国内外の優れたデザイン家具や生活関連プロダクツを通じてライフスタイルを提案するイベント「東京デザイナーズウイーク(TDW)2002」が10月10日~14日に青山・原宿ほかで開催される。今年は正式に特定非営利活動法人「東京デザイナーズウイーク」(事務局:南青山)として認可されて初めてのイベント。参加ショップは約75、参加デザイナーは約130名。東京デザイナーズウイークの前身は1986年、輸入家具専門5社によって始められた「デザイナーズサタデー」。当初は業界内における限定イベントだったが、さらに対象を多くの一般ユーザーにまで広げ、ライフデザインへの意識を喚起しようという声をうけ、イタリアで開かれているインテリア家具の祭典「ミラノ・サローネ」と周辺イベントをモデルに1997年、日本の環境に即する形で誕生した。基本はメーカーの新作プロモーションだが、NPOとして認可されたことで、今年は将来を担う若手デザイナーや学生などの支援・育成にも力を注いでいる。「東京デザイナーズウイーク」ではイベントを“デザインの運動体”としてライフスタイルを提案していく。
ショップ情報やイベント内容、シャトルバス運行スケジュールなどを記した「オフィシャルガイドブック」(300円)は参加インテリアショップの他に「青山ブックセンター」や「タワーレコードで発売中。一方、期間中参加者にイベント情報を提供する「情報ステーション」として10月1日、「ペリエ・ワンダーランド」(南青山)が10月26日までの期間限定ショップとしてオープンした。同店は今春、宇田川町に開業した「ZERO GATE」地下にオープンしたDJバー・レストラン「ラ・ファブリック」がメインプロデュースを手掛ける期間限定のカフェ&ギャラリー。 「ペリエ・ワンダーランド」は地下にギャラリー(LOMO展覧会)を設けているほか、期間中様々なアート、音楽&ファッションイベントが開催される。
東京デザイナーズウイークインテリア専門誌「エル・デコ」の呼びかけで昨年からスタートしたのが「Cyber AHIST 2002~青山・原宿インテリア通り祭り」。「IDEE」(南青山)や「F.O.B COOP青山店」(北青山)など参加ショップ17店と「エル・デコ」が連動するイベント。期間は10月10日~20日。期間中「アニヴェルセル表参道」では連動するイベントが展開される。
エル・デコTDWと同じ10月10日~14日、デザイナーにフォーカスして開催されるのが「東京デザイナーズブロック(TDB)2002」。2000年にスタートしたTDBは、国内外で活躍するデザイナーが都内約80ヶ所ものショップやギャラリー、レストランなどを舞台に展示を繰り広げる同時多発的イベント。昨年は50万人を動員した。今年の参加ショップは約100、参加デザイナーは約250名。無料ガイドブックが参加ショップに用意されている。
注目のイベントは「スパイラル」で開かれるデザインプロダクツの一般参加型コンペ「IDDE DESIGN CONPETITION」と、青山学院大学向かい、国連大学側の246号沿いの空地に登場する、架空の近未来飛行場のエアポートラウンジをイメージしたドーム「SPUTNIK DOME」。「IDDE DESIGN CONPETITION」についてTDB事務局の浜野さんは「新進気鋭の優秀なデザイナーを発掘し、サポートし、商品化していくもので、今回は世界中から1000通を超える応募があった。従来の展示では展示期間に作品をお見せするだけで、その後、作品のプロトタイプがデザイナーの事務所にころがっているといったことが起こっていた。これはとてももったいないこと。優秀な作品を実際に商品化することでデザイナーも作品も広く認知される」と語る。応募資格もフリーランス・デザイナー、インハウス・デザイナー、学生など一切の職業・資格は不問。また、個人・グループを問わず応募可能とし、1人(組)何点でも応募することができるなど、応募するデザイナーにとって自由度が高いことも特徴のひとつ。