本業はライターにして渋谷のバーでフードマネージャーも務めるタカイチカ(本名=高井愛)さんが6月7日に出版した「缶詰本」が話題を呼んでいる。国内外の約600種類もの缶詰を図解で紹介するムック本「冒険缶詰」(ワールドフォトプレス、1,600円)で、タカイさんは執筆をはじめ総合監修を手がけた。
日中は企画・制作会社でコピー制作や編集作業に携わるタカイさんが、ライブ&ダイニングバー「音楽室」で働きはじめたのは約4年前。幼少時代から、地元・新潟の輸入食材などを扱うスーパーで見る缶詰の絵柄に「『異国情緒』を感じていた」タカイさんが「本格的に缶詰の魅力に気づいた」のも、この時期だった。
大学進学と同時に上京したタカイさんは、学生生活の中で「当時年2回ほどのペースで通っていた海外旅行の際に立ち寄る地元のスーパーや、国内の100円均一ショップなどで缶詰を目にする機会が増えた」という。「国や地域の食文化の違いにはもともと興味があった」(タカイさん)ため、コンパクトで保存性にも優れた缶詰を土産や自身の「コレクション」として持ち帰ることも抵抗がなかった。
こうして缶詰を自然に集め始めていたタカイさんが「目覚める」きっかけになったのが、当時500~600円台で売られていた紅鮭の缶詰。それまで「小さなポスターのように感じて」絵柄を楽しんでいた缶詰の新たな可能性に気付いたという。個々の缶詰に凝縮された「味」の魅力に気付き「不健康なイメージやチープなイメージを払拭したい」と考えるようになった。
勤め先の制作会社で手がけたオーディオ関連の書籍を通じて知り合ったバー「音楽室」(当初の六本木から現在は渋谷区渋谷2丁目に移転)で、缶詰を使ったオリジナルメニューを提供し始めた。常時10品目以上をラインアップする「缶詰メニュー」では、調理をせずにそのまま提供するものや、調味料などで味付けを整えたもの、別の食材と合わせてオリジナル料理として出すものなど、「(累計で)50種類以上のメニューは作った」という。
缶詰は各国の輸入品スーパーやメーカーに直接問い合わせて仕入れているものもある。「各地の名産物を扱う都内のアンテナショップもおすすめ」という。気に入ったメーカーを見つけると、問い合わせてウェブなどには載っていない商品のカタログを取り寄せ、仕事などで訪れる地方の食料品店にも足を運ぶなど、新たな缶詰探しにも余念がない。
現在「音楽室」で提供しているのは、タカイさんの「原点」にもなった「あけぼの紅鮭缶」(900円)をはじめ、「北海道ほたて薫製」(900円)や「札幌グランドホテル」が作るホテル缶シリーズ「かぼちゃと小豆」「豚の角煮と大根 炊き合わせ」(すべて600円)など。盛り付けにもこだわり、缶詰が使われていると分からない品も多く「リピーター客も年々増えている」(タカイさん)。
今月7日発売のムック本には、「缶詰大カタログ」と題し、さばやツナ、いわしなどの魚介類から牛、鶏、豚などの肉類、野菜、果物、スープなど、さまざまな種類の缶詰を収録したほか、缶詰の基礎知識や歴史、10分レシピなどの関連情報も掲載した。
缶詰の魅力について、タカイさんは「(絵柄、味を含めて)小さな『器』にいろいろなものを詰め込んでいるのが見ていて楽しい。バーでは缶詰メニューを通して客同士のコミュニケーション・ツールにもなっている」と話す。缶詰を通じ、タカイさん自身も工場や講演会に招待されるなど、活動の場を広げている。
バー「音楽室」(TEL 03-5467-6005)の営業時間は、19時~翌1時。日曜・月曜定休。