テレビの調査と言えば「視聴率」調査。ビデオリサーチが、全国でランダムに抽出されたサンプル世帯での視聴状況を集計し、テレビ全放映時間について「視聴率」をはじき出している。一方で「出稿量」調査という、ちょっと耳慣れない調査がある。この調査結果を応用した例としては、情報番組「ブロードキャスター」(TBS系)の人気コーナー「お父さんのためのワイドショー講座」のランキング。1週間の中で各局のワイドショーで紹介されたテーマを集計し、放映時間順にランキングしている。このサービスを手掛けるのはプロジェクト(本社:港区)。同社では、日々膨大な量で放映されるテレビの情報を、独自のデータベースシステムに蓄積している。放映時間やタイトルだけでなく、番組毎の放映内容や放映時間等が詳細にデータベース化されているため、日付けをさかのぼった検索やデータの抽出が可能になるのが特徴。依頼をあれば、サッカーの試合やマラソンに協賛した企業のマークやロゴが、放映時間内にどれだけの秒数露出されたかを集計することもできる。
プロジェクト日々、様々なメディアを通じて大量に情報発信される広域渋谷圏の今年の動向を把握するため、同社とシブヤ経済新聞は共同で、在京6局でオンエアされた放映時間をもとにランキング集計を行った。調査対象期間は2003年1月1日から12月22日。
キーワード | 番組数 | 総出稿時間 | |
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1 | セレブ御用達、海外ブランド旗艦店続々集結 | 72 | 3:59:51 |
2 | モヤイ像前、児童 4 人誘拐監禁事件の舞台に | 23 | 3:43:55 |
3 | ベッカム夫妻来日、訪問先がパニックに | 24 | 2:53:37 |
4 | 100 メートルのレッドカーペット、東京国際映画祭 | 57 | 2:26:35 |
5 | おこもり系個室ダイニング・カフェ、続々オープン | 31 | 2:07:26 |
6 | 同潤会青山アパート取り壊し、跡地再開発へ | 14 | 1:44:49 |
7 | よさこい・おはら・反戦・・・多彩なパレード開催 | 27 | 1:30:59 |
8 | 渋谷東急文化会館、 47 年の歴史にピリオド | 24 | 1:25:54 |
9 | おしゃれ系帽子ショップ、原宿周辺に増殖 | 11 | 1:11:00 |
10 | コミュニティバス「ハチ公バス」、運行開始 | 8 | 0:45:54 |
今年の1位には「海外ブランド旗艦店のオープンラッシュ」が輝いた。4月には、宇田川町に「コーチ渋谷」が登場、同店のオープンに合わせて渋谷周辺のビジョン群での大量放映やフラッグ、ビルボード、ロンドンバス・ラッピングなどを駆使した「渋谷ジャックプロモーション」でも話題を集めた。6月には「プラダ表参道ブティック」のオープンが話題に。スイス出身の建築家デュオ、ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計した総ガラス張りの建造物は界隈でも一際目立つランドマークになっているほか、店内ディスプレイにも最新のテクノロジーが使われていることから、ブティックの未来形を感じさせる旗艦店には今でも建築や店舗設計関係者の見学者が後を絶たない。さらに9月には、昨秋「ルイ・ヴィトン表参道ビル」で話題を集めたLVMHグループが表参道に「ONE表参道」をオープンさせた。地下1階から地上2階の3フロアを「セリーヌ」「ダナ・キャラン ニューヨーク」「フェンディ」セリーヌ」の旗艦店がシェアする複合空間だ。さらに、12月には同じくLVMHグループの「クリスチャン ディオール」が表参道沿いに旗艦店をオープン。妹島和世氏と西沢立衛氏による「SANAA」が設計を手掛けた総ガラス張りの外観は、早くも表参道のランドマークとなっている。オープニングには欠かせない「セレブ」を招いてのレセプション風景と、オープン記念の限定アイテムを求める行列姿が出稿時間を押し上げた。
