木村紅美(くみ)さんの小説「あなたに安全な人」が、2022年度の「Bunkamuraドゥマゴ文学賞」に選ばれた。主催は東急文化村。
同賞は、パリの「ドゥマゴ賞」の精神を受け継ぎ1990(平成2)年に創設。前年の7月1日~当年の7月31日に出版された、単行本や、雑誌など発表された日本語の文学作品を対象に、毎年代わる1人の選考委員が受賞作を決定している。32回目となる今年は、ロバート・キャンベルさんが選考委員を務めた。受賞者には賞状とスイス・ゼニス社の時計や、副賞の100万円が贈られる。
木村さんは1976(昭和51)年兵庫生まれ、現在岩手県・盛岡市在住。明治学院大学文学部芸術学科卒業。2006(平成18)年に「風化する女」で文學界新人賞を受賞しデビュー。これまでに、芥川賞候補に挙がった「月食の日」、野間文芸新人賞候補に挙がった「夜の隅のアトリエ」などを発表し、両賞の候補となった「雪子さんの足音」は映画化されている。
「あなたに安全な人」は、「人を死なせたかもしれない」女と男の逃亡生活を描いた作品。3.11直前に教え子をいじめ自殺に追いやってしまったかもしれない元教師の女・妙と、沖縄新基地建設反対デモの警備中にデモ参加者を不慮の事故で死なせてしまったかもしれない便利屋の男・忍は、新型肺炎「感染者第一号」を恐れる地で出会い、同居生活を始める。「東京からの移住者」が遂げた謎の死を巡って二人の運命が動き出す――。
キャンベルさんは木村さんを「人々の心に巣喰う漠とした不安に向かおうとしている」と表現し、「世界を覆う不均衡インバランスに声と形を与えようとしている点において、ひとまず高い評価に値する作品であることは間違いない」と作品を評価。「読後感は、けっして爽やかなものではない」と選評している。
木村さんは自身のSNSで「人生で一番仰天しました」と驚きを表現し、「自分にとってはデビュー16年めで初の大きな文学賞で心底うれしく励みになり、素晴らしい選評、泣きました」(以上、原文ママ)と喜びのコメントをしている。