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進化するエンタテイメント空間
渋谷ニュースタイル飲食店事情

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■マーケットの縮小で、競合感を高める外食産業

「財団法人外食産業総合調査研究センター」が4月に公表した「平成13年度外食市場規模推計」によると、長引く不況のもと引き続き個人消費は低調に推移し、家計での1人当たりの外食支出額は4年連続減少、法人交際費も減少を続けている。外食産業市場規模は4年連続前年度を下回り、前年(平成12年)より1.5%減少し、26兆9,118億円と推定。下降の要因は、BSEの影響、社用接待や宴会需要の減少、個人消費の低迷、客単価の下落などが挙げられる。

飲食店、宿泊施設などの「営業給食」の市場規模は、17兆346億円(前年度1.3%減)。中でもファミリーレストランや定食店などの一般飲食店、日本料理店、西洋料理店、中華料理、エスニック料理などを含む「食堂・レストラン」は対前年比1.9%の減少。一方、「飲料主体部門」の市場規模は5兆8,772億円で前年(平成12年)より2.3%減少。伸びているのは、持ち帰り弁当店や惣菜店、小売主体のファーストフードなど「料理品小売業」。市場規模は5兆7,781億円で、外食産業全体が前年を下回る中で、対前年2.1%の増加となっている。(注)コンビニの1/3程度が、『料理品小売業』に属するため、それらの売上高も含まれている。しかし、一方で外食指標のひとつ「食の外部化率」は、年々上昇している。ライフスタイルの変化に伴い、自宅で料理する「内食」が減少し、外食や中食(テイクアウトやデリバリー、調理済み食品)に依存する割合は増大している。

「食の外部化率」 28.5%(1975年)→35.3%(1985年)→41.4%(1995年)→45.1%(2000年)

「社団法人日本フードサービス協会」が毎月実施している外食市場動向調査「対前年度月比」の最新データ「2002年5月度」の統計によると、ファーストフード、ファミリーレストラン、パブ・居酒屋、ディナーレストラン、喫茶など飲食店の店舗数は104.8%と新規出店の勢いは続いている。全店ベースでの売上は、対前年比104.1%。客単価は94.9%と大きく下回ったが、客数が109.7%と増え、売上増に結びついている。

以上のデータから、「食の外部化率」は上昇しているが、マーケットは縮小傾向にあり、さらに業態間の競争が激化していることが理解できる。閉店に追い込まれる店舗もあるが、客単価を落としながらも全体として飲食店の店舗数は増大傾向で、競合感がさらに高まっている。

財団法人外食産業総合調査研究センター 社団法人日本フードサービス協会

■フレッシュネスバーガーが挑む新業態

7月6日(土)、道玄坂にオープンした「フレッシュネスバーガー・カフェ」は、「フレッシュネスバーガー」(本社・千駄ヶ谷)がカフェ業態に挑んだ国内第1号店。メニューはコーヒー(スモール240円)やカプチーノ(スモール280円)などドリンク類中心で、ハンバーガー類は皿に乗せ、ポテトを添えて提供する。ドリンク、フードともカウンターで注文・清算するセルフ方式を採用。外装・内装とも色調を白、黒、アルミで統一し、ニューヨークやシカゴをイメージしたカフェに仕上がっている。

同社は、すでに定食店のリメイク業態「おはち」(渋谷、恵比寿ほか)を軌道に乗せ、うどん店のリメイク業態「きつね屋」(中目黒)も展開している。同社広報の中西さんは、同店をアンテナショップでなく「カフェ進出の第一歩」と位置付ける。さらに進出の背景にはマーケットの拡大があるという。「シアトル系カフェの進出による市場拡大は、ロープライス・コーヒーチェーンの店舗拡大の最中に起った。消費者は多少料金が高くても、おいしいコーヒーを優雅な空間で口にして、くつろぎたいと考えているということがわかった。今後もカフェ市場は活性化し拡大していく」と、市場動向を捉えている。

