ベネッセ未来教育センターから刊行された2004年版「モノグラフ・高校生VOL.71」では、「占いを信じるか」というテーマで調査データが発表されている。この調査は2003年12月から2004年1月にかけて、北海道・東京・鳥取の公立高校1、2年生のうち、計2,015名を対象に行なわれたもの。数ある占いの種類の中から代表的な占いを用意し、それらを信じているかという質問をしたところ、信じている率の高いベストスリーは1位が「星占い」(30.5%)、2位「おみくじ」(30.3%)、3位「動物占い」(23.3%)という結果になっている。性別でみると、女子が信じている率は「星占い」(41.6%)、「おみくじ」(37.1%)、「動物占い」(30.5%)、と、男子に比べて多く占いを信じる傾向にあると言える。また、「関心が無い」「無答不明」を差し引いた残りの64.4%の高校生は何らかの占いを信じているということになり、女子だけでみると78.0%が何か1つは占いを信じている、ということがわかった。
高校生が占って欲しい運勢については、「金銭運」「健康運」「恋愛運」「勉強運」「(友達との)相性運」「(家族全員の)未来運」の6項目を挙げ、占って欲しいと思うかを質問したところ、「ぜひ占って欲しい」「どちらかと言えば占って欲しい」と答えた高校生は、全体で1位が「金銭運」(76.7%)、2位「健康運」(75.0%)、3位「恋愛運」(71.6%)となっている。最も低かった「未来運」ですら65.0%あり、それだけ将来に不安を感じている様子や、「占いに頼りたい」、「決定するための選択肢が欲しい」という10代の思いが伺える。占って欲しい運勢についてもすべての項目で女子の割合が高く、女子は男子に比べて運勢を気にする、と言える。
しかし、占いとの関わり方については、「占いの結果によって信用したり、しなかったり、使い分けている」という質問に「よくある」「たまにある」と答えた高校生は全体の59.2%を占めていた。占い好きな高校生でも、その半数以上はただむやみに占いを信用しているわけではなく、占いの結果を使い分けていることがわかる。「占いの結果によって喜んだり、悲しんだりすることがある」という質問では「よくある」「たまにある」と答えた高校生が51.8%で、半数は感情面に影響があることは確かだ。しかし、「占いの結果を気にして、自分の予定を変更することがある」という質問に対しては、「よくある」「たまにある」と答えたのは9.1%で、このことから大半の高校生はある程度、占いと距離を持って付き合っていると言える。
ベネッセ未来教育センター「モノグラフ・高校生」SHIBUYA109-2の地下2階には、女子高生の間で「当たる」と評判の占い師がいる。渋谷の東急ハンズ前に本店を構えるアフガニスタン人のアミン・コヒィさんは、「渋谷のパパ」の呼称で親しまれ、西洋占星術の発端と言われている「ペルシャ占星術」を得意とする。アミン・コヒィさんに、10代客の現状について話を聞いた。「渋谷で占いをして22年になる。昔も今も9割の客が女性で、22年前の開店当初は女子高生が25%、女子大生が30%、OLや主婦が45%だった。現在では女子高生は5%程度、大学生とOL・主婦が半々くらいだろう」と話す。10代女子の客が減った原因について聞くと、バブル崩壊の影響で女子高生のお小遣いが少なくなったことと、携帯電話が普及したことで小遣いの大半を携帯料金が占めていることなどを挙げた。さらに、「10代女子が占いで聞きたいことは単純であるため、インターネットや雑誌、テレビなどの占いで十分満足できるのでは」と付け加える。複雑な悩みを抱える大人に比べ、女子高生たちの悩みは「恋愛ができるかできないか」「好きな人とは片思いか両思いか」「友達ができるかできないか」といった、二つに一つの答えを求める傾向が強いのだそうだ。
現在の10代と昔の10代では、占って欲しい内容に違いはあるのだろうか。アミン・コヒィさんは、「昔も今も変わらないのが恋愛に関する占いの要望で、『好きな人に告白をするのに最適なタイミングはいつか』『どんな方法で告白すれば成功するか』といった質問が多い」と話す。とくに現在では、「好きな人にフラれたら(同じ学校なので)学校をやめなきゃならなくなる」とまで思いつめている女子高生も少なくないそうで、アミン・コヒィさんは占いだけでなく、人生相談のアドバイスをしたり、カウンセリングをしたりすることも多いと言う。昔の10代と変わった点について「現在の10代は将来の経済面に対する関心が強い。『お父さんの仕事はうまくいくか』『自分も働くべきか』といったことを占って欲しいという女子高生は、数年前なら全くいなかった」(アミン・コヒィさん)という。占いの料金は高校生なら15分で2,000円だが、ひと昔前なら、女子高生でも1万円札で会計をする客が多かったそうだ。しかし現在は、小銭をかき集めてようやく2,000円を支払う女子高生が多く、両替用の1,000円札もいつしか用意しなくなったという。日本の経済情勢は大人たちだけの問題ではなく、10代のお小遣い事情や占いの内容にも影響を与えているようだ。
