財団法人外食産業総合調査研究センターが発表した「外食産業市場規模」によると、近年、寿司のマーケットはデータ上では縮小傾向にある。
《寿司の市場規模》 1998年=1兆5,169億円、1999年=1兆4,284億円、2000年=1兆4,109億円
注目すべき点は、今から約45年前に誕生した「回転寿司」の市場規模。15年前に3,000億円と言われたものが今日では5,000億円へと拡大。既存の寿司店が不明瞭な料金設定と敷居の高さで敬遠されてきた一方、回転寿司はリーズナブルな価格と入りやすい店づくり、注文しやすい環境を整え、寿司業界に革命をもたらした。回転寿司は既製の寿司店ばかりでなく、ファミリーレストランの顧客をも取り込み、市場を拡大した。1990年代半ばから始まった“激安回転寿司戦争”により、寿司に対するイメージのカジュアル化が一気に進んだ。特に宇田川町、道玄坂には「築地本店」「寅ちゃん」「台所屋」「天下寿司」「元禄寿司」「江戸一」など、有名回転寿司店がひしめき合い、一部の店は“行列のできる店”としてマスコミにも頻繁に取り上げられるようになる。行列のできる回転寿司は店内での食事の制限時間を設けるほど、文字通り驚異的な“回転率”を誇っている。このように回転寿司は、高級寿司店や料亭、割烹には足を向けない若者から寿司への抵抗感を消し去った。“激安回転寿司ウォーズ”の戦場となった渋谷は、“創作寿司”が登場する素地が整っていたとも言える。
日本の伝統料理のひとつ、寿司がアメリカに渡ったのは1970年代とされているが、1980年半ばにアメリカやロンドン、パリでブームになる以前に日系人の多いハワイでは、すでにSUSHIは認知されていた。ハワイのレストランでは、アボガド入りの「カリフォルニアロール」や複数の食材を巻いた「レインボーロール」などがすでに開発されていたが、その多くは日本人観光客をターゲットとした店に終始し、世界的に認知を得るには至らなかった。ちなみに、海外で“SUSHI”の代名詞として最もよく知れ渡っている「カリフォルニアロール」や「レインボーロール」など、日本では見受けられなかった名称は商標登録されていないため、どのレストランでも同名の品書きが見られる。
1994年にニューヨークに第1号店を進出した高級和食レストラン「NOBU」は、舌の肥えたニューヨーク市民にヘルシーで独創的な創作和食を提案。“ノブ”こと松久信幸氏が、現地で入手できる食材を基にアメリカ人の口に合う創作和食料理“SUSHI”を生み出した功績は大きい。俳優ロバート・デ・ニーロを共同経営者に持つ「NOBU NEWYORK」は、権威ある食通本「ザガット」誌で連続1位を獲得するなど、すぐさまセレブリティの間で話題となる。その「NOBU」が生み出した“ソフトシェルクラブロール(脱皮したての殻の柔らかい蟹を用いた巻き寿司)”を「海外での創作寿司の元祖」と呼ぶ業界関係者も多い。「NOBU」はその後、1997年ロンドン、1998年東京(南青山「NOBU TOKYO」=経営はソーホーズ・ホスピタリティ・グループ)、2000年ミラノ、2001年パリなど、世界の主要都市に進出し、どの都市でも“予約の取れないレストラン”として大成功をおさめる。ちなみに「NOBU TOKYO」では、ソフトシェルクラブロール(1,800円)、蟹とアボガドロール(1,400円)が味わえる。
ソーホーズ・ホスピタリティ・グループ渡米した料理人の手で広まっていく寿司は、やがて生の魚を食べる習慣が少なかった海外の都市に応じた形態に姿を変えて浸透していく。例えば食材として黒いものに抵抗を抱くことの多い海外では海苔を内側に、寿司めしを外側になるように巻く通称“裏巻き”を施したほか、日本の寿司では使わなかったアボガドをマグロの代わりに使うなど工夫を凝らしてきた。このような創作巻き寿司は“SUSH ROLL”と呼ばれ、独自の進化を遂げていく。手先が器用で食にも季節感や見栄えなど繊細さを求める日本人の編み出す“SUSHI ROLL”は“アート”として捉えられることもあるという。海外のSUSHIマーケットは、後に回転寿司の進出に結びつく一方、ファーストフード誕生の地、アメリカでは“SUSHI ROLL”をハンバーガーやサンドイッチをつまむのと同じ感覚で受け止められていく。さらに、ロンドンでは出前バイクによるデリバリーサービスも行われているという。