後発でカフェ進出を図るためには、他店にない付加価値が必要。中西さんは「消費者の嗜好の変化は早く、ブームが去るのは当然。そんな消費者に対して新たな付加価値とは、フレッシュネスで培ってきた、オリジナリティーある商品力を生かしたドリンクメニューと、できたてで美味しいフードメニューを提供できること。簡単に言えば、既存のカフェよりもドリンクが安く、フードが手作りで美味しく、都会的な雰囲気を味わえるということである」と、自信をのぞかせる。同社ではハンバーガー業態の既存店の業態変更を中心に、2003年4月期中に10店舗の開設を目標にする。「既存店のリニューアルは5年以上経過した店舗を対象とし、立地変化があると判断した場合、業態変更を行う。新店を合わせて店舗数の拡大を図る」(中西さん)と話す。

フレッシュネスバーガー
フレッシュネスバーガー フレッシュネスバーガー・カフェ

■積極出店を続ける有力フードベンチャー

7月30日(火)にオープンした「隠れ家和食 だいぶつころころ」(宇田川町)は、地下に広がる迷路に“隠れ家個室”をしつらえた和食店。400名収容の広い店内は天井高を利用し、階段の上には桟敷のような部屋を、階段の下には個室を設けている。薄暗い小路を歩いて、さらに階段を上がったり下りたりしながら部屋にたどり着く仕掛けは、既存の飲食店にはない着眼点。「トイレに行ったら、自分の部屋に帰れなくなる方も多い」「迷うように、怪しさをかもしだすために、照明はあえて暗くしてある」(店長の郡さん)など、他店ではタブーとされていることを同店は故意に実行している。インテリアも凝っている。店内には5メートルの太った大仏が鎮座しているほか、いたるところに骨董品や掛け軸、仏像などが配置され、和風テーマパークを訪れたような錯覚にとらわれる。

同店を運営する「ユージー・グローイングアップ」(本社:大阪)は、全国で40数店舗の大型飲食店を直営する有力企業。1998年には東京進出を図り「ブッツトリックバー東京」(宇田川町)、「くいもんや12.6東京」(宇田川町)、「渋谷エレファントカフェ」(道玄坂)など新業態を相次いで出店。他にも教会やアラブをテーマとするレストランを開業するなど、奇抜なアイデアとユニークな店名は注目を集める。また、企画、経営、内装、インテリア、広告制作など、店舗開発・運営をすべて社内で行う“自己完結”スタイルも同社の特徴。東京の全店を管理する副社長の北村さんは「自己完結主義なので、社長がコンセプト立案から買い付け、BGM制作まですべて行う」と説明する。大箱中心の同社だが、個室系でも「あほぼん寺」(大阪)で成功を収めている。コンセプトとデザイン、さらに店名の「だいぶつころころ」も同社の宇都宮社長が発案、インパクトの高さで決定した。「何が“ころころ”なのかわかれへんけど、社長の感性には脱帽」(北村さん)と、カリスマ経営者に寄せる信頼は厚い。「広くて個室があるだけなら旅館と同じ。それより階段を上がったり、下がったりし、下がったら個室があったり、さらに下がったら板の間があったりする方が面白い。それを作り上げたら結果として迷路になった。年配の方から『トイレの場所がわからない』と言われるが、ウチは謝らない。『ここはそういう店。それがオーナーの狙いなんです』と説明する。迷路を遂げた頃には常連になってもらってます」と、狙いを語る。

