「帝都高速度交通営団」が運営する営団地下鉄「13号線」の池袋から渋谷方面への延伸の鉄道免許が1999年に交付され、2002年6月より明治通りでは終日地下鉄の工事が行われている。13号線は埼玉県の和光市から池袋を経て渋谷に至る路線で、現在、和光市~池袋間は営団有楽町線として営業中。既設の有楽町線池袋駅から渋谷方面に地下鉄を延伸する同計画は、始点・池袋一丁目~終点・渋谷二丁目を結ぶ延長約8.9km。途中駅の「雑司ヶ谷駅」「西早稲田駅」「新宿七丁目駅」「新宿三丁目駅」「新千駄ヶ谷駅」、そして「明治神宮前駅」(駅名はすべて仮称)の6駅が開設され、終点となる渋谷駅も整備される。現在、明治通りの表参道寄りの道路で行われている工事の正式名称は「13号線明治神宮前ニ工区土木工事」。つまり「明治神宮前駅」を中心としたもので、13号線がちょうど明治通りの下に建設されるからやむを得ない工事と言えよう。工事区間は神宮前6丁目4番~10番。工期は2005年1月まで。開業予定は2007年度である。さらに、2002年1月には、東急東横線への相互直通運転の決定が公表され、これにより埼玉-東京-神奈川の広域鉄道ネットワークが構築されることになった。
新たな駅が開業する表参道寄りの明治通りでは現在、車線中央に大型クレーン車が乗り入れるなどして表参道とクロスする交差点付近の車線が減少していることから慢性的な渋滞が続いている。13号線の「明治神宮前」駅の地下鉄工事がまさに現在、明治通りでライブ進行しているのである。
営団地下鉄“不動産激戦区”の原宿・神宮前エリアに特化した不動産会社「オフィス・ミツキ」(本社:神宮前)の主任、田中さんは明治通りの物件を俯瞰し、「出店する業態は物販が多く、飲食業には厳しいエリア。賃料が高いので、単価が低い商品を扱う店や飲食店には難しいだろう」と語る。現在、明治通り沿いの路面で賃料の平均は坪8万~10万円。キャットストリートの路面で坪6万円~。「それでも出店希望企業は多いが、それだけの賃料を払える大手に限られており、反対に裏原宿系の人気ショップは明治通り沿いに出店を希望することはない。しかし、キャットストリートから青山通り方面に展開していくのでなく、ほとんどのショップがキャットストリートと明治通りの間に出店を希望しているのが特長。青山通り方面に向かうと、高級品志向が強くなるので、カジュアルショップは避ける傾向にある」と田中さんは説明し、近年の「明治通り&キャットストリート」の物件動向を表すキーワードとして以下の3点を挙げる。
(1)明治通り沿いは大手企業の進出が顕著 (2)キャットストリートもメジャー化が進行 (3)小規模資本のショップ出店は、明治通りとキャットストリートの間に内部進行中
田中さんは「メジャー化したキャットストリートにはテストケースとして企業が小さな物件のアンテナショップを出店するケースも多い」とプロの目で物販をチェックする。「今後は明治通り、キャットストリートから一本入った場所に個人経営規模の出店が相次ぐだろう。当社はそういうエリアの開発も担っているので動向はよくわかる」と田中さん。美容院の進出に関しては「好調な店とそうでない店の差が明確になり、二極化している。原宿・神宮前では数え切れない数の美容院が共存しているように映りがちだが、実は撤退している店も多い。一方で全国区の大手美容院が大型店を明治通りにも進出しているが、大手になればなるほど店舗の大型化が進み、また好立地が求められるので、必然的に賃料が大きな問題となり、出店には慎重になっている。また、出店する際に他店を整理するなど、大型店化を進め、特化させる戦略を敷いているところもある」と、ここでもプロの目が光る。最後に田中さんは「大手じゃなくてもおもしろいことをしてくれそうなショップを明治通り、キャットストリートから一本入った場所に持っていきたい。出店してもらうためには高い賃料では無理なので、新たな土地の開発が常に求められている」とまとめる。
