特集

付加価値で独自のマーケットを形成する
渋谷「Tシャツ」マーケット事情

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■誰でも気軽に作れる「Tシャツ」プリント事情

かつて学園祭などで、チームでTシャツを作ろうとした場合、発注先はユニフォーム専門店かプリント専門ショップ、ノベルティを扱う企業などに限られていた。しかし、今日では、コピーショップ、出力センターでも注文することができ、しかもデータ入稿で1枚からのオーダーも可能になり、個人でも気軽に個性的なTシャツが作れるようになった。例えば「青山ブックセンターコピーショップ青山店」(神宮前)では、各種コピーのほか、名刺やはがきの印刷に加え、「Tシャツ&トートバッグプリントサービス」を行っている。プリント用Tシャツ(ボディ)の料金は、ホワイト900円、ブラック1,200円、カラー1,200円。プリント料金は、そのままプリント・切り抜きプリント、Tシャツのタイプによって異なるが、1,200~2,400円。

青山ブックセンター

無地Tシャツを扱う都内の専門業者によると、現在、中国製のTシャツは200円から流通しているという。これにロゴ(2色使用)をプリントしても、ロット100枚で単価は400円台。担当者は「中国製Tシャツは本当に安い。今日では現地で安く刷ることもできるし、簡易式のプリントでも十分通用するほど技術はアップした」と語る。プリントの方法も「シルクスクリーン印刷以外に、カラーコピー転写プリントで納品することもある」という。今日ではTシャツをユニフォームとして着用しているラーメン店やカフェを見かけるが、「どちらも、近年最も発注の多いお得意様」とのこと。

■クリエイター参加で裾野が広がったTシャツ・マーケット

「マルイヤング渋谷」「マルイワン渋谷」などで現在開催中の「SELEC-T PART4」は「ブランドいち押し厳選Tシャツフェア」。マルイのオリジナルブランド「オンボード」に新たに8枚のTシャツが加わり、夏物バーゲンの一環として展開している。「オンボード」では毎回テーマを決め、プリントTシャツをリリースしている。大手もオリジナルブランドのTシャツに力を注ぐのは、渋谷が "Tシャツ激戦区" であるばかりでなく、Tシャツが集客の目玉にもなる重要な戦略商品になっていることを物語っている。

マルイ
マルイヤング渋谷

今春、原宿にオープンした「ビームスT」(神宮前)は、「ビームス」が運営するTシャツ専門店。「シーズンを問わず、年齢や性別を超え、誰もが身につけているTシャツ」(ビームス)だけを1年じゅう販売する新しいコンセプトのショップである。同社では2001年からウェブサイトで「ビームスT」をスタートし、「ART FOR EVERYDAY」というテーマを掲げ、アーティストのTシャツを紹介してきた。同店のオープンは、Tシャツがすでに通年アイテムとなっていることを立証している。店内ではハンガーに吊るされたTシャツが周り、ギャラリーを連想させるディスプレイで、インテリアデザインは人気デザイナーの片山正通氏が手掛ける。同店では国内外のイラストレーター、デザイナーやミュージシャンなどアーティストと契約し、常時150種類以上のオリジナルデザインを揃え、Tシャツ一枚一枚にアーティストの名前とデザインのコンセプトを説明するカードが添えられている。価格は4,000円台~6,000円台。

ビームスT

Tシャツは衣料品だが、発売するのは衣料品店だけとは限らない。今日では、雑貨店やインテリアショップ、カフェ、レコード店などでもTシャツは発売されている。たとえばインテリアショップ「IDEE」(南青山)やカフェ「ロータス」(神宮前)、宇田川町の「ダンス・ミュージック・レコード」などでもTシャツを販売しているが、まったく違和感はない。それはショップのテイストに合っているからである。カジュアルで単価が低く、衝動買いしやすいTシャツの販路はさらに広がっている。

