「グッチ」「エンポリオ・アルマーニ」「シャネル」など世界のスーパーブランドが軒を並べる表参道。昨年から続く旗艦店のオープンラッシュは今年に入ってからも加速している。3月には複合ビル「V28(ヴィ・トゥ・エイト)」(神宮前)がオープンした。建物の外側の湾曲したガラス張りの部分にはLEDが埋め込まれており、夜には一種異様な青い光を放っている。主なターゲットは20~30代のビジネスパーソン。1、2階にスペインのファッションブランド「ZARA」、3階にフィットネスクラブの「GOLD'S GYM」(24時間営業)、6月には4階に「ソーホーズ表参道」が開店した。「ソーホーズ」は「NOBU TOKYO」「ロイズ」など著名な高級店を運営している「ソーホーズ・ホスピタリティ・グループ」によるイタリアンレストラン。渋谷本店(宇田川町)ほかですでに知名度は浸透しているが、世界のファッションブランドが軒を並べるエリアに登場した「ソーホーズ表参道」は新たなマーケットを狙っている。表参道は深夜まで営業する大箱レストランは意外に少ない。
ソーホーズ・ホスピタリティ・グループ一方、南青山には今春、「10(ディエチ)コルソ コモ・コム デ ギャルソン」「マイケル・コース」「マサト・パリ」など気鋭のブランドを集めた「ユニマットブルーサンクポイント」が開業した。「ユニマット」が進める店舗と共同住宅を併用した実験的な施設として注目を浴びた。カリスマブランド「UNDER COVER」が隣の「コレッツィオーネ」から同ビルの路面へ移転したほか、地下にはカリスマブランドの「A BATHING APE」が手がける「BAPE CAFE」が今夏オープンし、一気に "裏青山" の吸引力がアップした。3月には近隣に三宅一生の新ブランド「ISSEY MIYAKE FETE(イッセイ・ミヤケ・フェット)」がオープンするなど、表参道交差点から根津美術館を結ぶ通り、並行する骨董通りにもブランドショップが相次いでオープンしている。
南青山5丁目にオープンを予定している「プラダ南青山店」(仮称)は当初、2002年後半の開業を予定していたが、「プラダジャパン」広報担当者によると、「従来のショップと異なる店づくりをコンセプトに据え、変わった素材を使用するため海外から部材を輸入していることもあり、その関係で工事が遅れている」とのこと。現時点でのオープン予定は2003年春。一方、「エスキス表参道」並びの「ディオール・ビルディング」は2003年7月のオープン予定。設計は妹島和世と西沢立衛のユニット「SANAA」が担当。「カナージュ」(ディオール製品の定番柄)を二重構造のファサードに浮かび上がらせるというアイデアが話題を集めている。建物は4階建て+屋上からなる構造。柱をなくした透明なファサードがポイントになる。ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、ジバンシィなどを扱いが予定されている「LVMH(モエヘネシー ルイ・ヴィトン)タワー」も表参道近くに2004年の開業が予定されている。
スーパーブランド出店ラッシュの理由には、いくつか挙げられるが、中でも「歴史的・環境的ロケーションの良さ」と「勢いのある外資系企業の日本進出」は大きな要因となっている。地元商店振興組合「原宿表参道欅会」では、まず表参道の歴史と欅並木の保護など表参道の環境整備を強調する。渋谷区の地区条例が施行され、ゲームセンターやパチンコ店、風俗店の進出を抑制しているため文教地区である点が大きい。一方、外資系企業の進出に強い広告代理店の担当者によれば「日本の企業では、もう表参道にビルを建てることなど無理。しかし、LVMHグループのように日本マーケットを重視し、実際、日本でバブル期の約2倍も売上をあげているような企業にとって表参道に進出することは願ってもないチャンス。多少の革新性があり、伝統性もある表参道は出店するのに格好の場所。保守的な要素が強い銀座より年齢層は若いが、今後ファンなる女性顧客層を開拓し、リピーターとしてつなぎとめていくには表参道に分がある」と説明する。
