2004年7月1日、渋谷区宇田川町に献血ルーム「SHIBU SUN(シブサン)」がオープンした。「SHIBU SUN」とは、渋谷で3ヵ所目の献血ルームであることと、「SUN=太陽」のように明るい輝きを放つ献血ルームを目指すという意味を掛けあわせ、「シブサン」という愛称で親しみを持ってもらいたいという思いから名付けられた。東京都内における献血ルームの新設は、実に7年振りだという。日本赤十字社、東京都赤十字血液センターの企画部企画課主事の三根さんに開設の狙いを聞いた。「『SHIBU SUN』は全血献血のみを行う施設で、交通の便が良く人通りの多い地であることから、回転を早く安定的に全血を採取することを目的に開設した」と、三根さんは説明する。献血方法には全血献血と成分献血があり、全血献血には200mlと400ml、成分献血には血漿(けっしょう)成分献血と血小板成分献血がある。全血献血の場合、採血にかかる時間は5~10分程度、成分献血の場合は40~90分程度かかるそうだ。なお献血方法のうち、全血献血200mlのみが16歳から行うことができるが、それ以外は18歳以上からと定められている。
「SHIBU SUN」のような全血献血ルームの開設は、都内初のケース。なぜ今「全血献血」ルームが必要なのか。三根さんは「現在赤十字が取り組んでいる『安全性の更なる向上』のための項目の一つに『新鮮凍結血漿の貯留保管延長』の実現がある。このため、医療機関からの要請に基づく通常の採血計画のほかに、貯留保管分の全血献血を確保する必要が生じている」という。また、東京都内では献血バスによる街頭献血会場の確保が困難になってきていることから、恒常的に全血献血の受け入れを行おうという意図もある。
「SHIBU SUN」が立地する渋谷センター街は、言わずと知れた「若者のストリート」。特に若者に対しての献血の呼び掛けに力を入れる必要性があるのだろうか。「SHIBU SUN」の管理係長である河替さんは「若い頃に献血を経験した方は、その後もコンスタントに協力してくれる率が高い。少子高齢化が進む今、現状の献血者比率のまま推移していくと、今後の救命医療に重大な支障をきたす恐れがある。そこで、若い世代にこそ献血に親しみを持ってもらい『SHIBU SUN』を『献血デビューの場』にしていただきたいと思っている」と語る。「SHIBU SUN」がオープンして約1週間、現状は「やはり渋谷という場所だけあって、若者が多い。20代前半の女性が一番多く、高校生も来る」と河替さんは言う。10代の献血者は友達と連れ立ってくることが多く、興味本位でふらっと立ち寄る子が多いのが傾向だそうだ。10代はポスターやチラシを見て自主的に来る子はほとんどなく、友達からの勧めや紹介、クチコミが大半を占めているらしい。「SHIBU SUN」の待合室に置いてあった落書き帳を覗いて見ると、女子高生のような丸文字で「今日は○○君と献血に来た。これから渋谷では『献血デート』が絶対流行る!」などと書いてあった。「きっかけは何であれ、献血をすることで『ちょっといいことをしたな』と感じてもらえればそれでいいと思う」と河替さんは語る。今後、いかにして高校生に献血をしてもらうか、「SHIBU SUN」では10代向けのキャンペーンやイベントの企画を模索中だ。
日本赤十字社10代を始めとする若者に献血の協力をしてもらうため、献血ルームでは現在、どのような取り組みを行っているのだろうか。三根さんは「成分献血を行っている献血ルームの場合は、献血者の滞在時間も長いため、様々なサービスを用意している」と言う。そこで、渋谷駅西口で成分献血をメインに行っている「SHIBU2(シブツー)」の所長、高橋さんに話を聞いた。「当献血ルームでは、飲料の自動販売機を設置しているほか、クッキーやおせんべい、ドーナツ、アイスクリームなどの食べ物をすべて無料で提供している。そのほか雑誌や漫画、ビデオ、DVDも揃え、プレステ2も1台導入した」と、高橋さんは話す。「SHIBU2」は全部で14台ある献血ベッドのうち、12台が成分献血用のベッドであるため、献血者の滞在時間が長い。そのため、いかに快適に楽しく過ごせるかを配慮した設備となっていて、若者にも人気とのことだ。
「献血ルームにおけるサービスは各責任者に一任しているため、献血ルームによって異なる。献血者の年齢層なども地域によって変わるため、サービスの違いがそれぞれの献血ルームの個性になれば良いと考えている」と、三根さんは語る。都内で一番大きい「新宿東口献血ルーム」ではハンバーガーを提供するほか、池袋の「献血ルームぷらっと」にはリラクゼーションチェアーが、「献血ルーム吉祥寺タキオン」には体脂肪計などが用意されているといった具合だ。また、三根さんは「サービスと同様、各献血ルームによって独自のイベントを行い、広く献血協力者を募るよう取り組んでいる」と言う。たとえば、手相占いやタロット占い、ネイルカラー、カラーコーディネイト、手作りパンお菓子教室、毛髪診断、指圧、等々。一昔前のイメージとは全く異なる豪華なサービスと楽しいイベントが、今の献血ルームでは行われている。
そうした取り組みの結果、現在ティーンはどのくらい献血に協力しているのか、日本赤十字社によると、平成15年度に献血をした16~19歳は全国で5万5,543人、年代別の比率は8.9%を占める。一番多いのは20~29歳で20万6,202人、年代別比率は32.9%(表1参照)。しかし、10代といっても16歳以上のため、他年代と違って全体数は少ない。また、10代献血者の年代別比率については平成13年度が10.1%、平成14年度9.7%、平成15年度は8.9%と年々減少する傾向にある。これは、団体献血を受け入れてくれる高校が減少したことも影響しているため、「献血ルームにおける10代献血者の割合は変化していないと予測される」(三根さん)という。