ユニークなのは期間中に「スパイラル」を訪れたすべての人が審査員となること。「著名なデザイナーの1票も、一般の方の1票も価値は同じ。デザイナーを応援する形で参加もできるし、発表する側にもまわれるコンペティション」(浜野さん)である。最優優秀賞となる「イデーアワード」の受賞者には賞金100万円、受賞作品の商品化、ならびにロイヤリティ契約、商品化打ち合わせのための東京までの往復航空券(海外在住者の場合)もしくは交通費実費(日本国内在住の場合)、さらにミラノ・サローネを代表とする国内外で開かれる展示会での作品展示、ならびに展示会場までの交通費実費を支給する。なお、2000年、2001年の「イデーアワード」を受賞したデザイナーの作品はすでに商品化されている。
一方、「SPUTNIK DOME」は「IDEE」がサポートする世界中を展示会ツアーでまわるプロジェクト「SPUTNIK」の最新ツアー“SPUTNIK SPACELINES”を期間限定のドームで実施するもの。インテリアや雑貨を扱う人気ショップ「SPUTNIK PAD」(神宮前)が運営するこのドームには、チェックインカウンターやラウンジバーが設けられ、最新プロダクツのインスタレーションとライブイベントが開かれる。ドーム中央部のラウンジで8チャンネルの立体音響によるサウンドスケープを味わえるほか、ヨーロッパ最大の映像フェスティバル“ONEDOTZERO”のTOKYO 2002発表の最新映像も体験できる。夜はDJやVJが参加し、ライブイベントが実施される。
東京デザイナーズブロック2002 イデー SPUTNIK PAD前述のように渋谷や青山ではデザイナーやクリエイターが参加できるデザイン・イベントが目白押しとなる一方、独立・開業を目指すデザイナーやクリエイターの支援もにわかに脚光を浴びるようになってきた。起業化のための支援や設立して間がない中小企業の自立化を促すために、経営ノウハウや資金、施設、機器などの提供や技術指導などを行う“インキュベーション”は、これまで研究・開発型企業やIT関連会社向けのサービスが多かったが、同様にデザイナーやクリエイターもこうしたサービスを必要としていた。
文化庁では、美術、音楽、演劇など各分野の若手芸術家に、その専門分野における実践的な研修の機会を提供するために、芸術フェローシップ(研修)を実施している。「新進芸術家海外留学制度」の派遣には1年、2年、3年、特別研修(3ヶ月)の4種があり、1967年度から2000年度末までに1,337名を派遣。著名な芸術家の例では、バイオリニストの諏訪内晶子、演出家・俳優の野田秀樹が参加している。一方、「新進芸術家国内研修制度」では、国内の専門研修施設での研修のほか、研修生の創意工夫を活かした研修の機会を提供。期間は10ヶ月。
文化庁渋谷マークシティにオフィスを構えるNPO法人「ETIC.」では、20代を中心とした若手起業家のシードステージ(創業準備期)を支援する「シードステージ・インキュベーション・プログラム」を行っている。特徴的な点は、先輩起業家や専門家、大手企業などのリソースを巻き込んで推進されること。ビジネス・パートナーとのマッチングを重視し、経験の少ない若手起業家に外部と連携したビジネスの機会を提供しているのである。広報担当の伊藤さんによれば「学生にデザイナーやクリエイター志望者が多く、今年6月から『NEC学生NPO起業塾』を設け、支援に乗り出した」という。これは社会的課題に事業型NPOを取り込んで取り組む学生のための特別なプログラム。具体的には社会で活躍する方々とともに事業計画をプラッシュアップするための合宿の開催やビジネス・パートナーのマッチングが行われる。さらにNECから各グループに対し、1グループ最大50万円の活動支援金と活動のためのノートパソコンが支給されるほか、事業計画や運営に関して相談ができる専門家が各グループにつく。公募の審査の結果、7月末に決定した5組のプロジェクトを見れば、クリエイティブ志向が強くことがわかる。「千年デザイン」と題したエコロジーマインドにあふれる「セカンドバック・プロジェクト」、「湘南メディア・ヴィレッジ・プロジェクト」と題した総合的メディアアクセス機構の設立・運営、「シナジーグリーン」と題した国内外の著作権切れの伝統デザインを再活用した「オープントレードネット」。ほかには若手クリエイターを支援するための「ショートフィルムフェスティバル」など、どれも社会参加度の高いクリエイティビティにあふれるプロジェクトばかり。
