ワタリウム美術館(渋谷区神宮前3、TEL 03-3402-3001)で現在、フランス、日本、ロシア、カナダのアーティストによる「ひっくりかえる-Turning around-展」が開催されている。
ロシアのアート集団ヴォイナのアレックスさんとチン↑ポムのメンバー
6人組アート集団「Chim↑Pom(チン↑ポム)」がキュレーションを初めて担当する同展。広島の空に飛行機雲で「ピカッ」の文字を描いたパフォーマンスや、渋谷・センター街でクマネズミを捕獲・はく製にし、「ピカチュウ」に仕立てた「スーパーラット」など、ストリートを舞台に挑発的なアート活動で知られる。東日本大震災後、渋谷駅構内に掲出されている岡本太郎の壁画「明日の神話」では、原発事故をイメージさせる絵を書き足し世間を驚かせた。
同展では、「ひっくりかえる-Turning around」をテーマに従来の価値観や見方などを変え、社会の変革を目指して表現活動を続けるフランス、日本、ロシア、カナダのアーティスト4組を紹介する。フランスから参加するJR(ジェイアール)さんは、壁に絵を描くのではなく巨大な写真を貼って表現するグラフィティアーティスト。弾圧や貧困、差別の下で暮らす人たちの顔を撮影し、現地の人たちと共に壁や家になどに写真を貼るプロジェクトを世界各地で展開する。同展ではブラジルやカンボジアなどで展開するその街の女性のポートレートのみを使った「28ミリ、女性たちこそがヒーロー」や、2011年にTEDプライズを受賞した際のスピーチ映像などを上映する。
ロシアからはロシア語で「戦争」を意味するアート集団「VOINA(ヴォイナ)」が参加。パトカーを転覆させ、ロシアの自治の改善を求める行動とした「無血クーデター」や、ロシア連邦保安庁前にある跳ね橋の路面にペンキで65メートル男性器を描いた作品、メンバーの一人オレグ・ヴォロトニコフさんが逮捕された際のポートレートを貼って回るプロジェクト「指名手配犯ヴォイナ」など、政権や警察、資本家を敵視した過激なアクションで知られる。同展では過去の活動を振り返る映像、写真などを展示するほか、屋外に「指名手配ヴォイナ」の巨大バナーを掲出する。
カナダからはドキュメンタリー映像作家で、反資本主義の活動家カレ・ラースンさんが参加。1989年にカレーさんが創刊した隔月刊誌「Adbusters(アドバスターズ)」は「広告(Ad)+破壊者(busters)」を意味し、政治的プロパガンダとマスコミの欺瞞(ぎまん)に対するパロディーややゆを込めた過激な表紙や、広告を一切掲載しない誌面などが特徴。同展では同誌を展示すると共に、人々に消費主義を誘導するマスメディアに対して批判を訴える。
アクティビストのジャック・サーヴィンさんとイゴール・ヴァモスさんの2人を中心としたネットワーク「イエスメン」が「イラク戦争終結」の記事を書いた「偽のニューヨークタイムズ」や、福島第一原子力発電所の映像をリアルタイムで配信している「ふくいちライブカメラ」に向かい防護服姿で指を指したパフォーマンスで話題となった「指さし作業員」などの作品や映像も並ぶ。
初のキュレーションに関して、チン↑ポムの卯城竜太さんは「(大変で)美術家って何なんだ、と思ったこともあったが、こんなにすごい展覧会になるとは思っていなかった」と振り返る。作品に関して、「メッセージはないと言えばない」としながらも、「何をやるにも限界をつくりがちだが、みんなもっとできると思うし、突破してほしいという思いを持っている。予定調和は面白くない。それはアートだけでなく、ビジネスも含めてどんなことにでも共通して言えるはず」と話す。
期間中、イベントも予定。4月21日(19時30分~21時)には、共に福島第一原発で作業員として働いた経験を持つチン↑ポムの水野俊紀さんとフォトジャーナリスト小原一真さんによるトークセッション「誰が福島第一原発で働いているのか」を開く。参加費は1,000円。要予約。
開館時間は11時~19時(水曜は21時まで)。月曜休館。入館料(会期中何度も入場可能なパスポート制チケット)は、大人=1,000円、学生(25歳以下)=800円ほか。7月8日まで。