もともと日本には「見立て」を駆使した“細工寿司”や、江戸前では用いない食材をあてがった“押し寿司”など、広義の「創作寿司」の歴史は古くからあったが、アメリカやロンドン、パリなど、海外で進化を遂げた創作寿司は海外での人気料理として“逆輸入”され、“凱旋帰国”を果たすことになる。しかし、創作寿司が登場した場所は、既存の寿司店や回転寿司店でなく、新たな業態開発を試みる寿司バーや最先端のスタイリッシュなダイニング・バーだった。セレブ御用達の“予約の取れないレストラン”「NOBU TOKYO」(南青山)が1998年にオープンしてから約4年の間に、リーズナブルな価格で創作寿司を提供する飲食店が飛躍的に増えることになる。
1999年12月、表参道交差点のビル地下に、創作寿司を扱う「表参道ICHIZ」がオープンした。「敷居が高い」「料金がわかりにくい」「女性が入りにくい」という従来の寿司店のイメージを一新し、20代後半から30代前半の大人の女性が気軽に立ち寄れる店として短期間に人気を獲得する。同店は午前4時まで営業していることもあって大人の客が多い。2001年7月には「銀座店」を、2001年11月には渋谷パルコPART1の「ダイニング&ガーデン」7Fに「パルコ店」を出店し、独自のブランドを確立する。同店を経営する「にっぱん」は、都内に江戸前寿司チェーン「魚がし日本一」を30店舗を運営する企業。
「表参道ICHIZ」副店長の伊世さんによれば、新業態の開発に携わったのは、20代半ばの社員ばかりであったという。「本社は『魚がし日本一』で寿司店のカラーが強いが、会社から“新たな寿司店を考えてみなさい”と指示されたのでなく、“場所だけは会社が用意するが、あとは自分たちで開発しなさい”というスタンスだった。そこで20代のスタッフが集まって考えたのが、米と魚にこだわる創作和食の店だった」と言うように、20代の社員が“企業内起業家”として取り組んだ成果が同店である。創作寿司は「寿司にこだわるのでなく、米と魚にこだわった結果、題材として寿司があった。それも既存の寿司でなく、逆輸入アプローチの寿司だった」という。同店では「美彩(びさい)寿司」と命名された創作寿司が取り上げられることが多いが、「味彩(あじさい)寿司」とネーミングされた江戸前、炙り寿司のほかに炭火焼料理も充実している。「ICHIZを立ち上げる時の課題は、ワインやカクテルなど飲み物と料理とのベストマッチングだった。今でも課題は変わらない」と、伊世さんが話すように“ワインやカクテルに合う魚”を中心に料理を考案した。人気メニューは、炙り中トロ黒こしょう風味(950円)、海老タルタルときんぴら牛蒡(ごぼう)の重ね寿司(1,200円)、本まぐろを辛味マリネにライム風味で(700円)ほか。2001年10月、JR恵比寿駅西口にオープンしたニューヨーク・スタイルのダイニング・レストラン「AOYUZU」も同じ企業の運営で、ここでも創作寿司を味わうことができる。
にっぱん2000年7月、JR渋谷駅南口「東急プラザ」裏に開店したのが「ソルトフィッシュ・トーキョー」。料理長の上杉さんは1994年に開業した「NOBU NEWYORK」のオープニングに研修生として参加。ニューヨーク修業を経て帰国後、1998年に開店した「NOBU TOKYO」でも修業を積んだ後、川口や板橋の寿司店で腕を振ってきた。「生粋の寿司職人」と自称する上杉さんが、創作寿司を手がけるようになったのは4年前。「ソルトフィッシュ・トーキョーは寿司店でなく、バー・レストラン。創作和食の中に創作寿司を盛り込んだところ、当時の渋谷ではまだ珍しかったため、口コミで広がり、じわじわと人気が出た」と、人気の経緯を振り返る。上杉さんが創作寿司を意識したのは「消費者の舌は肥えているので、誰もが描くイメージ通りの味を提案しても消費者の感動は少ない。フォアグラ、キャビア、カラスミや香草なども使うほか、意外性のある食材の組み合わせ、不思議な組み合わせによって生まれる絶妙のマッチングを大事にしているから」。その貪欲さが新しい客を獲得し、リピーターを増やしてきた。
