渋谷で55年にわたり営業を続けてきた東急百貨店本店(渋谷区道玄坂2、以下「東急本店」)が1月31日、閉店した。
1967(昭和42)年、東急百貨店が東横店(2020年3月営業終了)に代わる本店としてオープンし、隣接するBunkamuraと共に渋谷の富裕層消費や百貨店文化を支えてきたデパートが、半世紀以上にわたる歴史に幕を閉じた。19時の閉店前には、スタッフらがインフォメーションカウンター付近に並び、感謝の気持ちを込め来店客を見送り、一人一人にドライフラワーを進呈。閉店時には稲葉満宏・東急百貨店本店長があいさつに立ち、深い一礼とともに営業を終えた。
同店エントランス前には閉店前から人が増え始め、店の最後を見届けようと、あいさつの様子などを見守った。閉店セレモニーに立った稲葉本店長は「本日1月31日をもって営業を終了する。1967年11月1日にこの地に誕生して以来55年間の長きにわたり皆さまに支えられ営業を続けることができた。心より感謝する」とあいさつ。
最終企画のテーマ「THANKS&LINK」に込めた意図について、「『LINK』は皆さまとの絆を大切にし、つながり続けたいという思い」と説明。同店外壁の懸垂幕の写真に同店スタッフと共に神南小学校の児童たちが写っていることについて触れ、「次の世代の子供たちに負の遺産を残さず、美しい未来をつなげていきたいという願いもある」と続けた。
東急百貨店が引き続き渋谷エリアで運営する「渋谷ヒカリエShinQs」や「渋谷スクラブルスクエア」内の売り場、「渋谷 東急フードショー」などについて、「今後も渋谷で変わらずご愛顧を賜るよう心よりお願い申し上げる」と言葉をつなぎ、最後に「この店でお客さまをお迎えした 55 年間、多くの素晴らしい出会いに恵まれた。従業員を代表し御礼申し上げる」と謝意を伝えた。
最後は集まった客らが見守る中、店長らが店の入り口に整列し深くお辞儀。シャッターが下ろされると、客の間で拍手が起こった。
東急本店は、渋谷駅北東に位置する旧渋谷区大向小学校跡地に開業し、1970(昭和45)年には1万5千平方メートルにわたり売り場を増床。1989(平成元)年には隣接する駐車場スペースにBunkamuraを開業した。アパレルや生活雑貨、書籍など百貨店ならではの幅広い商品や、90年代に本格的なワインセラーを導入しワインブームもけん引した地下食品売り場などの小売りをはじめ、広く抜け感のある屋上では夏場はビアガーデンも展開するなど、近隣住民や渋谷に勤める人たちの憩いの場としても、親しまれてきた。外商に強く、映画や展覧会、舞台などの文化事業を担ってきたBunkamuraと一体化した「文化度の高い」百貨店としての存在感も大きかった。
閉店は、東急グループがLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループの不動産開発投資会社と組んで手がける大規模再開発によるもので、1万3000平方メートル(Bunkamuraを含む)を超える敷地に地上36階・地下4階の複合施設を新設。高級外資系ホテルやレジデンス、商業区画などが入る計画だ。Bunkamura は4月10日から、改修工事のため一部を除き長期の休みに入る。
館としては幕を閉じたが、「遺伝子」は各所で引き継いでいく。文化事業は「渋谷ヒカリエ」(渋谷1)など渋谷エリアをはじめとする東急沿線の周辺施設や東急グループ各施設などで継続していくほか、ワイン売り場は、継続を希望する声が寄せられていることなどから、同店近くの渋谷・松濤エリア(松濤1)に3月10日に移転オープンすることが決まっている。
本店の建物は今春以降に解体し、再開発は2027年に完工を予定する。