渋谷区が2月4日、2025年度の当初予算案を発表した。
財政規模は、一般会計は対前年度比20.1%増となる総額1,468億7,300万円で、過去最大の予算規模。特別会計と合わせた総額は約1,981億1,4600万円となる。
最も大きな予算を計上したのは区立小中学校の建て替え事業「未来の学校プロジェクト」(約140億1,900万円)。区は、1960~1970年代前半に立てられた校舎が多い区立小中学校の老朽化に対応するため、2022年5月に整備方針を定め、工程表に基づき基本・実施計画を立てるなどしてきた。来年度から既存校舎の建て替えが始まることから、長谷部健渋谷区長は、「ここから20年間ほど、学校の建て替え費用がずっとかかってくる。このくらいが平均で続くかどうかははっきり言えないが、いよいよ始まったという状況」と説明した。
建て替えは区立小中学校・幼稚園の全27施設のうち、小中学校22校(小中一貫校1校含む)が対象で、2041年度までを事業期間としている。本校舎建て替え期間中の児童・生徒は、都有地である青山病院跡地を借りる「青山キャンパス」やスポーツセンターのテニスコート部分などを活用する「西原キャンパス」、同プロジェクトと同時に再配置を検討した結果小中一貫校化が決まり利用しなくなる猿楽小・千駄谷小校舎を活用する仮校舎、自校の運動場内に建設する仮設校舎に通うことになる。
第1弾の仮校舎となる青山キャンパスは2023年に着工し、すでに上棟。現在内装工事などを行っている。敷地面積は約1万7500平方メートルで、3階建ての校舎棟(延べ面積約1万800平方メートル)と体育館棟(3棟、同2200平方メートル)、テニスコート2面取れる校庭(約2000平方メートル)で構成。校舎内には、ディスカッションやプレゼンテーションなどにも対応する「グループワーク」スペース、ソファやビーズクッションなどを置く「クリエーティブスペース」などのラーニングコモンズを設置。映像・音楽制作、プログラミング、デザインなどを学べるスタジオスペースや、デジタルクリエーティブスペースも用意する。
夏休みを利用して現在の校舎からの引っ越し作業を行うため、9月開校予定で、当初は広尾中学校(生徒約130人)と松濤中学校(同約300人)となる。2026年には神南小学校の児童たちも同キャンパスを使うため、同時に3校の児童・生徒約1000人が通学することになる。各校建て替えが終わり次第(広尾中学と松濤中学は2027年)、新校舎に戻る。その後、2028年には同キャンパスに鉢山中学校と原宿外苑中学校の生徒が新たに通うなど、使う学校を入れ替えながら同キャンパスを活用していく。
第2弾となる西原キャンパスは2026年夏ごろ開校予定で、当初は代々木中学校の生徒が通う。
整備から約40年がたち痛みや老朽化から再整備を進めている約2.6キロに及ぶ玉川上水旧水路緑道の再整備(32億2,200万円)は、本年度の笹塚緑道に続き、幡ヶ谷・西原・初台緑道の整備に着手する。
旧本町小学校敷地を整備した渋谷本町学園第二グラウンドと防災備蓄倉庫などとして利用してきた敷地内の体育館は、「本町CC 本町コミュニティーセンター」と公私連携幼保連携型認定こども園「渋谷本町こども園」として整備し、4月から順次オープンする。予算は3億1,200万円。
築50年以上で老朽化が進む体育館は3階建ての建物に建て替え。1階・2階に位置する「渋谷本町こども園」は、3月に閉園予定の本町幼稚園を引き継ぐ施設で、1歳~5歳の未就学児に対応する。1階には会議室3室と和室1室の区民施設も展開(6月開設予定)。2階にはバスケットボール(1面)、バレーボール(同)、バドミントン(3面)、卓球(最大12面)などに対応するアリーナ(659.57平方メートル)、3階にはダンスやヨガ、フィットネス、ボッチャなどに対応するスタジオ(103.43平方メートル)を用意する(6月開設予定)。施設内には町内に設けている本町出張所も移転を予定している。
旧原宿小学校を改修し運営してきた「ケアコミュニティ・原宿の丘」は、建物の老朽化や設備の劣化に伴い複合施設「原宿の丘複合施設(仮称)」に整備する。事業費は32億1,000万円。敷地面積は4025.68平方メートル。地下1階・地上3階建ての延べ床面積は7242.41平方メートルを予定。
バスケットボールコート1面が取れるレクリエーションホール、音楽スタジオ、トレーニングルーム、多目的ホール、フリー飲食スペース、会議室、和室などの「区民施設」、子育て広場、短期緊急保育室など「子育て支援センター」、音楽とダンスのスタジオ、遊戯室、図書室などの「児童館」を併設。非常用発電機や太陽光パネル、防災倉庫なども備え、災害時には避難所の役割も果たす。開業は2029年予定。
11月に東京を中心に開催されるデフ(耳が聞こえない)アスリートの国際スポーツ大会「第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025」の開閉式、卓球の試合が東京体育館で行われることから、カウントダウンイベントや、スポーツボランティアによる「おもてなしブース」の運営、選手への「応援アート」の作成などデフリンピックの機運醸成事業には1,800万円を、中学校の部活動地域移行「渋谷部活動改革プロジェクト」、バスケットボールやバレーボールなどプロチームと連携したバックヤードツアーや試合観戦など、地域スポーツ活動の支援には6億400万円を計上するなどしている。
長谷部区長は「スポーツの語源が『気晴らし』などを意味するラテン語の『deportare(デポルターレ)』であれば、カラオケ大会や絵を描くこともスポーツとして広義に捉えようと意識してきた」と言う。加えて、渋谷を拠点としているプロスポーツが集まってきていることや、区内にスポーツ施設も多くあることから「(スポーツを)見ることは(他区に比べて)アドバンテージがあるのでは。(スポーツを)するまではいかなくてもトップのプレーを見られる機会がたくさんあるので、見ることでスポーツを感じることを意識している。スポーツ振興は常に考えているが、もしかしたら来年度は特に強く表現されたのかな」と触れた。
工事費、人件費、物価高騰が続いているが、「福祉、教育、まちづくり、基本的に行政の仕事は止めることはできないと考えているが、特に工事費の高騰は財政にかなりのインパクトを与えていると感じている。なるべく圧縮したいという思いもあるが、これから増えていく可能性もあるだろうと覚悟している。そのために財政計画を持って積み立てもしてきた。今回も切り崩しが始まるが、そういうことをしながら止めることなくやっていく。どうにもならないほどの物価高騰、世界恐慌、株式の下落…何が起きるか分からない。そういった社会変動には立ち止って考えたり計画を先延ばしたり調整は必要だと思うが、現時点では考えずに渋谷区として乗り越えていかなくてはいけない」とも。