ファッションデザイナー向けの教育プログラム兼アワード「FASHION FRONTIER PROGRAM」のショーが3月19日、渋谷駅東口地下広場で開催された。
デザイナーの中里唯馬さんと2021春夏コレクションの「ATLAS」
現在渋谷駅周辺で開催されているファッションとアートを発信するイベント「渋谷ファッションウイーク(以下SFW)2024 春」の一環。渋谷駅周辺の大型商業施設が参加し、「渋谷ならではの」カルチャーを発信している。今回は「THINK」をテーマに、「サステナブルとは何か」を問いかけるコンテンツを展開している。
同プログラムは、2016年からパリ・オートクチュールウィークに参加しコレクションを発表しているファッションブランド「YUIMA NAKAZATO」のデザイナー中里唯馬さんが発起人となり設立した。
次世代のクリエーターに「発信する機会を提供できたら」という思いなどから同プログラムのショーを企画。ショーで披露されたのは、同プログラムのアワードのファイナリストの中から選ばれた15体。ソーシャルレスポンシビリティー (社会的責任)とクリエイティビティー (創造性)を併せ持つ衣服として、環境やジェンダーなどをテーマに制作された。「さまざまな思いが内包されているので、少しでも多くの方に知ってほしい」(中里さん)という思いや、普段見ることがないような作品を通してSFWのテーマ「THINK(考える)」きっかけにつながるよう期待を込めた。
作品は、衣服の検査場で働いていたTAKAHIRO IGUCHIさんが2年間集めた糸くずを結んでつなげた糸で手編みしたニット、オーストリアでバクテリアの研究をしているJULIA MOSERさんが独自の染色技術で染めた生地で作った衣服、落ち葉や枝、綿素材、でんぷんのりなど土にかえすことができる素材を使い廃棄する前提で循環する服として作られたMISAKI NAKANOさんによる衣服、レシートなどで制作したYUDAI YAMAMOTOさんの衣服など。鉄道の駅施設という立地に合わせて音楽には、鉄道のホームアナウンスを取り入れたほか、作品の個性を表現する一つとしてモデルが踊ったり駆け足をしたり演出面にもこだわった。
広場には「YUIMA NAKAZATO」の2021年春夏コレクションの作品「ATLAS(アトラス)」も展示(今月24日まで)。植物由来の原料を基に微生物発酵で作られる人工タンパク質素材「Brewed Protein」にデジタルプリントで柄を付け、水分で縮む素材の特性を生かして水分に漬けることで針や糸を使わずに形成している。6月に控えているフランスで初となる個展のメインビジュアルに採用されていることもあり、日本とフランスを橋渡しする機会になればという思いも込め、同作品を選んだ。広場に併設するカフェは「THINK」の情報発信基地となる限定カフェとして営業している。
中里さんは作品について「コロナ禍で少しでも希望を伝えていこう、未来のオートクチュールというものを作っていこうと発表した。人工たんぱく質を初めて聞く方も多いと思うが、これからの繊維。それを渋谷という場所、しかもパブリックな環境で発表していることは意義深く、貴重な機会をいただけた」と振り返り、「『何だこれ』と、街行く人が目を止めて衣服について考えるアクションにつながることで未来が変わっていくと思う」と期待を込めた。
SFWでは一部を除いて休館中の複合文化施設「Bunkamura」でアーティスト西野達さんや、音楽家・サウンドアーティストのevalaさんのインスタレーションを展開しているほか、昨年1月に閉店し現在解体工事中の旧東急百貨店本店・東側壁面(工事仮囲い)には、デジタルクリエーティブの創造拠点「シビック・クリエイティブ・ベース東京」と共催でプロジェクションマッピング型のアートを展示(18時~21時)している。今月24日まで。