ビームスT

ファッションとして不変的な定番アイテムであるTシャツは、クリエイターの創作意欲を刺激する素材でもある。6月15日に発売された雑誌「広告」7・8号(発行/博報堂)では、本誌単体(690円)と並行して、4人の広告クリエイターが「東京」をモチーフに自由にデザインした「東京Tシャツ」を「広告」に真空パックして480枚(120枚×4種類)を限定セット発売(4,800円)した。販売店も「青山ブックセンター」各店、「NADiFF(ナディッフ)」(神宮前)、「オン・サンディーズ」(神宮前)など、アートや広告に携わるクリエイターが多く集まる書店やアートショップに限定したほか、「タワーレコード渋谷店」(神南)でも取り扱っている。販売期間は8月中旬まで。「広告」編集部の杉本さんは「Tシャツは情報を発信するメディアで、広告媒体となりうる。オリジナル色を出すために、特集とリンクする形で、広告クリエイターに "東京" をビジュアルにしてもらうことを考えた」と話す。「東京Tシャツ」のセット販売は1種類120枚の限定生産、しかも販路も絞り込むことでプレミアム感をかもしだしている。「世界でたった120枚しかない" 東京Tシャツ"。これ以上は作りません、というメッセージも効果的だった。また、W杯の期間中に発売したので、外から見た東京という視点を持ち込み、外国人に東京の土産として発信する意図もあった」(杉本さん)という。真空パックを使用したのも新しさを演出するためである。「東京を包み込む、現在の東京を真空パックする、という意味も込めた」と、実に凝っている。8月18日~24日、北青山のラウンジ「OFFICE」で、今回デザインしたTシャツや「広告」に参加しているクリエイターの作品を展示する。

広告
広告

一方、前出した「NADiFF」(神宮前)や「オン・サンディーズ」(神宮前)など、アート関連の書籍や写真集が充実しているショップでは、以前よりアーティストのTシャツは発売されていた。それは美術館に常設されているミュージアムショップに近いポジショニングで、ゴッホやピカソの絵をプリントしたTシャツは、文字通り "着るアート作品" となっている。5月に移転オープンしてカフェを併設した、クリエイターのためのブックショップ「PROGETTO」(道玄坂)でも30~40人のクリエイターのTシャツを常時販売している。路面に向かう2階のコーナーでは、ブックショップのイメージを覆すようにTシャツがディスプレイされている。同店の山崎さんは「Tシャツは本と比較すると、結果的には単価も利益率もいい商品であることは事実。本以外のアイテムでは値段としては最も高価なアイテム」と、商品としてのTシャツを評価する。Tシャツの単価は3,800~4,800円。「当店の顧客はデザイナーが多いので、顧客=仕入先でもある。アートショップで販売するTシャツは "アート作品" だが、当店ではクリエイターが多いので、アート作品としては扱っていない。Tシャツは印刷物だと考えている」と説明する。

NADiFF PROGETTO
PROGETTO PROGETTO

前出した「ビームスT」は、国内外の様々なアーティストと「ビームス」がコラボレートしたTシャツばかりを扱う専門店だが、今春発売した「ビームスT オフィシャルコンセプトブック」(4,800円)では、本にTシャツをセットにして書店での販売を試みた。Tシャツはグラフィックチーム「グルーヴィジョンズ」(本社/目黒区)のオリジナルTシャツで、男子用、女子用の2タイプ。一方、「グルーヴィジョンズ」は7月5日(金)、中目黒GBLショップに初の直営店「GRV1788」を開店。クリエイター集団が直営店を持つのは珍しく、現在、同店では他店で販売していないオリジナルTシャツを中心に展開している。同社の辛島さんは「洋服やファッションという視点でTシャツを作っているのでなく、グラフィックデザインを落とし込むのに適しているのがTシャツだから作っている」と、同社のスタンスを説明する。

グルーヴィジョンズ
ビームスT オフィシャルコンセプトブック

■コラボ・アイテム&作品発表メディアとしての「Tシャツ」

日本で唯一のグラフィックデザイナーの全国組織、社団法人日本グラフィクデザイナー協会(JAGDA)が1983年より「JAGDA年鑑」出品者の中から、39歳以下の優れたデザイナーに授与しているのが「JAGDA新人賞」。2002年度の4名の受賞者がデザインしたTシャツが現在、「EDIFICE渋谷店」(神宮前)ほか「EDIFICE」各店と「hiroB gallery」(神南)で限定販売されている。「EDIFICE」「hiroB gallery」「ジャーナルスタンダード」など数多くのショップを運営する「ベイクルーズ」(本社/神南)クリエイティブ・サービス事業部の七戸さんは「デザイナーの方がアパレルにも興味を持っていて、両店で発表することに意欲的だったので、きっかけとしてTシャツで試みた。デザイナーとJAGDAと当社がコラボレートする形で実現した」と説明する。「Tシャツにオリジナリティやクオリティを求めている人は多く、また限定発売ということもあって、デザイナーTシャツの売れ行きは良い」と、好評のようだ。単価は3,800円と4,800円。

