全国カラオケ事業者協会がカラオケ業界の概要と市場規模をまとめた「カラオケ白書2004」によると、10代の1ヶ月あたりの利用頻度は他年代の約3倍と多く、とくに女子については10代が5.6回、20~24歳が3.2回、25~29歳が1.8回、30代が0.9回、40代が2.3回という結果になっている。20代以上は利用時間帯がナイトタイム中心であるのに対し、10代は昼間のフリータイムが中心で、10代の「カラオケボックスをよく利用する時間帯(複数回答)」は12時~16時が36%、16~20時が34%、20時~24時が28%、それ以降は16%である。1回の来店に対する滞在時間は全年代総合で1~2時間が37%、2~3時間が38%であるのに対し、10代は平均3.06時間と比較的長い。また、「1回の来店で満足できる曲数」は全年代総合で7.68曲に対し、10代男子は10.83曲、10代女子は11.34曲。
1ヶ月あたりのカラオケ利用金額については、全年代総合の5,410円に対し、10代男子は4,070円、10代女子は4,130円となっている。さらに1回の来店で使うお金は全年代総合で1,880円に対し、10代男子が1,450円、10代女子が1,070円という結果だ。いずれのデータも、10代は料金設定の安い昼間に高頻度で長時間利用するため利用金額は低いという傾向が表れている。
全国カラオケ事業者協会クリアックスは関東を中心にカラオケルーム「歌広場」を74店舗展開し、渋谷駅周辺だけでも6店舗を運営している。歌広場=略して「うたひろ」の愛称で10代に親しまれている同店は、料金設定の安さが幅広い年齢層に人気のカラオケルームだ。渋谷にある「歌広場」の中でも1番ルーム数が多いという「渋谷6号センター街本店」の吉田さんに、10代の利用状況について話を聞いた。「朝8時~夕方18時の昼間の時間帯は1日平均600~700名の来店客があるが、そのうち9割が10代客」と吉田さんは言う。男女の比率は3:2で女子のほうが多く、1番多いのは2、3人で訪れるケースだそうだ。大人数の団体での来店も少なくないが、「10人程で来店し、『何部屋かに分けて入りたい』と希望するのも10代客の特徴」(吉田さん)とのこと。料金は1人いくらという設定になっているため、ある程度の曲数を歌うためには2、3人で1ルームを利用するほうが効率的ということだろう。
歌広場の料金設定は店舗によって若干異なり、時間や曜日によっても変更する。「歌広場 渋谷6号センター街本店」の場合、平日昼間(朝8時~夕方18時)は1人30分90円、平日夜間(夕方18時~朝8時)は1人30分340円。金曜、土曜、祝前日の夜間は1人30分390円となっており、別途飲み物を頼むワンドリンク制度を導入している。また、同店では特に高校生割引を設けており、18時~19時の1時間は学生証を提示すると昼間の料金=90円で利用できる。吉田さんは「学校を17時に終了した高校生が、渋谷に着くのは大体18時頃。そうした高校生を取り込むためのサービス」と説明する。時間や曜日によって変わる料金設定は、20代以上の客になると説明が必要となる場合が多いそうだ。しかし、高校生の場合は常連客が多く、使い勝手を知っているために説明が不要とのこと。「当店は料金が前払い制だが、高校生客の場合『会計を別々にしてほしい』と言われることが多いのが印象的」とのこと。少ないお小遣いを割いてカラオケに来る10代は、会計もきっちりワリカンにするというわけだ。
高校生が1回の来店で利用する時間は1時間半~2時間が平均的とのことだが、吉田さんは「以前、歌広場の新宿店に勤めていたときは、朝の8時から夜22時まで滞在した17歳の女子2人客がいた」と話す。新宿店には朝8時~夜20時まではフリータイム・フリードリンク制で980円というコースがある。2時間の延長分を含めても、14時間で1人2,340円の計算だ。また、吉田さんは「満室状態で待ち時間が長くても、おしゃべりをしながら平気で待っていられるのが10代の傾向」だと言う。大人は待ち時間が長いと他店に流れる傾向にあるが、10代は20分程なら当然のことのように待っているそうだ。しかし、おとなしく待ちながらも自分達が何番目に案内をされるか、ほかの客に抜かされていないかなどをマメにチェックするということから、「しっかりした」10代の姿も浮かび上がる。
カラオケの曲を選ぶとき、以前は「うた本」「目次本」などと呼ばれる冊子をめくるのが一般的だったが、最近は電子目次本機能とリモコン機能を兼ね備えた「デンモク」を導入したカラオケボックスが増えている。「デンモク」はカラオケ機器のトップメーカーであり、カラオケルーム「ビッグエコー」を運営する第一興商が2001年に発売した商品。タッチパネル方式で「新譜検索」や「歌手名検索」、「曲名検索」のほか、ユーザーの年齢や希望する年代を入力して曲を検索する「あの頃検索」、同機で歌われた回数の多い人気曲がわかる「りれき100」など、さまざまな切り口で曲を検索できるアイテムだ。「デンモクのような最新機器を使いこなせるのも10代ならではの傾向で、20代以上の顧客の場合は未だに『うた本をもう1冊ください』などといった要望を受けることが多い」と吉田さん。カラオケ業界はレーザーディスク時代から通信カラオケ時代、そして現在はブロードバンド対応機時代へと突入しているが、時代の変遷に最も柔軟に対応しているのは、やはりティーンであるようだ。