迎え撃つ形の既存店もバージョンアップで迎撃を図る。2001年9月29日に開業し、9月に1周年を迎えるのが「エスキス表参道」。「シャネル」「イヴ・サンローラン リヴ・ゴーシュ」「グッチ」「アレキサンダー・マックイーン」など著名なブランドが集積し、上層階には大人をターゲットとした「RETOH」「御蔵」などの飲食施設も充実している。この「エスキス表参道」にもこの夏、強力なブランドが加わった。8月24日(土)に、東京では1店舗目となる旗艦店「ボッテガ・ヴェネタ青山」(B1F)がオープンし、新たに世界的なブランドが集積された。
1966年にイタリアで創立した「ボッテガ・ヴェネタ」は、イタリア・ヴェネト地方の熟練した革職人の伝統に深く根ざしている高級皮製品ブランド。2001年、「グッチ」グループの傘下に入り、クリエイティブ・ディレクターにトーマス・マイヤーが就任し、一気に知名度がアップ。トーマス・マイヤー自身がディレクションを務めた「ボッテガ・ヴェネタ青山」は、暖かみのあるナチュラルカラーと、それとは対照的なアフリカ産イロコ材が融合している。「ボッテガヴェネタ・ジャパン」(渋谷区)では「青山店は旗艦店としてのグローバルなイメージ展開ができた。年内までには全国で新規6店舗をオープンする予定」と、旗艦店のオープンを契機に、後に続く快進撃の弾みがついたことを示唆する。さらに「エスキス表参道」の篠原さんは1年を振り返り、「顧客の傾向はオープン当初から大きく変化することなく、20~30代の女性が圧倒的に多く、目的意識が高く、特定のブランドを買い求めに来店する方が多い」とまとめる。なお、1周年を迎える同ビルでは10月5日(土)、3階特設会場で「長谷川理恵ファッショントークショー」が開かれる。
エスキス表参道香港のデザートレストラン「糖朝」の海外初出店となる日本一号店「糖朝The Sweet Dynasty」が9月12日(木)、表参道交差点近くの青山通り沿い(北青山)にオープンする。経営は高島屋グループの「アール・ティー・コーポレーション」。香港で人気ナンバー・ワンと謳われるこのデザートレストランは1991年のオープンと歴史は浅いが、「医食同源」の考えに基づく伝統的なデザートを現代的にアレンジしたもので、本物志向、ヘルシー志向にあふれているのが特徴。香港の本店ではデザート、粥、麺類、点心など約230種というメニューバリエーションで、朝食、ランチ、ティータイムから夕食まで幅広いニューズに対応し、若い女性を中心に圧倒的な支持を受けている。「アール・ティー・コーポレーション」取締役企画開発室長の曽山さんは「糖朝」の人気ぶりを次のように語る。「おいしくて素材自体がヘルシー。間違いなく香港を代表し、世界に誇るスィーツの1番店。店内はたえず満席。日本人女性にも人気が高く、半数以上が日本人女性客で埋まることもある。また、日本、オーストラリア、カナダなど各国から出店の打診があると聞く。オーナーのデイシーはテレビや雑誌で活躍する女性で、レシピ集など著作も多数あり、いわば女性にとってスター的存在」。抜群のブランド力とオーナーのカリスマ性はすでに世界へ伝播している。
同社がライセンス契約を結んだのは1年前。「交渉企業としては後発だったが、オーナーのデイシーは東京で発信することが夢だったのでスムースに進んだ」と、曽山さん。デイシーさん自身が「新宿高島屋」に100回以上足を運んだほど「高島屋」ファンであったことも功を奏した。日本1号店の出店に関して、青山、銀座、広尾、代官山、麻布など各エリアで50~60の物件を見て周り、今年4月に現在の青山通りに決定した。現在の場所が選ばれた理由は「表参道と青山通りがクロスする交差点エリアは、時間と金銭的な余裕を持った女性が集まる場所として屈指のエリア。街並みなど景観もよく、ファッションにも精通したデイシー自身が青山エリアを熟知していたこともあった」(曽山さん)という。さらに表参道~青山エリアを「キャッツストリートなど躍動感のあるゾーンが隣接する一方では、世界の一流ブランドが建ち並ぶ、ある種混沌とした部分もある。原宿と青山は集まる人間が異なるが、回遊性・界隈性にあふれているところと外国人が多いのも魅力」と語る。いいものを選ぶシビアに目と金銭感覚に長けた女性をターゲットとするため、「大きな緊張感があるが、青山から全国、さらに世界へ発信していきたい」(曽山さん)と意欲をのぞかせる。