オフィス・ミツキ低年齢化が危惧されていたキャットストリートの渋谷駅側入口の角地に今春3月、「バーバリー・ブラックレーベル」初のフラッグシップショップ「バーバリー・ブラックレーベル渋谷店」がオープンし、キャットストリートの雰囲気が変わった。同店は初の直営路面店でもある。周辺には明治通りに「バーバリー・ブルーレーベル」「ユナイテッドアローズ」「ポール・スミス」「ジル・サンダー」「ナチュラルベーシックビューティ」「トゥモローランド」、反対の路面には「エディフィス」など有力なショップが軒を並べ、宮下公園寄りの明治通りとキャットストリートにエイジレスな新たな回遊性を築いている。「バーバリー・ブラックレーベル」の目指すターゲットは「25歳~35歳のスタイリッシュな男性」。138平方メートルのワンフロアで構成されており、衣料はスーツからカジュアルまでラインナップ、バッグやシューズなど幅広い雑貨やアクセサリーも充実し、トータルアイテムを取り揃えている。運営する「三陽商会」(本社:新宿区)は2001年9月、同じく渋谷寄りのキャットストリート入口近く、「ピンクドラゴン」隣にイタリアのゼニア社と提携したブランド「E.Z BY ZEGNA FLAGSHOP SHIBUYA(イーズィー・バイ・ゼニア フラッグショップ・シブヤ)」を出店、今春開店の「バーバリー・ブラックレーベル渋谷店」とともに相次いでキャットストリートにフラッグショップを構えるに至った。
「三陽商会」広報室の加藤さんは2店舗のメンズ出店の手ごたえを「当初は若者の街キャットストリート、しかも表参道寄りのエリアには裏原宿からの匂いもあり、やや不安視する向きもあったが、フタを開けてみれば来て欲しい顧客に来てもらうことができた」とまとめる。「E.Z BY ZEGNA FLAGSHOP SHIBUYA」は「初の旗艦店としてブランドの知名度アップに大きく貢献し、他のファッションビルで展開しているショップの売上も上がった。ファッション雑誌媒体での露出増加にともない、若い男性の来店が増えた」(加藤さん)と好調。同店で先行販売した新商品の中から後に他のショップへ波及したヒット商品も多く、同店は消費者の動向を探るうえで貴重なショップとなっているという。「バーバリー・ブラックレーベル渋谷店」は当初の予想以上にスーツが売れており、「キャットストリートでも年齢に関係なく、幅広い層が集客できることがわかった。いわゆるカタカナ職業の方にも好評」(加藤さん)と、こちらも好調に推移。両店とも“ストリートカジュアルの聖地”であるキャットストリートでもスーツは売れることを証明し、明治通り~キャットストリートを回遊するエイジレスな顧客の集客に注目している。
三陽商会前出した「オフィス・ミツキ」の田中さんのキーワード通り、キャットストリートと明治通りの真ん中に異変が起きている。明治通りからのアクセスなら「FILA」の横から駐車場前を通り、小路を抜けるコース。キャットストリートからのアクセスなら、「WIRED CAFE」の前から左の小路を抜けるコース。明治通りとキャットストリート、どちらの路面からも見えないが、小規模のファッションビルが誕生している。3つのビルから成る物販のテナントビル「J-cube」。3つのビルはA、B、Cと連番で呼ばれ、それぞれ古着屋やレディース・ショップなど新進気鋭のメーカーの直営店や、あえて“内部進行を狙う個性派ショップが相次いでオープンし、独自のエリアを築いている。ちなみに「J-cube」A(18.73坪)の賃料は824,445円、「J-cube」C(27.15坪)の賃料は1,099,600円。
京セラビルの隣に昨年末「エムズ原宿ビル」がオープンした。1、2階には「GUESS」と「OLIVE des OLIVE」が旗艦店を構え、3階には「エムズ・ビーク・アー・ブー」の旗艦店が出店。「ビーク・アー・ブー」は原宿に数店舗を展開する人気美容院。「OLIVE des OLIVE」は京都に本社を置くレディースのアパレル企業「もくもく」の経営。地下には今年、和食店の「火の音水の音原宿店」が開店。同店は大阪に本社を構える「フジオフードシステム」が展開する和食店の一ブランドで、一気に知名度を上げている。このように明治通りでは近年、外資系、地元企業、関西系企業が入り混じり、旗艦店を進出する傾向がある。さらには仕掛けを駆使したオープニングや経営母体の企業名を表に出さないショップの進出など、あらゆるタイプのショップが進出している。