従来の寿司と創作寿司との決定的な違いを上杉さんは「扱う食材の幅の広さと発想力」と表現する。さらに「ヒットする店のおもしろさは、ひとえにオリジナル料理が受け入れられるか否かにかかっている。時代に遅れると取り返しがつかない。特に渋谷では・・・」と、気を引き締める。同店で人気のメニューは、鮪とアスパラの柚子コショウマヨネーズ巻(460円)やカニと胡瓜とアボガドのわさびマヨネーズ巻(460円)など、やはりオリジナルロールが多い。今後はにぎりにもオリジナリティを打ち出していく予定とのこと。
ソルトフィッシュ・トーキョー TEL 03-5459-09762001年6月、代官山・八幡通りにオープンした「カーディナス・オーシャン・クラブ」では、シーフード料理のひとつとして、ディルとオニオンのビネグレットソースの「ソフトシェルクラブロール」(1,500円)、ズワイガニとアボガドの「カリフォルニアロール」(1,200円)、5種類の鮮魚とアボガドを上に巻いた「レインボーロール」(1,200円)カリフォルニア・タイプなど、SUSHI ROLLが人気商品となっている。「カリフォルニア・キュイジーヌ」を実践する同レストランにとって、やはりSUSHI ROLLは欠かせない存在。また、3月14日、四谷3丁目にオープンした同店の姉妹店「FAIRFAX DRILL」でも、炒り焼きにした真ガキのマリネ寿司レモンガーリック風味(750円)など、SUSHI STYLEとでも表現すべきメニューが登場し、独自の展開を見せている。
カーディナス・オーシャン・クラブ2001年4月、晴海トリトンスクエア(中央区)にニューヨーク・スタイルのSUSHI ROLL専門店「ROLLS」がオープン。37種類ものSUSHI ROLLが登場し、話題を集めた。同店はその後、ポジティブフード社とコラボレートをはかり2002年2月、「POSITIVE DELI collaborated with ROLLS」と改名し、お台場「メディアージュ」に拡大移転オープンした。
一方、「ROLLS」は3月20日(水)までの期間限定で東急東横店「東急フードショー」に出店。デパ地下への出店は初めてで、テイクアウトとして新たな展開を見せている。同店を運営するのは、レストラン・バー「ガネーシャ」(渋谷ほか3店)やダイニング・バー「ダルマ」(銀座)、居酒屋「じゃぽね」(銀座)など、多くの異なる飲食店を展開するビービーエーインターナショナル(本社/銀座)。「ROLLS」ではほとんどのメニューをテイクアウトを可能にしたり、創作寿司を扱うデリカフェスタイルを開発するなど、意欲的な業態開発を試みてきた。企画広報室の永井さんは「『ROLLS』はニューヨークで流行っている創作寿司の逆輸入バージョン。その『ROLLS』ブランドでデパ地下に出店できたことは、駒をひとつ進めることができたと受け止めている。SUSHI ROLLは年配者にはまだ抵抗があるようだが、まず渋谷の若い女性に認知してもらうことが大切」と付け加える。同店の人気SUSHI ROLLベスト3は、1位=スモークサーモン、クリームチーズ、アボガドを巻いた「フィラデルフィアロール」(800円) 2位=カニ、スモークサーモン、キュウリを巻いた「マンハッタンロール」(850円) 3位=えびフライ、アボガド、カイワレ、キュウリを巻いた「カリフォルニアロール」(700円)。
2001年7月、宇田川町にオープンした「J-POP CAFE」も同社の直営店。ジャパニーズ・ポップカルチャーをリミックスして提案する「J-POP CAFE」でも「ROLLS」で開発した“SUSHI ROLL”は人気メニューとなっている。エビフライ、アボカド、レタス、カイワレ、キュウリを巻いてサルサソースをつけて食べる「宇田川ロール」(1,200円)のほかに、新たに「道玄坂ハスラー」も加わり、音楽だけでなく、食のカルチャー・ミックスも進行している。永井さんは「すでに寿司とは異なる食べ物になっているが、『J-POP CAFE』に来店する世代にはとても新鮮に映っているようだ」と語る。