NPO法人ETIC.ファッション学部、インテリア学部、ヘア&メイク学部などを擁する「バンタンデザイン研究所」(恵比寿、中目黒)、映像関連のプロを養成する「バンタン映画映像学院」(恵比寿)、デザイナー、プロデューサーなどクリエイターのための専門学校「バンタンキャリアスクール」(宇田川町、桜丘)など、クリエイティブに携わる若手を輩出する「バンタン」。同社の広報・宣伝担当の高橋さんによると、スクールでは起業を志す学生に資金的な援助はしていないが、スクールの広告に登場したことがきっかけで他のメディアからの取材を受けるようになり、遂にはアーティストとして起業した例として、現在、様々なメディアで活躍中のファニチャーアーティスト、インテリアスタイリストの佐々木玲さんのようなOB卒業生がいるという。「可能性のある学生をストックしておいて、当スクールの雑誌広告に登場させることで、スクールのイメージも伝わるし、結果として学生本人にもメディアの目が向く」と、高橋さんは説明する。在学中に“マスコミ・デビュー”し、スキルや作品、ワークスを認めてもらうことでそのままプロになっていく。ユニークなデビュー支援と言えよう。
バンタン「東京ビッグサイト」を2日間貸し切り、出展者4,500人(1700組)、来場者43,000人を誇る国内最大のデザイン・イベントに成長した「デザイン・フェスタ」。11月23、24日に開催されるイベントは第16回を数える。オリジナル作品であれば展示・発表・販売など各ブース内で自由な表現ができることや、全国から集まった大勢のクリエイターが一堂に会する「お祭り感覚」も手伝い、恒例のイベントになっている。「デザイン・フェスタ」の出展をきっかけに大手企業のデザインプロダクツに抜擢されたデザイナー、オリジナルキャラクターの販売を達成したデザイナーなど、数多くのクリエイターを輩出している。ブース出展のみならず、ジャンル不問で音楽を発表できる「ライブ出展」、ファッションショーやヘア&メイク、パフォーマンスなどの表現が行える「ステージ出展」、自由な映像スタイルで発表できる「映像スペース出展」など多彩な表現ステージが用意されている。いわば“才能の見本市”。
この「デザイン・フェスタ」を運営するのが「デザイン・フェスタ・オフィス」。本拠地は裏原宿にある「デザイン・フェスタ・ギャラリー」(神宮前)で、全体を自由にペインティングしたオブジェのような3階建ての建物は界隈の名物でもある。1、2階は大小のギャラリーから成り、3階にオフィスがある。ギャラリーの特徴は通常の開館時間11時~20時はドアオープンスタイルだが、その他の時間帯は作品の制作からディスプレイ、展示・発表にいたるまで時間を気にすることなく利用できるよう2階フロアのギャラリースペースを24時間開放していること。また、ギャラリーの壁4面すべてを80cm×80cmに区分し、1日500円で展示ができる「1コインギャラリーアートプレイス」も用意されている。多くのクリエイターが出入りする「デザイン・フェスタ・オフィス」では、特定のアーティストを支援することはないが、「クリエイターの方々が『デザイン・フェスタ』をきっかけとしてプロとしてスタートしたり、独立したり、個展を開催したりなど、どんな形であっても、あらゆるクリエイターにとって、次へのステップとなる場所」と捉えている。「『デザイン・フェスタ』は出展者も来場者も本当に様々。自由な表現と自由なコミュニケーションから生まれる自由さそのものを大切にすることが、クリエイター本来の個性を大切にすることに繋がっていくのではないかと考えている。