エムズ・ビーク・アー・ブー OLIVE des OLIVE フジオフードシステム一方、人気セレクトショップ「エディフィス渋谷店」(神宮前)では店舗隣の元ガレージのスペースを利用し、休日のみ「のみの市」を開くなど、新たな展開を見せている。バイヤーが海外で見つけてきた放出品やユーズドの衣料、雑貨を集めて販売しているもので、明治通りでは異彩を放っている。特に男性には好評で、「エディフィス」のメインラインとは異なるユーズド衣料や雑貨は同店の遊び心が表れた試みと言えよう。
エディフィス8月23日、ワールドが経営するブランドショップ「OZOC(オゾック)原宿店」の旗艦店が明治通りにオープンした。建設期間中に建物を真っ赤な外壁で覆い、強い個性を打ち出した同店の外観は、通行人の視線を集めた。オープン1ヶ月後に、真っ赤な外壁を取り外してみれば、木を基調としたナチュラルテイストの店舗が登場し、“1店舗で2度楽しい”新たなオープニングスタイルを提示した。「ワールド」プレスの阿部さんは「広告展開のひとつとしてオープン前後、赤いベールをあしらった。これは店を広告媒体として捉えた新たな試み」と説明する。
ワールド9月14日、明治通り沿いにオープンした「euro flat(ユーロフラット)」は一等地の路面店として、また明治通りのショップとして新たな試みに満ちた店舗である。エントランス付近ではヨーロッパの絵本やグラフィック関連の古本が展示販売され、一見ブックストアかギャラリーを彷彿とさせるが、奥ではレディース衣料が並んでいる。同店を運営する「ツカモト」(本社:神宮前)のアフターユーデビジョン課長職の宮崎さんは「明治通りを見てみると洋服のブランドショップが多く、『ユナイテッドアローズ』や『トゥモローランド』など有力なセレクトショップのオープン以降、大人が集まってくるようになった。その流れを踏まえて洋服だけでなく、知的なものプラス何か、例えばアーティスティックなものを扱うような大人寄りの店舗を開きたいと考えた」と、出店のポイントを説明する。開店して2ヶ月経ち、「確かに若い客も見えるが、当初ターゲットとした25歳以上の層が来店している。ヨーロッパのテイストをかもし出し、アーティスト寄りの知的なアイテムを提案する試みに手ごたえを感じている」(宮崎さん)という。
同社がブランドショップを提案せず、店舗にアーティスティックな佇まいを取り入れた理由を宮崎さんは「まず大人を対象とした知的なショップのイメージ作りから入り、人通りが多い明治通りなので、企業としても文化的な情報発信をしなければならないのではないかという考えにたどり着いた」と語る。そこから導き出されたコンセプトが「ギャラリーだけど、決してすましていない。ヨーロッパのアパートの中にアーティストがたむろしているような雰囲気の店」(宮崎さん)という。12月には店頭を使ってベルギー在住日本人アーティストの油絵の展示即売会も企画している。明治通りにアパレルだけでなく、大人をターゲットとしたアーティスティティックなショップが登場したことは新たなトレンドと言えよう。
ツカモト「euro flat」のオープンと前後する9月6日、同店隣に「GGPX(グーグープレクサス)」が開店した。店名はラテン語の「GOOGOOPLEXUS」(=最高の最上級の意味)からの造語である。同店は「丸井」の専門業態でありながら、商品構成はカジュアル衣料にととまらず、家電、フィギュア、CD、菓子、ミネラルウォーターまで揃う珍しいセレクトショップである。店頭にはメーカーが通信販売でしか取り扱わない「ボーズ社」の名品「WaveRadio/CD」とリーバイスのジーンズが同じ場所に並び、お菓子のコーナーがあり、奥にはフィギュア、プレイモービルも並んでいる。ショップ長の青野さんは「ファッションが好きな人が集まる場所でショップを展開するにあたり、ニーズとして洋服だけでなく、オモチャやお菓子、音楽を等距離のアイテムとして捉えている。だから性別や年齢などターゲットは選別していない」と切り出す。
