
外国人観光客の防災リテラシー向上を目的とした折り紙「BOSAI ORIGAMI」が3月11日、渋谷エクセルホテル東急(渋谷区道玄坂1)の客室などに設置された。
折ることでやっこさんとお守りになる「BOSAI ORIGAMI」
入江真帆さん(25)が考案し、昨年のソーシャル&カルチャーデザインの祭典「SOCIAL INNOVATION WEEK」内のアワードプログラムで最優秀賞を受賞した「QUAKEMATE(クエイクメイト)PROJECT」の第1弾施策。
入江さんが昨年11月に発表したロンドン芸術大学大学院・デザインマネジメント修士課程の卒業制作から誕生。高校・大学をカナダで過ごした入江さんは、「クリエーティブとロジックの間にある仕事をしたい」という思いなどから、2023年に同大大学院に入学。社会の課題などをデザインで解決することを研究する課程で、卒業制作は「日本のインバウンドの防災リテラシーの低さと各自治体の備え」をテーマにした。
祖父母が阪神淡路大震災で被災していることや、自身も東日本大震災を経験していることから、地震に着目。海外で生活する中で、クッションと頭部を守る役割を担う防災頭巾に驚かれたことや、地震発生時に机などの下に潜るなどの行動を知らないなど、日本人と外国人の防災に対する知識のギャップに気付き、テーマを決めた。
昨年4月にリサーチを始め、外国人観光客が多く先進的な施策などをしている渋谷で、防災・減災の普及・啓発に取り組む「もしもプロジェクト」を知り、コンタクトを取った。同プロジェクトに携わる渋谷未来デザイン協力の下、ホテルの担当者などに外国人観光客への防災案内の対応などを聞き、旅行という楽しい行事の中で「恐怖心を与えず防災情報を伝える」難しさを知った。国内自治体が発信するインバウンド向け防災情報も、「外国人観光客に届いていない」などの問題点を感じた。
それらを基に、日本文化を体験しながら基本的な防災情報を学べるツールとして考案したのが、BOSAI ORIGAMI。2枚1組で、「OMAMORI」はお守りに着想を得たもの。折って財布やスマートフォンケースなどに入れて持ち歩き、地震発生時に見られるようにした。外国人は緊急地震速報に驚き、揺れの強さによってどう行動するかが分からないことから、折り紙には「周囲の人が地震に反応しているか」など簡単な地震状況チェック4項目を記載。3つ以上が当てはまると「体勢を低くする・頭を守る・何かにつかまる」などの行動を記した。裏面には、日本政府観光局(JNTO)が観光客向けに災害情報などを発信する「safety tips」につながるQRコードを掲出。日本は地震や自然災害に対する備えがあり「安全」と伝える文言も添えた。
「MAMORIGAMI」は、地震を引き起こすナマズを抑える神として神話に登場する「タケミカヅチ」をイメージした顔をデザインした、やっこさんが折れる。折り紙には、プロジェクトの文言などと共に、折り紙の動画、発災時の緊急連絡先、緊急時のWiFiアクセスなどをまとめたクエイクメイトプロジェクトのホームページにつながるQRコードを記載している。
設置場所は、渋谷エクセルホテル東急、中長期滞在型サービスアパートメント「ハイアット ハウス 東京 渋谷」(桜丘町)の一部客室、RAYARD MIYASHITA PARK(神宮前6)の免税カウンター。各所に2000部(MAMORIGAMI、OMAMORI各1000部)を設置し、利用者の反応などを探る。
「海外生活を通して、物や食べ物など日本の文化が好き、面白いと言ってもらうことが一番うれしかった。人助けになることを組み入れながら日本文化を発信したいとずっと思っている」と言う入江さん。「災害は起こること。意識があるだけで心構えが違うので、頭の片隅にでも入れてもらえたら。外国人観光客が防災に対する心構えがあるだけで、被災した際に受け入れる側の日本人の負担が軽減するのでは。防災情報が堅苦しものに終わらず、日本文化を取り入れたおもてなしの一部として広まってくれたら」と期待を込める。
入江さんは4月に日本で就職。今後は考案者として携わり、プロジェクトは渋谷未来デザインが引き継ぎ推進。バージョンアップや、土産にもなる防災グッズなど他の企画も検討する。