日本観光協会による調査「平成15年度版 観光の実態と志向」によると、1年間のうち1泊以上の宿泊観光旅行に行った回数は、全体平均が1.21回であるのに対し、15~17歳は0.77回、18~19歳は0.68回となっている。1年間のうち1回以上の宿泊観光旅行をした人に対し、同行者の種類を尋ねた結果については、15~17歳の場合、1位が「職場・学校の団体」で38.4%、2位「家族」25.6%、3位「友人・知人」8.1%。18~19歳の場合は1位「友人・知人」32.0%、2位「職場・学校の団体」28.0%、3位「家族」20%という結果が出ている。主に高校生である15~17歳については、学校行事の修学旅行が旅の大半を占めており、10代は高校卒業を機に、友人や知人との旅行に自主的に目覚めるようだ。
「旅行の第一目的以外に何をしたか」という質問に対し、全年代で最も多かった回答は「温泉」(52.7%)だが、15~17歳は31.4%、18~19歳は40%と、ティーンは温泉に対する興味が他年代に比べて低い。反対に「レジャーランドやテーマパーク」という回答は全年代で13.7%であるのに対し、15~17歳は24.4%、18~19歳は24%と、年代別では最も回答数が多かった。
調査結果を元に、ここ数年の観光旅行の傾向について、日本観光協会の安本さんは「世代別では男女共に60代の高齢者による旅行が増えているのが近年の傾向。男女別では30代女子、40代男子がとくに増えている」という。一方10代は「10年前の調査結果を見ると、1年間のうち1泊以上の宿泊観光旅行に行った回数は18~19歳男子で1.0回、女子で1.5回であったことから、現代の10代は明らかに旅をしなくなってきている」という。昔に比べて旅をしなくなった今の10代は、余暇に何をして過ごしているのだろうか。
社団法人日本観光協会社会経済生産性本部・余暇創研では、2002年12月、15歳以上の男女3,000人を対象に調査した結果を「レジャー白書2003」にまとめた。調査では91種目の余暇活動を「スポーツ部門(28種目)」「趣味・創作部門(30種目)」「娯楽部門(21種目)」「観光・行楽部門(12種目)」に分類している。このうち「観光・行楽部門」について、性別・年代別の参加率(1年間に1回以上行なった人の割合・複数回答)を見てみよう。
男性 | 全体 | 10代 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60代~ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
(1)遊園地 | 29.5 | 33.3 | 34.6 | 52.8 | 39.5 | 13.7 | 14.5 |
(2)ドライブ | 55.1 | 29.6 | 68.1 | 65.6 | 58.8 | 59.2 | 41.9 |
(3)ピクニック、ハイキング、野外散歩 | 27.9 | 16.0 | 20.3 | 32.5 | 26.6 | 32.7 | 29.7 |
(4)登山 | 8.4 | 11.1 | 7.1 | 6.6 | 5.1 | 13.3 | 8.4 |
(5)オートキャンプ | 6.9 | 3.7 | 11.5 | 11.3 | 12.4 | 3.3 | 1.3 |
(6)フィールドアスレチック | 2.8 | 3.7 | 2.2 | 7.1 | 5.6 | 0.5 | 0.0 |
(7)海水浴 | 22.8 | 33.3 | 34.6 | 39.2 | 27.7 | 10.4 | 7.4 |
(8)動物園、植物園、水族館、博物館 | 36.5 | 21.0 | 28.6 | 58.0 | 37.3 | 28.4 | 35.5 |
(9)催し物、博覧会 | 18.4 | 9.9 | 14.3 | 22.2 | 21.5 | 17.5 | 19.4 |
(10)帰省旅行 | 18.8 | 8.6 | 13.7 | 23.6 | 23.7 | 16.6 | 20.0 |
(11)国内観光旅行(避暑、避寒、温泉など) | 53.8 | 32.1 | 46.7 | 49.1 | 50.8 | 63.0 | 62.3 |
(12)海外旅行 | 10.1 | 6.2 | 8.8 | 9.4 | 5.6 | 13.7 | 12.3 |
女性 | 全体 | 10代 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60代~ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
(1)遊園地 | 35.1 | 57.4 | 51.9 | 55.6 | 36.2 | 17.2 | 15.5 |
(2)ドライブ | 53.6 | 52.5 | 69.3 | 65.1 | 50.2 | 55.8 | 34.8 |