高島屋2003年6月には、ニューヨークの高級グルメストア「ディーン&デルーカ」の国内一号店となる旗艦店がオープンする。現在のところ最終確定ではないが、候補として青山が挙がっているという。未確認情報だが、青山通りの高級スーパー「紀ノ国屋」の並びではないかとされている。「ディーン&デルーカ」は世界各地から選りすぐりの高級食材を集めた "食のセレクトショップ" として世界中に知られている。日本での独占ストアライセンス権、独占輸入販売権などの契約を締結したのは伊藤忠商事。3社共同出資で設立する事業会社を通じ、ニューヨークと同形態のストア展開に乗り出す。「ディーン&デルーカ」のブランド力を活かした「食」と「ファッション」が融合した新業態の開発になるという。旗艦店ではカフェを展開し、デリカテッセンやケーキ・菓子類など食品の販売と、日用雑貨の販売も行う。伊藤忠商事ブランドマーケティング事業部の担当者は「オープンすることは確かだが、まだ場所を青山に確定できない状況」と言葉を濁す。
伊藤忠商事9月1日(土)、「ルイ・ヴィトン表参道ビル」がオープンする。フロア構成は地上8階、地下2階。建築家の青木淳氏が設計した、ルイ・ヴィトンを象徴するトランクを積み上げた形態のショップデザインは建設中より話題となっていた。各フロアは事実、ひとつのトランク型の空間になっている。同ビルには世界でも最大級の広さとなる「ルイ・ヴィトン表参道店」に加え、日本初のVIPサロン(5階)、多目的スペースのLVホール(7階)も併設される。「ルイ・ヴィトン表参道店」にはコンシェルジュが登場するほか、世界に先駆けて発売される初のウォッチ・コレクション(2階)や巨体なメンズフロア(B1)などポイントは数え切れない。特に腕時計はフルラインとして発売される初のコレクション。「表参道店」オープンに合わせた限定モデルも登場する。特筆すべき点はショップだけでなく、顧客へのよりよいサービスの提供とコミュニケーションの場として世界でも稀に見る総合ビルとなっている点。「ルイ・ヴィトン表参道ビル」が日本戦略においても重要なポジショニングにあることの証でもある。
ルイ・ヴィトン青山通りには国内大手アパレルメーカーのビル建設の噂も広がっている。 表参道・青山エリアは世界有数のブランドストリートになり、加速度的に "オトナ化" が進みつつある。一方、9月6日(金)には丸の内に再開発の目玉「丸ビル」がオープンする。100店舗のショップともに、40店もの人気店が軒を連ねる飲食街が入居する複合商業ビルは、かつて比較的地味なビジネス街であったエリアをエンタテインメント・ゾーンへと変貌させる起爆剤ともなる。丸の内・銀座エリアのみならず、住宅、美術館、ホテルなどを集結させる「六本木ヒルズ」(2003年春開業予定)、ホテルを中心としたエンタテインメント施設が集積しつつある品川駅周辺、開発が進められている汐留地区「シオサイト」など、都心部でのビッグプロジェクトが同時に進行する。
表参道・原宿・青山は表通りから一歩足を踏み入れると、"キャットストリート" や "裏原宿"、さらに" 裏青山" へと界隈が広がっていく楽しみにあふれている。しかも、つながったエリアにもかかわらず微妙に集まる人間の匂いが異なる点もまた街の彩りとなっている。老朽化のために取り壊しが決まっている「同潤会青山アパート」の跡には「世界のANDO」安藤忠雄の設計による住宅・店舗の複合施設が建設されるとあって、今後の表参道の様相はさらに大きく変化を遂げる。現在の環境を維持しながら、様々な業態のブランドが集積すれば「ブランドの集積が相乗効果を生み出す」エリアを狙って、さらに新たな企業が進出を図る。回遊性に優れた界隈は20~30代の女性層を集客するには抜群のエリア。今後はファッションを取り巻く飲食やサービス分野からのブランドショップの進出で、ブランド集積感にも多面性が生まれそうだ。この秋も、表参道・青山エリアから目が離せない。