スポンサーをつけることや、作品審査をすることは、クリエイターがプロになる早道になりうるかもしれないが、そこでは本来の自由さは奪われてしまうのではないだろうか」と持論を述べる。「デザイン・フェスタ」や「ギャラリー」の展示をきっかけにプロになったアーティストとの交流は深く、「様々なイベントやTV出演をこなすプロのパフォーマー、作品をショップ展開している人形作家の方など、ビッグサイトのイベントだけでなく、原宿のギャラリーにも何度か出展して頂いたり、オフィスにふらっと遊びに来て、お茶を飲みながらスタッフと雑談したりする」とのこと。
デザイン・フェスタ新進気鋭の作家の手作り作品を販売する店といえば、雑貨店やセレクトショップがほとんどだが、プロ・アマ問わず、幅広い作家の作品だけを専用ボックスで展示販売するショップは珍しい。2001年5月に開業した恵比寿の「ACT BOX(アクトボックス)」は作家が月額500~4,200円のボックス使用料を払い、作品を展示・委託販売するアートギャラリー・ショップで、都内で逸早く「貸しボックス」という業態を始めたことで知られている。店内に設置した200を越えるボックスにはビーズ、シルバーアクセサリー、皮革製品、ニット、バッグ、木工芸品、陶器、彫刻、オブジェ、キャラクター雑貨、絵本などがずらっと並んでいる。参加している作家は常時約300人。すべてオリジナルの手作り作品ばかりである。出展者はアマチュアが多いが、作品の中には屋号やブランドを記したものもあり、プロとして活動しているデザイナーや作家がいることがわかる。同店代表の柿木原(かきのきはら)さんは「もともと自分が工芸品やアート作品を常時見たいと思ったことが開業のきっかけ。展示会は2、3日で終わることが多いが、常時展示するにはどうしたらいいのかを考えた」と、アイデアの発端を語る。1ボックスの使用料を低料金に設定しているのは「だいたいクリエイターは金を持っていない。金銭的な負担を少なくしておかなければ常時展示が実現できない」と、出展者の懐具合を考えた末の判断である。都内のきちんとしたギャラリーで個展を開く場合、名が売れるまでは持ち出しが多い。「誰かに見てもらいたい、作品を知ってもらいたいという気持ちはみんな同じ。だから低料金に設定し、ボックスの数を多くした」。
手作りアート作品専用の「貸しボックス業」は画期的なアイデアであったが、「いつ売れるのかわからない委託料金だけでまかなうには経営は難しく、出展料だけで運営してきたが、1年間は赤字状態だった」と、柿木原さんは笑う。「1年以上続けてきたことで、貸しボックス業が認知され、作家にも知られるようになった。だから業態をマネして欲しいと思っている。マネされることで業態として認知され、同じような店が増えることできちんとした業態になる。中に入れる商品が何であれ、ボックスを“貸す”というビジネスは可能性に満ちている」という言葉は、柿木原さん自身が業態開発のベンチャーであることを物語っている。出展する作家からすれば低料金で発表や販売の場が提供され、さらに売れ行きや購買層などマーケティングができるだけに、同店は作家や会員の間で急速に口コミで広がっている。店頭には「ガチャポン」(1回200円)が設置されており、このカプセルの中に入れるオリジナル作品(6.5cm以内)も受け付けている。11月に開催される「デザイン・フェスタ」では「ACT BOX」自体を出展するなど、ユニークな試みは続く。
