老朽化のために取り壊しが決まっている「同潤会青山アパート」の跡には、“世界のANDO”安藤忠雄の設計による住宅・店舗の複合施設が建設される。着工予定年度、完成予定年は、公にはまだ未定。
同潤会青山アパートは1926年(大正15年)から1927年(昭和2年)に竣工されたもので、鉄筋コンクリートの集合住宅としては日本最古のもの。「戦前の住文化遺産」として貴重な価値があるが、コンクリートの耐用限度を超え、防災上の問題もあり、1960年代後半から建て替えの必要に迫られていた。この間、建設会社やデベロッパーが再開発に取り組んできたが、住民の意見がまとまらず具体化しなかった。
1997年6月、アパート管理組合総会で立て替え推進が決議。翌1998年には、対象地域の低地権を持つ東京都から底地払い下げを受けた森ビルがデベロッパーとなり、立て替えプロジェクトが現実味を帯びて動き始めた。計画案はすでに概ね決定しており、これからパンフレットの制作に入る。東京都開発計画部では「パンフレットができあがるまでは口外できない」とのことだが、99年10月から地域住民を交え、何度か行われている「建て替えに関する説明会」の参加者によれば、
とのこと。建築家の安藤氏が当初公言した「アパートの1棟を何とかそのままの形で資料館として残す」という案もまだ残っている。
渋谷にこれほどの規模の敷地、建て替え計画は他になく、表参道の再開発は都市開発、商業開発の両方の視点で興味深い。かつて「同潤会代官山アパート」があった土地に建設された「代官山アドレス」の開業で、代官山の周囲が一変したように、表参道の「顔」が周辺にもたらす変化は小さくない。
東京都の地下鉄には、都自らが建設・運営する「都営地下鉄」と、都が整備に当たって補助金を支出する「営団地下鉄」がある。東京の鉄道の特徴は、JR線、都営、営団以外に私鉄鉄道業者が多数存在することによって鉄道相互の乗り継ぎが不便になっていることが挙げられる。今後、鉄道事業にとって、乗り継ぎ利便の向上が大きな課題となっている。ちなみに、東京の鉄道の利用率は、ロンドン、パリなど海外主要都市と比較すればダントツでトップ。(東京86%、ロンドン65%、パリ59%、ニューヨーク61%)
営団地下鉄では2007年度の開業を目指して、渋谷・池袋間(建設距離8.9キロ)の新線建設工事を進めている。東京都都市計画局によると、「営団地下鉄13号線」(現時点での呼称)は、ほぼ全線にわたり明治通り直下を走ることになる。完成すると池袋、新宿、渋谷という西東京の3大商業集積地が連結される。営団地下鉄総務部広報課によれば、総建設費は約2、400億円。駅数は8駅。予定されている設置駅(駅名は仮称)は、渋谷から池袋に向かって順に、渋谷→明治神宮前(西参道)→新千駄ヶ谷(北参道)→新宿三丁目(丸の内線、都営新宿線)→新宿七丁目(職安通り)→西早稲田(戸山高校前)→雑司ヶ谷(目白通り)→池袋。池袋で営団有楽町線を介して東武東上線、西武池袋線、西武有楽町線と相互乗り入れする。
13号線は、埼玉県の和光市から池袋を経て渋谷に至る路線。和光市~池袋間は営団有楽町線として営業している。「営団13号線」の計画は、既設の有楽町線池袋駅から渋谷方面に地下鉄を延伸するもの。13号線区間に鉄道路線が計画されたのは意外に古く、1957年。13号線が名称とともに姿を現したのは1972年。この「13号線」という名称は、東京圏における鉄道交通網整備の基本計画である運輸政策審議会の答申に13番目に挙がったからである。ちなみに「大江戸線」は、名称が決定するまでは12号線であった。
さて、将来的に13号線との相互乗り入れの可能性を秘める東急は、東横線の地下化という大工事が必要になってくる。東急電鉄広報部では「駅舎と線路を地下化することや13号線との相互乗り入れは、確かに運輸制作審議会に盛り込まれていたが、現在すべてにおいて検討中。白紙の状態である」とのこと。駅舎の地下化に伴う建設費用や跡地利用の問題、東急グループとして「百貨店を組み込んだ駅と駅周辺の大再開発に着手するのか否か」など検討課題が多く、トップシークレットとなっている。
東京都都市計画局施設計画部交通計画課企画係の永山さんは「13号線と東急東横線との相互直通運転の構想は、あくまでも整備の方向性を示すもので、決定ではない」と説明するものの、永山さんによれば「13号線の相互乗り入れを前提とした、渋谷駅周辺の交通基盤整備に関する検討の中間報告」はすでにまとまっており、それによると東京都、渋谷区、鉄道事業者の意向を踏まえた大掛かりなものになりそうである。