夏休み直前の今年7月16日、「東京都稲城市の小学6年の女子児童4人が『渋谷へ行く』と友人に告げて自宅を出たまま戻っていない」というニュースが走り、渋谷の街を衝撃が走った。同日4人は、赤坂の短期滞在型マンションで無事発見されたが、その後の調べで、スカウト役の女子高生を介して渋谷駅の「モヤイ像」前で犯人と会い、タクシーで赤坂に向かったことが判明した。渋谷が事件の舞台になったことで、マスコミ各社は「低年齢化の進む渋谷の危険性」を特集し、報道番組やワイドショーで一斉に報道された。また、同じ7月25日には桜丘町で男性5人を切り付けられる通り魔事件が続き、夏休み前の渋谷の安全性に対するイメージ低下に拍車をかけた。夏休みの渋谷には親子連れの小中生の姿も目立つなど、若者の集客力の高さと裏腹に抱える街の脆弱生が現れた夏となった。この事件を契機に街の安全性に対する取り組みは一段と高まり、センター街でも監視カメラなどが増設されている。
6月、ベッカム夫妻が来日した。夫人のビクトリア・ベッカムは、自身がイメージキャラクターを務めるジュエリーショップ「サマンサティアラ」のオープニングセレモニーに出席し、テープカットを行った。同店が店を構える青山・骨董通りにはマスコミや見物人が多数押しかけ、周辺一帯はパニックに陥った。この日、ビクトリア・ベッカムには4カラットのダイヤモンドと名前の入った200万円相当のブレスレットが贈られた。滞在期間中、ベッカム夫妻は渋谷や原宿にも出没した。
11月1日から9日まで、今年も東急Bunkamuraを主会場に「第16回東京国際映画祭が開催された。今年の目玉は、東急本店正面入り口付近からBunkamuraエントランス前まで、約100メートルに渡って設けられた「レッド・カーペット」。11月1日、オープニングセレモニーを前に、内外から招待されセレブや映画関係者らが多数の報道陣の中を続々と登場した。このレッド・カーペットは、石原慎太郎都知事の「国際的な映画祭なのに赤いカーペットがないのはおかしい」との提案を受け、今年から就任した角川歴彦ゼネラル・プロデューサーが実現したもの。Bunkamura前にクルマを横付けしていた例年に比べ、この「100メートル」の演出がメディア露出の増量にもつながった。
特集=渋谷の街が映画祭に染まる9日間(2003.10.31)昨年から始まった「個室系」ブームは飲食業界に大きな影響を与え、今年に入って様々な業態で採り入れられていった。カフェだけでなく居酒屋も「個室」仕様の店が続出。宇田川町の「北の家族 渋谷本店」でも今年6月、店内のリニューアルを行い「個室化」を図った。「ここ数年、カップルでもグループでもプライベートを重視した個室空間を望んでいるお客様が多い。そこで、和風モダンを基調にしたほぼ全室個室の空間提供に踏み切った」と北の家族、経営企画室の二瓶さんは話していた。個室系増殖の背景には、「他人とは交わりたくない」というプライベート空間へのニーズの高まりと共に、自分の部屋にいるような「気兼ねなく過ごせる」空間ニーズの高まりがあると考えられる。 一方、ここ数年の個室系に対する反動で「個室系は終わった」という声も囁かれ始めている。「個室系」のキーワードは、来年の飲食空間にどのように反映されるのだろうか。
今春、築70年を超え老朽化の激しい表参道「同潤会青山アパート」が取り壊された。取り壊し前には写真や資料で振り返る展示イベントも多数開催され、同アパートの歴史を振り返った。跡地は、森ビルが核となって2002年10月に設立された「神宮前四丁目地区市街地再開発組合」が中心となって建て替えが行われる。建物は建築家・安藤忠雄氏デザインによるもので、地上の建築のボリュームを抑え、地下空間を効果的に活用することでケヤキ並木と調和した近代ビルに生まれ変わる予定だ。完成予定は2005年。
特集=間近に迫る同潤会アパート取り壊し(2003.03.14)表参道を中心に、渋谷界隈では年々「パレード」が目立っている。特に今年はイラク戦争や自衛隊の派遣問題で盛り上がる世論を背景に、宮下公園を拠点に多くのパレードやデモが行われた。一方、渋谷・表参道界隈は地方の人気「祭」の場としても注目を集めている。5月には、「渋谷・鹿児島おはら祭」が開催された。当日は、道玄坂~109前~Bunkamura通りを2千人の参加者が「踊り連」方式で練り歩いた。8月には、表参道や明治神宮、代々木公園イベント広場などで「原宿表参道元氣祭スーパーよさこい2003」が開催。今年は66チームが参加し、表参道で行われたパレードを見に多くの見物客が訪れた。すでに来年の開催日も決定し、参加チームの募集も始まっている。3月にはアイルランドの祝日でもある「セントパトリックスデー」を記念したパレードが行われ、1,000名以上が表参道を練り歩いたほか、1月には新興宗教団体「ラエリアンムーブメントのクローンベイビー誕生パレードも行われた。
