最近のキーワードのひとつに「NGO/NPO」がある。2000年11月の経済企画庁(現内閣府)の調査では、市民活動団体(NPO法人と任意団体)は全国に88,000団体あると発表されている。1998年のNPO法の成立を受けて、市民活動団体の一部はNPO法人として位置付けられたが、そもそもNPO法人とはどのような組織を指すのだろうか。
NGO(=Non-Governmental Organization)は、もともと国連の場で政府機構とは区別される民間団体を指す言葉として使われ始めた。直訳すれば“非政府組織”。国連では経済社会理事会と協力関係を持つ国際民間団体を指し、社会福祉団体、労働団体、女性団体など様々な分野や組織形態の民間団体をすべてNGOと呼んでいるが、日本では一般的に、途上国の社会開発に従事する民間の非営利団体や、それを支援する外国の開発協力団体という意味合いが強い。
NPO(=Non Profit Organization)は、政府・行政から独立した自主的な集まりで、社会貢献や慈善のために活動する“民間非営利組織”のこと。「NPO」は営利を目的としないという点を重視、NGOは政府とは異なる民間の立場を重視する際に使われる。NPOのうち国際交流を行う団体を指してNGOと呼ぶ傾向がある。ただし“非営利”とは利益を上げてはいけないという意味ではなく、「利益が上がっても構成員に分配しないで、団体の活動目的を達成するための費用にあてること」とされている。
日本ではかつてNPOには法人格がなく、活動上の不便を強いられていたが、NPOに法人格を与えて支援する特定非営利活動促進法(NPO法)が1998年12月に施行され、その後1年間で約130団体が経済企画庁や都道府県から法人格の認証を得た。NPO法人(特定非営利活動法人)を設立するためには、法律に定められた書類を添付した申請書を、所轄庁(事務所が所在する都道府県の知事)に提出し、設立の認証を受けることが必要。提出された書類の一部は、受理した日から2カ月間、公衆に縦覧される。
所轄庁は、申請書の受理後4カ月以内に認証または不認証の決定を行い、設立の認証後、登記することにより法人として成立することになる。
特定非営利活動法人「日本NPOセンター」(有楽町)が運営するサイト「NPO広場」では、2001年9月までに法人認証を受けた4,959件の情報が検索できるよう掲載されている。また、内閣府のホームページでは、各所轄庁に認証された特定非営利活動法人数や認証申請数を公開している。同サイトによると1998年12月1日から2002年2月8日までの累計認証申請数は7,017件、認証数は6001件、解散法人数26件。件認証数の推移は以下の通り。
受理数の多い都道府県は、1位=東京都1,544件、2位=大阪府531件、3位=神奈川県429件となっている。
内閣府「NPO関係」ホームページ NPO法人データベース「NPO広場」ウエブ上でNGOやボランティア団体への募金ができる、いわゆる「クリック募金」を日本で最初に始めたのが、南青山にある株式会社カフェグローブ・ドット・コムの運営する「Cafeglobe.com」。同社はキャリアのある女性誌編集者が集まって立ち上げたベンチャー企業で、1999年12月にスタートしたサイトの草分け的存在である。
2000年2月に、ユーザーがクリック募金のスポンサーバナーをクリックするだけで、そのクリック数に応じた金額(現在は1クリック=50円)が広告主からNGOに支払われるシステムを導入。その後もチャリティ・オークションなど様々な方法で活動を続け、チャリティ活動の総額は2001年12月時点で350万円以上にのぼった。Cafeglobe.comは、インターネットという新たなメディアで、NGO、ユーザー、企業を結びつけた。
同社では「クリック募金」スポンサーのメリットとして、以下の4点を挙げている。
社長室の河合さんは「ボランティア活動を始めとするチャリティに対する女性の関心はとても高い。特に知的好奇心の高い20代、30代の働く女性が、仕事以外で社会に貢献するための方法として、チャリティに強い関心を示している」と説明する。実際、NGO、企業、一般ユーザーの3者からクリック募金への問い合わせが入っており、バランスの取れた関心の高さを物語っている。河合さんは「ストリートチルドレンや難民援助に関する募金以外にも、今後は環境を対象とするNGOにも活動の幅を広げていきたい」と抱負を語る。
カフェグローブ・ドット・コム携帯電話やPDAで接続するインターネットネット情報サービス向けのエンターテインメント・コンテンツを制作・供給する渋谷区・桜丘にある株式会社ザッパラスは2001年5月、新たにボランティア活動の普及・啓蒙・促進を支援する「Vis-Earth-Vis Network(ビザースビーネットワーク)」事業を開始した。同社では「手軽にボランティアに参加できる」をテーマに、「ボランティアに関心のある人々(携帯ユーザー)」と「ボランティアを必要としている地域や人々(各種NPO/NGO団体)」をつなぐ“お手伝い”と位置付け、事業展開の第一段階として、インターネット対応携帯電話のオフィシャルコンテンツ初のボランティア総合サイト「ch.V(チャンネル ブイ)」を開設。サイトには待ち受け画像のダウンロードによる募金コーナーがあり、ダウンロードにかかる料金は1画像につき30円か100円。このうち70%強が活動資金としてNPOへ寄付される。参加しているのは33 団体。昨年12月末までに約130万円が集まったという。
