渋谷「アップリンク・ファクトリー」(渋谷区宇田川町、TEL 03-6825-5502)で3月5日、ベルリン映画祭で2冠に輝いた長編「ヘヴンズ ストーリー」の公開が始まった。配給はムヴィオラ(新宿区)。
家族を殺害された幼い少女、妻子を殺害された若い夫、一人息子を育てながら「復讐代行」を副業にする警官、「理由なき」殺人を犯した青年、その青年と家族になろうとする女性を中心に、20人以上の登場人物が複数の殺人事件をきっかけにつながっていく物語。約1年半の撮影期間を経て制作された同作は、全9章、計4時間38分にもわたる長編となっている。
メガホンを取ったのは、1960(昭和35)年生まれの瀬々敬久監督。京都大学文学部哲学科在学中に自主制作した映画「ギャングよ 向こうは晴れているか」が注目を浴び、1986(昭和61)年に「課外授業 暴行」で商業映画監督デビュー。以降、ピンク映画の制作を多く手掛けた後、1997年には「KOKKURI こっくりさん」で一般劇場映画に進出。これまでに、「フライング☆ラビッツ」(2008年)、「感染列島」(2009年)、「ドキュメンタリー 頭脳警察」(2009年)などを手掛けてきた。
昨年10月、ミニシアター「ユーロスペース」(円山町)を皮切りに各地で上映されている同作は、2月に開催された第61回ベルリン国際映画祭では国際批評家連盟賞(EIPRESCI prize)と最優秀アジア映画賞(NETPAC賞)を受賞。「アップリンク・ファクトリー」は凱旋公開となる。「3大国際映画祭であるベルリン国際映画祭で2つも賞をいただけたことは大きな喜び。日本はアジアの一員だということをいつも意識して映画を作っているので、今回賞をいただき大変喜んでいる。これを励みに今後も頑張っていきたい」と瀬々監督。
初日となる5日には舞台あいさつが行われ、家族を殺害された「サト」を演じた寉岡萌希さん、片耳が聞こえないギタリスト「タエ」を演じた菜葉菜さん、その娘役を演じた渡辺芭(ハナ)さんが登壇。寉岡さんは「今回は主演ということもありプレッシャーも感じていた。1年半ほどかけて撮影されたので、『サトちゃん』というものが私の中から抜けなかった」と振り返り、「人の心に響くものがある作品だと思ので、一人でも多くの方に見ていただきたい」と話した。
菜葉菜さんは「この映画は大きなお金が動いたような作品ではないが、賞を取れて、時間の長いこの作品を選んで見に来てくださった方などのおかげで、ずっと上映できていることに胸がいっぱい」とし、「ベルリン映画祭で2冠をとることができてすごくうれしい気持ち。一人ひとりの力が必要なので、知り合いの方やご家族の方など多くの方に薦めていただけたら」とも。
当日の鑑賞料は、一般=2,300円、シニア・学生=1,800円ほか。今月18日まで。