ビービ-エーインターナショナル2001年11月、渋谷パルコPART1の「ダイニング&ガーデン」8Fにオープンしたのが、創作回転寿司「dai-sushi渋谷パルコ店」。「dai-sushi」は先行して10月に「心斎橋店」、11月に「銀座店」がオープンしている。同店を経営するのは、無国籍料理「ちゃんと」(全国17店舗)、和食店「橙家daidaiya」(全国7店舗)などを展開する「ちゃんと」(本社/西麻布)。創作回転寿司は同社にとって新業態。「dai-sushi)渋谷パルコ店」店長の齋藤さんが「ニューヨークの回転寿司はドレスを着た女性が訪れるような高級感がある。当社は日本の回転寿司にはない、新たなコンセプトで開発を進めた」と説明するように、既存の回転寿司チェーンが持つ和のテイストやチープな雰囲気を払拭し、デザイナーズ・レストランを手がけてきたインテリアデザイナーによるスタイリッシュな空間が完成した。「ダイニング&ガーデン」7、8階は「10代は上層階に上がってこない」(齋藤さん)とされるフロア。同店の中心となる顧客イメージは自立した大人。「外国人の方が多く、リピーターが増えている。顧客は食事の時間を大切にしている方ばかり」と齋藤さん。「客層の広さ、重役クラスは新宿の方が多いが、渋谷は口コミ率が高く、いい噂が立てばどこからでも来てくれる。安くて抜群においしい店、安くても雰囲気のいい店など、何かひとつでも飛び抜けたところがないと、渋谷では生き残れない」と、齋藤さんは渋谷の特徴を挙げる。
同店では女性客が8~9割であることから、野菜を中心とした寿司がメイン。「魚だけだと飽きがくるので、焼茄子やオクラと紀州梅など、野菜寿司(100円~)を多く取り入れ、野菜→魚→野菜といったコースや、前菜やメインデッシュを何にするかなど、自分で組み立てるバリエーションを楽しんでもらいたい」(齋藤さん)という。ネタに応じて、醤油、塩、すだちで食べられるよう工夫を凝らしているほか、ひとつの皿でも1カンは江戸前、もう1カンはオリジナルを組み合わせるなど、女性客の心をつかむ繊細な配慮が施されている。また、ドリンクもシャンパンやワイン、カクテルなど寿司にマッチしたものを勧め、選択できるよう提案。変り種には「フォアグラの握りバルサミコソース」(500円)や「フカヒレの姿握り」(500円)などがあり、回転寿司もインテリアとともに食材のフュージョン化を迎えている。
ちゃんと宮益坂で外食企業が進出する前から創作寿司を手がけていたのが、1999年12月開業のカリフォルニア風寿司バー「Cafe Sushi」。オーナーシェフの大西さんは、もともと江戸前寿司の職人で、のべ10年間アメリカに在住、日米で寿司を作り続けてきた。大西さんは現地の食材を用いたロール寿司が西海岸を中心にブームになっている様子を見ながら「日本では江戸前寿司が全盛だが、アメリカで流行っているものは、時差があっても必ず日本でも流行る」と確信したそうだ。
帰国後、時間をかけて物件を探し、最終的に土地鑑のある渋谷に、日本では前例のなかった新業態「寿司バー」を開店することを決意した。「江戸前との差別化をはかるため、和風から離れたかった」と語るように、インテリアも音楽(70~80年代のアメリカンポップス)も店名も、既成の寿司店のものではない。同店ではスパイシーツナロール(500円)やレインボーロール(950円)、キャタピラロール(950円)など、ロール寿司が人気だが、メニューには江戸前寿司やにぎりも表示しており、要望があれば握る。こうした柔軟な姿勢もあって店の客層は幅広い。「カウンターに座る10人全員に満足を与えなければ、寿司バーの形態では成功できないと考えた。ネタがいいのは当たり前、ネタに合う酢めしを作ることも当たり前。カウンター商売は、ひとり一人がどんな酒を飲んでいるのかを見て、それに合う料理を勧めてあげたり、客のリクエストに創作寿司で応えてあげたりすることも同時進行で行わなければならない」と、プロとしての気概を見せる。自身の仕事を「接客サービス業」と位置付ける大西さんは、「料理人としての自己主張・自己表現は大切だが、自己満足で終わってはいけない。人気が出たとしても一過性で終わってしまう。パフォーマンスだけでウケるのは若い世代だけ」と、やんわりと苦言を呈する。また「後発の飲食店関係者にメニュー自体を持ち帰られることが相次ぎ、やがてオープンした店に自分が開発した寿司が登場していて苦笑した」と、先駆者らしいエピソードも数知れないという。
アメリカで寿司が流行となり、定着した理由を大西さんは次のように分析する。