渋谷駅については、13号線の整備を契機とした交通結節機能の強化、周辺の街づくりの推進などが課題となっている。東京都が中心となって進めた「渋谷駅周辺の交通基盤に関する検討結果」のポイントは以下の3点である。
現在の東口広場は現在、西側を東横線駅舎と東急東横店東館、東側を明治通り、北側を宮益坂、南側を国道246号にそれぞれ囲まれた狭い範囲に位置し、東側エリアへの横断歩行者、バス・タクシー利用者、多数のバス、タクシーなどの自動車を処理しており、歩行者、自動車とも混雑している。課題として挙がっているのが、明治通り直下に13号線、東横線渋谷地下駅が開業した後には、東口広場を利用する鉄道乗り換え歩行者の増加により、広場はバス、タクシー利用者や回遊歩行者も含めて、1日約50万人に利用されることが予想される。これに対応した「広場空間の確保」が必要となってくる。
渋谷駅では鉄道の駅施設が地上3階の営団銀座線から地下3階の営団半蔵門線・東急田園都市線まで多層に分散しているため、各鉄道を結ぶ円滑な乗り換え空間が必要となっている。駅と駅周辺街区を結ぶ歩行空間としては、駅と明治通り東側の「東急文化会館」とを結ぶデッキや、明治通り・国道246号をまたぐ横断歩道橋などしかなく、車道の横断歩道を利用する歩行者が多いのが現状。課題として乗り換え歩行者のための円滑な導線の確保が求められる。車道を横断せずに駅と駅周辺街区を結ぶ「歩行者空間の確保」となると、歩行者は地面、地下、地上のいずれかを歩くことになるわけだが、その場合、自動車はどこを走るのかという課題がついてまわる。渋谷駅周辺は明治通りが駅前広場に隣接して通っており、駅へのアクセス交通や渋谷地区を通過する交通が集中しているので、異常な混雑を示している。
東京都都市計画局がまとめた中間報告で挙がった「短期整備計画案」によると、東横線が地下化されたと想定して、駅跡地と東急東横店東館を合わせた区域を活用することで、駅前広場の地上部分の拡張が可能となり、地下1階に歩行者空間を新設することで、現状の駅前広場面積約8140平方メートルの約2倍の広場面積を確保することができるようになる。また、駅の東口、西口広場を一体化した空間として連結し、歩行者通路(メインプラットフォーム)をJR渋谷駅中央部の地上レベルに設置することも検討されている。
一方、同じく「長期整備構想案」では、渋谷駅周辺の街づくりの進展とリンクする形で将来の整備構想案の一例が提案されている。それによれば、駅東口に近接している明治通りについては、主要幹線道路として直進通過交通のバイパス機能を確保するため、明治通り直下に13号線地下駅空間の一部を利用したアンダーパスの可能性が示唆されている。実現するとすれば、地下3階が13号線と東横線の駅舎、地下2階が半蔵門・田園都市線駅舎、地下1階は、地下歩行者空間、明治通りアンダーパス、地上1階の東口広場と西口広場の間に歩行者専用空間(メインプラットフォーム)が生まれ、2階JR線、3階銀座線と、重層的な空間となる。
このような課題を踏まえて、渋谷区、東京都、鉄道事業者、学識経験者、地元住民代表らで構成する「渋谷駅周辺整備ガイドプラン21委員会」では、渋谷駅を中心としたエリアの目指すべき将来像と将来像の実現に向けた検討が続けられている。そこで、具体的な活動として注目を集めているのが、多くの渋谷区民に参加を募り、議論を重ねていくための「きっかけ」をつくるために「シンポジウム」が開催される。
渋谷駅周辺の末来を考える「第1回渋谷まちづくりシンポジウム」は11月17日、渋谷パンテオンで開催を予定。当日は、東京大学教授・森地茂氏(渋谷駅周辺整備ガイドプラン21委員会委員長)の基調講演、パネルディスカッションのほか、分科会に分かれてさまざまな角度から渋谷の未来について意見が交わされる。
渋谷区都市整備部まちづくり課TEL 03-3463-1211内線2702~2704表参道の再開発や営団13号線の乗り入れを機に、渋谷駅と駅周辺の整備を図る渋谷が新たな街づくりに取り組み始めた。「オトナ化」をテーマとする大規模商業施設の増加や、海外大物ブランドの旗艦店が軒を並べつつある表参道など、何かと話題性の高い渋谷周辺エリアに対し、これからはやや影の薄かった東口周辺や駅周辺のプロジェクトが現実味を帯びてくる
2010年の渋谷の玄関口として、渋谷駅はどのような進化を遂げるのだろうか?