明治28年に日本で初めての日記を発売して以来、日記愛好家に親しまれている博文館新社。編集部の大橋さんに、10代の日記帳の購入状況について話を聞いた。「以前は日記と言えば中高年のもの、というイメージが強かったが、ここ5、6年は若年層の購入客が少しずつ増えている」という。現在同社では、購入客のうち10代と20代が全体の35%で、おそらく10代だけでは10%程度を占めているだろう、とのこと。同社では3年、5年、10年と、続けて日記を記すことのできる「連用日記」という商品が人気で、とくに10代の場合、中学・高校の通学年数が3年間であるため、中学時代の日記や高校時代の日記を残しておこう、という目的の10代が3年連用の日記帳を多く購入する傾向にあるそうだ。
同社では、購入客からハガキによってアンケートを集めているが、日記帳を購入する客は圧倒的に女性が多い。中でも10代からは「かわいい表紙の日記帳が欲しいとか、真っ赤な表紙のものが欲しいとか、装丁についての要望が多い」と大橋さんは言う。以前はどちらかと言えば中高年の男性向け商品が主流だった同社も、10年ほど前からは女性向けにカラフルな装丁の日記帳や、ソフトカバーの日記帳などのラインナップを増やした。特に10代を含む若年層向け商品の開発については「携帯電話に見られるように、若い方にはシルバーやパール・ピンクのようなメタリック・カラーに人気があるのではと考え、日記帳の表紙にもそうしたカラーを使っている」とのこと。また10代の傾向として「日記帳のように長い文章を書くものよりも、システム手帳に記号や略語を記して日記代わりにしている方も多いのでは」と見ている。ポケット日記の「プチ・DX」という商品は、女子高生を意識して付録にミラーが付いている。表紙はミラーピンク、ミラーアイボリー、ミラーグリーンの3色で、メタリック調のパステルカラーだ。「10代はどちらかと言えば、記号や絵文字などの短い文章で日記を記すことを得意としているように思う。カラフルな装丁と魅力的な付録で、今後も10代は重要なターゲットとして商品開発をしていく」と、大橋さんは話す。
一方、Web日記やブログ日記などの利用者も増えている今、今後の日記帳販売の展望については「当社の日記帳が現在好調な売れ行きを示していることから、Web日記と手書きの日記は全く別のものと捉えている」と大橋さん。Web日記は公開することにより自分の意見を主張したり、第三者の意見を求めたりするものであって、手書きの日記は人に見られたくない本音の気持ちを書くものだからだ。「実際、アンケートハガキの意見の中には、10代女性から『鍵付きの日記帳はないか』という問い合わせが少なくない」という。手書きの日記は、本音の気持ちを書くからこそ、家族にも見られたくないものだったりする。手書きの日記を書く10代は、その日の出来事を書くことで自らの気持ちを整理したり、感情をコントロールしたりしているのだろうか。
博文館新社渋谷ロフトのプレス担当、田中さんに文具売場での日記の売れ行きについて話を聞いた。「いわゆる『日記帳』というしっかりした装丁のものは20代女性が購入客の中心となっていて、10代女子についてはここ2、3年、手帳を日記代わりにしている傾向が見られる」と言う。文具業界では、レフィルを1年ごとに交換するものを「システム手帳」といい、冊子になっていて1年ごとに買い換えるタイプの手帳を「カジュアル・ダイアリー」と呼ぶそうだが、同店のカジュアル・ダイアリーは売上の7~8割が女子高生だそうだ。1日分で1ページ、もしくは1週間分で1ページになっているタイプがよく売れていて、そのフリースペースにびっしりと日記を書き込む10代女子が多いという。
カジュアル・ダイアリーの売れ筋商品について聞くと「キャラクターもののほか、今年は人気作家のイラストを配した商品が好調に売れているが、やはり1番人気はディズニーキャラクター」と、田中さん。同店では8月末から2005年版のカジュアル・ダイアリーを揃え始めたが、ディズニーキャラクターのなかでも「くまのプーさん」「ベビーミッキー」「ベビーミニー」は人気が高く、早くも品切れを起こして再入荷した商品もあるそうだ。田中さんは「商品が多様化してきているため選びきれないのか、1人で2冊も3冊も買っていく女子高生が少なくない」とも話す。カジュアル・ダイアリーはこれから年末にかけて売れる商品だが、現在でも週に200~300冊は出ている。年末には現在の3倍が売れる見通しという。