ビザースビーネットワーク事務局プロデューサーの橿淵(かしぶち)さんは「一般の人は、ボランティアに関心はあるが、何をしたらいいのかわからない。また団体が信頼できるのどうかもわからない。理由はNPOやボランティア団体の情報が少ないから。そこで、身近なパーソナルメディアである携帯にサイトを設け、手軽にアクセスできる方法を考えた」とボランティア総合サイト「チャンネル ブイ」開設のモチーフを説明する。「待ち受け画像をダウンロードするおもしろさ、エンターテイメント性を兼ね合わせた社会貢献があってもいい。これがNPOに関心を寄せるきっかけになればいいと思う」と加える。多くのユーザーにNPOやボランティアの存在を知ってもらうことが重要で「まず、入口を増やすことが大切」と、事業の進展を見据えている。
渋谷で活性化しているITを活用したNPOの広報・募金活動について、橿淵さんはその要因を以下のように分析している。
橿淵さんは提言を含んだ今後の傾向として「NPOサイト支援が複数立ち上がり、どこでも募金を開始している。募金サイトから当社にアプローチが来る同じケースも増えてきた。NPOやボランティア活動の普及、団体と一般の人を結びつけるきっかけ作りを提供するという、同じ理念を持っているなら、乱立するサイトの統合化、総合化もあり得る」と付け加える。
ザッパラス ビザ-ズビーネットワーク渋谷マークシティ内に拠点を構えるNPO法人「ETIC.(エティック)」では、NPO活動にかかわる事業のひとつとして、学生とNPO、企業とのマッチングを行っている。ETIC. の主な活動は、アントレプレナーシップ(起業家精神)あふれる社会づくりを目指して人材を育成、支援し、起業家予備軍に対するインキュベーションの機会提供を行うもので、ビットバレー構想の仕掛けの一翼を担ったことでも知られる。ETIC.の具体的な活動のひとつにインターンシップ(企業就労研修)によるキャリア開発が挙げられる。NPO法人であるETIC.がベンチャーやNPOを支援、連携すること自体、新しいスタイルといえよう。ETIC.代表理事の宮城さんは、NPO法人というニュートラルな立場で活動を展開する理由を「ETIC.のミッション実現のためにはNPOというスタイルで活動を行うことで、最大限の効果を上げることができるから。有利な点があるとすれば公共性の高さがある」と語る。NPO法人は前提として社会に役立つ活動を行うことが保証されているので、応援してくれる人や団体の気持ちを引き出しやすく、教育や行政など非営利団体と接する際にもコミュニケーションがスムースに運ばれるのである。また、一般企業もNPO法人には協力しやすく、学生もボランティアとして参加しやすい環境にあるといえそうだ。
宮城さんは「ITとNPOは切り離せない」と前置きし、両者の深い関係性を説明する。「IT は資金も権力もない個人が、低コストで自身の考えを発信するツールであるといえる。社会の役に立ちたいと願うNPO的な精神も同様に広く発信され、IT普及前と比べると格段の進歩を遂げた。そこから企業が発想できないコンテンツが生まれ、IT関連会社も結果的に事業の可能性を広げることにつながった」。宮城さんはITベンチャーとNPO双方の“スキルの接点”が関係性を促したという見方以外に、ITベンチャーとNPOの両者に共通点を見い出し、その深い関係性を浮き彫りにする。「何かおもしろいことをしたい、価値のあることをしたいと願う気持ちは、ビジネス的なアプローチであろうが、NPOとしてのアプローチであろうが、手法の違いだけで、彼らの生き方の『スタイル』は共通している。20代~30代の世代には、NPOとビジネスの境界線はない」と、宮城さん。“利害の一致”でなく、モチベーションの志向でくくるなら、ベンチャーとNPOのマインドは同じ。すでに若い世代には「ベンチャー=拝金主義」という図式はないと、宮城さんは示唆する。
渋谷には具体的にアクションを起こすチャレンジ精神と独自のセンスを持った人間が多く集まる。宮城さんは「NPOやベンチャーなど、彼らが所属する組織の垣根を越えて、『楽しいこと』『価値あること』を追求しつづけている。そういった意味で、渋谷には確実に新しいスタイルが生まれている。ETIC.のテーマでもある“本気になれる”“一生懸命に打ち込める”ものが渋谷では発見しやすく、それを自然体でチャレンジし、仕事にしていくことが可能になっている」と結ぶ。
NPO法人ETIC.ちなみにETIC. では、社会的課題に事業的手法で取り組むソーシャルベンチャーのためのビジネスプランコンテスト「ソーシャルベンチャー・ビジネスプラン・コンペティション」を実施中。応募締め切りは3月5日、最終発表は4月20日。優秀なプランに対しては、事業の実現に向けて様々なサポートおよび機会提供が受けられる。