(3)ピクニック、ハイキング、野外散歩 | 34.3 | 19.7 | 32.8 | 44.0 | 33.5 | 40.3 | 26.0 |
(4)登山 | 7.6 | 13.1 | 2.6 | 8.3 | 5.9 | 11.2 | 7.4 |
(5)オートキャンプ | 5.5 | 6.6 | 7.9 | 9.9 | 9.0 | 0.9 | 1.0 |
(6)フィールドアスレチック | 3.6 | 4.9 | 3.7 | 9.1 | 4.1 | 0.4 | 0.7 |
(7)海水浴 | 20.8 | 24.6 | 31.2 | 44.8 | 18.1 | 6.4 | 6.1 |
(8)動物園、植物園、水族館、博物館 | 41.4 | 31.1 | 52.9 | 61.9 | 38.9 | 37.3 | 23.6 |
(9)催し物、博覧会 | 23.6 | 8.2 | 14.8 | 30.6 | 25.8 | 27.9 | 21.6 |
(10)帰省旅行 | 23.0 | 14.8 | 26.5 | 30.6 | 26.2 | 20.6 | 15.5 |
(11)国内観光旅行(避暑、避寒、温泉など) | 61.4 | 39.3 | 63.5 | 56.0 | 55.7 | 68.7 | 67.9 |
(12)海外旅行 | 12.5 | 9.8 | 20.1 | 9.9 | 7.2 | 17.2 | 10.5 |
10代の参加率が高い種目は、男子の場合1位が「遊園地」と「海水浴」で共に33.3%、3位が「国内観光旅行」で32.1%。一方、女子の場合は1位「遊園地」57.4%、2位「ドライブ」52.5%、3位「国内観光旅行」39.3%となっている。10代のうち約3人に1人が1年のうちに1回以上旅行をしていることになるが、「国内観光旅行」について他世代と比べて見てみると、男女共に世代別では1番参加率が低く、年齢が上がるにつれて参加率が高くなっていることがわかる。「レジャー白書」によると、余暇活動のなかで10代の参加率が比較的高いのは「趣味・創作部門」のうち「音楽鑑賞」「パソコン」の種目と、「娯楽部門」のうちの「カラオケ」「テレビゲーム」の種目だという。このことから、10代は余暇に観光・行楽目的で旅をするよりも、インドアの趣味や娯楽を楽しむ傾向が強いという。
財団法人社会経済生産性本部日本旅行業協会が、2001年に行なった消費者モニターアンケートの結果に、興味深いものがある。20歳以上の子供がいる人を対象に、子供が成人するまでの家族旅行回数を尋ねた上で、子供の性格について当てはまるものを自由に選択させた結果、成人するまでに20回以上家族旅行を経験している人の場合は「我慢強い」「思いやりがある」「協調性がある」「社交的である」など、周囲とのコミュニケーションに長けている傾向が強いことがわかった。その反面、成人するまでの家族旅行回数が10回に満たない人の場合は「頭に血が上りやすい」「自分勝手なところがある」「我が強い」などの選択肢で過半数を占めている。こうしたことから、同協会では、子供の情操教育に家族旅行が非常に有効であるとの見解を示している。
また、この調査では未成年期に家族旅行をしなくなった年齢や、子供を始めて家族旅行に連れて行った年齢についても調査している。家族旅行を「卒業」した年齢については、20~40代が15歳代と回答している。このことから、ちょうど中学校という義務教育を終えた時点で、家族旅行を卒業するケースが多いことがわかる。一方、50代、60代になると家族旅行を卒業する年齢は最高19歳まで上がっており、現在の50代が未成年だった1960年代頃から日本における家族の形態に変化が現れたことが伺える。また、子供が家族旅行「デビュー」する年齢については、3歳になるまでに家族で国内旅行をした子供の割合や、6歳までに家族で海外旅行をした子供の割合が年々増加しているという。こうしたことから、近年は家族旅行の「デビュー」も「卒業」も早まる傾向にあると言えそうだ。
社団法人日本旅行業協会(「親子の絆と旅行」アンケート)10代の場合、そのほとんどが学生であるため、経済的な問題から他年代に比べて贅沢な旅行がしにくい環境にあることは否めない。しかし、1回2,300円でJR全線の普通列車が乗り放題になる「青春18きっぷ」や、割安な宿泊施設「ユースホステル」など、まさに10代向けとも言える旅のツールは今も存在する。ティーンによる現在の利用状況はどうなっているのだろうか。