平成13年度 | 平成14年度 | 平成15年度 | ||||
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献血者数 | 比率 | 献血者数 | 比率 | 献血者数 | 比率 | |
16~19歳 | 60,273 | 10.1% | 60961 | 9.7% | 55,543 | 8.9% |
20~29歳 | 211,192 | 35.5% | 214451 | 34.2% | 206,202 | 32.9% |
30~39歳 | 152,830 | 25.7% | 167069 | 26.6% | 174,816 | 27.9% |
40~49歳 | 87,113 | 14.6% | 95354 | 15.2% | 100,640 | 16.1% |
50~59歳 | 62,626 | 10.5% | 65837 | 10.5% | 65,220 | 10.4% |
60~69歳 | 21,358 | 3.6% | 24076 | 3.8% | 24,515 | 3.9% |
合計 | 595,392 | 627,748 | 626,936 |
次に、「SHIBU2」における平成15年度の年齢別、男女別実績のデータ(表2)を見ると、10代献血者は2,436人、年代別比率は9.4%と、全国値に比べ上回っている。男女別で見ると、男838人、女1,598人で3.5対6.5の割合で女性のほうが多い。全体的に見て、16~29歳までは女性の比率が高く、30~69歳までは男性の比率が高いことから、若い年齢層は女性のほうが献血に意欲的で、年齢が上がるに連れて男性のほうが多くなる傾向にあるようだ。
「SHIBU2」で献血に来ていたティーンに話を聞いた。ユミちゃんとユウコちゃんは同じ大学の1年生で18歳。ユウコちゃんは「献血は今日で13回目。16歳のとき、部活の大会の帰りにすごく喉が渇いていたんだけどお金がなくて、『献血ルームならタダでジュースが飲める!』と思ったのがきっかけ」と話す。ユミちゃんは「高校のときは地元(群馬県)の近くに献血ルームがなかったから知らなかったけど、大学に入って上京して、ユウコちゃんに誘われたのがきっかけ。今日で5回目」と言う。「SHIBU2」の設備やサービスについては「ここまでしてくれちゃっていいの?っていうくらいありがたい。嬉しい!」と2人で口を揃える。献血をするという行為は彼女達にとってどんな意味があるのかと聞くと「手軽に人助けができて、自分もおいしい思いができる。ちょっとイイコトをしている気持ちになれる」とユウコちゃん、ユミちゃんも「手軽なボランティア」だと語る。ユウコちゃんに誘われたのがきっかけだというユミちゃんも、その後大学の友達に声を掛け、今では3人で来ることが多いそうだ。「大学の授業の合間とか、ちょっと時間ができたときに3人で来る。もう『献血友達』みたいなもの」と、2人は笑う。
1人で来ていたアンナちゃん(17歳)は、血液に異常はないものの、足に血が溜まっているという体調不良のため、その日は献血をすることができなかった。「さっきまで友達と遊んでいて別れて、これから恵比寿に行くんだけど、時間が余ったから来てみた。献血ルームは今日が初めて」とアンナちゃん。彼女の知り合いに「献血が趣味」という人がいて、話を聞いて興味を持ったのだという。「興味本位だったけど、人の役に立つならいいことかなと思って。献血ルームはいろいろあってすごく楽しそうだし、今度は体調のいいときにまたチャレンジしたい」とアンナちゃんは語る。
現在20歳だというアイコちゃんは、17歳の時に友達に誘われたのがきっかけで定期的に献血をするようになったという。その日は妹のサヤカちゃん(16歳)と一緒に「SHIBU2」に来ていた。「身近な人助けとしてやるべきだ、と妹に勧めた」というアイコちゃん。一方サヤカちゃんは「お姉ちゃんに誘われて何となく来たけど、思っていたより献血ルームがきれいで、スタッフの人がすごく優しい。ジュースとか食べ物もいっぱいあるし、これからも献血をしに来ようと思う」と話していた。
「SHIBU2」で看護師として勤務している国井さんに、10代献血者の特徴について聞いた。「友達に誘われて数人で来る子が多いが、女の子の場合、なかには途中で針が怖くなって、やっぱり止めると言い出す子もいる」と国井さんは言う。献血の採取針は内径で0.9ミリあり、とくに血管の細い女性の場合はそれなりの痛みを伴う。怖れなどの精神状態は献血後の体調にも大きく影響するため、無理はしないで欲しいと国井さん。「献血をする子には地味な子もいれば派手な子もいる。しかし共通しているのは、どの子にも多かれ少なかれボランティア精神があるということではないか」と、国井さんは推察する。
無料でジュースやお菓子を飲み食いでき、漫画やDVDなども楽しむことができる現代の献血ルーム。もちろん、そうしたサービスに引かれて献血をしに来る10代は多い。しかし、献血の種類によっては40~90分の時間が掛かり、しかも人によっては痛みも伴うのも事実だ。そうした点を踏まえると、例え遊び感覚で来る10代の間にも、何らかの形で「人の役に立ちたい」「いいことをしたい」という社会貢献意識が垣間見えたのが印象的だった。