「東京進出は、まず渋谷→新宿→池袋の順で考えた。東京の方が(商売が)やりやすい。大阪だと駅から近くて天井が高くて、接客も料理も良くて、値段が安くても、ひとつはケチをつけたがるが、東京は『良かったじゃん』で終わる。しかし、ここで手を抜いたらアカン」(北村さん)と、東京進出に成功した後も気を引き締める。今年11月には、さらに「東あほぼん寺」(道玄坂)と「渋谷キリストンカフェ」(道玄坂)の2店舗が渋谷に出店を予定している。外食産業の“西の雄”は、渋谷でのドミナント戦略を突き進める。しかし、一方では絶えず業態変更をも企てている。「現在、ウエイティングがついている(弊社の)店も5年後、10年後も同じように流行り続けるとは考えられない。3年を目途にリニューアルを企てる。だからこそ場所にこだわる。駅から近くで大箱。立地のいいところなら10年、20年、商売を続けられる」と、北村さんは同社の戦略を語る。

ユージー・グローイングアップ
隠れ家和食 だいぶつころころ 隠れ家和食 だいぶつころころ

8月5日(月)にオープンした「ダンシング・モンキー」(南青山)は、「モンスーンカフェ」や「権八」など、人気レストランを手がける「グローバルダイニング」(本社/南青山)の新業態。ハーフセルフ形式のレストランで、同社としては初の試み。店内は全142席がラウンジ、個室、カウンターなど様々な形でコーナー展開されており、その日の気分でチョイスできるのも特徴のひとつ。「いろいろな要素を盛り込んでいかないと、その目的だけでしか来てくれない」(広報担当の田中さん)と言うように、同店は様々なシチュエーションを想定している。ドリンク類はブレンドコーヒー(250円)やエスプレッソ(200円)など低価格に設定。料理も単品350円~とロープライス路線を敷く。

広報の田中さんは「飲み物、食べ物をオーダーし、あとは動きまわるのも良し、踊るのも良し、という自由な空間」と説明する。「他店と比較すると客単価も下がるし、フルサービスではないが、それでも居心地の良いサービスの仕方のひとつとして、グローバルダイニングの新たなサービスが発信される。実験店舗として軌道に乗れば、多店舗化を考えている」と、新業態に期待を寄せる。日本人にはなじみの薄いハーフセルフ形式なので「スタッフが導線を作ってあげたり、楽しく使う提案をしてあげながら、同時に利用者の声も聞きながら、店のスタイルを一緒に作りあげていくことができる。これが『ダンシング・モンキー』の新しさ」(田中さん)と、利用者とともに進化する店づくりを目指す点もニュースタイル。「『ダンシング・モンキー』なら、一杯飲んで、さっと帰りたい、とか、ちょっとつまんで行きたいという要望にも応えられる。飲食業界のサービスのレベルが上がり、気軽に食べられるものも増えてきた。外食が占める時間が増していて、多くの人が楽しめる店を考えると、『ダンシング・モンキー』といった回答もあるはず」と、可能性を見い出している。

グローバルダイニング

一方、9月2日(月)には、銀座の「安曇家(あづみや)」が南青山へ出店。キーワードは「働く女性のための隠れ家」。採光を取り入れたメインダイニング、趣向を凝らした円形カウンターに加え、個室に寿司カウンターを用意し、“南青山バージョン”を構築。同社の椋本さんによると「南青山は感度のいい女性が多く集まる街。メインとなる女性客への告知のために、開業前モニターを試みている。南青山で認知されることは、同社のイメージアップにもつながる」と、オープン前にファン作りを務めている。100名の女性を招いて試食会を催す「開業前モニター」は、「オープン前なので、いろんな意見に耳を傾け、店に反映させたい」(椋本さん)と意欲的に取り組む。

安曇家
ダンシング・モンキー ダンシング・モンキー ダンシング・モンキー

■気鋭の店舗プロデューサーが手掛ける新展開

8月10日(土)、渋谷駅近く、明治通り「東急イン」並びの「マトリクス・ツービル」1、2階にオープンする「CELEB(セレブ)」は、“プールサイドベッド”をモチーフとするリゾート空間を目指す。エントランスを通り抜け、階段を昇ると、7m×10mのプールが出現し、プールサイドにダイニングとバーラウンジが広がる。同店では、このプールとプールサイドを活かしたアトラクションメニューも用意しており、例えばラジコンの潜水艦を貸し出したり(30分1,000円)、プールサイドの空間を仕切る「プライベート・パーテション」を貸し出す。これらはすべて“裏メニュー”として提供されるもので、店内には表示されていない。フードとドリンクは、「スパイス」をテーマに世界各国のスパイスを使った料理と、その料理にあった様々なドリンクを展開。サウンド面では海外で高い評価を受けるDJ YUTAKAがプレイし、スタイリング面では雑誌や広告など様々なメディアで活躍する伊賀大介がスタイリングを担当する。

