特集

趣味で続けるか、プロを目指すか…
岐路に立つ10代クリエイターの選択

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■高校生の人気職種は作家、イラストレーター、マンガ家

主に高校生を対象とした進学情報サービスを手掛ける日本ドリコムは今年3月、全国の高校2年生1,379人を対象に昨年行ったアンケート調査をもとに「2004ドリームランキング みんなの夢ってナニ?~高校生の希望する職業ランキング~」をまとめた。この調査では、56項目職業・仕事分野から高校生が「やってみたい・就きたいと考える仕事・職業」を回答するもので、男子の1位は「スポーツ」、2位は「コンピュータ」、3位は「公務員」であるのに対し、女子の1位は「保育」、2位は「教員・教育」、3位は「理容・美容」と、性別による差が大きい結果となった。

56項目の中で「デザイン」は22位だが、系統別では「デザイン・芸術・写真系統」が、昨年の7位から一つ順位を上げ今年は6位となった。ちなみに「マスコミ・音楽系統」は4位、ゲームクリエイターやCGクリエイターが含まれる「コンピュータ・マルチメディア系統」は全13系統中11位だった。

「デザイン・芸術・写真系統」内の具体的な職業別では、1位=作家(20.00%)、2位=イラストレーター(16.00%)、3位=マンガ家(10.67%)、4位=フォトグラファー(9.33%)、5位=インテリアデザイナー(8.00%)、6位=デザイン関係の仕事(6.67%)、7位=プロダクトデザイナー(5.33%)、8位=画家、芸術関係の仕事、グラフィックデザイナー(各4.00%)の順となっている。全体を通して「好き」「自分を表現したい」などの志望理由が多かった。他にも「色が好きだから」「何かを残したいから」「自分の世界観を形にしたいから」など、この系統ならではの個性的なコメントが少なくなかった。

日本ドリコム

■春休みに10代クリエイターの利用が増える貸しギャラリー

原宿・神宮前にある「デザイン・フェスタ・ギャラリー」(TEL 03-3479-1442)は、古いアパートを改装した貸しギャラリー。春休みは期間中の4月上旬は、3組の10代クリエイターが展示会を開催している。

切り絵イラストレーターとして作品を展示・販売していたのは、ヒジカタムツヨさん、19歳。「切り絵は古臭いデザインのモノクロのものばかりで、ポップでカラフルなかわいい切り絵がないと思った。それなら自分で作ってみようと、高2のときに趣味で始めたのがきっかけ」と、ヒジカタさんは言う。切り絵は「見様見真似」の独学だと言うが、ファッションコーディネート色彩能力検定2級を取得し、現在はバンタンデザイン研究所のビジュアル学部でポップアートを学んでいる。主な活動は、高校生時代に度々投稿していた情報教育支援学校交流マガジン「esiz(エスィーズ)」に持っている、切り絵講座の連載コーナーだ。高校生同士の交流を目的とするフリーペーパーのため無償で行なっている活動だが、1年間続けた実績は、確実に次へのステップにつながることだろう。また、高3の時からフリーマーケットに出店し、切り絵の複製を1枚100円で販売しているほか、インターネット直販のアートショップ(Fine Art Studio HAPPYLOPPY)を通じて複製作品のネット販売も行っている。

Fine Art Studio HAPPYLOPPY
ヒジカタムツヨさん ヒジカタムツヨさん

「花や自然などの美しいものを見ると、紙で表現したくなる。どんな色のどんな紙を使うか、想像するだけでドキドキして…」と話すヒジカタさん。しかし、切り絵は単価も安く、たとえ売れたとしてもすぐに材料費に消えてしまうため、生計を立てるのはまだまだ難しいと言う。「スランプになると不安で、就職しようかと考えることもある。でも、自分の切り絵が本の装丁として使われたり、雑誌の挿絵などに使われたりして、多くの人の目に触れることが私の夢」と話すヒジカタさんは、明るい笑顔を見せた。今はまだ収入のことよりも、好きなことをやり、自分のアート作品が少しでも多くの人の目にとまることのほうが彼女にとって大事なのだろう。今後の活動予定を聞くと「雑誌の挿絵などの仕事をもらうために、出版社へ売り込みをしようと思っている」と話す。そのためにも、展示会では来場者にはアンケートを行い、どんなイラストが好まれるのかをリサーチしている。「人から評価されることは勉強になる」という謙虚な姿勢のヒジカタさんが、切り絵イラストレーターとして飛躍する日に期待したい。

古舘一美さんは、イラストレーターを目指す19歳。現在はセツモードセミナーの美術科に通っているが、今回の個展のため短期休学中だと言う。「実は高校を中退して、2年間引き籠もっていた時期があった。今さら普通の仕事なんてできないし、小さい頃から絵を描くことだけは好きだったから、私にはこれしかない・・・と思って」。さらに「とにかく作品を描きためて、1人で何かをした・・・という形を作りたかった」と、今回の出展動機を語る。アマチュア・ロックバンドでベースボーカルも務める古舘さんは、音楽と絵で「食べていく」ことが将来の夢だ。引き籠もりという経験を通して自分を見つめ直した先には、クリエイターの道があった。彼女はようやく、具体的な一歩を歩き出したところだ。

古舘一美さん

デザイン・フェスタ・ギャラリーの運営スタッフに、10代クリエイターの利用状況を聞いた。学校が長期休暇に入る春休みなどの時期は、全体利用者の20~30%を10代のクリエイターたちが占めると言う。作品については、個々が自由に、自分の作りたい作品を作っているため、ある意味素人的で洗脳されていない、素直な表現(アート)が見受けられるのが特徴だそうだ。さらに、有料のギャラリーを借りてまでチャンスを掴もうとする10代のクリエイターたちは意欲的で、自らDMを作るなどの積極的な活動が目立つ。同事務局が毎年「東京ビックサイト」で開催している大規模なデザイン展示イベント「デザインフェスタ」でも、10代の姿が見受けられる。クリエイターを目指す10代は、こうした場を活用して早くも自分の作品を積極的に公開し、その反応をつかみながら次の糧としているようだ。

