「デザインが都市を変える」をテーマに、2000年よりスタートした複合カルチャーイベント「東京デザイナーズブロック(TDB)2003」が今年も始まった。10月9日~13日の日程で、国内外から250人のデザイナー、8カ国の大使館が参加し、120を超える展覧会やデザインコンペティション、国内外のゲストスピーカーを招いたシンポジウムなどが繰り広げられる。今年は青学大正面にある「国際連合大学(以下、国連大学)」(青山)を主要会場に、青山、原宿、六本木、代官山、渋谷などに点在するギャラリー、店舗などが舞台となる。
注目のイベントは国連大学で開催される現代美術家・宮島達男さんの参加型アートプロジェクト「1000 Real Life Project -Deathclock-」。同イベントは、参加者が自分の「死の時」を設定し、氏がひとつひとつカスタマイズした参加者だけの作品「Death clock」を制作。その作品をコンピュータにインストールし自分の写真も記録させ、自身のコンピュータを通して「死」へのカウントダウンを始めるといった、新しい形のアートを目指している。期間中は常設展示されており、10日午後(13:00~17:00)には、宮島達男氏、タナカノリユキ氏、立花ハジメ氏他により、「ライフデザインとしてのアート」をテーマにシンポジウムイベント(無料)が開催される。
1000 Real Life Project -Deathclock-イデーショップ裏手の特設テントには「南青山秘宝館」(入場料¥500)が登場。会場では、横浜トリエンナーレの展示などで知られる編集者の都築響一氏の「幻のコレクション」が限定公開される。「BAD DESIGN」と称された同イベントでは、悪趣味でキッチュでありながらも、なぜか気になって目をそらすことのできないバッドデザインの魅力が満載だ。11日には都築氏とキュレーターの原田幸子氏によるレクチャーイベント「悪趣味の研究 Bad design / Bad Taste」が行われるほか、今回の出展作品も含まれる「鳥羽国際秘宝館」の50体を超える人形を中心とした豪華セットはTDBオークションに出品される。最低落札価格は1,500万円。
TDBオークションTDB事務局の小谷さんによると「今年のイベントやパーティは、デザイナーが音楽に特化したり編集者が作品展示に参加したりと、デザイナーのイベントとして印象が強かった例年に比べて、様々な職種の人が絡み垣根がなくなってきた」と話す。また、これまでは比較的企業色を抑えた展開だったが、今年は協賛企業によるTDBらしい広告活動を通じて、新しい都市メディアとしての可能性を提案しているのも特徴となっている。9日夜、スパイラルガーデンで開催されたオープニングパーティでは、協賛の1社でもある「ナイキジャパン」が、スニーカーをあしらった大型の熊手をディスプレイし、招待者全員にナイキマークの焼き印の入った紅白饅頭と手拭いを配布した。また「11日に国連大学で開かれるパーティ『ABSOLUT PEACE』は、『ABSOLUT MANDRIN』が協賛しとり「オレンジ」がドレスコードになっている。内装もすべてオレンジ色に仕掛けられ、美容室を併設し来場者もオレンジ色に変えてしまうなど、今までとは違った広告のあり方を追求する」(小谷さん)という。「さらに今年はチュパチャプスの協賛でTDBキャラクターも登場し、会期中はイベントの告知や企業のサンプルを配布するなど一体型コミュニケーションにも一役買う。各企業の新しいポテンシャルを出しもらうのが目的」と小谷さんは続ける。
また、国連大学前の広場からは、分散した展示会場へのアクセス手段として、撤去され廃棄寸前の自転車から生まれた再生アート自転車を貸し出す「R-cycle」も手掛ける。このプロジェクトの協賛はリプトンで、国連大学前、ラ・プラース、チャンキンロウ、グラッセリア青山、グリーンカフェ西郷山に、自転車と共にくつろげるティーラウンジを開設する。各店でイギリス、中国など世界のお茶を楽しみながら各会場間を自転車で移動し、さらに、自転車にはお茶を置くスペースも付いているため「街の中を動く自転車カフェは、立派に広告の役目も果たす」(小谷さん)と言う。