ソーシャルベンチャー・ビジネスプラン・コンペティションインターネットを使ってNPOと市民をつなぐ、NPO応援ポータルサイト「GambaNPO.net(ガンバNPOネット)」が2001年7月にオープンした。サイトでは「環境の保全」「国際協力」「社会教育」「まちづくり」「子供の健全育成」「市民活動支援」「科学技術」「人権・平和」などの分野でする33団体48プロジェクトの活動が一覧できるだけでなく、「具体的に社会に役立つことがしたい」と願う人がそれぞれのスタイルにあったNPO支援を見つけ出すことができる。
たとえば「動物を守りたい」「地雷をなくしたい」「難民を助けたい」など、社会貢献の目的別にカテゴリー化され、各団体の活動内容が示されているので、比較検討して支援する団体を選ぶことができるのである。さらにどのような目的で自分の寄付が使われるのかなど、貢献成果が具体的に実感でき、安心して「寄付する」をクリックし、NPOを応援することができる。同社は寄付金の中からウエブ運営費などの経費として10.5%の取扱手数料を受け取る。クレジットカード(VISA、MasterCard)で決済できる方式は同サイトが初めて。また、同サイトの中には、本を購入することでNPOを支援できる書籍販売サイト「チャリティブックストア」も設けられている。こちらでは書籍購入代金の1%が指定したNPOに寄付される。33の NPOが指定可能である。
同サイトを運営する神宮前のアースセクター株式会社は、サイトのオープンと同時に設立された会社。主な事業は、前出のサイトの主催・運営と並行して、NPOと連携した企業の社会価値経営の支援、コンサルティングである。NPOから発信されるプロジェクトのアイデアや情報は個人だけでなく、企業にとっても貴重なリソース。同社はGambaNPO.netで培ったNPOとのリレーションや寄付のシステムをもとに、多くの企業に社会価値創造のためのマーケティング戦略を提供していくことで収益を上げていくという構造となっている。
代表取締役常務の坂本さんは、米国ケース・ウエスタン・リザーブ大学で、日本ではなじみのない“NPO経営学位”とでもいうべき、非営利経営修士号(Master of Nonprofit Organization)を取得。卒業後、在米コンサルティング会社でNPOを対象に長期戦略、事業評価、理事会の育成などコンサルティングを担当、さらにワシントンのNPOで全米の非営利セクターにおける経営・組織能力を向上するための複数のプロジェクトに従事した後、帰国し、アースセクターを設立に関与した。坂本さんは「情報発信能力に長けたITと、サイトを立ち上げて情報を発信したいが初期投資コストを捻出できないNPOとは、非常に相性がいい」と断言する。「当社の目的のひとつは、市民とNPOをつなぎ、NPOを応援する文化を育てること。具体的には、ITを活用した寄付プラットフォームの運営事業。サイト運営では寄付手数料やバナー広告の収益などがあるが、こちらはなかなかビジネスになりにくいのが現状。企業に市民と協業したソーシャル・マーケティングを企画・提案、実施して収益を上げている」と坂本さん。坂本さんはITとNPOの利害が一致し、コラボレーションが行われている点を双方の視点から次のように説明する。
坂本さんはこれからの傾向として「IT企業がスキルを持った技術者をボランティアでNPOに派遣することは容易に想像できる」と語る。
アースセクター GambaNPO.net一時期、渋谷で誕生した多くのIT関連ビジネスが時代の寵児として脚光を浴びた。 しかし“ITバブル”と揶揄され、多くの企業が失速した。敗因のひとつにマーケットを洞察する力に欠けていたことも挙げられるが、多くのIT企業が一部社会性に欠けていた点も指摘されている。こうした点を踏まえ「ITにできること」という観点から、スピード感に長けた渋谷のITベンチャーが自社の技術力やサービスを見直し、社会貢献性の高い事業とリンクし始めている。さらに、長引く景気の低迷が人々の価値観を変えてきた点も無視できない。かつて、ひたすら公開を目指して一握りの「勝ち組」を目指すベンチャー企業の姿は影を潜め、今では、等身大の個人として「何か社会に役立つことをしたい」と欲するベンチャー経営者も少なくない。
こうしたITベンチャーがNPOとのコラボレーションに積極的に取り組み、パソコンや携帯端末で接点を拡大してきた。懸賞サイトやネットショッピングに慣れているパソコン・携帯ユーザーにとっては、(1)NPOの情報をリアルタイムで把握することができ、(2)街頭での募金や銀行・郵便局での振込みと比べて、気軽に寄付できるようになった。さらに、寄付したプロジェクトの経過や事後報告をメールで受け取ることができるサイトもあり、双方向性を活かしたフォロー活動も盛んになっている。NPOの活動と共に寄付が盛んなアメリカでは、インターネットを経由した寄付が確実に増えている。NPOが最も大きな課題としている資金不足への解決策のひとつとしてITの活用に注目が集まる。
渋谷を舞台に繰り広げられる、ITとNPOのコラボレーションは、今後の社会貢献活動の行方を占う意味でも興味深い。NPOが多くの賛同者を得るためには、両者が“ビジネス”という視点で新たなプランを生み出し、さらにITのみならずマーケティング機能をも取り込んだ新たな戦略も必要になってくる。“スピード感”溢れる渋谷のビジネスに、新たな可能性が広がった。