特集

女子高生の人生観は超ポジティブ?
渋谷のティーンズは何を悩む?

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■9割が「恋愛」で悩みを抱える10代女子

毎週末、ハチ公前広場の路上で「お話ききます」の看板を掲げ、無料で多くの人の「話し相手」になっているのは枚方バンダムさん(30歳)。枚方さん自身が芸人を目指して上京後、その夢に挫折したとき、人前で話す仕事とは逆に「人の話を聞く」仕事はないのか、と考えたのがきっかけとなり「お話ききます」を2001年9月から路上で始めた。当初は渋谷と横浜で行っていたが、現在は渋谷・原宿と新橋の3カ所を拠点にしている。これまで、枚方さんが耳を傾けた相手は12,000人を超え、こうした体験を踏まえて6月3日には、枚方さん自身初のエッセイとなる「お話、ききます」が、徳間書店から刊行された。そんな枚方さんに、現代のティーンズはどのような悩みを打ち明けていくのかを聞いた。

「中高生の悩みは、男女ともに恋愛に関するものが圧倒的に多い。中でも、『出会いがない』という悩みや、『好きな人に彼(もしくは彼女)がいるが、あきらめようかコクろうか(告白しようか)で悩んでいる』といったものが目立つ」と言う。とくに女子の場合は、受験期にならないと進路についてもあまり深く考えないため、友達との会話も恋愛に関することが多くを占め、生活が恋愛中心という子が多いそうだ。男子の場合は、この比率が若干低くなり、恋愛以外にも他に趣味や興味がある、といった傾向が見受けられるという。「今の女子高生は、年上好きな子が多い。同級生は子供っぽく見えるらしく、大学生など年上の人と付き合うのが女子高生としてのステイタス・・・といった側面もあるようだ。そのため、出会いの場がバイトやイベントなどに限られる女子高生が『出会いがない』と悩んでいる」。そんなティーンズを、枚方さんは「人を臆することなく好きだと言えるのは、エネルギーがあっていいことだと思う」と加える。悩みながらも、恋愛をしている10代は輝いている。女子高生にとっては「恋愛」こそが、パワーの源となっているようだ。

10代の悩みの特徴として、枚方さんは「世の中で決められていることなど、現状に対して納得できないと、それについて悩み出すようだ」と見ている。例えば「なぜ援助交際をしてはいけないのか」と聞いてきた女子高生がいた。話をしに来た本人ではなく、その友達がやっていて、やめさせたいけれども相手を納得させることができなくて悩んでいる、ということらしい。枚方さんは、そのときなぜダメなのかを説明することができなかったと言う。基本的にはアドバイスや説教くさいことは言わず、相手の話を聞くだけに留めるのが枚方さん流だ。「その後、自分で援交をやっていたけどやめた、という子が話をしに来たので、なぜやめたのかを聞いてみると『だって、ダサイじゃん』のひと言だった。『これだ!』と思った。今の10代女子にとっては、『カワイイ』が最強で、『ダサイ』は最低という意識がある。説教をするよりも『だってダサイよ』と言ったほうが、10代には説得力があるのかも」と、枚方さんは話す。

徳間書店
枚方バンダムさん「お話ききます」 枚方バンダムさん「お話ききます」 枚方バンダムさん「お話ききます」

■一番の相談相手は友達、絶対しないのが学校の先生

枚方さんによると、10代の悩みの相談相手は1番が友達、次に先輩、家庭教師、塾の先生、親、そして最後が学校の先生だそうだ。しかし、女子の場合はとくに恋愛の悩みが大きいため、友達同士だと聞き飽きていてまともに聞いてくれない、というケースが多いという。そうなると、比較的年齢の近い先輩や家庭教師、塾の先生が相談相手として適任となるようだ。「以前話を聞いた女子高生のなかに、相談事があって先生のところへ行ったら『メアドを教えてくれ。メールでやり取りしよう』と言われたという子がいた。『悩みを聞いて欲しかったのに、なんでメル友になんなきゃいけないわけ? 意味不明!』と彼女は怒っていた」と枚方さん。10代はもともと『大人はキタナイ、ズルイ、オカシイ』という意識を少なからず抱いており、これにそうした出来事が加われば大人に対する反発が心の中で確立してしまう。すると、悩みを相談できる相手どころか、相手の存在自体が今度は悩みの種になってしまうのだ。「僕がやっている『お話ききます』の場所には色々な年代の人が来るが、中には、逆に生徒との接し方で悩んでいる教師もいた」と枚方さん。生徒と先生は毎日学校で顔を合わせていながら、お互いにとって遠い存在になっている様子を伺わせる。

恋愛の悩みの次に多いのが「将来に対する悩み」「夢に対する悩み」だそうだ。「渋谷という場所柄、女子はタレントやモデル、歌手になりたいという10代が多い。男子の場合はバンドを組んでいたり、ダンスをやっている子が多く『どうしたらメジャーになれるのか』という相談に来るが、本当にわからないわけではなく、目指すことが困難だとわかっているため、最初の一歩を踏み出せないでいるようだ」と枚方さんは推察する。友達や親に話しても「それは無理」と一蹴されてしまうが、自分の夢を諦められず、悩む。そんな10代が枚方さんに話をしに来るのだという。枚方さんは、そうした10代の心理を「答えは既に自分の中にあって、意見を求めている訳じゃない。誰かにちゃんと話を聞いてもらって、自分の頭の中を整理したいだけ」と、分析している。こうした方がいい、それはやめた方がいい、ということは、誰にでも言えることだと枚方さん。逆に、相手の話を黙って聞いてあげることのほうが難しい。しかし、それをするからこそ、枚方さんの元には本音を語る10代がやって来るのだろう。