DESIGN FESTA GALLERY
デザイン・フェスタ・ギャラリー

■成功を目指してユニット化する10代のクリエイター

それぞれに得意分野の異なるメディアクリエイターが結集し、VJや3DCGデザイン、WEBデザイン、映像デザインなどを幅広く手掛けるクリエイター集団「flapper(フラッパー)」。メンバーはリーダー的存在の鈴木陽太さんを始め、中村圭一さん、矢向直大(やこうなおひろ)さん、萩原俊矢さんの4人で、全員19歳の現役大学生だ。萩原さんを除く3人は同じ高校の美術部活動で知り合った。美術の中でも特にメディアアートに関心の高かった彼らは、高3の春に新入生勧誘のためのプロモーション映像制作を手掛けた。これがきっかけとなって、夏にはデザインチームを結成、翌年には鈴木さんの大学の同級生である萩原さんが加わり、2002年「flapper」が発足した。ユニット名の「flapper」とは、名作童話「ガリバー旅行記」の登場人物である「記憶を呼び起こす番人」のフラッパーに由来する。自分達の作品を目にした人々に過去の記憶を呼び起こさせたい、または新しい記憶として残る何かを与えられたら・・・という、彼らの思いが込められている。

「flapper」の主な活動は、クラブイベントでのVJだ。ギャランティは発生しないため、VJそのものがビジネスとして成り立っている訳ではないが、「自分達の作品を発表する貴重な場」と鈴木さんは言う。実際、昨秋頃から、クラブで彼らの作品を目にした人々との出会いによって人脈ができ、CM映像やゲームソフト操作画面のデザインといったビジネスに広がった。ギャラは1本10万円だったり、10秒の映像で5万円だったりするが、基準は作品の時間ではなく、CG技術の高度さや制作過程の労力だと言う。クライアントの言い値で受けるだけではなく、場合によっては彼らから価格交渉を行なうなど、作品に対する完成度にも自信が見受けられる。映像作品は現在までに5~6本手掛け、一番多いWebデザインについては萩原さんが担当して、月に1本ペースでコンスタントに受注していると言う。

「flapper」のホームページを見れば、彼らの自信もうなずける。矢向さん曰く、「3D、映像、Webの3つの要素を取り入れ、日本ではあまり見られない、ヨーロッパ流のデザインを施した」と言う。「メンバー4人の得意分野がそれぞれ違うため、お互いのいいところを結集させて、より大きな作品を作れることがユニットのメリット」と語るのは鈴木さん。その反面、個性の強いアーティスト同士で意見がぶつかり合うなど、団体で活動することのデメリットも確かにある。しかし「1人でやりたいとも思うが、今まで『flapper』として生み出した作品が無になり、さらに『flapper』として培ってきたネットワークやコミュニティーを失うのは、大きすぎる痛手」と鈴木さんは言う。単に寂しいから群れるという感情的なつながりではない。彼らは、あくまでも「成功」を目指してユニットを組んでいるのだ。

彼らの将来の目標は、「flapper」として、そして個人としても世界的に通用するクリエイターになること。しかし、現状では、大学卒業後4人が「flapper」の活動だけで生活するのは難しい。中村さんは「作品を作るだけではなく、宣伝広告など自らをアピールすることも大事」だと考え、卒業後はそうした勉強のために就職することも視野に入れていると言う。しかし、たとえ4人が一時的にバラバラの進路を選んだとしても、「flapper」は休止することなく動き続ける。鈴木さんは、「学校も会社も自分達にとってはツールでしかない」とクールに言い切る。あくまでも彼らの最終目標は、世界に通用するクリエイターになることだからだ。現在はその準備段階として、「flapper」のホームページ作品を海外のコンテストに応募し、二つの賞も獲得した。現在、学業とビジネスの両立のために、忙しいときは睡眠も1日おきにしか取れないという彼ら。そんなストイックな姿勢からも、早くもクリエイターという職業に確固たる狙いを合わせた10代クリエイターの姿が浮かび上がる。

flapper

プロリハーサル・レコーディングスタジオを運営しつつ、個人的にDJやVJを行なっている「ワキタスタジオSCP」の脇田豊さんに、10代のクリエイターについて訊いてみた。「個人で活動しているクリエイターも、ユニットを組んでブランドとして活動していたり、組織を組んだりしている場合も、すべて総合的なクロスメディアデザインを行なう傾向が強くなっている」と脇田さんは言う。つまり、音楽、映像、Web、CGといったカテゴリーに区別して捉えるのではなく、様々な技術を総体的に習得し、幅広い活動をするクリエイターが増えたということだ。その要因としては、パソコンやインターネットの普及により、デザインソフトなどのツールも比較的コストを抑えて手に入れることができるようになったことが挙げられるのではないかと言う。

しかし「本格的な活動をしていても、10代のクリエイターの場合は商業的な知識や感覚に欠ける部分が多い」とも脇田さんは指摘する。ビジネスとして活動する場合、クライアントサービスやマーケティングなどの知識も必要となるが、10代でそこまで考えて行動できるクリエイターは少ない。儲けは抜きにしてクリエイターとしての感性を磨きながらも、進路を考えなければならない時期に差し掛かるこの時期は、趣味で続けるのか、プロを目指すのか・・・クリエイターを目指す10代が選択を迫られる時期でもある。

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