見る・遊ぶ

藤城清治さんの影絵作品、三菱UFJ銀行旧渋谷明治通支店から撤去

「三菱UFJ銀行」旧渋谷明治通支店のウインドーに展示されていた藤城さんの作品

「三菱UFJ銀行」旧渋谷明治通支店のウインドーに展示されていた藤城さんの作品

  • 93

  •  

 渋谷・明治通り沿いの三菱UFJ銀行旧渋谷明治通支店(渋谷区渋谷1)のウインドーで46年にわたり展示されてきた、影絵作家・藤城清治さんの作品が2月23日、撤去された。

カメラにピースサインを見せる今年100歳の藤城さん

[広告]

 合併前の三菱銀行が1977(昭和52)年、明治通りに建てられたばかりの「ポーラ渋谷ビル」1階にオープンして以来、変わりゆく渋谷の街を見下ろしてきた巨大な影絵作品が、惜しまれつつ姿を消した。同支店は2022年1月に営業を終了していたが、影絵は約2年にわたり残されていた。撤去は、ポーラ渋谷ビルの建て替え計画に伴うもの。

 作品は、自動ドア上部の窓を大きく使い、4面にわたり、サーカスが風船や楽器、動物と共に愉快な様子で一列に歩いている様子を描いたもの。藤城さんらしい黒を生かしたモダンな影絵には、綱渡りをする木馬や一輪車などが描かれ、「喜びとか、楽しさとか、明るさとか、そういう喜びのようなものを一番単純に世の中に表した作品」と藤城さんは話す。

 1924(大正13)年生まれで、今年4月で100歳になる藤城さんは「もう何十年も前のことで、実際にあの場で作業した記憶があまりない。すごく忙しかった時代に設置した」と、自身が多忙だった当時を懐かしみ、「ああいうのを野外でも貼れる手法は初めてで、話題になったんだよね」と振り返る。

 「おやじは(当時の)三菱銀行で確か重役だったのかな。支店の管理をずっとしていた」と言い、作品が展示された頃には「もう亡くなっていた。でも、まだおやじの部下が重役だった」という父親との「縁」から同行が藤城さんに作品を依頼したという。「銀行員の跡を継いでほしいというおやじの夢はぶち破っちゃったけど、恩返しをしたという気分はある」と話す。

 「30代ぐらいまではまだ初期で、幼稚だった」と作品の変遷について語る藤城さん。「(作品を掲出した)あの頃、40代半ばぐらいからは、作品としては割合良い時だったね」としながらも、「手が込んだり、深く追求したりした作品はあるけど、(渋谷の作品は)すごく力を入れたような作品じゃない」と回顧する。

 「でも、僕の作品の中でもあれだけ大きくて、しかも分かりやすく子どもから大人まで、若い人でも『わぁ、かわいい』と思える作品。やっぱり銀行の窓口ということもあるし、ただ看板に出すという感じではない風格があった」と評す。「『これは名作だよ』と言えたものではないが、すごく僕は好き」とも。

 作品を残したい気持ちはあったが、移設の難しさや金額面などから断念した。「とても分厚いガラスで、シートが劣化してひびも入ってしまっている。『ここから動かさないで』と言われているようで、動かしてはいけないのかなとも思った」と話すのは、藤城さんの長女で「藤城清治美術館」(栃木県那須町)館長の亜季さん。「写真に撮って保存はしている」と言い、今年4月から福岡で開催する生誕100年を記念した展覧会で写真と一緒に藤城さんがメッセージを出す構想もあるという。

 渋谷は、藤城さんが中心となって立ち上げた人形劇団「木馬座」が、かつて東急百貨店東横店内にあった「東横劇場」で定期的に公演していたゆかりの場所でもある。「今、渋谷の変わり方がすごい」と藤城さん。その中でも銀行の影絵は「良い所にあった。みんなの心の中に、何気なくすてきな楽しさを与えていった」と、人々の記憶に残る作品だったと感じている。

エリア一覧
北海道・東北
関東
東京23区
東京・多摩
中部
近畿
中国・四国
九州
海外
セレクト
動画ニュース