「限定発売+コボーレート」の試みは他にもある。「EDIFICE」「hiroB gallery」「Spick and Span」各店とデザイン・ユニット「Glyph」がコラボレートし、アメリカの知育玩具メーカー「Creative Playthings」社のロゴやグラフィックを使ったTシャツ(3,800円)を限定発売。こちらも好評とのこと。七戸さんは「企業や優れたデザイナーとは、毎年コラボレートしている。Tシャツはコラボしやすいアイテムのひとつ。実は年間通じて最も売れているアイテムはTシャツ。Tシャツは夏のものだけでなく、秋冬でもデザインが良ければ販売の動きはとてもいい。パンツやジャケットはボディ自体にデザイン性が出てくるのでより好みが出るが、Tシャツはボディがシンプルなので誰でも着られるのが利点」と、Tシャツを評価する。

ベイクルーズ
hiroB

Tシャツとアーティスト、クリエイターとの関係はもはや切り離しては考えられないが、そのアーティストTシャツの販売手法にも工夫が凝らされている。48組の様々なジャンルのアーティスト、デザイナーがTシャツを使って自由に表現し、展示・販売する企画展「T-ART2002」を今夏、恵比寿と銀座で実施したのが、クリエイターと企業や個人を結びつける活動をしている「ムーブアートマネジメント」(本社/恵比寿)。5月には「ムーブ」が注目している6人のクリエイターが表現するTシャツを「スパイラル」(青山)でプレ・エキシビションとして企画展示。続いて「T-ART2002」を6月29日~7月14日に「SHOP MOVE」(恵比寿)で開き、次いで銀座のギャラリー「コンシール」(8月3日まで)に会場を移し、現在、展示中である。この "移動式Tシャツ展" とも言えるイベント自体がメディアになっている点にも注目できる。「ムーブ」の鈴木さんは、「Tシャツは作り手であるアーティストにとっては表現しやすく、アートに馴染みのない一般の人にとっては、アートの入口として気軽に購入しやすい作品の形態」と、媒体としてTシャツを選んだ理由を説明する。年間3回アートグッズの企画展を展開しているが、Tシャツ展の来場者が最も多いという。「一方、アパレル企業には、枠にはまらない面白い発想のデザインをするアーティストやデザイナーを発掘するよい機会になっている」と、企業とアーティストとの "接近" に手ごたえをつかんでいる。「この企画展を通してジャンルの異なる出展アーティスト同士の交流の活性化や、一般客とアーティスト、アーティストと企業を結ぶ窓口、作品を流通させる窓口としての大きな可能性を感じている。今後は他のショップからの受注、企業とのコラボレーションの実現など目指したい」(鈴木さん)と、抱負を語る。

ムーブアートマネジメント
T-ART2002

今夏から活動を始めたクリエイティブ・レーベル「フューチャー クリーチャーズ」は、デザイン事務所「インディゴデザインスタジオ」(神宮前)が、自分たちが欲しいと思えるオリジナルグッズの企画・販売を行う際に立ち上げたもの。アイテムはTシャツ中心で、販売はインターネットで行っている。同社の高木さんは「以前から考えていたことだが、ネットの普及で機が熟した。店舗の経費、人件費などを削減して、ソフトだけでグラフィックに何ができるのか、ブランドとはどこでどうやって育っていくのか、という楽しい実験である」と語る。Tシャツは「何枚持っていてもいい」アイテムなので、手始めに選んだ。「Tシャツは風であり、肌である。Tシャツはその日の気分を演出する道具である」と、独自の解釈を見せる。同社はグラフィックの仕事で実績のある事務所で、「フューチャー クリーチャーズ」の活動を「受注生産を続けてきた者の新たなアプローチで、可能性のひとつ。しかし、売れ線を目指したものでなく、実は売れても売れなくてもいい」と、位置付ける。リアル店舗では "コラボT" が主流になりつつあるが、高木さんは「コラボはあくまでもサブ、自分たちは主体でありたい」と、独自路線を貫く。クリエイティブ・レーベルの始動は、デザイナーの潜在能力をどれほど引き出せるかという試みなのである。このようにデザイナーの中には、ショップでの "コラボT" 販売、Tシャツ展への出展のほか、自らレーベルを立ち上げ、自力で販売を試みる者も登場している。