6月末日、47年の歴史を誇った渋谷のシンボル「渋谷東急文化会館」が、その幕を閉じた。開館当時は流行の最先端を集積したトレンドの発信源だった同館「閉館」の報を聞きつけた人々が、同館をバックに「記念撮影」する姿も目立った。屋上プラネタリウムを主会場に「meets」と名付けられた同館の閉館キャンペーンも開催され、数々のイベントやセールが行われた。中でも話題を集めたのは、同館最大の映画館「パンテオン」の緞帳。「闘牛14号」と題された西陣織で、世界的な建築家ル・コルビュジェがデザインした高さ9m50cm、幅22m80cmを誇る国内最大級のもの。この緞帳は、ここ10年以上は一度も下ろされていない貴重な緞帳だったが、閉館を10日後に控えた6月20日、最終会の上映後に緞帳が下ろされ、22時30分頃から一般にも無料で公開され、多くの人がカメラを手にその姿を収めた。同館はすでに解体作業が進み、2004年4月頃から、渋谷に乗り入れ予定の営団地下鉄13号線の工事ヤード(作業基地)に利用されることが決まっている。
特集=サヨナラ「渋谷東急文化会館」(2003.06.06)裏原でここ数年、最も増殖を続けている業態は「帽子」の専門店。帽子専門店「CA4LA」で人気を集めるウィーブトシは、新しいコンセプトの帽子専門セレクトショップ「test,」を5月、原宿通りにオープンした。人気の帽子マーケットに異業種からの参入も始まった。きものの「さが美」は6月、神宮前の「遊歩道」沿いに帽子専門店「SHAZBOT(シャズボット)」1号店をオープンした。オリジナルのほか国内外のセレクトモデルなど常時300アイテムを取り揃えている。同店チーフマネージャーの阿部さんは、6月のオープン以来「激戦区の原宿にあった出足を心配したが、予想以上の手応えを感じている」と阿部さん。同店の来店客数は平日で約100人、週末は200~300人を数える。原宿界隈には現在、大小合わせて30店舗近くの帽子専門店が存在すると言われている。
特集=渋谷・原宿「帽子ブーム」の背景(2003.01.17)3月、渋谷区内を「コミュニティバス」が走り始めた。コースは渋谷区役所を起点に区内の主な区の関連施設を結びながら、恵比寿・代官山方面を巡り、再び渋谷区役所に戻る全11.5キロ(日曜日、祝日は約11.9キロ)のコース。同バスは、山手線の内側を走るコミュニティバスとしては初の取り組みとなった。コースは渋谷区役所から広尾、恵比寿、代官山方面を結び約72分で再び区役所に戻る循環型で、バス停は200~300メートルの短い間隔に設置され、35カ所のバス停が設けられている。車内の座席数は12席、定員は19名で、運行は渋谷区からの補助方式により東急バスが手掛けている。運賃は大人と子供の差が無く、小学生以上は1回100円という「ワンコイン」プライスが注目を集めた。一般公募で決めたユニークな愛称と、渋谷・恵比寿・代官山といった若者に人気のスポットを回遊することから、区外からの来街者の利用率も高く、今では渋谷の街に欠かせない「足」となっている。
特集=「コミュニティバス」が渋谷に新登場(2003.04.11)今夏起きた「児童4人誘拐監禁事件」は渋谷に大きな衝撃を与えた。ここ数年、若者の集積エリアでありながら、それほど目立った事件もなかった渋谷に「やはり」という声が寄せられた。夏休み直前のタイミングだっただけに、地元で商売を営む関係者への打撃は大きかった。若者-特に若年層にも人気の高い渋谷には「安全」が何より不可欠な要素だと言うことを改めて感じさせる出来事だった。一方、青山同潤会アパートの取り壊しや渋谷東急文化会館閉館の傍ら、海外ブランド旗艦店のオープンラッシュが続く表参道・・・ひとつの節目を迎えながらも広域渋谷圏は、次世代に向けて今年も激しく新陳代謝を繰り返した1年だった。