「CELEB」の企画・プロデュースを手掛けたのは「キューブ」(本社:北青山)と「エーアイ・ジー・アイズ」(本社:恵比寿)。「忍庭」(恵比寿)や「萬葉庭」(代官山)など、数多くの「仕切り系空間」に代表される新しいタイプの飲食空間のプロデュースを手掛け、「CUBE ZEN」(表参道)では逸早く「禅スタイル」を提案した「キューブ」と、今年3月に飲食空間「SOUEN」(渋谷)を同社と共に企画・プロデュースしたエーアイ・ジー・アイズが再びコラボレートを行った注目の案件。同社の中東さんは「コンセプトは、都会のリゾート。飲食空間にプールサイドを、あるいはプールサイドに飲食空間を設け、当社がイメージする大人の社交場を創造した」と説明する。「CELEB」ではすでに「三愛水着楽園 ファッションショー」(8月28日)など、メーカー主催のイベントやパーティが予定されており、プールサイドを活かした演出が施される。

さらに8月27日(火)、「キューブ」では、直営店「CUBE HATAGO」(六本木)を開業する。コンセプトは「旅籠が醸し出す和のリゾート」。地下に広がる小さな宿場町に、いくつものはなれ(個室)が軒を連ねる。小道を進むと、旅籠(特別室)が現れるという内容。こちらも興味深い飲食空間である。

キューブ エーアイ・ジー・アイズ

現在の外食産業ほど、料理はもとよりインテリア、音楽、接客をふくめ、“楽しさ”“心地よさ”“癒し”など、すべての面でエンタテインメント性が求められている業界は他には見受けられない。どれひとつとして手が抜けないのが現状。しかも、消費者はすこぶる飽きやすい。今日、渋谷で繁盛している店でも同じコンセプトでどこまで売り上げが継続できるかについては常に危機感を抱く。

だからこそ、外食業界では絶えず新業態の開発に追われる。今までに見たことのないコンセプトで既存店をリメイクし、売り上げの挽回を図ることはもはや業界の日常的行為となっている。映画、音楽、ファッションなど、様々なエンタテイメントにあふれる渋谷でも、仲のいい友達や恋人、仲間と一緒に過ごす“時間”と“空間”を提供する飲食業態は、今やエンタテイメント業態とも言える側面が小さくない。「自由時間デザイン協会」が公表した「レジャー白書2001」でも、余暇活動の参加人口順位は、1位外食(7,560万人)、2位ドライブ(6,060万人)、3位国内観光旅行(5,990万人)、4位カラオケ(5,290万人)、5位ビデオの鑑賞(4,630万人)、6位音楽鑑賞(4,370万人)と、余暇の過ごし方として「飲食」がもっとも人気が高い。他人とのつながりを希求し、コミュニケーションを深めることに全力を注ぐ現代人にとって、「居心地の良さ」や「癒し」に加えて、「驚き」や「新たな発見」にあふれる飲食空間は、当然のことながら集客力が高くなる。

激戦区=渋谷で決定的な差別化を図るためには、生み出された「アイデア」をもとに、わずか数ヶ月間で具体的な空間に仕上げるスピードと実行力、さらに時代の半歩先をゆく先見性が必要となる。こうして続々と生み出される空間がこの夏、渋谷のエンタテインメント感をさらにヒートアップする。

CELEB(セレブ) CELEB(セレブ) CELEB(セレブ)
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