フューチャー クリーチャーズ
フューチャー クリーチャーズ

■NPO/NGOが「Tシャツ」でメッセージ発信

環境庁と国連連合大学が共同で設置した「地球環境パートナーシッププラザ」(神宮前)では、NPOやNGOによる50点を越すメッセージTシャツを展示する「2002年夏NPO/NGO環境メッセージTシャツ展」を開催中(8月31日まで)。入場無料。地球環境パートナーシッププラザでは「チラシのように紙も使わず、ポスターのように場所もとらないTシャツは、着る人のメッセージを伝える実用的かつ手軽なメディア」と位置付け、今年初めて同展を実施した。担当の大庭さんは「着ることでメッセージを第三者に伝えることができ、買うことでTシャツを販売するNPOやNGOの活動を支援できる最適のアイテムがTシャツ。Tシャツ展の反響が大きく、手ごたえを感じた」と話す。

7月27日(土)には、世界各国のアーティストのコラボレーションによって1997年に結成されたNPO法人「Renaissance 2001 Project(R2001)」と地球環境パートナーシッププラザによる「eARTh-Tシャツワークショップ」が国連連合大学で開催された。「R2001」が1999年より開催している「アート・ワークショップ」の一環で、現在開催中の「2002年夏NPO/NGO環境メッセージTシャツ展」とリンクする形で実施されたもの。参加者自らが環境へのメッセージを絵で表現した作品を、世界各国のアーティストから提供された地球環境をテーマにした作品画像とともにオーガニックコットンTシャツにプリントし、持ち帰ることができるという内容であった。「R2001」企画室の上岡さんは「EARTH(=地球)の中にARTがある。地球とアートは切っても切れない関係。環境と聞くと難しく考えがちだが、絵を描くことを楽しみながらTシャツを作ることで、環境を考える機会になればいいと考えた」と説明する。このようにメッセージを発信するメディアとしてTシャツはいたるところで活躍している。

地球環境パートナーシッププラザ NPO法人Renaissance2001Project
地球環境パートナーシッププラザ 2002年夏NPO/NGO環境メッセージTシャツ展 eARTh-Tシャツワークショップ eARTh-Tシャツワークショップ

■ITとリアルが巧みにリンクして発信する「Tシャツ」"周辺" 情報

「T-SHIRTS AS MEDIA 2002」と題した "Tシャツ関連イベント" を展開するのが、フリーペーパー「dictionary」の発行やラジオ、ウェブ、音楽レーベルの設立など、多面的なメディアプロデュースを手掛ける「クラブキング」(本社/世田谷区)。「私たちの提案するT-SHIRTS AS MEDIAは夏だけのイベントではありません。365日毎日がメディアです」(クラブキング代表・桑原茂一氏)というメッセージにあるように、 "Tシャツはメディアである" という提案は、「クラブキング」の継続的なテーマになっている。