「青春18きっぷ」は昭和57年、JRがまだ国営だった時代に生まれた商品だ。当初は「青春18のびのびきっぷ」という名称で、翌年の昭和58年から「青春18きっぷ」に名称変更した。現在の利用状況について、東日本旅客鉄道(JR東日本)、広報部の増矢さんは「青春18きっぷはJR6社で扱っているが、JR東日本のみで販売する数は毎年30万枚ほど」と言う。2003年に同社が実施した調査によると、購入客のうち10~20代は25%、30~40代は35%で、50代以上が40%を占めており、年々中高年層の利用率が高まる傾向にあるという。「青春18きっぷの『18』という数字は、若々しさの象徴として18歳をイメージして名付けただけ。実際の利用者の年齢制限はない」と増矢さんは説明を加える。発売当初の年代別利用比率に関するデータがないためはっきりしたことは言えないが、「18」という数字のイメージから若者しか使えないと思われがちだった「青春18きっぷ」も、認知度が高まるにつれ幅広い世代層へ浸透し、現在は旅行に意欲的なシニア層が最も多く利用するようになったのではないかと推測される。
東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)ドイツで生まれた世界的な「旅の宿」ネットワーク「ユースホステル(YOUTH HOSTEL)」は、現在世界に80ヶ国、5,500軒存在する。日本には北海道から沖縄まで約350軒のユースホステルがあり、宿泊料金は日本の場合1泊2,500~3,000円程度、海外の場合はさらに安く、経済的な宿泊施設として知られる。日本ユースホステル協会の波光(はこう)さんは「ユースホステル運動は青少年の教育を促進する場として始まったものだが、現状日本のユースホステルにおいて10代の利用客は減少傾向にあり、海外のユースホステルにおける日本人利用者も20代前半が中心となっている」と語る。
ユースホステルに宿泊する場合、会員になると1,000円引きになるという特典がある。新規登録会費は満4歳から中学生未満は1,500円(少年パス)、中学修了年齢から19歳未満は2,200円(青年パス)、19歳以上が2,500円(成人パス)で、有効期間は1年間。青年パスの対象者が3泊以上する場合は、会員になったほうが得というわけだ。ここ3年間の青年パス会員数の推移について聞いてみると、「2001年が4,370人、2002年3,742人、2003年3,203人と、年々右肩下がりの状態」だという。ユースホステル側としては、旅離れしている青少年に対し「教育の場」を前面にアピールしても、今は客が来ない。そこで近年は幅広い年齢層に対し、ただ安く宿泊できるだけでなく、その土地の特色や自然、文化に触れる様々なイベントを企画しているそうだ。
10代の旅離れ現象について、波光さんは「現代の10代には、さまざまな娯楽施設が身近にあり、趣味も多様化しているため、旅をしなくなったのでは」と推察する。テレビゲームやインターネットなどでバーチャルな体験ができる今、10代にとって『旅』は以前ほど魅力的でなくなっているのだろうか。
財団法人日本ユースホステル協会林檎プロモーション(本社:山梨県北巨摩郡)は、「全国安い宿情報」や「沖縄・離島情報」といった割安な宿を紹介する旅雑誌を出版しており、10代を含む若年層を中心に幅広い年代の読者に支持されている。同社編集長の窪田さんに、最近若者に人気の旅スポットについて聞いた。「最近は沖縄で安宿が急増しており、10代、20代の若者が集まってきているようだ」と話す。急増中の安宿というのは平均1泊1,500円ほどで、個人で部屋を改装し、2段ベッドを設置しただけの簡易的なドミトリー(相部屋)も多い。ユースホステルよりも安い分、設備も簡易的なもので、なかには旅館業の許可を取っていないようなもぐりの施設もあるという。安宿は沖縄本島や宮古島、石垣島などの都市部に集中しており、ここ2、3年の間に何十軒も出現しているのだそうだ。
小奇麗な身なりで清潔さに敏感というイメージの強い現代の10代が、こうした施設に集まるのは意外な気もする。窪田さんは「あえてチャレンジする旅を求めているのか、旅の目的が沖縄という場所ではなく、宿だという若者も多いようだ」とのこと。昔は物価の安いアジア圏の安宿に海外旅行をする若者は多かった。それと同じ感覚で、今は場所を沖縄に移したということなのかもしれない。友人と連れ立って行く若者もいれば、1人で行って見知らぬ人と相部屋生活を楽しむ若者もいるという。「若者にとって、ドミトリーはただ安く泊まれるというだけでなく、見知らぬ土地の人との出会いがあるという側面が魅力的なのでは。相部屋生活という環境のなかでは、日常よりも自然に友達ができやすいようだ」と窪田さんは見ている。
林檎プロモーションカラオケなどの身近な娯楽施設やテレビゲームなどが普及した影響で、10代は「外」へ目を向けなくなり、旅をしなくなってきた。旅をしなくても、インターネットやバーチャル体験を通じて、情報が吸収できるため、その必然性を感じなくなっているのだろうか。一方で、人気のテレビ番組「あいのり」などの影響もあるのか、観光目的よりむしろ「出会い系」の楽しさを求めるティーンが徐々に増えているのもまた事実。旅先という、リアルな非日常空間での体験は、やはり想像以上の感動を与える。こうした感動体験が、彼ら特有のクチコミで伝われば、また旅の魅力も違った形で見直される日も来るのではないだろうか。