アパレル市場で問題視される大量生産・廃棄などの環境汚染に一石を投じる日本発の新素材を使い、ニューヨークで服飾を学ぶ若手デザイナーが制作したコレションが3月16日から、渋谷ヒカリエ(渋谷区渋谷2)8階「8/COURT」で展示されている。
会場内に並ぶのは、ニューヨーク州立ファッション工科大学(Fashion Institute of Technology、FIT)に在学中の日本人デザイナー3人が、ハイテク素材を「一点物」のクチュール作品に仕立てた衣服の数々。グランプリは、英ロンドンの名門セントラル・セント・マーチンズに短期留学後、現在ニューヨークのブランドでインターンをしながらFITにニット科で学ぶ池上智慧子さんが受賞した。
素材に用いた「ZERO-TEX」は、医療用ガウンなどの大量廃棄をなくそうと、アパレル企画・販売の「やまぎん」(神宮前6)が2021年に発表。「100回洗濯後もはっ水機能が保たれる生地」として開発した独自素材で、初年度5億5,000万円を売り上げた。翌2022年には「衣料ごみZERO」をコンセプトに、使用後に回収し水素化するアップサイクル可能な「第二世代」としてアップデートした。
グランプリを受賞した池上さんは、耐久はっ水性をはじめ、通気性や紫外線カット、透湿性などの機能を持つこの素材を見た際に、「工場の肉体労働者をイメージした」と話す。そこから、色やシルエットなどを着想。大きめのサイズやレイヤーによる変化、男女問わず着られる点などをコンセプトに計5ルックを制作した。カーブが少なくコンパクトで生地が余らないことから、「再生しやすいサステナブルなもの」(池上さん)という「ポケット」は、Aラインのオーバーサイズジャケットのフロント部分に、複数をアイコニックに取り付けた。ジャケットは裏返しても着用できるリバーシブル仕様で、会場に入ってすぐの中央に展示している。
準グランプリには、同じく女性デザイナーの池谷友里さん、古月梨紗さんの作品が、それぞれ選ばれた。FITファッションデザイン学部の「Special Occasion」で、主に行事などで着用するパターンメークを学んできた池谷さんは、機能面が注目される同素材を、クラシカルなガウンなどのオケージョンウエアに昇華させた。
開催初日の同16日に開かれたトークイベントには、2021年東京パラリンピック開会式内の「デコトラ」演出でパフォーマーが着用し話題を呼んだLED内蔵の衣装なども手がけた小西翔(Sho Konishi)さんが登壇。今回受賞したFITで学ぶ3人と同様、現在小西さんもニューヨークに拠点を置き、アーティストのコスチュームなどを制作している。
トークセッションで同社の西川明秀社長が「後輩」へのコメントを求めると、小西さんは「ファッションデザイナーにとっては、一度発表を始めたら『続けること』が大切。終わりなき戦いが続くので体力勝負」と前置きしつつ、「感動させることを続けるために、長いビジョンを持つことが大事。情熱が第一前提だが、独りでビジネスはできないので、コミュニティーや「つて」を広げていく」と助言。「英語圏にいるからといってラフになりすぎず、日本人であることや、デザインのみならず『人間力』を大切にしてほしい」と経験を交えながらエールを送った。
同イベントは、今月13日に開幕したファッションイベント「Rakuten Fashion Week TOKYO(楽天ファッション・ウィーク東京)2023A/W(東京コレクション)」の一環。開催時間は10時~20時。今月18日まで。期間中、会場ではトークイベントなども行う。