「ブランドショップは顧客を選んできたが、そもそもファッションは個性を楽しみ、自己表現するアイテム。ショップが相手を選ぶものでなく、本人が楽しむもの。だから敷居を低くし、ファッションもアートも音楽もすべて気になるものをチョイスした」(青野さん)。その結果、フタを開けてみたら、同店ではヘッドフォーンやレコードプレーヤーがよく売れているという。「マルイ全店で売れるのと同じ数が、ここ1店舗で売れている。消費者はすでに音楽、雑貨、家電をすでに洋服と同じ視線で眺めているし、明治通りではそれが明確にわかる」と手ごたえを感じている。「若者の編集能力は格段にアップしている。DJがもちいるサンプリングのようにアイテムも上手に編集している。ファッションも同じ流れにあると感じている。だから提案として音楽をファッションに取り込む際にどのように楽しむのか、といったことを実施し、具体的なアイテムに落とし込んでいる」と、青野さんはファッションの視点から文化のミックスチャーを強調する。同店ではファッションと連動したアイテムとしてストリートスタイルのフィギュアも扱っている。さらにお菓子やミネラルウォーターもよく売れているという。「お菓子は店のスタッフに、自分の好きなものを選ばせ名前入りでレコメンドさせている。これも編集能力のひとつで、バイヤーの目を養うものでもある。ポイントはどうのようして客に楽しんでもらうのか。これに尽きる」と、青野さんは語る。
GGPX(グーグープレクサス)/TEL 03-5485-010112月12日、神宮前6丁目交差点近くにオープンするのがカジュアル衣料販売の「アーバンリサーチ渋谷店」。現在、建設中で工事用の囲いに同社のロゴがペイントされている。店舗面積は3フロアーで545平方メートル。大阪・南堀江に本社を構える「アーバンリサーチ」の代表的なブランドショップで、東京初出店舗となる旗艦店である。同社は1995年、大阪アメリカ村からスタートしたセレクトショップ。現在関西圏で8店舗を展開している。地下1階と1階はメンズ、2階はレディースフロア。同社は「主役は服でなく、それを着る人である」と位置づけ、満を辞して東京上陸を果たす。
同社プレスの竹村さんは「弊社は大阪の企業だが、いずれは東京進出をはかりたいと考え、ここ1~2年前から東京出店を検討していた。東京のマーケットは熟知していないが、東京の取引先などから情報を収集し、大きな可能性をつかんでいる」と語る。東京で展開する初の大型店を明治通りに出店することに関しては「ショップは路面展開を基本としており、ゆったりした空間で商品とサービスを提供するスタイルを取っているので、ある程度の面積が必要。代官山も検討したが、多くの方に店を知ってもらうという目的に合うのは渋谷で、かつ明治通りの路面だと判断した」と、出店理由を語る。
アーバンリサーチさらに9月から明治通り沿いの神宮通公園前で建設が始まったのが店舗・オフィスが入居する「ユニマット渋谷1丁目プロジェクト」(仮称)。完成予定は2004年8月31日。地上12階、地下2階。建築面積1,645平方メートル、延べ面積13,687平方メートル、高さ61.2メートルの規模の建物は界隈では屈指。不動産関連事業とレストラン事業で大きな飛躍を遂げる「ユニマット」グループのビルは早くも注目を浴びている。
ユニマットオフィスコ明治通り~キャットストリートは、企業が全国に情報を発信する旗艦店の出店を挑むエリアであるのと同時に、新たな試みを挑む格好のエリアとなっている。また、路面からは見えない内側に広がるショップ群も無視できない勢力になりつつある。規模の大小問わず、近年オープンしたショップは明治通りの動向をつぶさに分析し、出店をはかっていることがうかがえる。賃料の高さをもってしても確実に売上を構築できるマーケティングを駆使し、商品構成を練り、店舗を情報発信基地として大いに利用している。明治通りでは、確実にショップの再編成が進み、結果として人気店が集積、大きな流れを作り出している。明治通りから宮下公園横を通って渋谷に入り込む交通量が増えているのは、人気ショップが明治通りに集まりつつあることの証しでもある。明治通りの活性化により、渋谷・原宿両商圏のボーダレス化が進むのかもしれない。