恋愛や将来の悩みのほかには、学校に関する悩みも多い。しかし、世間では不登校などの原因の多くはイジメだと言われているが、実際はそうではないのでは・・・と枚方さんは言う。「学校に行きたくないという10代は、なぜ学校に行く必要があるのか」ということに、どうも納得がいかずに悩んでいる。高校で習う勉強が将来どれほど役に立つのか、『高卒』という学歴に何の意味があるのかを考えるということは、ある意味頭の良い子ほど学校に疑問を感じていると言える。何も疑問を感じない子は何も考えずに言われた通り学校に通っているのでは」。実際、相談者の中には高校を辞めてしまった10代も少なくない。しかし、中には後悔して、その後定時制や通信制の高校に再入学する子もいる。高卒じゃないと働けない仕事、入れない専門学校などがあることを知ると、再び高校に行こうと思うようだ。つまり、やりたいことが見つかって、高校に通う意味ができれば納得するということなのだろう。

枚方さんが、悩みを抱える渋谷のティーンズと接してきて感じることは「他の年代と比べてとてもポジティブだということ。とくに女子高生は『だってあたしら、これからも生きていかなきゃいけないじゃん』という意気込みが感じられる。20代、30代になると、考え方が後ろ向きで心が揺れている人が多いが、10代の場合は揺れながらも前向き」と枚方さん。その理由について、枚方さんは「10代は『今を楽しもう』という思いが強いのでは。渋谷の女子高生はとくに『高校生が最強』という意識が強い。女子高生は流行を生み出す中心にいて、世間にもてはやされているということを充分に自覚している。そのために『かわいくなりたい』『モテて、ちやほやされたい』という外見的な願望や悩み、それに対する努力が顕著だ」という。中には、援助交際や中絶の経験、小さな頃に親から性的虐待を受けたなどという深刻な身の上話をするティーンズもいるが、それでも『生きていかなきゃいけない』という強さが彼女達の中には潜在しているそうだ。

枚方バンダム 公式ページ

■「こうでなくっちゃ」という思い込みから生じる悩み

ティーンズを対象にした市場調査やプロモーションを手掛けるアイ・エヌ・ジー(宇田川町)には、同社が独自にネットワークした約5,000人にのぼる10代女子が登録されている。仕事の依頼などはすべてメールで行なっているが、スタッフを慕い、悩みを相談しに宇田川町の同社オフィスへやって来る10代女子も少なくない。同社スタッフの中山さんに話を聞いた。

「相談に来る女の子は、友達に相談しても解決せず、かといって学校の先生では世代が違いすぎて話にならず、親と友達感覚の関係を築いているとは言え、悩みを話すには恥ずかしい、というティーンズが多い」と中山さんは言う。ちょっと年上のお姉さん的存在が、相談相手とされる理由なのだろう。相談内容は「恋愛のこと、学校のこと、家庭のことが主だが、その根底にあるのは髪型や服装など、見た目を気にする10代ならではのものが多い」そうだ。具体的には「好きな彼の好みに合わせて髪型をこうしたい、こんな服を着たいけどどう思うか」「髪型を自由にしたいけど校則が厳しいから学校を辞めたい」「親がうるさくて服装を自由にできない、遊びに行けない」などだ。「学校を辞めたいという相談を受けた際は、重大な責任もあるためとりあえず引き止めるが、押し付けがましくないように近い立場から違う角度で提案している。渋谷の10代女子にとって、服装や髪型は周囲の友人についていくためには必須条件で、かなり重要な悩みになっているようだ」と中山さんは見ている。

周囲の友人についていくための行動の一つである「ギャルサー」=いわゆるギャルだけのサークルへの入会に伴う悩みも、現代の渋谷の10代を象徴している。「ギャルサーは、5、6年前から発生したもので、大きいところでは100人ほどメンバーがいるサークルもある。意外と規律が厳しく、先輩・後輩関係に悩んでいる子も多い」と中山さんは言う。ギャルサーでは、自分達で集まって遊ぶだけでなく、雑誌で人気の読者モデルなどをゲストに呼び、イベントなども行なっている。その有料チケットを、街中で一般の10代に販売するのもサークル会員の役目。「チケット販売数にノルマがあるサークルも多く、学校を休んでまで販売しているティーンズもいる。或いは、さばき切れずに自分で買い取らなきゃいけないけどお金がない・・・などと悩んでいる。そんな辛い思いをするくらいなら辞めたら、とアドバイスしても『友達が入ってるから』『街中で目立てなくなるから』などの理由で、ギャルサーを抜けられないようだ」と中山さん。一見、家庭や学校を抜け出して自由を謳歌する渋谷の10代も、意外に、渋谷ならではのコミュニティにおける人間関係や上下関係で悩みを抱えていようだ。

アイ・エヌ・ジー

渋谷の女子高生たちの悩みについて、その背景を中山さんは次のように推察する。「マスコミなどが採り上げることから、世の中で女子高生がもてはやされている。雑誌モデルを筆頭に人気のある女子高生がいて、『自分達もああなりたい』『女子高生はこうでなくちゃいけない』という意識が、彼女達の中で大きいのでは」。彼女たちは、現実的にはこうしたギャップを感じながらも、渋谷にいれば、それを埋められる可能性が高くなるとイメージがあるのかもしれない。外見、人間関係、将来の夢・・・渋谷の10代は多くの悩みを同時に抱えながらも、したたかに、ポジティブに時代を生き抜いていこうとするエネルギーがあふれていた。

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