10代女子が手帳に日記をつける理由について田中さんに聞いた。「10代は何でも書きたがる傾向にあると思う。手帳は常に持ち歩ける手頃なサイズのため、電車の中などでも思いついた時にすぐ書き込むことができ、日記というよりは友達との会話のための『ネタ帳』的要素が高いのではないか」と推察する。かわいい人気キャラクターものの手帳にこだわりを持って早い時期から購入するのも、シールを貼ったり自分なりにアレンジするのも、友達に見せて話題にするためではないかと言うのだ。日記と言えば、昔はしみじみと自分の思いを綴るものだったが、現在の10代女子にとっての日記とは、その日の出来事を書き留めておく「メモ的」要素が高まっているようにも見受けられる。
渋谷ロフト渋谷を歩いているティーンの女の子10人に話を聞いてみたところ、「現在あるいは過去にスケジュール帳に日記を付けていた」のは6人だった。「友達が書いていた日記を見せてもらったのがきっかけで、自分も日記をつけるようになった」と言うのは高1のヒデヨちゃん(15歳)。友達に見せることを前提に書くため心境などは書かず、誰と何をしたかだけを書き留めておくのだそうだ。「手帳を見ながら友達と話すと話が弾むから」と、ヒデヨちゃんは言う。高3のハルカちゃん(17歳)は、「中学生の時はスケジュール帳に日記を書いていたんだけど、高校に入ってから面倒くさくなってやめちゃった」と話す。今は日記を書きたくなるときはないのかと聞くと、「楽しいことがあった時とか、イベントがあった時とかに日記を書きたくなるんだけど、大抵は初めに頑張りすぎていっぱい書いちゃって、その後続かないのがオチだから…」と、最初から続かないと諦めているようだった。中3のアヤノちゃん(14歳)は、「今年の5月から手帳に日記をつけ始めたところ。その日の出来事とか忘れたくないから、思い出として残すつもりで書いている」と言う。
以前は日記を書いていたけど「今は書くような出来事がない」と答えた10代女子も数名いた。高3のトモミちゃん(17歳)は、「中学校の時、登校拒否をしていたから暇すぎて、日記でも書こうかなと思い立って日記帳に毎日書いていた」と言う。先生に言われて「うざかった」事などを日記に書くことで、気持ちの整理をしていたそうだ。「字を書いていると、まぁどうでもいいか、って割り切れる気持ちになれたし」というトモミちゃんは、高校に入ってからは学校も楽しくなったらしく、日記を書く必要がなくなったようだ。また、高3のユウコちゃん(17歳)は、「好きな人とか、彼氏とかがいるときは、デートをした時のこととかを日記に書いていたけど、今は好きな人もいないから書くことがない」と言う。
インターネット上のWeb日記を活用していたという10代女子も2人いたが、現在はやめてしまっていた。中3のアヤノちゃん(14歳)は、「友達に誘われて、一時期交換日記をしていたんだけど、面倒くさくなって1ヶ月で終わった」と話す。また、専門学校生のマドカさん(18歳)は、「『魔法のi(アイ)ランド』っていうサイトで、無料でホームページが作れるよって、友達から教えてもらったのがきっかけ。ホームページを作っても日記くらいしか書くことなかったから」と言う。人に見せるための日記を書き、自分の日記を見た人が掲示板に意見を書いてくれるのが楽しかったそうだ。「でも、結局面倒になってやめた」(マドカさん)という。
悩みを抱えている時や、反対に忘れたくないほどの楽しいことがあった時に、日記に記しておきたいと思うのは10代女子に多く見られる傾向のようだ。しかし、やめるきっかけはほとんどが「面倒くさくなる」という意見だったように、あまり長続きはしないらしい。スケジュール帳に簡単に出来事を書き込む程度で、毎日欠かさずつけようなどとは思わないほうが、自然と長続きする。そんな要領の良さが、手帳を日記代わりにする10代女子から見受けられた。