今年、作品改変問題で話題となったアーティスト・吉田朗さんによるアート作品「渋谷猫張り子」をメインとしたグループ展「渋谷猫張り子と仲間たち」が1月3日、渋谷ヒカリエ（渋谷区渋谷1）8階ギャラリースペース「8/CUBE」の新年企画として始まる。

西銀座チャンスセンターに設置される吉田さんの姉妹作品「宝猫」

　展示には、ユカリアート（世田谷区）に所属する現代美術家らが参加。渋谷で創業した同社の20周年に向けた企画で、所属するいしかわかずはるさん、大畑伸太郎さん、藤永結さん、吉田朗さん、淀川テクニックの5人によるグループ展となる。同社は屋号が「yukari-art.inc」だった2005（平成17）年5月、若手アーティストの育成・支援を目的としたギャラリー「ギャラリーエス」（神宮前5）の運営を始める。2007（平成19）年10月、学芸大学に拠点を移し、「YUKARI ART CONTEMPORARY」を開廊。2011（平成23）年11月以降はギャラリー運営ではなく、アーティストのマネジメント業務を主軸に置き、2025年に20周年を迎える。

　現在、海外と東京の2拠点で活動する同社ディレクターの三潴（みつま）ゆかりさんは「20周年に向けた企画を考え始めたのは、コロナ禍で日本に戻れなくなった時期。3年ぶりに故郷に戻り外国人観光客のような感覚で、渋谷スクランブルスクエアの展望台に上った時、見下ろした渋谷の街の持つエネルギーに心が躍った」と言う。再開発が進み、渋谷に対する親近感が薄れつつあった中で、「聳（そび）え立つビルの谷間で新しい渋谷が持つ巨大な可能性を感じ、この場所から再びスタートを切ろう」と決意し、渋谷での展覧会開催に至る。

　同展の一番の注目は、無断改変問題で話題となったアーティスト・吉田朗さんによる作品「渋谷猫張り子」（高さ130センチ×横92センチ×奥行き92センチ、重さ約40キロ）。2020年、渋谷駅近くに開業したホテル最上階のラウンジ＆バーから、「西銀座チャンスセンター」のアート作品「宝猫」など知られる吉田さんに発注依頼が来て、「忠犬ハチ公像」のような渋谷の新たなシンボルを目指して「宝猫」の姉妹作品となる同作品を制作した。設置から約2年半を経た2022年8月、ラッピングシートを貼るなど、アーティスト本人の許可なく無断で同作品が改変されていたことが発覚する。

　こうした無断改変について、ゆかりさんは「作品は、アーティストにとっても、マネジメントを行う私にとっても、我が子と同じ。変わり果てた姿を見た時は理解すらできなかった」と、強いショックを受けたという。その後、運営会社に対して著作権の侵害を訴えたが、なかなか事態は進まず、精神的にも肉体的にも追い詰められた状態のまま、今年3月、いちるの望みをかけて作品の所有権返還を求める署名運動を開始する。SNSなどを通じて改変事件が拡散され、約1カ月半で署名が1万筆を超え、それがきっかけとなり、吉田さんの手元に作品が戻ることに。返還後、吉田さんは強力に接着されたラッピングシートを剥がし、再塗装などの修復作業に取りかかる。修復に要した総時間は、約7カ月に及んだ。

　3日初日には、修復で蘇った「渋谷猫張り子」のお披露目として、吉田さんに加え、所属アーティスト全員がそろい除幕式を行う。「応援してくださった皆さまへのお礼の機会であり、この作品を真に渋谷のアイコンにしていくためのスタート地点と考えている。これから作品を渋谷の街の新たな場所に永久設置するために活動していきたい」と力を込める。

　吉田さん作品のほか、同展では、ごみや漂流物などを使った作品を制作している淀川テクニックが「ごみ」を素材としない実験的な作品を、毛糸の作品で知られるいしかわかずはるさんと、GEISAIで銀賞受賞経験のある藤永結さんは新作の絵画を、海外ファンの多い大畑伸太郎さんは絵画と立体を組み合わせた新作を発表するなどの見どころも。淀川テクニックの「コラージュ川柳」ワークショップ、いしかわさんの「描き初めライブペインティング」と年始らしい企画も予定する。

　「小さな会社が、約20年もやってこられたのは一重に皆さまのおかげであり、個性豊かな作家陣があってこそ。まだ私たちをご存知ない方には作家と作品を発見していただく機会にしてほしい。作品の販売は行わず、純粋に楽しんでいただく展示のため、お気軽に」と来場を呼びかける。

　開催時間は11時～20時。入場無料。1月9日まで。