占い師に個別に占ってもらう10代は減っても、インターネットや雑誌などの占いに高い関心を示す10代は相変わらず多い。10代が占いに頼る背景を尋ねると、アミン・コヒィさんは「15、16歳頃というのは、精神的に少し大人になる時期であるため、悩みが増える年代だ。恋愛や友達関係に限らず、進路の面で親と自分の考え方が違ったり、将来の職業についても父親と母親で勧める道が違ったりすることに、不安を抱き始めるのがちょうど高校生ぐらいなのだろう」と推察する。思春期には誰もが悩みや不安を抱え、自分の目指すべきものに答えを探そうとする。友人や親など、身近に相談できる相手がいればそれで解決することもあるのだろうが、気軽な相談相手がいない子の場合は、占いによって答えを導き出してもらいたいという願望があるのではないだろうか。
渋谷のパパ渋谷の街を歩いていた10代女子にも、占いに対する関心について質問してみた。ある中学3年生の女の子は、「占いはしない。結果が悪かったら死んじゃう」と言う。裏を返せば、占いの結果を信じるからこそ、直面するのを避けているとも受け取れる。一緒にいた高校3年生の女の子は、「そんなに占いは好きじゃないけど、毎朝『めざましテレビ』の星占いはチェックしている」とのこと。
「南船橋の『ららぽーと』にいる占い師が当たるという噂があって、この間行ってきた」と話すのは、18歳のチカさん。最初に自分の性格についてズバリ当てられたため、今後の仕事のことや恋愛のことなど、将来の運勢を占ってもらった結果を信じているとのことだ。一緒にいた19歳のユカさんは、「『non-no』の占いのページは欠かさず見ている」と言う。ラッキーカラーやラッキーアイテムなどをチェックして、なるべく身に着けるようにしているのだそうだ。その結果、何かいいことは起こったかという質問に対しては、「あんまり…、自己満足のようなものだから。やっておけば何とかなるかな、みたいな」と苦笑いをする。結果はどうであれ、ラッキーなことが起こりますように、という願いを占いに託すことが習慣化しているようだ。
14歳のハルカちゃんは「好きな人との相性とかを占って欲しいと思ったことはあるけど、お店とかには行ったことがない。雑誌で相性占いとかはよくやるけど」と言う。雑誌などの星占いはよく見るそうだが、結果は信じないそうだ。「ラッキーカラーとかをチェックするけど、そんなに信じている訳じゃない。あわよくば、みたいなつもり」と、少し冷めた口調だった。16歳のアヤカちゃんは、「3、4年前だけど、コンビニのローソンにある情報端末で、無料で動物占いができた時期があって、友達同士ですごく流行った」と教えてくれた。やはり現代の10代にとっては、雑誌の立ち読みやインターネットなど、無料でできる占いが支持されているらしい。
ティーンズを対象にした市場調査やプロモーションを手掛けるアイ・エヌ・ジー(宇田川町)のスタッフ、中山さんに話を聞いた。「10代の女の子は確かに占いが好きだが、彼女達にとっては雑誌などの占いをチェックすることが習慣となっているだけで、その結果に左右されることはないようだ」と話す。同社では今年の春、登録スタッフに占いに関するアンケートを行ったが、「信じている占いはあるか?」という質問に対し、ノーと答えた女子高生は80%だったそうだ。イエスと答えた20%の女子高生に「それは何の占いか?」と聞いたところ、一番多かった答えが「雑誌『Pop teen』の星占い」で、次に多かったのが「めざましテレビの星占い」。しかし、なかには「学校に行く前に必ず『めざましテレビ』の星占いをチェックしているが、午前中で忘れてしまう」と答えた女子高生もいたという。
中山さんは「10代の女の子たちは、基本的には占いを信じているわけではないが、占いで運勢をチェックする行為自体に満足を覚えているのではないか」と見ている。占いで悪いことが書かれていたら気になるから、という理由でチェックし、実際に悪い結果が出ていても、すぐに忘れてしまって行動を変えることはない。また、良いことが書かれていたら覚えていて、励みにする。つまり、10代女子にとっての占いとは、「あまり重みのない、気軽なチェックに過ぎない」(中山さん)という。
アイ・エヌ・ジー占い師の元に足を運ぶ10代は、占いの結果よりも、相談相手やアドバイスを求めているように思える。また、雑誌などの占いページも、良い結果は喜び、悪い結果は気落ちするけれどもすぐ忘れる、という気軽なゲーム感覚に過ぎないようだ。占い好きと言われる10代女子でも、どうやらその結果が当たっているかどうかはあまり重要ではないらしい。行動を左右されることなく割り切って捉えているということからも、現実的な10代の姿が浮かび上がる。