渋谷マークシティ連絡通路内で公開中の岡本太郎の巨大壁画「明日の神話」が11月17日、一般公開から15年目を迎えた。
米・水爆実験で被爆したマグロ漁船「第五福竜丸」をテーマとした「明日の神話」は、「日本版ゲルニカ」とも評される岡本太郎の大作。1960年代後半、メキシコで開業予定の新築ホテルに飾るために制作されたが経営状態の悪化でホテルの工事は未完で、作品の所在も不明となった。2003(平成15)年9月、メキシコ郊外の資材置き場で偶然発見され、「明日の神話」再生プロジェクトが発足。1年間にわたる修復作業の後、東京都現代美術館での特別公開などを経て、2008(平成20)年、恒久設置先として「渋谷区」が選ばれる。同年11月17日、渋谷マークシティ連絡通路で一般公開が始まった。
壁画の展示・維持管理を行うNPO法人「明日の神話保全継承機構」事務局長の原和弘さんは「当初、これだけインパクトのある絵をここに招致するに当たり、いろいろなことを言われるのではないか懸念していたが、皆さん、寛大に受け入れてくれた」と感謝した。さらに「15年前、渋谷のシンボルとして『スクランブル交差点』『ハチ公像』『明日の神話』にしたいという気持ちがあったが、徐々にそれが浸透しているように思う」と話す。
民間企業や商店街、区民、岡本太郎ファンなどで構成される同NPOでは、毎年秋にすす払い(清掃活動)を行うほか、絵画修復家・吉村絵美留さんをリーダーとして必要に応じた小さな修復・補強などのケアを重ね、壁画の保全維持に努めている。15年目の節目を迎えた今年、小さなケアのみでは修復が追い付かなくなってきたことから、設置以来初となる大改修プロジェクトを行うこととしたが、会費のみでは改修費用を捻出できないため、クラウドファンディングで資金援助の呼びかけを始めた。
「岡本太郎の名があるからとはいえ、そんなに簡単にお金は集まらないだろうと思っていたが、現在までに1300人以上の方々から目標額を大きく上回る協賛を頂いた。『頑張れ!』などの温かい応援メッセージも多く頂き、とても励みになった」と反響の大きさに驚いたという。17日現在、支援者数は1396人、支援総額は2,483万3,000円に達している。
改修プロジェクトは、幅30メートルの壁画を全14ブロックに分け、渋谷マークシティ側から第1期(4ブロック)、第2期(4ブロック)、第3期(3ブロック)、第4期(3ブロック)の計4回の工期を想定。現在、改修が進む第1期工期(10月10日~11月23日)では、渋谷マークシティ側の4ブロックに足場を架け、エスカレーター1基を止めて、作品保護のために施されているコーティング剤をいったん落とし、亀裂部分に充てん剤を入れて再接着と安定を行い、変色や色落ちしている部分に彩色を加えた後、改めて表面をコーティングする作業を進めている。今回の改修では、新たに換気設備も整えた。同所はもともと自然換気だったが、「近年は夏場に35℃を超える日が続き、気温が絵に与える影響が大きい」とし、壁画上部に換気口を設け、壁画裏側に換気ファンを入れて風の流れをつくり、夏場に熱や湿気がこもらないように改善を施したという。
今後の改修作業は、来年秋に第2期を行う予定だが、第3期以降は壁画の下を通り抜ける仮設通路とも重なり関係者との調整が必要となることから、現時点では未定。
「設置から15年で手を加えたが、今後も何年かおきに改修していきたい。10年、20年と言わず、100年先も皆さんと一緒に絵を守っていきたい」(原さん)
クラウドファンディングは11月30日まで。