ACT BOXデザイナー&アーティストのインキュベーションで重要なのは商品を実際に「流通」させることとアーティストと作品の認知を広めることにある。新進気鋭の現代アートの作家を紹介するギャラリー「スカイドア アートプレイス青山」(神宮前)では2001年からアート活動の支援を行うプロジェクト「Free ART Free(FAF)」を実施している。年齢・経験・国籍・ジャンルを一切問わないオールジャンルの公募展を軸にギャラリーの展示販売、並行して協賛企業や一般企業に出展作家のセンスや作品をプレゼンテーションするほか、CD-ROM、ビデオソフト、CDなどコンテンツ販売支援を通してアート活動のビジネスチャンスを創造する。アートビジネス面からすればアートキュレーションの幅を広げるプロジェクトであり、作家からすれば展示だけに留まらない可能性に満ちたプロジェクトと言える。同ギャラリーを運営する「アータライブ」の栗林さんは「FAFは若手作家の活動の支援で、作家や作品を流通ラインに乗せたいと考えてスタートした」と、プロジェクト発進の動機を語る。栗林さんはFAFの2つの目的を説明する。(1)若手作家の作品を観てもらい、買ってもらうこと (2)雑誌や映像など他の媒体へ流通させ、作家や作品を広く認知させること。「FAF2001」で FAF賞を受賞した作家が大手企業からオファーを受け、今秋作品がメジャーデビューするなど、栗林さんは少しずつ手ごたえを感じている。同社ではアパレル業界へのアプローチを目的としたアートTシャツ展「T-CREATION」も年1回開催している。
スカイドア海外進出を目指すデザイナーを公募し、海外で展示や販売など活動が行えるよう支援する「ネオファッション・サポート・プロジェクト」を推進するのが「IFCA(インディペンデントファッション協会)」(南青山)。経済産業省や財団法人日本ファッション協会も後援し、1999年11月に設立。「ネオファッション・サポート・プロジェクト」は海外進出を目指すデザイナーを一般公募し、日本代表としてグランプリ受賞者を選び、実際に世界中のショップやバイヤーが一堂に会する展示会への出展費用を支援するもの。年に数回のペースでファッションショーを開催し、発表の場を提供している。「IFCA」代表理事を務める曽原さんは、同協同組合の設立理由を次のように説明する。「当時ファッションの中でインディーズという言葉が流行りはじめていた。たまたま私は広告やマーケティング関係の仕事をしていて、ファッションは本職ではないが、調査などでインディーズのデザイナーに会う機会があり、彼らのいろんな悩みを聞くうちに彼らをサポートする組織が必要だろうと考え、設立した」。任意の協会はあるが、国の後援を受けたのは初めてのケースであった。
DCブランド全盛期にデザイナーの存在とそのブランドの重要性が認知されてから今日まで、ファッション業界はあらゆる面で多様化してきた。「今日ではファッションあるいはデザイナー出身でないブランドオーナーが増えている。例えばグラフィックデザイナーがTシャツ作りから初めてブランドを立ち上げたり、スタイリストがブランドを立ち上げたりするといったケースが多い」と、曽原さんはファッション業界以外の、クリエイター出身の人がファッション業界に続々登場している実例を挙げる。「今の人たちはデザイン、あるいはブランドビジネスと割り切って挑んでいる。だからデザイナーという表現が古く、ブランドビジネス、ブランドオーナーと表現したほうがいい。たまたま服を選んだという感じ。客が何を望んでいるのかを分析し、マーケティング発想で、解析自体を面白がってやっている人が多い」と傾向を語る。従来、ファッションブランドやショップをサポートする人は洋服に対してアドバイスをすることが多かった。しかし、「IFCA」は大きく異なる。「発表の場をつくること、ビジネスとしてどうすべきかとか、銀行との付き合い方、地方自治体とのつきあい方などの知恵をつけてあげる。しかし、洋服はなかなか成り得なかった。プロダクト発想がなくてアートに近く、システマチックになりえず、インキュベーションも成り立たなかった」(曽原さん)。「IFCA」の目線は世界へも向けられる。「渋谷・表参道は世界的なファッション・シティだが、発信でなく、消費のファッション・シティ。しかも海外ブランドの輸入過多。これでは浸蝕されるばかり。海外でも日本のブランドを扱っているショップは多くある。海外の人はいいものは自分の感性でいいと認め、購入する。だから海外進出のチャンスは限りなくある。そこで輸出の根底を支える若手クリエイターを海外に出していこうという事業を発案した」と、曽原さんのビジョンは元気のない国内企業すべてに該当する発想である。海外で認められれば“逆輸入”という凱旋もありうる。「IFCA」はほかにも海外に東京の旬のファッションを紹介するPR用冊子「01(ゼロワン)TOKYO」を企画し、発刊している。日本語と英語の二ヶ国語表記。最新号は10月半ばに無料配布される。
