渋谷区・東急・東急不動産・GMOインターネットグループは、グローバルスタートアップ育成機関となる合弁会社「シブヤスタートアップス」を設立することを発表した。
渋谷エリアは多くの若手IT企業家が集まった1990年代末ごろから2000年代初頭にかけて、サンフランシスコのITベンチャー拠点「シリコンバレー」になぞらえ、「ビットバレー」と呼ばれていた。
内閣府が「世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」を発表した2020年、「素地がある所でチャレンジをすべき、ビットバレーを復活させよう」(長谷部健渋谷区長)とスタートアップ支援事業を開始。新部署「国際戦略推進担当」立ち上げに始まり、コンソーシアムの設立や国際化の推進に向けて外国人起業家に起業ビザを付与するなどしてきた。現在では2000社を超えるスタートアップが渋谷に拠点を構えているという。
「国際競争力を持ったスタートアップが生まれていない」ことを渋谷だけでなく日本全国の課題として捉えるなか、「国際的な」スタートアップコミュニティーの構築には環境整備が必要と考えた。しかし、区は区民税で運営していることから住民サービスが主な事業となる。住民よりも勤務している人が多い自治体として「区だけでどこまでサポートができるかが大きな課題だった」(長谷部区長)といい、民間企業の協力を得たいと株式会社の設立を決めた。
年間180社を支援するヘルシンキやこれまで約2200社を育成してきたサンディアゴなどを例に、長谷部区長は「世界のスタートアップ都市は行政がうまく関わってサポートしている」とし、同社を設立することで「この街でさらにアクティブにベンチャーが育つ、渋谷から世界へという文脈がもっと出てくるのでは」と期待を込める。
社長には渡部志保さんが就任。1983(昭和58)年生まれでスタンフォード大学院卒業後、2014年から米シリコンバレーを拠点に、グーグルやメルカリなどに勤務。マーケティングや市場進出支援を行ってきたことからコンサルティングの依頼が持ちかけられるようになり、2019年には米国でSWAR(スワー)を設立しマーケティングコンサル事業を手がけている。
渡部さんは2021年に区が募集した「副業人材」で採用されて以降はアドバイザーとして区に携わってきた。米国在住だが、コロナ禍で一時帰国して在宅ワークをしていた際に偶然インスタグラムで区が副業人材を募集している広告を目にして、「キャリアの選択肢として帰国は考えていなかったが、(区内に実家があり)地元愛が強いので何か貢献できれば」という思いや、区のスタートアップに対する活動を見て「意義のあること」と感じて副業人材応募したという。渋谷スタートアップス設立に合わせて帰国する予定。
資本金は1憶7,000万円(準備金を含む)。出資比率は、渋谷区約41%、東急と東急不動産がそれぞれ約24%、GMOインターネットグループが約12%。2月下旬に設立予定。所在地は流動的になるが、「いったん」区が借りているシェオフィス(神南1)内に登記する予定。社員は数カ月で選定する予定で設立時は10人程度を見込む。出資企業からの出向は現状考えていない。事業内容は、資金や場の提供、人材の紹介など「実質的に成長できる、足りないものを補える、強みを増せるような支援」(渋谷区グローバル拠点都市推進田坂克郎(よしろう)室長)を考えている。
支援企業は、渡部さんのネットワークを生かした情報収集を基に同社から声をかけたり、今後公開を控えるホームページ上で募集したりして順次受け入れていく。国内外問わず募るが、「プレシード」「シード」「アーリー」といった若いスタートアップをターゲットにする。「なぜ日本に来るのかという理由がはっきりしている」企業や、シニアビジネスや防災、アニメやゲームコンテンツIP、ファッションなどのストリートカルチャーなど「日本の強みを生かして、日本発、渋谷を拠点に世界を取りにいけるスタートアップ企業」(渡部さん)の招聘(しょうへい)を図る。
収益は、「レイター」のスタートアップの日本進出は費用を徴収して支援することや3社以外を含めた民間企業に依頼するなどを検討し、増収していきたい考え。
出資する3社は国内での活動・交流・発信などの拠点づくり、口座開設などの事業面などで支援していくという。