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今夏の渋谷はアメカジ復調の動き?
10代「男子」のファッション事情

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■今夏、渋谷で「アメカジ」復調の動き

94年からスタートし、今では国立代々木競技場第1・第2体育館で定期的に開催されているカジュアルウエア・小物・雑貨の合同展示商談会「フロンティア」。同商談会には、多い時で100社以上の企業が出展する。今年4月13~15日の3日間に開催された展示商談会来場者の中には、買い付け商談目的だけでなく、今夏の傾向をリサーチするために来場したバイヤーも多かったという。フロンティア事務局代表の吉岡さんに、今夏の10代のメンズファッションについて傾向を聞いた。「今夏はシャツ、プリント物、デニムが多く見られた。傾向としては、ワンポイントで新鮮さを加味しているアイテムが多かった。例えばデニムでもウォッシュ加工や穴開き加工を施したものなど、定番商品ながら、ひうひとつの商品に各社でオリジナリティを出し、今年らしく洗練されているという印象を受けた」と話す。

ファッションの流行は地域性との関わりが強く、たとえば東京の中でも原宿、渋谷、代官山、青山ではその傾向が異なる。代官山や青山は10代より上の世代が多く、ティーンの街と言えばやはり渋谷。原宿はさらに年齢層が下がると吉岡さんは見ている。さらに、渋谷エリアの10代ファッションは大きく二分化されるそうだ。「ちょっとワルに憧れている、不良テイストのあるファッションを好むタイプと、実際より大人に見せようとするキレイめの服装を好むタイプ。不良ファッションの中でも根強い人気の『ヒップホップ・ファッション』が目立っている」(吉岡さん)。ヒップホップ・ファッションは、L.A.の黒人アーティストをルーツとしたファッションで、いわゆるアメカジの一種だ。10代の音楽好きや、タフなイメージのある黒人文化に対する憧れが、ヒップホップ・ファッションの人気を支えているのではと推察を加える。

アメカジは80年代後半に一大ブームを起こし、後に渋カジブームへと派生したファッションだが、今、このアメカジの「復活現象」が渋谷に起こりつつあると吉岡さん。「渋谷に昔からあるショップでは、かつてのアメカジ・ブームをリアルタイムに経験した30代、40代のオーナーがアメカジ・テイストの服を提案している。そうした店に訪れる10代の男の子は、かつてのアメカジ・ブームを知らないため、アメカジと意識せずに新しいファッションとして捉えているようだ。一昔前、ブームとなったアメカジには、ある意味説得力のある良さがある。それを、アメカジを知らない今の10代が敏感に感じ取ったのではないか」と分析する。

昔のアメカジ・ブームと、現在起こりつつあるアメカジ・ブームには、どのような違いがあるのだろうか。「今の10代と昔の10代で圧倒的に違うのは情報量。今は、インターネットや雑誌などで欲しいものがどこに行けば手に入るのかがすぐわかる」(吉岡さん)。そのせいか、渋谷のショップに来る10代は「雑誌に載っていた○○が欲しい」と言って買いに来るケースが多いそうだ。情報が多いだけに、自分のこだわりやセンスにいまいち磨きが掛からないのも今の10代の特徴。しかし、吉岡さんは「違う見方をすれば、今の10代は背も高く足も長く、スタイルが良い。昔の10代と違って、雑誌モデルの着こなしと自分の着こなしイメージに大差が生じないのかも。だからこそ、ネットや雑誌を見て自分に似合うものをチョイスできるのではないか」とも話す。一方、かつてのアメカジ・ブームをリアルタイムで経験している30代・40代は、自分なりのこだわりを持って来店し、さらに昔は買えなかった高価なもの、本格的なものを購入する傾向にあるそうだ。「渋谷には、ちょっとワルな大人、カッコイイ大人も多いため、そうしたアニキ分である30代・40代のファッションに憧れて追いかけているのが今の10代の男の子。裕福な家庭の子であれば、1本2~3万円の高級ジーンズも難なく穿いているし、そうした本物に手が届かない子達も、テイストだけは取り入れようとしている」と吉岡さんは付け加える。

渋谷の街を見渡すと、実年齢よりお姉さんっぽいファッションをした女の子と、ヒップホップ・ファッションの男の子の10代カップルが実に多いことがわかる。「女の子は年上の女性に憧れ、男の子はヒップホップのアーティストや、アメカジ・渋カジブームを築いたアニキ分の世代に憧れている。つまり、10代の子たちのファッションというのは、常に自分たちより一つ上のものに対する憧れの象徴なのでは」(吉岡さん)。若き10代が背伸びをしたがる傾向は、いつの時代も変わらないようだ。

フロンティア
フロンティア フロンティア フロンティア フロンティア フロンティア フロンティア

■10代男子のファッションは情報先行型

アメカジをベースとしたミックス・スタイルを提案している渋谷のセレクトショップ「ジョンズクロージング」(TEL 03-3464-7705)は1986年=ちょうどアメカジ・ブームの真っ只中にオープンした。同店オーナーの河原さんは、かつてのアメカジ・ブームをこう振り返る。「昔のアメカジ・スタイルはカレッジ・スタイル、スポーツ、ワークウエア、ミリタリー、サーフ、ウエスタン、バイカーなど、系統がはっきり分かれていて、全体的にベーシックなものだった。しかし、今のアメカジは昔のベタなアメカジと違い、アメカジ・テイストをモチーフにひねりを加えたデザインが主流になってきている。例えば、ウエスタン・シャツも生地はサーフを思わせるアロハ柄やミリタリー柄を用い、今流行りの光素材としてビーズを施すなど。アメカジの系統がミックスされ、よりお洒落に進化してきたのが今のアメカジだ」。同店の人気商品は、ニューヨークのデザイナーチームによる古着リメイクのブランド「VELVET MOTEL(ベルベット・モーテル)」やL.A.ブランド「Gnarly(ナーリー)」のTシャツなど。中には、イタリア製のデニムなども扱っており、「現在はアメリカやヨーロッパのブランドが、全体的にアメカジのテイストを取り入れたデザインを売り出しているため、今やアメカジというカテゴリーでははっきりと区別できなくなりつつある」と河原さんは話す。