IFCA2001年度の最優秀賞に選ばれたのがメンズブランドの「マスターマインド」。デザイナーの本間さんはショップの販売員からデザイナーに進んだ。1997年に独立開業。「ネオファッションサポート」の最優秀賞に選ばれ、資金援助を受けてラスベガスで開かれた世界最大級のアパレル展示会「マジック」へのブース出展が可能になったのである。本間さんは現在、南青山にショップを構えている。「日本のマーケットの体質として雑誌で取り上げられたり、芸能人がそのブランドを愛用していたりすることでブームが起こるが、洋服自体のクオリティには割りと無頓着なことが多い。おもしろいファッションを提案していても知名度が低く、資金も少なく、マスコミのコネクションも売り込みの方法もわからないで、ブランドをあきらめるというデザイナーが実に多い。だから目線はたえず国内にしか向かず、システムの異なるマーケットにまで気持ちが動かない」と業界を俯瞰して語る。
実際、海外の展示会に参加したことで本間さんは学ぶことが多かった。「マーケットとする文化の違いを肌で感じた。また、プライスレンジなど商習慣の違いもわかり、マーケットを知る上で役立った。世界のトップバイヤーに作品を見てもらえる滅多にない貴重な機会だった」。本間さんは日本と海外の差異を知ることでさらに日本のファッションビジネスにきちんとした批評の目を持つようになった。「日本のデザイナーやブランドを誕生させ、支援するシステムが整っていないからといって悲観的になるのではなく、今はこれをチャンスと考える。『ネオファッションサポート・プロジェクト』のような機構を通じて先に海外へ出てみるのも新たな方法。こういうシステムがあるのだから、ブランドを立ち上げたいと考えているデザイナーにはどんどん参加してほしい」と語る。
マスターマインド渋谷ではデザイナーやクリエイターの作品発表の場は増えた。しかし、きちんとしたビジネス支援はまだ数少ない。IT関連企業のインキュベーターが成り立つのは、上場による配当や現金、役員報酬など投資した額以上に戻ってくる額が大きいからである。クリエイティブ関連の企業は個人事業主や小規模の会社にとどまることが多く、投資する側にとって“おいしいマーケット”ではなかった。しかし、渋谷を見る限りでは、新しい発想のビジネスが起業され、ショップが顧客を集め、同様の業種業態が次第に集積し、界隈を作り、大きなパワーを放つようになっている。たとえば今後、商店街がこれらの新しい動きのインキュベーターとなるなら、計画は都市開発にまで進展な展開を見せる。
一方、事業戦略について、真に経営者のディスカッションパートナーになれるインキュベーターが登場するなら、独立独歩を志向するクリエイターが「ショップマスター(商店主)」になるチャンスやベンチャー企業を立ち上げる機会はさらに増える。機会が増えればインキュベーターの仕事も増える。同時にインキュベーターを育成するビジネス、他の企業とのマッチングビジネス、デザイナーやクリエイターの著作権管理を含めたエージェントビジネス、若い発想のビジネスプランをもとに新たな研究開発型企業の設立など、デザイナーやクリエイターを軸にしたビジネスも幅が広がる。情報発信力の面でも破格のパワーを持っている青山・渋谷からデビューすることのメリット、波及効果も少なくないが、そこにはデザイナー・クリエイターにもマーケティングの視点が必要となる。こうした様々なインキュベーションを通じて、広域渋谷圏のクリエイティビティが未来に受け継がれていく。