大西さんはアメリカで寿司バーの開店に携わった経験をひもといて「初めて店を出す土地で心がけたのは、まず寿司の見栄え。寿司を知らないアメリカ人には、目で見て興味を抱いてもらわない限り口にしてもらえないので、きれいなロール寿司を心がけた」と話す。これが今日、日本でも見かけられるようになった彩りの鮮やかなロール寿司である。大西さんがカリフォルニア・スタイルにこだわるのは、長く在住した土地であることと、ロール寿司の発祥の地がロサンゼルスであることから。「西海岸で初めて創作寿司を出したのは、日本から渡米した寿司職人か、和食の板前だろう。ロール寿司がアメリカで定着したように、10年くらいかかるかもしれないが、日本でも“カリフォルニアロール”に市民権を与えたい。人気の寿司といえばカリフォルニアロールの名が挙がるようにしたい」と、大西さんは抱負を語る。
Cafe Sushi「表参道ICHIZ」や姉妹店の「AOYUZU」のプロデュースを担当したのは、サントリーの関連会社ミュープランニング&オペレーターズ。同社は直営の居酒屋やダイニング・バーをはじめ、他店のコンセプト設定、メニュー作りからインテリアなど総合プロデュースを担っている。同社のような気鋭の空間・店舗プロデュース企業は、和の食材と海外の食材とのフュージョン化に積極的に取り組み、料理に合わせた空間づくりを含めて、時代の半歩先を行く店舗の企画を手掛けている。
「忍庭」(恵比寿)、「萬葉庭」(代官山)、「CUBE ZEN」(表参道)、「re`cue」(表参道)など、最近のトレンドのひとつとも言える“仕切り系”飲食空間の企画・プロデュースを数多く手掛けるのがキューブ(本社/南青山)。そのキューブが、米をはじめ水や味噌、醤油など食の定番品を扱うショッピングサイト「蔵人」とコラボレートし、3月22日(金)、創造的な飲食空間「SOUEN」を渋谷2丁目にオープンさせる。青山通り沿いのビルの地下に、立体的な「層」になった庭を個室から眺めながら食事ができる空間が生まれる。同店は、SUSHIを中心に据えた和食がメイン。「『蔵人』の“米のソムリエ”と呼ばれる人物が店で使うシャリをネタに合わせて作っていく」(「キューブ」ディレクター中藤さん)という本格的なアプローチに始まり、「寿司で箱庭を作る」など、店舗のコンセプトに応じた独創的なメニューが登場する。キューブ代表の原田さんは「飲食業界に新たな寿司の時代が来たようだ」と語る。
キューブとともに「SOUEN」のプロデュースを手がける「蔵人」の経営母体、エーアイ・ジー・アイズ(本社/恵比寿)は、飲食業界では知名度の高い会社だが、今回初めてリアル店舗のプロデュースに関わる。気鋭の空間プロデュース会社とショッピングサイトで名を馳せた企業が「層」になって立体空間を生み出す新しい試みに注目したい。
ミュープランニング&オペレーターズ キューブ 蔵人近年、渋谷に登場したカジュアル・ダイニングや和ダイニング、ダイニング・バーなど、酒が飲め、きちんとした食事もできる“現代の食堂”で人気があるメニューは、“ジャパニーズ・フュージョン・キュイジーヌ”。この和洋融合創作料理を手がける飲食店は、消費に長けた渋谷の若者に受け入れられ、飽きられないよう、たえず新たな料理を開発しなければならない運命にある。フレンチ、イタリアン、エスニックなどすべてのジャンルが揃う渋谷で、新しい料理は必然的にフュージョン化していく。一方、消費者の核となる若い女性のヘルシー志向は依然根強い。飲食店がカロリーの低い和食に注目したのは当然の成り行きとも言える。こうして和食は現代風にアレンジされ、空間やインテリア、器にも合うヌーベル和食、ネオ和食へと変化を遂げていく。その創作和食のジャンルに、凱旋帰国した創作寿司が仲間に加わるのは自然の成り行きでもあった。こうした点を踏まえると、創作寿司の人気の背景には以下のような経緯が浮上する。
「ヘルシーでおいしいものを少しずつ食べたい」「意外な発見がないと楽しくない」「和食ばかりだと飽きるので、海外の食材も一緒に味わいたい」・・・と、わがままなグルメライフを求める女性客のニーズに応える旬のテーマとして"創作寿司”にフードビジネス界の注目が集まる。渋谷を舞台に、新世代のフード・ベンチャーたちの手によって、既存の寿司とは一線を画す新たなグルメ・ジャンルとして開拓されようとしている"創作寿司”だが、今後の"定番化”のためには、シャリやネタにもともと舌の肥えた日本人相手に、逆輸入コンセプト・プラスアルファの発想と確かな技術が求められる。