それでは、実際の10代男子の消費動向はどうなっているのだろうか。18歳のときから同店で働き始めたスタッフの佐川さんは「今の10代の特徴は『それがなきゃダメ』という顧客が多い。雑誌などで見た目当ての商品がないと帰ってしまうなど、応用の利かない買い物をする傾向にある」という。ブランドが違っても同じようなテイストであればいいとか、目当ての商品がなくても他に気に入ったものがあれば・・・といった買い方はしないそうだ。佐川さんは「2つの商品で悩んだときは『どっちが売れていますか』と聞いてくるのも10代の顧客に多く見られる傾向。もちろん、その場合は売れている方を買っていく」と話し、さらに「『何を買ったらいいんですか』と聞かれたときは驚いた。自分のこだわりやスタイルを持っていない顧客が多い」と加える。10代より上の年代の男性は皆と同じ物を着ることに抵抗を感じるが、10代の場合は皆と同じ物を着ることで安心する心理が働くようだ。ファッションは本来、失敗を繰り返しながら自分のスタイルを確立していくものだと佐川さん。「私が10代の頃は、情報も少なければアメカジの店も少なかったため、古着を活用したりして工夫したもの。その点、今の10代は情報に頼りきっていて、紆余曲折しながら自分のスタイルを確立するといった煩わしいことを、する必要性がないのでは」と分析を加えた。

スケーターやサーファーなど、スポーツテイストのストリート・アウトドア・ファッションを提供する「STORMY(ストーミー)」も、古くから渋谷を中心に展開するショップだ。バイヤーの小和田さんは「現在、特にアメカジ・ブームの盛り上がりは感じていないが、商品の中にはアメカジ・テイストのクラシックなロゴや大き目のプリントが目立ってきているのは確かだ。10代の顧客には、明らかにオーバーサイズのものが売れている」という。スポーツ系やヒップホップ系のファッションは「動きやすさ」がポイントになっているため、だぼっとしたルーズな着こなしが普通だ。そのため、10代男子はパンツの裾上げもしない。長いままたるませて穿くのがカッコイイという定義なのだろう。「着こなし方としては、帽子がマスト・アイテムであり、服のカラーに合わせて何個も持っているというようなコレクターの10代も多いようだ」と小和田さんは話す。

帽子は今、メッシュ素材のキャップが売れ筋で、キャップのつばを斜めにして被るのが10代男子の特徴。真っ直ぐに被るのはダサイのだろうか。「10代男子にとって何がダサくて、何が流行っているのかという感覚は、少し前に比べるとだんだん薄れてきているようだ。アメリカ的な感覚で、『自分は自分』というスタイルを持っている子も増えてきたのでは」と小和田さん。また、ストリート系ファッション誌「クールトランス」編集部の宮本氏は「きっかけは海外アーティストの影響ではないか。着こなしで個性を出すためのもの。しかし、現在はまたまっすぐに被っている子のほうが多くなっていると思う」と話す。渋谷の街中でヒップホップ系ファッションをしていた10代男子は「帽子を斜めに被るのは前が見えやすいから。それだけ」と意外にそっけない答え。アツシくん(19歳)、タクヤくん(17歳)、ヒデユキくん(19歳)、ユウキくん(17歳)という4人組は、同じようなファッションをしていたが、好きなブランドはそれぞれ違うという。アツシくんがよく買い物をするのは渋谷に多くある、黒人経営のアメカジ店で、彼らの間では「ビーケーショップ」と呼んでいるそうだ。タフなアメリカをイメージさせる黒人が、彼らのファッションの手本となっているようだ。

STORMY
ジョンズクロージング VELVET MOTEL(ベルベット・モーテル)

■値頃感を背景に高まるアメカジ・テイストへの期待

また、渋谷におけるアメカジ復調の理由について、業界関係者の間では「近頃の消費者は、半年サイクルで変化するファッションのトレンドに振り回されることに飽きてきた。そうした消費者のニーズを汲み取ったメーカー側が、ベーシックで基本的なものを見直す姿勢を示すようになり、それがアメカジやデニム人気の要因」と捉えている。しかし、かつてのような大きなブームとなるのではなく、あくまでもベースとしてアメカジ・テイストがある、といった程度に留まる見込みだそうだ。ただ、かつてのアメカジ・ブームを経験した30代、40代が懐かしさによってまたアメカジに戻り、10代を含むヤング層がそれに憧れる形で市場が大きいことから、業界では大きなトレンドとしての期待感も高まっているようだ。

10代男子においては、少し前にトレンドとなった裏原系ファッションに比べ、アメカジ・ファッションの方が価格が安い点も支持される大きな要素となっている。輸入物のアメカジ・Tシャツでも1万円を超えるものは多くないと。さらに、アメカジには物づくりの歴史的背景に厚みがあることから、ブランド物に比べて価格に納得できる面もある。また、ブランド物の場合は、ある程度アイテムをブランドで統一する必要があり、しかもシーズンごとに買い換えるために費用がかかるが、その点、アメカジは初心者でも着こなしやすく、着回しができ、毎年買い足していくこともできる。小遣いの多くを携帯電話代に持って行かれる10代にとって、アメカジが人気を集めている背景には、そうした値頃感も大きく影響しているようだ。

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