メキシコシティを拠点に制作活動を続けるアーティスト岡田杏里さんの壁画作品「Haiba una vez…(Gato)/あるところに…(猫)」が10月18日、歩行者デッキ「渋谷ヒカリエ ヒカリエデッキ」(渋谷区渋谷2)の壁面に登場した。
ヒカリエデッキは、東京メトロ銀座線の線路上部(4階)約190メートルにわたる歩行者デッキ。デッキの中間地点に国内外で活躍するアーティストらによる作品を掲出する壁面アートプロジェクトは今回が第7弾。岡田さんは1989(平成元)年埼玉県生まれ。2016(平成28)年東京芸術大学大学院美術研究科壁画専攻修了。ポーラ美術振興財団などの在外研修員としてメキシコに滞在し、現在もメキシコシティを拠点に活動する。
今作は、高さ3.3メートル×幅10メートルのシートをキャンバスに、岡田さんがアクリル絵の具で10日間かけて描いた。大きく描かれた「猫」のような生命体は、大きな自然をイメージした。「中にはいろいろな生き物や、魂のような、形にはならない生き物を描いている。生と死の入り組む世界というか…」と岡田さん。ここ数年、猫と共に生活してきたことから、岡田さんにとって身近な生き物になっているという猫。「時々じっとこちらを見ていることがある。言葉は発していなくても、何かすごく語りかけてくるようなところがある」と、デッキを通る人たちにも「その目線を感じてほしい」という。
日本に住んでいた頃は渋谷にもよく来ていたと言い、メキシコ滞在後にニューヨーク経由で日本に戻ってきた際に「ニューヨークでいろいろなものが混ざり合ったようなエネルギーを肌で感じてすごい場所だなと思って帰国したら、渋谷のスクランブル交差点のところに立ってみると、そこでも同じ感覚になった。日本にもこういう場所があったんだと改めて感じ、今回この壁画の話を頂いて、それを再度また思い出した」と話す。「いつもはメキシコの村の方やコミュニティーの中の施設など、地方での制作が多い」と言う中、今回は「渋谷のど真ん中」での展示。「ここで大きな壁画を描けたことに、まだ不思議な感覚というか、実感がない」とほほ笑む。
壁画制作に当たり、渋谷の伝説や昔の風景などの歴史もたどった。「昔から渋谷川が通っていて、人の流れも常にあるような場所。大きな松の木がご神木として祭られた伝説もあるなど、目に見えないエネルギーがあると感じた。谷になっている地形で、流れも集まりやすいイメージが湧いてきた」と着想を得ていったという。形になった作品には、渋谷の昔ながらの風景や地形、土着の伝説から着想を得た、森羅万象や日常に潜む「不思議な存在」を描く。黄色い大地は、チーズをイメージ。「このチーズの穴には、生き物が生まれて死んで帰っていくというイメージもある」とも。
展示は2025年3月末までを予定。