今年は、ランドスケープの観点からユニークなイベントも生まれた。森ビルの協力によりJ-WAVEの放送と森タワー内に設置した300台のライトを同期させ、ビル自体を巨大なサウンド・インジケーターとして発光させる光のイベント「J-WAVE SINGING TOWER」も、「東京デザイナーズブロック」出展作品のひとつ。イベントの核となる青山・渋谷方面エリアからも、この巨大インジケーターが眺められる。点灯予定は10月31日までで、点灯時刻は毎日16~23時。この史上最大のサウンド・インジケーターは、ギネスブックの申請を予定している。
J-WAVE一方、デザイナーの発表の場-デザインのお祭-という印象が強かった例年との大きな違いは、デザイナー達の美意識をどうビジネスとして発展させていくかというプロジェクトの開設だ。「デザイナー企業プロジェクト」と呼ばれ、「デザイナーが独立する=起業する」ことを支援する仕組みを提供していく。その第一歩としてTDBデザインアワード・コンペテイションの参加デザイナーから起業を目指す人、起業したい人を選定対象に、ビジネスモデルや事業計画の作成を始め、経営サポート、設立費用、資本金支援など、会社を起業するにあたっての支援を行うもの。
同プロジェクト担当の清水さんによると「デザインに携わる人たちにとって、発表の場以上の価値をTDBに持たせたい。実際に、様々なデザイナー達はデザインをどうビジネスに結びつけていけばいいのかが分からない人が多い。こうした課題を支援するため、『TDB』で培ってきたノウハウ、『イデー』という会社としてのコネクション、『DREAM GATE』という経済産業省の進める起業家育成プロジェクトをベースにプロジェクトが立ち上がった。このプロジェクトはイデー内の委員会として活動を始め、今後「ID(アイディー)」(仮称)という組織として恒常的に続けていく予定」と話す。
東京デザイナーズブロック イデー ドリームゲート国内外の優れたデザインを通して生活文化の向上を目指すデザイン交流イベント「東京デザイナーズウィーク(TDW)2003」が10月9日~13日の日程で開催される。7回目を迎える今年は、約200のイベントの開催を予定しており、ボランティアスタッフは100名を超えるなど、昨年度の実績を上回る予定だ。東京都心部とお台場周辺を使って広域エリアで開催され、全イベント拠点68のうち、半数の34拠点が渋谷・青山・原宿・恵比寿エリアに点在する。代官山のカフェ「代官山のカフェ「FRAMES」を舞台にした期間限定(10月1日~31日)の「フィンランド・カフェ@FRAMES」もイベントのひとつ。店内では期間中、フィンランドプレートのランチ、デザートなどがフィンランド製の食器で楽しめる他、テキスタイル、ジュエリー、家具なども展示される。
フィンランド政府観光局「東京デザイナーズウィーク」の前身は「デザイナーズサタデー」で、1986年輸入家具専門5社によって始められた。当初は業界向けの限定イベントで、基本はメーカーの新作プロモーションの場としての誕生だった。その後、デザインを通してライフスタイルを追求しようとする一般への広がりを見せ、「デザイン文化の創造」「デザインビジネスの発展」「次世代のデザイナーの育成」という3本柱を核に展開、昨年は30万人を超える人出が記録された。今年のテーマは「EXHIBIT DESIGN&PARTY」。参加ショップ、ブティック、大使館などを使った展示や様々なエキシビションなど、「デザインを展示する」というデザイナーズウィークの原点に立ち返ったテーマが特徴となっている。また、各国・各地から集まったデザイナーをはじめ、学生・プレス・一般のユーザーまでがデザインを通じて新しいコミュニケーションを生み出す場として、参加ショップや公式イベント会場でのパーティ企画も強化されている。