とは言え、カラオケルーム側にとってみれば、10代客は料金設定の安い時間帯に来店するため客単価は低い。その点について、吉田さんは「確かに経営上は非効率だが、10代の若年層客が多いことによって店に活気が生まれることは明らか。また、自分も含めて10代の頃にカラオケルームへ頻繁に通った人は、大人になってからも変わらずカラオケを楽しむ傾向がある」と語る。歌広場は目先の利益だけを追うのではなく、現在の10代が数年後、大人になったときのことも考慮しながら、今後も10代客にアピールする取り組みを続けていくという。
歌広場 第一興商「歌広場 渋谷6号センター街本店」でアルバイトをする10代のふたりに話を聞いた。ひとりは歌広場でアルバイトを始めて1年8ヵ月。友達の間で流行っているカラオケルームでの遊び方について聞いてみると「替え歌、かな…」と恥ずかしそうに答える。例えば、ラブソングの歌詞に「あなた」という部分が出てきた場合は、好きな人の名前に置き換えて歌うそうだ。もうひとりは「歌うだけじゃなくて、パラパラの練習とかもよくする」と言う。カラオケルームでダンスの練習をするのは、お金が掛かってもったいと思いがちだが、「店のショーウインドウの前とか、外で練習するのはギャルが中心だから、ウチラみたいな普通の高校生は(ギャルが)怖くてできない。人に見られるのも恥ずかしいし、カラオケルームだと曲を流しながら練習できて、しかもうるさくしても平気だし、便利だから」と説明してくれた。
ふたりともカラオケは大好きだと言うが、ひとりは「月に2~3万円はカラオケ代に使っている。カラオケルームでバイトして、その3分の1を会社に返してる感じ」と、笑う。それでも友達の中にはさらなるカラオケ好きが多いらしく「週に5回カラオケに行くとか、1人でも行くとか、1日中いたことがあるとかいう友達もいる」とのこと。彼らは、どうしてそこまでカラオケが好きなのだろうか。「やっぱ『アゲアゲ』になれるし…」という言葉が飛び出した。「『アゲアゲ』っていうのはテンションが高くなるっていう意味で、いろんな遊びの中でもカラオケが1番盛り上がる」と話す。さらにカラオケでアーティストになりきって歌うことを「盛って歌う」とも言うそうだ。大人の場合は過剰に自己陶酔して歌うことを恥ずかしがるものだが、10代の彼女達にとっては「盛って歌う」のは楽しいことで、一緒にいる友達に「盛ってたねー」と言われることは「オイシイこと」なのだそうだ。こうした10代特有の自己表現の豊かさが、カラオケ熱上昇の背景にあるのかもしれない。
今週から中高生は夏休みに入り、渋谷センター街は今、10代の若者達で溢れかえっている。そんなセンター街を歩く10代にカラオケ事情を聞いてみた。ユウリさん(17歳)とナギサさん(16歳)は、「たった今、『カラ館』で歌ってきたところ」と言う。「カラ館」とは、ビーアンドブイが運営するカラオケルーム「カラオケ館」の略称で、渋谷には3店舗ある。週1回のペースで1回平均2時間歌うという彼女達は、「ずっとカラオケしてるわけじゃなくて、疲れたらしゃべるし、パラパラの練習とかハモる練習とかもする」という。また、現在中学生のアンナさん(14歳)とユキさん(15歳)は、「よく行くのは『うたひろ』。1番安いし・・・」とのこと。この二人も週1回ペースで、1回2時間が平均だそうだ。カラオケに行くのは「遊んでいて楽しくなって、盛り上がった時」だと言う。10代にとってカラオケは盛り上がりに欠かせない遊びとしてすっかり定着しているようだ。
カラオケ館ノドカさん(17歳)とナオコさん(16歳)は、「カラオケはストレス解消」と声を揃える。ノドカさんは「中学生のとき、テストの打ち上げでクラスの友達と20人くらいでカラオケに行ったことがある。担任と校長先生も誘って来てもらった」と語る。ノドカさんの十八番は「松田聖子」、ナオコさんは「ピンクレディー」と意外な返答。「最近の歌よりも昔の歌のほうが歌詞がいいから。友達がみんな知っている歌とか歌ってもつまんないし、みんなが知らない歌を歌うのが好き」と言うのはノドカさん。10代は、ただ流行の曲を歌って仲間内で盛り上がるだけではなく、歌詞に共感できるかどうかも選曲の重要なポイントになっている。
カラオケボックスでは仲間内だけで、人目を気にせず歌ったり踊ったり、騒いだりもできる。そうした狭い空間だからこそ、カラオケをすることは10代にとって最も盛り上がれる遊びなのだろう。カラオケをするにはアルコールが入ってないと気恥ずかしい、という大人は少なくないが、お酒を飲まない10代にとっては昼も夜も関係なく、「盛って歌う」こと自体を楽しむ。自己演出でアーティストになりきる10代のカラオケ熱は、この夏さらにヒートアップしそうだ。