飛脚や船、鉄道など輸送の形に着目した「はこぶ浮世絵―クルマ・船・鉄道」が現在、原宿の浮世絵専門美術館「太田記念美術館」(渋谷区神宮前1、TEL 03-3403-0880)で開催されている。
コロナ禍で物流の重要さを実感することも増えたなか、今年は鉄道誕生150年を迎えたタイミングもあり、江戸~明治時代の輸送に着目。同展では約65点でその歴史を紹介する。
冒頭は、摘んだ茶や膳、扇などさまざまな物を「運ぶ人たち」に着目。続く「船ではこぶー水の都・江戸の舟運」では、江戸湾や隅田川などに囲まれ、埋め立て地の築地などに水路が巡らされるなどした江戸での水運の形を紹介。川の渡し舟、屋根船の利用客にスイカなどを運ぶ商売舟、料亭に乗り付ける屋根船など、さまざまな場面で舟が使われている。
1604(慶長9)年に五街道の起点に日本橋が定められて以降、各街道の宿場では宿駅制度が整えられたこともあり、物資の輸送や人の移動が盛んになったという。第3コーナー「街道をはこぶー東海道の旅と陸運」では、五街道のうち東海道を例に、牛や飛脚、宿場などで旅人の荷物を担ぐ小揚など、日本橋から京までの道中で行われた輸送を紹介。
東海道を行き来する上で「難所」となっていたのが河川だという。架橋が許されていない川は「渡し」が設けられていた。大井川は架橋や船による渡しが許されず、人に頼る「徒歩(かち)渡し」しか無かったという。歌川広重の「大井川歩行渡」には、肩車されている人や輦(れん)台という台の上に乗る人などが描かれている。同展では、利用料(肩車=川の水位が腰帯までで48文(=約1,200円)ほか)も紹介している。
最終コーナー「文明開化と<はこぶ>」では、幕末から明治維新にかけて登場した輸送手段を紹介。フランスやアメリカなど各国の船でにぎわう横浜港を描いた「横浜交易西洋人荷物運送之図」(歌川貞秀)、日本で発明された人力車と、明治維新の「象徴的な」乗り物である馬車が描かれた「東京八景之内 日本橋夕照」(歌川芳虎)などが並ぶ。
浮世絵師は鉄道開業2年ほど前から鉄道絵を描き、1871(明治4)年には鉄道絵が「ブームになった」という。想像も交えながら描かれたことから、車輪が小さかったり車両の屋根が無かったり、1本のレールの左右に車両を描いた正面衝突をしてしまう構図などの作品も見られる。三代歌川広重の「横浜往返鉄道蒸気車ヨリ海上之図」は鉄道開業後の1874(明治7)年に描かれた絵で、イギリスから輸入され5形式10両のうち160形を彷彿させる蒸気機関車を描いている。
担当学芸員の渡邉晃さんは「その時代なりに工夫をして、独自に発展していったのが伝われば」と話す。
入館料は、一般=800円、高校・大学生=600円、中学生以下無料。10月26日まで。月曜休館。