ君 渋谷 高2』などというのはまだかわいい方で、中には『タカシ君 小太り ×』などと、決して本人には見せられない登録をしている10代女子もいる」と話す。こうした登録方法は、特にナンパされた相手を覚えておくために使われることが多いそうで、うっかり連絡先を交換してしまった嫌な相手から電話が来た時は、出ないようにするための識別法なのだとか。中村さんは「友達何人?と聞くと、携帯のメモリー数を言う女子高生は多いが、実は8割9割がメールはするけれども大して親しくはない『知り合い』程度なのではないか」と見ている。
そんな10代でも「親友」と呼べる友達はどれ位いるのだろうか。中村さんは「何でも相談できる親友となると、やはり1人か2人という子が最も多い。よく遊んでいた気軽な友達との間に、何かしらのきっかけが生じて親友としての絆が生まれたり、高校生になって多くの友達ができた子でも、親友は小学校からの友達だけ、という子もいる」と話す。要するに、友達と知り合いの境目は曖昧で、入れ替わりも激しいが、友達と親友の壁は高いということなのだろう。なお、7月15日に講談社文庫から出版された「『ウチら』と『オソロ』の世代~東京・女子高生の素顔と行動」(中村泰子著)には、女子高生の友達事情も含め、中村さんの目から見た女子高生の生態が詳しく記されている。
ブームプランニング渋谷センター街を歩いている10代女子に、友達にまつわる意識を聞いてみた。現在中学3年生のスミレちゃん、アヤノちゃん、ミドリちゃんの3人は「友達はいっぱいいるよ」と口を揃える。人数を具体的に聞くと、それぞれ60人~100人くらいだそうだ。どうやって友達をつくっているのかという質問に対しては「友達の紹介で、そのまた紹介とか・・・」(スミレちゃん)、「学校で気になる子には、自分から声かける」(アヤノちゃん)、「渋谷で遊んでいると、声をかけられて友達になることも多い」(ミドリちゃん)と言う。しかし、携帯のメモリーは150人分登録しているというミドリちゃんでも、その全てが友達というわけではない。「何でも話せるのが友達で、一緒に遊んでいても気を遣う人は知り合い止まり」(ミドリちゃん)と、たとえ連絡先を知っていても、フィーリングによって友達と知り合いには境界線を設けているようだ。スミレちゃんは、「友達は自分から連絡するけど、知り合いは自分から連絡しない」と話していた。
「数え切れないくらい、友達はいっぱいいる」と答えたのアスカちゃんとミカちゃんは、現在高校1年生。アスカちゃんは「他校の学祭とか、イベントとかで」、ミカちゃんは「友達の紹介で」友達を増やしているのだそうだ。知り合いと友達の違いについて、アスカちゃんは「自分から個人的に会うのは友達。友達から紹介されたときはまだ知り合いで、メアドを交換した後、一緒にプリ(プリクラ)を撮ったりすると、もう友達になる」と言う。高3のミホちゃんとアユちゃんは、「友達は余裕で100人超える!」とのこと。やっぱり友達の紹介で少しずつ増えていくらしい。アユちゃんは「一緒にカラオケをして、音を外した時に恥ずかしいと思う相手は知り合い。音を外しても平気で、一緒に大騒ぎできるのが友達。親友は4、5人くらいいるけど、私が何をしても受け入れてくれて、しばらく連絡を取らなくてもOKなのが親友。信頼度と友達歴が、ただの友達とは違うかも」と、話していた。
高2のケイちゃんとハルちゃんは「友達は何人いる?」という質問に対して、まず「携帯のメモリーを見ないとわかんないよー」という第一声を発した。携帯のメモリー登録数=友達の数、ということらしい。ケイちゃんはメモリー95件、ハルちゃんは99件だったが「最近いっぱい消しちゃったから」とつぶやいていた。ケイちゃんは「友達から夜、遊びの誘いがあって、オールとかした時一緒にいた子を紹介されるとするでしょ。そこでメアドを交換すれば、友達になる」と言う。知り合いと友達の違いについては、ハルちゃんが「知り合いは会っても挨拶だけ。友達は渋谷で会えばしゃべり込む」と、独自の基準を教えてくれた。ハルちゃんもケイちゃんも親友は2人だけだというが、友達と親友の違いについては「親友のためだったら何でもできる。例えば、友達と男だったら男を取るけど、親友と男だったら親友を取るみたいな・・・」とハルちゃんは言う。友達をやめるのはどんな時かと聞くと「裏切られた時。ま、大抵はあんまり深く関わらないから、その子のメモリーを消すだけでケンカとかはしない。メアド変更して新しいメアドを教えなければそれまでだし」(ハルちゃん)と、ちょっとドライな意見が返ってきた。
携帯電話などのツールの普及により、現代の10代は「ゆるいつながり」ながら大規模な「友達」&「知り合い」ネットワークを築くようになった。一方で、強い絆で「友情」を抱き合う「親友」は今も昔も2~3人といった点は、時代が変わっても大きく変化していない。「友達」でも「親友」でもない「知り合い」は、事情の変化に応じて整理することができる「便利な」カテゴリーで、このカテゴリーの運用の仕方に、10代のコミュニケーション関係を解き明かす鍵が隠されているようだ。