TDW事務局長瀬さんによると「昨年までもパーティは開催していたが、一般にも解放しているパーティは少なかった。今年は、各ショップ・企業からの賛同により、一般とクリエイターが交流する場を増やした。誰でも気軽に参加できるパーティを連日開催し、日中とはまた違ったデザインの空気を感じることができる」と話す。今回のTDWではお台場にも会場を設け、コンテナを使ったエキシビション「コンテナ展」を開催する。国内外の企業、デザイナー、アーティスト、学生などが80のコンテナを使ってインテリア、プロダクト、グラフィックなどによる個性豊かなスペース提案を行うもので、同展と連動したイベントを展開するショップもある。中でも、原宿QUEST1階にある「プーマストア原宿店」では最終日の13日に、お台場会場で作られたアート作品を同店に移動させ、フード・ドリンクサービスとアーティストによるアートパフォーマンスパーティを予定している。「このアート作品にはちょっとした仕掛けがあり、それには新鋭のデザイナー宗誠二郎氏も絡んでいる」(長瀬さん)と、その一端を明かしてくれた。
TDWは2002年、NPO法人となり、その活動の幅を広げている。「今までTDWといえば、インテリアを中心としたプロダクトのイメージが強かった。今後はファッションやフードなどともコラボレートさせて、生活文化全体として提案していきたい」(長瀬さん)と話す。
東京デザイナーズウィークスウェーデン大使館(神谷町)を中心とし、六本木、青山、代官山といった都内各所でスウェーデンのトレンド、文化、ライフスタイルなどを紹介するイベント「スウェーデン・スタイル2003」が10月8日~18日まで開催している。同イベントはTDB、TDW共に参加しており今年で4回目を迎える。前大使夫人であるエヴァ・クムリンが1999年に「スウェーデンを日本の皆さんにもっと知ってもらいたい」と創設したのが始まり。写真・音楽・アート・デザイン・ファッション・食と、毎年幅を広げてきた同イベントだが、今年は40カ所で60ものイベントが開催され、100人のクリエイターが来日するという大型イベントとして注目を集めている。
今年のコンセプトは「INDOOR & OUTDOOR living」。オリエンテーリングの発祥の地でもあるスウェーデンにアウトドアは欠かせない。そのアウトドアの景色からインスピレーションを受けた作品を室内(インドア)にも取り入れるといった内容だ。プレス担当の本間さんによると「アジア全域での北欧ブームも背景に、2000年からは国を挙げてスウェーデンを広めていこうという動きがある。それに賛同してくれたクリエイター達が今回のために作り下ろしたものばかりを展示している」と話す。また、「今までは大使館という場所柄、業界の人たちを中心とした参加者が多かった。しかし今年はオリエンテーリングを開催したり、イベントと連動したムックを出版するなど、一般にも多く参加してもらえる企画を増やした」(本間さん)と話す。
同イベントの目玉は、メイン会場となる同大使館で開催されている「デザイン・アーキペゴラ」展。4人の女性若手デザイナー集団「Defyra(デフィーラ)」が、約24.000の島からなるアーキペラゴという群島の都=ストックホルムを意識してセレクションしたアウトドアとインドアのライフスタイルをミックスした作品が並ぶ。また、10月13日~19日には、世界的デザイナーとして活躍している「MONICA FORSTER(モニカ・フォシュテル)」のエキシビションが9月にオープンした「ホテルクラスカ」(目黒)で開催。白い雲のような形をした移動オフィス空間「クラウド」で話題を集めており、日本初の個展となる。大使館内には、会期中のみ「カフェ・アーキペゴラ」がオープンし、ブルーベリースープ+パン(500)など、スウェーデンメニューが登場する。
スウェーデンスタイル2003文化の香り漂う秋に、ほぼ同時期に開催されるデザインイベントは、開催年数と共にそれぞれが独自のカラーを強めている。斬新な企画の導入と、デザインからビジネスへのサポートを視野に入れる「東京デザイナーズブロック」、「デザインの運動体」をテーマに幅広く次世代のデザイナーの育成に幅広く取り組む「東京デザイナーズウィーク」、2000年から国を挙げて積極的にデザインの啓蒙を図る「スウェーデンスタイル」。スウエーデンやフィンランドなど、デザイン力の高い国レベルの参加も最近の傾向だ。各イベント共、各様にオリジナリティに高い企画に挑戦しながらも、デザインの枠を特別なものではなく、より身近なものとして広めていこうとする姿勢は共通している。こうしたイベントは、消費者とクリエイターが共にデザインに対する感性を高め合い、デザインの新たな可能性を探る場として機能している。