同社では「dictionary」に集うアーティストたちとコラボレートして完成した77組116型のTシャツを4月からインターネットで通販を行うと同時に、「FORT」(神宮前)や「EX’REALM」(神宮前)をはじめ全国で展示会を開催。さらにアーティスト・ビジュアルブック「T-SHIRTS AS MEDIA 2001-2002」(4,800円)を制作し、予約販売を行っている。同ビジュアルブックは2002年参加の全作品だけではなく、2001年の作品も含めた「T-SHIRTS AS MEDIA」のすべてをまとめ、全134型のTシャツ(メッセージ)を完全収録したもの。元祖 "メディア・ミックス集団" の真骨頂である。参加アーティストは、アントニオ猪木、日比野克彦、ホンマタカシ、しりあがり寿、荒川眞一郎、河原光など、様々なジャンルから登場。通常のタイプは4,800円、オーガニックコットンTシャツは6,000円。ネットでの通販と並行して、4月から代官山の直営店「CK STORE」(猿楽町)で「T-SHIRTS AS MEDIA」のTシャツ全商品を常時展示販売している。「T-SHIRTS AS MEDIA」を担当する佐々木さんは「ショップに来るのは、アーティストのファンの方が多い。メッセージよりもデザインやアーティストに興味を抱き、そのアーティストが好きだから、そのメッセージの意味も知りたいという方が多い」と傾向を語る。また、メッセージの到達度とメディアの役割については「販売して、メッセージも読んでもらって初めてメディアの役割を果たすことができる。アーティストの方々の作品はとても素晴らしいものばかりだが、世に出していかないと、メッセージとして意味がない。メディアとしてデビューさせていくことを意識している」と説明する。

クラブキング

現在、アパレルメーカーや衣料を販売するショップと異業種企業や団体などが共同で開発する "コラボレートTシャツ" の例は数え切れない。かつてはアパレル以外の企業が作るTシャツは、企業名やブランド名、キャラクターをプリントしただけの "ノベルティ・グッズ" に過ぎず、懸賞やイベントでもらっても「デザインはダサく、クオリティは低い。もらっても嬉しくない」という反応が多かった。その後、企業が人気の高いアパレルメーカーやセレクトショップに発注したことで情勢は変化した。今日では両者の間に、さらに著名なデザイナーが加わり、タグは "Wネーム" "トリプルネーム" となり、Tシャツは独自の進化を続けている。一方、広告業界は、新商品の告知、映画の公開や新譜のリリースの際に利用価値の高さを知り、積極的に "コラボレートTシャツ" を仕掛けている。

アパレル業界の主流で、ファッション界を牽引するセレクトショップは、 "別注モノ" " 限定モノ" を開発し、アーティストと組んで積極的にコラボレートを進めている。中には稀少価値が高まり、コレクターズ・アイテムになるTシャツが登場するなど、通年アイテムのTシャツはすでに "救世主" になりつつある。この背景には、「製造コストの低減」「ロットが稼げる」「衝動買いしやすい」などの理由でTシャツに力を入れるアパレルメーカーが増加したことが挙げられる。アパレル企業が自社ブランドやショップの商品構成に新鮮さを吹き込むために、オリジナリティを持ったアーティストとコラボレートすることは、もはや定石。さらにその背景には、若手のインディーズ・デザイナーをゆっくり育てるコストより、ジャンルにとらわれることなく活躍しているアーティストのネームと勢いに便乗し、話題性を取り込むことが即効性に優れ、効果的で、結果としてコストダウンにつながるというクールな判断もある。

「ユニクロ」に代表される、マスをターゲットとした "ロープライス" "大量生産・大量販売" に翳りが見え始めた時期と、アーティストとの限定コラボTシャツにスポットが当たるようになった時期が重なったのは、決して偶然ではない。作家の個性が解き放たれた上にロットが限られている付加価値の高いTシャツを今、渋谷に集まる消費者が支持している。ファッションに長けた消費者は、多くの選択肢の中から個性に合ったTシャツを選ぶ楽しみ(=時間)を消費しているようにも見受けられる。さらに、限定Tシャツは少量であればあるほど価値があるという側面もあり、Tシャツはもはやファッションとして "着る" 以外の価値を持ち始めている。

"Tシャツ" はまさにカルチャーのパッケージ化でもある。アパレル企業やセレクトショップ、さらにデザイン・ユニットなどTシャツを巡る様々な業態が集積する渋谷では、多面的なカルチャーとのコラボレーションを通じて、Tシャツといういわゆる "共通フォーマット" に強烈な個性が吹き込まれ、新たな付加価値商品としてパッケージ化されていく。さらに、インターネットの普及に伴い、少量生産で付加価値の高い商品情報をスピーディに伝播できる環境も、Tシャツマーケットを大きく後押ししていると言えそうだ。ファッション、音楽、映画、アート・・・様々なカルチャーを包含する渋谷は、まさにTシャツ・コンテンツの「宝庫」となっている。

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